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第十五章 世界と君のために
祭りのあと
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突如として始まった剣戟。長剣を振り下ろされた私ですが、華麗に受け止めていました。
静まり返るリーフメルの街に甲高い金属音が鳴り響く。
長剣をナイフで受け止めた私に全員が驚いていたことでしょう。
「残念だけど、力だけでは勝てなくてよ!?」
即座に長剣をいなして、男の懐へと飛び込む。
駆け出した足に魔力を込め、私は力の限りに蹴り上げています。
「でぁああぁあああっ!!」
腹部へとヒールキックが突き刺さりました。
魔力まで込めていましたので、その威力は私の体格に比例しない。大男の身体がくの字になるほど、奥深く脇腹へと突き刺さっていました。
「ぐっ……ぉぉぅ……」
男はそのまま前のめりに倒れ込む。泡を吹き、意識を失いながら。
「ざまぁみなさい……」
女だと思って軽く見ると痛い目に遭うわよ?
ヒールキックは王子殿下に何度も実践している必殺技なのよ。
一瞬のあと、割れんばかりの拍手が私に送られていました。長剣を持つ大男に勝利した私を称えてくれています。
「皆様、酔っ払うのは結構。ですが、酒に呑まれた人間は辛酸を嘗めてもらいますわ! 無様に寝転がることのないように願います!」
衛兵が男を捕縛し、連れ去っていく。
見せしめのように彼は割れた人垣の中心を連行されてしまいました。
「アナスタシア様!」
「姫様ァァッ!」
「アナスタシア様ぁぁっ!!」
どうやら良い具合にデモンストレーションとなったみたい。
お金を出すだけの女だという認識はなくなったかと思います。
観衆に手を振って応える。一方でセシルは苦笑いを浮かべていました。
「アナスタシア様は相変わらず豪胆ですね……」
ははは……。今もまだ貴方は私の豪胆イメージを引き摺っていらっしゃったのね。
攻略対象のままであったなら愕然としていたことでしょう。
「豪胆とは失礼ですわね? 私は剣術も嗜むだけですわ」
「いやいや、暴れる酔っ払いに対処できるご令嬢を僕は他に知りませんよ……」
今となっては取り繕う必要はありません。よって私はセシルの話を聞き流しています。
けれども、続けられた話は無視できないものでした。
「かつて兄様は格好いい女性が好きだと話されておりました……」
それは知ってる。本人から聞いたもの。
火竜二頭とガチンコで戦った私が格好良かったってこと。
「聞きました。ルークは少しおかしいのではないですか? 格好いいと言われても嬉しくない……」
「僕もそう思ったのですけど、兄様は今も同じ理想の女性像を持っています。というわけで、僕は争奪戦から脱落です。兄様の理想を叶えるご令嬢が他にいらっしゃらないのですから」
「いやでも、強さならイセリナだって気高い強さを持っていますよ?」
口を挟まずにはいられない。
イセリナやエリカだって強いと言えば強いのだと。
「いえ、それが兄様は精神面もそうなのですが、物理的にお強いところが気に入っておられるのです。婚約者の称号にドラゴンスレイヤーなんてものを要求する人ですし」
あんの馬鹿王子……。
確かに火竜を倒したけど、私だってギリギリだっつーの!
外せば昏倒しちゃうし、一撃で倒すしかなかっただけだもん。
「まあ、そういうわけで、兄様をよろしくお願いします。この土地もいずれ、アナスタシア様にお渡しいたしますので……」
「えっ……?」
私は唖然としている。
確かにリーフメルを我が物にしようと考えていました。
しかし、それはセシルから取りあげるようなことでして、譲り受けるだなんて少しも頭にありません。
「私にですか?」
「貴方様しかおりません。アナスタシア様次第なところもありますが、僕は住民と貴方様を繋ぐ役割だと考えています」
今思うと、セシルは住民との橋渡しをするために、リーフメルでのお祭りを望んだのかもしれない。
ルークと私の感情を知る彼は先々の問題を見据えていたようです。
(やっぱ心優しき王子様なのね……)
この世界線での彼は少しばかり強くなっていましたけれど、根底にある優しさは私が知るままでした。
静まり返るリーフメルの街に甲高い金属音が鳴り響く。
長剣をナイフで受け止めた私に全員が驚いていたことでしょう。
「残念だけど、力だけでは勝てなくてよ!?」
即座に長剣をいなして、男の懐へと飛び込む。
駆け出した足に魔力を込め、私は力の限りに蹴り上げています。
「でぁああぁあああっ!!」
腹部へとヒールキックが突き刺さりました。
魔力まで込めていましたので、その威力は私の体格に比例しない。大男の身体がくの字になるほど、奥深く脇腹へと突き刺さっていました。
「ぐっ……ぉぉぅ……」
男はそのまま前のめりに倒れ込む。泡を吹き、意識を失いながら。
「ざまぁみなさい……」
女だと思って軽く見ると痛い目に遭うわよ?
ヒールキックは王子殿下に何度も実践している必殺技なのよ。
一瞬のあと、割れんばかりの拍手が私に送られていました。長剣を持つ大男に勝利した私を称えてくれています。
「皆様、酔っ払うのは結構。ですが、酒に呑まれた人間は辛酸を嘗めてもらいますわ! 無様に寝転がることのないように願います!」
衛兵が男を捕縛し、連れ去っていく。
見せしめのように彼は割れた人垣の中心を連行されてしまいました。
「アナスタシア様!」
「姫様ァァッ!」
「アナスタシア様ぁぁっ!!」
どうやら良い具合にデモンストレーションとなったみたい。
お金を出すだけの女だという認識はなくなったかと思います。
観衆に手を振って応える。一方でセシルは苦笑いを浮かべていました。
「アナスタシア様は相変わらず豪胆ですね……」
ははは……。今もまだ貴方は私の豪胆イメージを引き摺っていらっしゃったのね。
攻略対象のままであったなら愕然としていたことでしょう。
「豪胆とは失礼ですわね? 私は剣術も嗜むだけですわ」
「いやいや、暴れる酔っ払いに対処できるご令嬢を僕は他に知りませんよ……」
今となっては取り繕う必要はありません。よって私はセシルの話を聞き流しています。
けれども、続けられた話は無視できないものでした。
「かつて兄様は格好いい女性が好きだと話されておりました……」
それは知ってる。本人から聞いたもの。
火竜二頭とガチンコで戦った私が格好良かったってこと。
「聞きました。ルークは少しおかしいのではないですか? 格好いいと言われても嬉しくない……」
「僕もそう思ったのですけど、兄様は今も同じ理想の女性像を持っています。というわけで、僕は争奪戦から脱落です。兄様の理想を叶えるご令嬢が他にいらっしゃらないのですから」
「いやでも、強さならイセリナだって気高い強さを持っていますよ?」
口を挟まずにはいられない。
イセリナやエリカだって強いと言えば強いのだと。
「いえ、それが兄様は精神面もそうなのですが、物理的にお強いところが気に入っておられるのです。婚約者の称号にドラゴンスレイヤーなんてものを要求する人ですし」
あんの馬鹿王子……。
確かに火竜を倒したけど、私だってギリギリだっつーの!
外せば昏倒しちゃうし、一撃で倒すしかなかっただけだもん。
「まあ、そういうわけで、兄様をよろしくお願いします。この土地もいずれ、アナスタシア様にお渡しいたしますので……」
「えっ……?」
私は唖然としている。
確かにリーフメルを我が物にしようと考えていました。
しかし、それはセシルから取りあげるようなことでして、譲り受けるだなんて少しも頭にありません。
「私にですか?」
「貴方様しかおりません。アナスタシア様次第なところもありますが、僕は住民と貴方様を繋ぐ役割だと考えています」
今思うと、セシルは住民との橋渡しをするために、リーフメルでのお祭りを望んだのかもしれない。
ルークと私の感情を知る彼は先々の問題を見据えていたようです。
(やっぱ心優しき王子様なのね……)
この世界線での彼は少しばかり強くなっていましたけれど、根底にある優しさは私が知るままでした。
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