幼馴染み(♀)がプレイするMMORPGはどうしてか異世界に影響を与えている

坂森大我

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第四章 穏やかな生活の先に

悪魔公爵クロケル

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 悪魔公爵クロケルとの戦いが始まって一時間。マヌカハニー戦闘狂旗団は想定外に苦戦していた。
 何しろクロケルはレベルが130もある。彩葉は中攻撃以上が直撃すると瀕死になってしまうのだ。彩葉のケアにチカが付きっきりとなってしまい、そうなると今度は主力たちの管理が甘くなるという悪循環に陥っていた。

「MPポーション足りないんよ!」
 チカが声を張ると、直ぐさま彩葉がポーションを取り出した。強力な魔法を持っていない彼女は自身が使うよりも適切と判断したらしい。

「ごめん、チカちゃん……」
「わたしが悪いんよ。もっと買っとくべきやったわ。あとでこの分は返すからね。死に戻りなんか絶対にあかんよ?」
 攻撃を諦めた彩葉は他の三人からもポーションを預かろうと走り回る。自分のせいで苦境にあり、またその使い道は大部分が自分なのだ。せめて足を使うしかないと思う。

「彩葉は離れていろ! 強攻撃が増えてきたぞ!」
 明確に終わりが近付いている。やはり前衛を務めるタルトとナツは盤石だった。
 以前とは異なり、二人共が盾を装備しているのだ。チカの回復魔法が遅れたとしても、彼らは前線に張り付けることができた。

「早くくたばれよ! ライトニングウェーブ!」
 アアアアも魔法を撃ちまくっている。一番効果が見込める雷属性Aランク魔法。しかし、手持ちのMP回復ポーションは不安を覚える残量となっていた。

 悪魔公爵クロケルは水系の魔法を得意としているが、強攻撃として撃ってくるのは範囲攻撃のアイスニードル。空間に生み出された幾つもの氷柱が無差別に五人を襲っていた。

「聖王騎士イロハは我の後ろへと来るがいい!」
 既にタルトはアイスニードルの特性を見切ったらしい。大量の氷柱が飛来するけれど、それらは直線的にしか撃ち放たれないのだと。だとすれば、逃げ回るよりも自身の後方が安全であると判断できた。

「わー! 助かる!」
 素早く移動する彩葉。俊敏値が高い彼女は即座にタルトの背中へと張り付いている。

「「金剛の盾!」」
 タルトと夏美のスキルタイミングはほぼ同時だった。どうやら攻撃モーションを理解したのはタルトだけではないらしい。夏美もまたクロケルの攻撃を見切っていた。

「勇者ナツ、今のは良いタイミングだった!」
「えへへ、どうも!」
 時を移さず氷柱がパーティーを襲う。しかし、前衛の二人は共に純白のエフェクトを発生させている。これにより彩葉は完全に守られていた。

「ナッちゃん、パワーバフ!」
「おっしゃ! ライトニングウェーブ!!」
 強攻撃のあとは即座に反撃する。強攻撃の直後は高確率でカウンター判定が入ることを突き止めていたのだ。アアアアの雷撃に続いて、夏美もまたその一瞬を逃さない。

「ぶった切れろぉぉっ!!」
 二人のカウンター攻撃が連続ヒット。しかも夏美はクリティカルヒットを伴う。事前にバフ魔法も乗っていたため、これには流石のクロケルも怯むようなモーションを見せた。

 一時は苦戦を強いられていたマヌカハニー戦闘狂旗団だが、彼らの戦法は常に進化しており、今や完全に主導権を手に入れている。彩葉を守りながらも、適切な行動が可能となっていた。

 押せ押せの展開である。しかし、全員が攻撃の手を止めてしまう。なぜなら、クロケルが唐突に言葉を発したからだ。これまではどれ程の強敵であっても喋ることなどなかったというのに。

『愚かなる者ども……。これより地上は我ら悪魔の支配地となる。己の無力を思い知るがいい。貴様たちはこれで終わりだ……』

 耳に届く魔物の声。悪魔公爵クロケルは漆黒の羽を広げながら言った。
 どうにも困惑してしまうが、どうやら猛攻撃の前兆であったらしい。クロケルの台詞が途切れるや、直視できないほどの閃光が視野へと飛び込む。

 全員が目を瞑ったのかどうかは分からない。けれども、全員が気付いていた。回避する間もなくクロケルの猛攻撃を浴びてしまったのだと。

 なぜなら視界は水中であったのだ。どうやらクロケルは大洪水を引き起こしたらしい。猛攻撃にて全員を飲み込んでしまったようである。

 夏美は困惑していた。かといって大洪水が原因ではない。水中である背景に浮かぶ文字が、どうにも受け入れられなかったのだ。

『ナツは死にました――――』
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