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記録ノ92 もしも現実主義者にマジックを見せると

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周年式典からさかのぼること2週間前、もう一つの周年記念行事として学校に札幌在住のプロマジシャンの方が来校され、体育館でマジックを披露してくれた。
自分は生でマジックを見たことはほとんどなかったのでかねてから楽しみにしていた。それも学校で見られるというのだから貴重な経験だ。うちの学校でこういうことしてくれることほとんどないから。

そして当日、オープニングから繰り広げられる派手なマジックの数々。ステッキが布に変わるヤツとかリングを素早くつなげたり離したりするヤツなど定番どころを余すことなく披露。今まで映像で何度も目に焼き付けてきたマジックを今、学校の体育館という場で生で見られていることに感動していた。
しかし僕の隣に座っていたシュンくんや近くに座っていた男子数人は「タネがバレバレでつまらない」と言いながら見ていた。上記のリングのマジックも「ストラップと同じ原理じゃね?」と発言。「原理的には一緒かもしれないが、ストラップのリングはあんなに簡単につなげたり外せたりしないだろう。ストラップと全く同じやつ使ってるわけじゃないだろう」と僕は反論した。

後半には飛び入り参加のコーナー。挙手した生徒から1名がマジックに参加する。
僕含め、学年全体でかなりの人数が挙手していた。あんなにタネわかったとか言ってたシュンくんも。
しかし指名されたのは4年生の男子だった。彼はエアガンを使ったマジック(指示された場所を撃つとカードが出てくるというもの)に参加した。

そのマジックが終わるとまた飛び入り参加者を募集。
僕も今度こそと手をあげたが、その直後…
「さっきは男の子だったから今度は女の子にしよう!」
…ここで僕の夢は途絶えた。ただの目立ちたい野郎の僕の夢が。手を下げた僕の腕が重く感じた…
ちなみにこの時クラスメイトのシュウジくんが「夢はアイドルです!」とか言ってふざけて手を挙げていた。転んでもただでは起きない彼のガッツにある意味感動した。
結局、指名されたのは隣のクラスの女子。男子は4年生だったのに女子は5年生なのはなんか悔しかった。
彼女が手伝ったのは先生から借りた1万円札を破いてマジシャンがライターで燃やすと、彼女の手に元通りになった1万円札があるというもの。
マジシャンが1万円札を燃やした瞬間、なんか見たこともないエネルギーが会場に広がって彼女の拳に入り込んだ。あれはどういう原理なのかは全くっ想像できない。なんかアニメの世界のようなすごいものを見たと思って今日一番感動した。


マジックショー終了後、最後にあんなすごいもの見たんだから考えも変わっているだろうとシュンくんに感想を聞いてみたが
「ほとんどタネがバレバレでつまんなかった」という変わらずの感想だった。
「そりゃマジックはタネがあるものだけどお前が想像しているようなタネとは原理が違うかもしれないだろ!もうちょっと夢見ろよ!」と心の中で叫んでしまった。
まあ彼に言わせてみれば「お前は夢見すぎ」なのだろうが。

マジックって、現実主義者ではなく僕のような夢見がちな人間のみが楽しむことを許された芸術なのかもしれない。
まあ僕もタネを想像したりするが。
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