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おこぼれ話212 椅子取りゲームにもVARを

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椅子取りゲーム…幼稚園の頃から膝が擦り切れるぐらい何度もやってきた遊戯…次々と敗者が脱落していき、最後まで椅子に座り勝者となれるのはひとりだけ…この世で最もシンプルかつ残酷な遊戯ともいえよう。
自分もこの遊戯で時に歓喜を味わい、時に涙をのんできだ。たった一つのチャンピオンの座を手にしたこともあれば、早い段階で座るべき椅子を奪われたこともある。
だが自分が数えきれないほどこのゲームをやってきた中で、疑惑の判定がひとつあった。

小3の3学期終わりごろのクラスでのお楽しみ会の時である。
この時僕は中盤ぐらいで脱落。あとは生き残ったクラスメイトの戦いをただボーっと見ていた。
他の脱落者が生き残った者の戦いに熱い視線を送るのとは対照的に正直自分にとって自分の出てないゲームは誰が勝とうが負けようが関係ないという感じで自分は冷めた目でただボーっと見ていたのだ。燃え尽きたというのもあったが。
しかし僕のその態度が180度変わる出来事があった。決勝戦である。

この時生き残っていたのはエノウエさんと別の女子の計2名、女子同士の一騎打ちとなった。
ラジカセから音楽が鳴り響き、2人は椅子の周りをぐるぐる歩き始める。2人の間とみているクラスメイト達に緊張感がはしる。
ここまでつまらなさそうに見ていた自分も少し目線の熱さが変わっていった。やはり決勝は違う。わずか1つの椅子をめぐって戦う2人の熱戦を焼き付けずにはいられないのだ。
音楽がとまれば2人は椅子に向かって動き出す。音楽がとまった時が勝者が決まるとき…曲が止まるのはいつか…勝者が決まるのはいつか…そんなことを頭に浮かべながら僕は2人の対決に目線を送っていた…
しかしエノウエさんは音楽がとまる前に突然椅子に向かって動き出した。
そして座った瞬間にちょうど音楽がとまり、彼女はそのままチャンピオンとなった。だがタイミング的に曲が止まる前に座ってるように見えた。
これには僕を含め多くの男子が抗議。「曲止まる前に座ったじゃねーか!」…疑惑の判定に男子たちは怒りの声をあげる。
それに対してセイちゃんたち数人の女子は「エノウエさんは曲が止まるタイミングを予想して動いて運よく曲が止まったタイミングで座れた」と擁護。
先生はこの疑惑の判定に対して一切口出しすることはなく、エノウエさんにもこれと言って注意をすることはなかったため不問とされた。

「先生が何も言わないのならあれはセーフってことだよな」…当時はそうやって自分の中で片づけたが、今だったら思う。「椅子取りゲームにもVARがほしい!」
さすがにVARは大げさだが。先生がこの判定に口出ししなかったことやエノウエさんを責めるわけではない。だがするどく公平なジャッジが欲しかったという思いだ。
まあ、当時はVARなんて言葉も(多分)なかったんだけどね。
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