恋する幼馴染

散りぬるを

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 洗面所からドライヤーの音が聞こえて、はっと我に返った。ずいぶんと長いこと物思いにふけっていたようだ。
 雪は小花柄の水色のパジャマに着替えていた。半袖は良いとして、さっきのハーフパンツより丈が短い。それに、さっきより胸の膨らみが落ち着いている。

(まさか、下着……つけてないの? 俺って本当に男として意識されてない……?)

 雪は冷蔵庫から持ってきた缶酎ハイを差し出す。

「なに? じっと見て。飲む気分じゃない?」
「んーん。ありがとう」

 ショックを受けつつも、缶を受け取る。やっぱり桜色の爪に目を奪われる。

「可愛いね、爪。その色好きだな」
「ありがとう。私もこの色、気に入っているの。女性らしさもあるし、清潔感もあるし。あっ、男の人に褒められたの初めてだ」

 今、男の人、と言わなかったか。
 深い意味は無いのかもしれない。分かっている。でも、嬉しくて。だけど、それを顔に出してはいけなくて、固まってしまう。
 雪は何ともないように笑って冬馬の隣に座り、缶酎ハイのタブに指を引っ掛けた。

「待って」

 冬馬は缶ごと雪の手を覆うように掴んだ。
 そう……掴んで、しまった。
 なめらかな肌触り、小さくて華奢な手。衝動のままに指を滑らせて、指の間をそっと撫でた。

「開けてあげる。綺麗な爪、傷つけたく無いから」
「あり、がと……」

 雪はパッと目を逸らし、冬馬に缶を預けた。はぁ、とため息をつかれる。
 下心がバレてしまっただろうか。出て行けと言われるだろうか。
 ドキドキしながらタブを開けて、雪に缶を返す。

「冬馬、ごめんね」

 雪の深刻な表情に、心臓が騒ぐ。

「えっ……何が……」
「私、さっきから、ちょっと挙動不審だよね。もっと余裕のあるところ見せたいんだけど、体の調子が良くないって言うか、思うようにコントロール出来てなくて」

 冬馬は目を丸めた。

「まさか体調悪いの? ごめん、俺、気が利かなくて。迷惑かけて本当にごめん。今からでもホテルに」
「あ、いや、違っ、そうじゃないよ! すっごい元気! 全然、迷惑じゃない。会えて嬉しいし、楽しいよ。泊まってくれて大丈夫! 変なこと言って不安にさせてごめんね! 乾杯しよう」
「……うん」
「はい、かんぱ~い!」

 気を遣わせている。会いたい衝動に任せて強引に来るべきではなかった。どうしてこうも、自分勝手に気持ちを押し付けてしまうのだろうか。自己嫌悪が込み上げてきて、酒の味すらよく分からなかった。
 雪はゴクゴクと喉を鳴らして、豪快に飲んでいた。

「はぁ……美味しい。そういえば、初めてだね」
「ん?」
「お酒一緒に飲むの。成人、おめでとうございます」
「ありがとう、ございます」

 ちゃんと笑えているだろうか。
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