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5話 卒業
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夜分遅くロマドの下を訪れ、先ほど完成した試験課題である銀晶薬をポーチから取り出す。紫色の布に包まれた小瓶をそっとテーブルに置き布を解いていく。布から現れたのは、薄青色で六角形の小瓶だ。
ティカは小瓶を掴みよく見える位置へ移動させロマドを見つめた。
「師匠、先ほど卒業課題の銀晶薬が完成しました」
「あら、意外と早かったわね」
手元の本にしおりを挟んで机に置き、椅子から立ち上がった。その際、眼鏡を外す仕草はどこか色っぽくそれでいて気品を感じさせる。しなやかな体つきは大人の色香を放ち魅了する。
テーブルを挟み反対側の椅子へ腰かけ、小瓶を摘まむように取り中の液体を見つめるロマド。頬杖をつき小瓶を左右に揺らしては観察すること暫し。小瓶を元の位置へ戻すとティカを真っ直ぐ見つめ口を開いた。
「合格よティカ」
「本当ですか!?」
「ええ、よくこの短時間に生成できたわね。もう少し時間が掛かると私は思っていたのだけど、この品質なら文句ないわ。現役薬師でもこの品質を短時間で作れる人はそこまで多くないわ」
どうやら最終試験である課題は一先ず合格したようで、ティカも内心ホッとしている様子。暫し薬の生成についてお互いに談義したり、課題の感想などを聞いたロマドは一瞬寂しそうな表情をした気がした。
師匠の些細な変化に気づかず夢中で話をするティカは何だか見ていて微笑ましい。
「それでティカはこの後どうする予定なの?」
「この後ですか? そうですねぇ、街へ行って薬師組合に名簿登録をしようかと思ってますけど」
「そう、なら明日の朝食までに証明書を作成しておくわね」
そう言い立ち上がったロマドは、机に向かい棚から紙を一枚手に取り羽ペンで何やら書き込み始めた。行動の意味が理解できていないのかティカの顔は疑問顔である。
「師匠、証明書って言うのは何のことでしょう?」
「あら、話していなかったかしら?」
「はい」
羽ペンを一旦置き、証明書について説明し始めた。
「証明書って言うのは試験課題を合格した弟子にお墨付きを付けるものなの。今の状態でティカが組合に行っても名簿に登録できないのよ」
「えっ! そうなんですか? 始めて知りました」
「まあね、見習い薬師はやまほどいるからね。一昔前までは見習い薬師も登録できていた時期があったんだけど、その所為で経験のない未熟な薬師が調合した薬で薬害があちこちで多発したのよ。その対策で、なら師弟制度を設けて実践経験を積ませてから名簿登録させようという組合規約が新たに加えられたわけよ」
名簿に登録されて初めて合法的に個人で販売を行うことができる。言うなれば名簿登録とは販売許可証のような扱いだ。
ロマドが説明した通り、見習い薬師が名簿登録ができた頃は誤った処方や調合方法が問題視されていた時期があった。だがそれは表の理由で本当に組合が恐れていたのは違法薬物の蔓延だ。
名簿登録されていることをいいことに悪用する輩が兎に角多く、違法薬物が蔓延し始めた当初、この事を重く見た国が直接組合へ問題抑制勧告が発令するという事態にまで至った。
組合員もこの事については問題視する者の意見が沢山届いていたらしいのだが、違法薬物の作成者の特定や売人の洗い出しなど手間の掛かる作業が多く、日頃から忙しい薬師達が対処する余裕はなかった。
人員不足という原因もあるが対応が遅れに遅れ、終いには国の命令で漸くこの問題の解決に乗り出したという経緯が過去にあった。
その時に出来た規約が『師弟関係の構築及び薬師としての経験を含め、実践で活躍し得るだけの能力がある者しか名簿登録することはできない』だ。
勿論、その見極めをするのは師弟関係を結んだ師の方にある。こうような経緯から現在は師弟関係を結び、薬師としての能力が十分あると判断された者にはその証明として師自ら証明書を発行することとなっている。
「そのお陰で優秀な人材だけが残ったというわけ。規約が加えられた当初、これに引っ掛からない見習い薬師は1割を満たなかったって言うから驚いたものよ」
肩を竦める動作をして見せたロマドに苦笑いで返すティカ。その表情からどのような事を思っているのか正確なことは分からないが、大方その時の師匠に同情しているように見受けられた。
長話もこのくらいだろうと思ったのかティカは口を開きロマドへ問いかける。
「師匠も苦労したんですね。……あっ! そろそろ時間も遅い時刻ですし、一旦戻ります」
「……そうね、夜更かしは体に良くないわね」
「それとこの銀晶薬は卒業記念に師匠へプレゼントします」
ティカはそう言ってテーブルに置かれている小瓶からロマドに視線を戻す。
「あら、なら有り難く貰っておきましょうか」
「はい!」
その言葉が素直に嬉しいのかニコニコ頬が緩むティカ。ロマドの言う通り夜更かしは体に良くないので軽く挨拶をしていそいそと自室へと戻るのであった。
ティカは小瓶を掴みよく見える位置へ移動させロマドを見つめた。
「師匠、先ほど卒業課題の銀晶薬が完成しました」
「あら、意外と早かったわね」
手元の本にしおりを挟んで机に置き、椅子から立ち上がった。その際、眼鏡を外す仕草はどこか色っぽくそれでいて気品を感じさせる。しなやかな体つきは大人の色香を放ち魅了する。
テーブルを挟み反対側の椅子へ腰かけ、小瓶を摘まむように取り中の液体を見つめるロマド。頬杖をつき小瓶を左右に揺らしては観察すること暫し。小瓶を元の位置へ戻すとティカを真っ直ぐ見つめ口を開いた。
「合格よティカ」
「本当ですか!?」
「ええ、よくこの短時間に生成できたわね。もう少し時間が掛かると私は思っていたのだけど、この品質なら文句ないわ。現役薬師でもこの品質を短時間で作れる人はそこまで多くないわ」
どうやら最終試験である課題は一先ず合格したようで、ティカも内心ホッとしている様子。暫し薬の生成についてお互いに談義したり、課題の感想などを聞いたロマドは一瞬寂しそうな表情をした気がした。
師匠の些細な変化に気づかず夢中で話をするティカは何だか見ていて微笑ましい。
「それでティカはこの後どうする予定なの?」
「この後ですか? そうですねぇ、街へ行って薬師組合に名簿登録をしようかと思ってますけど」
「そう、なら明日の朝食までに証明書を作成しておくわね」
そう言い立ち上がったロマドは、机に向かい棚から紙を一枚手に取り羽ペンで何やら書き込み始めた。行動の意味が理解できていないのかティカの顔は疑問顔である。
「師匠、証明書って言うのは何のことでしょう?」
「あら、話していなかったかしら?」
「はい」
羽ペンを一旦置き、証明書について説明し始めた。
「証明書って言うのは試験課題を合格した弟子にお墨付きを付けるものなの。今の状態でティカが組合に行っても名簿に登録できないのよ」
「えっ! そうなんですか? 始めて知りました」
「まあね、見習い薬師はやまほどいるからね。一昔前までは見習い薬師も登録できていた時期があったんだけど、その所為で経験のない未熟な薬師が調合した薬で薬害があちこちで多発したのよ。その対策で、なら師弟制度を設けて実践経験を積ませてから名簿登録させようという組合規約が新たに加えられたわけよ」
名簿に登録されて初めて合法的に個人で販売を行うことができる。言うなれば名簿登録とは販売許可証のような扱いだ。
ロマドが説明した通り、見習い薬師が名簿登録ができた頃は誤った処方や調合方法が問題視されていた時期があった。だがそれは表の理由で本当に組合が恐れていたのは違法薬物の蔓延だ。
名簿登録されていることをいいことに悪用する輩が兎に角多く、違法薬物が蔓延し始めた当初、この事を重く見た国が直接組合へ問題抑制勧告が発令するという事態にまで至った。
組合員もこの事については問題視する者の意見が沢山届いていたらしいのだが、違法薬物の作成者の特定や売人の洗い出しなど手間の掛かる作業が多く、日頃から忙しい薬師達が対処する余裕はなかった。
人員不足という原因もあるが対応が遅れに遅れ、終いには国の命令で漸くこの問題の解決に乗り出したという経緯が過去にあった。
その時に出来た規約が『師弟関係の構築及び薬師としての経験を含め、実践で活躍し得るだけの能力がある者しか名簿登録することはできない』だ。
勿論、その見極めをするのは師弟関係を結んだ師の方にある。こうような経緯から現在は師弟関係を結び、薬師としての能力が十分あると判断された者にはその証明として師自ら証明書を発行することとなっている。
「そのお陰で優秀な人材だけが残ったというわけ。規約が加えられた当初、これに引っ掛からない見習い薬師は1割を満たなかったって言うから驚いたものよ」
肩を竦める動作をして見せたロマドに苦笑いで返すティカ。その表情からどのような事を思っているのか正確なことは分からないが、大方その時の師匠に同情しているように見受けられた。
長話もこのくらいだろうと思ったのかティカは口を開きロマドへ問いかける。
「師匠も苦労したんですね。……あっ! そろそろ時間も遅い時刻ですし、一旦戻ります」
「……そうね、夜更かしは体に良くないわね」
「それとこの銀晶薬は卒業記念に師匠へプレゼントします」
ティカはそう言ってテーブルに置かれている小瓶からロマドに視線を戻す。
「あら、なら有り難く貰っておきましょうか」
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