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4章 交渉編

95話 エスタの過去を聞きました

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「うむ、我が一番奥の部屋だな」

「魔王様ずる~い! 私が角の部屋狙ってたのに」

「ふん、あの部屋は我が使う為に用意してもらったのだ。クロエは隣の部屋でいいではないか、何故そんなに角の部屋にこだわる?」

「私は隅っこの方が好きだからです。魔王様こそ何で角部屋にこだわるんです?」

 コア部屋入り口にて皆の話し声が聞こえエスタとクロエが何やら部屋割りでもめているようだ。
 話の内容によると角部屋を誰が使うかというもので、リューエルとクリティカはどの部屋でもいいと早々に離脱したようだ。
 そんな二人は此方に歩きながらも角部屋の取り合いをしているので、いろいろ話をする為にも一端中断させるべく声を掛ける。

「まあまあ二人とも、角部屋については一端置いといて後でね? それとそこまでは重要じゃないけど皆に話があるんだよ」

 二人に声を掛け会話を中断させこれからのことや報酬のことなどそこそこ話すことがある。
 まずは皆の奮闘に感謝の意を込め、各人へ用意したアイテムを横から取り出し見える位置に移動させ並べていく。

「これは?」

 真っ先に質問してきたのはクロエで他の者も興味あり気に品々を眺めた後、こちらに視線を向けてくる。
 先の奮闘に対する感謝と恩賞の意を込め皆へそれぞれ手渡していく。

「これはね、皆が侵蝕者撃退に奮闘してくれたお礼と感謝の気持ちを込めたものだよ。まあ早いはなし、報酬だね」

 それぞれに似合ったアイテムを選んであるので、喜んでくれると此方としても嬉しい限りだ。
 皆の表情を窺うと一人だけ明らかに動揺している顔が見えた。

「エスタちゃん、その小太刀じゃダメだった?」

 四人の中でエスタだけが動揺したような暗い表情を見せており、報酬として選んだ小太刀が駄目だったのか不安になって問いかけた。
 するとエスタの返答は此方が考えているようなものではなく、予想外な事をを口にする。

「いや、そうじゃないんだ。この小太刀は昔、魔界で一人前になれずにいた我にいろいろと教えてくれた者が持っていた物と酷似していると思ってな。そやつは見た目こそアレだが当時の七魔王のひとりでな、我にとってそやつは育ての親でもあり師匠でもあった。だが我が魔王になったと同時に何も言わずに去って行ったのだ。あの時はそやつのことを無我夢中で探したものだ」

 それからエスタの過去話を暫く聞き、何故今回の小太刀にあれほど動揺したのか理由がわかった。
 この小太刀は、育ての親兼師匠が愛用していた武器らしく、師匠が消えた後に幾度と心当たりのある場所を探し回ったが何一つ見つからなかったらしい。
 これまでいくら探しても痕跡すら見つけることができなかった物がまさかこんな形で登場したことに動揺してしまったという訳だ。

「なるほど、その小太刀が大事なものってことがわかったよ。その小太刀を選んで正解だったわけだね!」

「ああ、まさかこのような形で見つかるとは思っていなかったのでな、レイには感謝している!」

 此方がお礼のつもりで渡したはずなのだが、反ってお礼を言われることになるとは予想外だった。
 それから暫くはエスタが一人にして欲しいと言い出したので部屋に返すことにした。
 その際、急な要件が発生した時は呼びに行くことを付け加えておいた。

「ごめんねクロエちゃん、角部屋が良かったんだよね?」

「まあそうですけど……仕方ないですよぉ、流石にあれを見せられてはね。一先ずはこの魔道具を貰ったので許すとしますか」

 困った表情をして両手を軽く持ち上げた後、右手に持つ仮面を被せる仕草をしたクロエ。
 対してリューエルは何だか申し訳なさそうに見つめ再度確認を取る為に質問をしてきた。

「本当に私達が貰ってよかったのでしょうか?」

「うん、いいよ! それにあたしが持っているより皆に使われる方が魔道具としても本望でしょ!」

「それにならいいのですが……」

「リューエル、あまり深く考えない方がいいわよ。こういうのはね、素直に受け取っとっておくものなのよ」

 諭すように言うクリティカはというと手に持った魔道具をゆらゆらとぶら下げていた。
 何はともあれ皆に報酬を渡せたのでこれでいいとして、今後のことについて考えなくてはならない。
 ある程度方針が決まったとはいえ、今のままでは成長が見れない気がするのでやはり何らかのダンジョン強化は必要だろうと思う。

「ダンジョン強化かぁー……そう言えば元を辿れば全部タマちゃんがいけないんだよ! というかそろそろ魔導ラインを急いで引く必要があるのか教えてくれる?」

≪うっ……うん≫

 タマちゃんに聞こえるように呟くと詰まった声が帰って来た。
 余ほどこの事については教えたくはないようだが、タマちゃんが隠せば隠すほど知りたくなるのは人情というもの。
 さてこれからタマちゃんを問い詰めようとした時、侵入者の通知が入った。

「本当にタイミングのいいこと」

 侵入者と思われる者を確かめる為、管理画面を操作するとそこには見知った顔があった。

「ミリアちゃんにロマーリアさん、どうしたんだろう? …………あっ!」

 ダンジョンに籠っている所為か時間の感覚が鈍くなり、二人の将軍が帰ってからかなりの日にちが経っていることに気づく。
 二人と別れてから色々と立て込んでいた為、再び合うことを約束していたことをすっかり忘れていた。
 それと同時に画面に映る二人以外に見慣れない者達も複数確認できた。
 画面に映るのは老いた者が二人話をしていて、今回の目的がただの訪問ではなく交渉になる事を思い出し慌て始めるのであった。
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