【完結】玉砕済みの強面騎士団長に抱かれないと生きられないらしい

たかなみ

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5話:ヴィルフリートの本音

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 ***


 次に目を覚ました時は、翌日の黄昏時だった。
 団長の個人テントのベッドに寝かされていたようで、いつもと違う寝起きを迎えたことに少なからず動揺した。そして隣にヴィルフリートの姿がないことも。
 慌ててテントを飛び出したら、夕焼けの空とご対面したというわけだ。
 無論、騎士団は皆魔物討伐で出払っていたものだから、人っ子ひとり、誰の気配もない。つまり、置いて行かれたのである。

 寂しい気持ちが、時間が経つごとに憤りに変わっていったのは言うまでもない。それでも騎士団員として、夜食やら湯浴みやらの準備はしっかりと整えた自分は偉いと思う。
 無事に帰還した団員を、ステラは不機嫌な顔で出迎えた。
 素直に「起こしてくれなかったので怒っています」と宣言した。
 みんな口々に「いつも大変な思いをさせているから」とか「俺らのせいで疲れさせちゃったと思ったんで……」と気遣ってくれたが、それでもステラの機嫌は直らなくて、これにはヴィルフリートも苦い顔をした。

 こっそりとステラを森の中に連れ出して、不機嫌を宥めるようにぎゅっと抱き締める。


「せんぱ……団長! どうして私を起こさずに討伐に行っちゃったんですか!」
「昨日、無茶をさせたからに決まってるだろう」
「目を覚ました時、私がどんな気持ちになったかわかりますか!?」
「……いや、そこまでは」
「寝て起きたら、誰もいなくて、寂しかったんです……!」
「ステラ……」
「それに、昨日は命の危機だったんですよ!? 理由はしょうもないしくだらないし、団長にとっては面倒なことだったでしょうけれど…………今も面倒でしょうけれど……」
「そんなことはない。昨日だって、一度も面倒だなんて思わなかった」
「……抱いてくれたのは部下を助けるためで、要するに、嘘も方便ってやつですよね?」
「は?」
「わかってるんです。二度も私の告白を断ってきた人が、そんな急に心変わりするわけな――」


 ステラの言葉がヴィルフリートの唇によって遮られる。
 突然のことに驚いて、ぱちぱちと瞬きする以外の動作ができなくなってしまった。


「――ただの部下に、後輩に、キスができると思うか?」
「……っ」


 熱のこもった視線に射抜かれる。昨日の情事の記憶が蘇ってきてぶわりと頬が赤く染まった。
 一呼吸遅れて、ステラが小さく首を横に振る。
 ヴィルフリートはもう一度ステラを腕の中に閉じ込めると「すまない」と謝罪の意を述べた。


「最初に、君が学園で「彼氏になってくれないか」と言われた時は、何かの罰ゲームをやらされてるんだと思ったんだ」
「ばっ、罰ゲーム……!?」


 勢いでとはいえ、人の一世一代の告白を、罰ゲーム!?


「ひどい……!」
「俺の境遇も考えてくれ、ステラ。この顔面のせいで誰かに好かれるということが人生の中で一度もなかったんだ。学園でもそうだ。俺が誰かに好かれているように見えていたか?」
「いいえ……」
「そうだろう。だから、信じられなかったんだ。実際、近付くと後ろに逃げただろう?」
「あれは、首がしんどかったんです。真上を向かなきゃならなかったから……」
「ああ……。君は小柄だものな……。それは俺が悪かった」
「いえ、私も、勘違いさせてしまっていたのは謝ります」


 ヴィルフリートの背中に腕を回して、ぎゅっと力を込める。


「1回目の告白は確かに、私も唐突だったなって思ってました。だから先輩に会うために私、めちゃくちゃ頑張ったんですよ」
「そうだな、2回目の時も、素直に信じてやれなくて申し訳なかった」
「あの時はどうして断ったんですか? 本気で色恋沙汰に興味がなかったんですか?」
「そういう訳じゃなかったが……。まさか本気で俺に会うために、合格倍率0.1%の狭き門をかいくぐってくるなんて思わないじゃないか……」


 どこか気まずそうな顔を隠すように、ステラを抱き直した。


「王国騎士団に入団した、騎士科の学友がいるだろう。そいつが教えてくれたんだ。俺に告白するために、必死になって勉強してたって。俺がどれだけ優しい人間かを熱弁してたと聞いて、あの告白は本当だったんだって、その時初めて信じられたんだよ」

(本人に喋ったの……!?)

 一緒に勉学に励んだ学友の顔を思い出して、想像の中で頬を叩く。……いや、喋ってくれて良かったのかもしれない。結果として、告白の本気度が伝わったのだから。叩いてごめんね、友よ。


「……それを知ったなら、なんで言ってくれなかったんですか」
「仮に本気だと知ったところで、「俺のこと本当に好きだったんだな、ありがとう。付き合おう」なんて、自惚れが過ぎるし、格好悪くて言えない」
「それじゃあ……、いつ私のことを好きになってくれたんですか?」


 ステラが身体を離して、深緑の瞳をじいっと見つめた。もう数秒だけなんて言わない。穴が開くほど見つめてもきっと許される。
 期待に満ちたステラの視線に、堪えていた何かを手放したかのようにヴィルフリートはくしゃりと破顔した。突然の笑顔に驚きで目を瞠るステラの唇に何度もキスを落とす。


「その目だよ。時々、俺の目をじっと見つめる癖があるだろう。たった数秒程度のそれが、だんだん可愛く思えてきてな」
「かわ、可愛い……?」
「ああ。潤んだ瞳で意味ありげに見つめられて、俺にとってはいつしか特別な数秒になってた」


 ヴィルフリートのことを心の中で想い続けると決めてから、これだけは許して欲しいと願った、特別で、貴重な時間。
 ステラの視線の意味は、いつの間にかバレていたというわけだ。
 穏やかな表情がステラを見下ろす。見つめ合うそのまなざしに、どんどんと熱がこもっていく。
 ヴィルフリートがステラの腰を抱いて、近くの木の幹まで誘導した。木の凹凸に背中と後頭部を預け、ヴィルフリートのシャツを握りしめる。
 きっと見飽きることはないだろう、深い緑の奥を覗き込んで、言葉の続きを促した。
 ヴィルフリートはステラの腰を抱いたまま、身を屈めて目線を合わせる。


「実は昨日……俺から告白しようと思ってた」
「えっ!?」
「2人きりになれる環境をわざと作ってたんだ。備品管理を徹底している君なら絶対に俺を探しに来るだろうと思って、こっそり包帯の桶を持って行ったんだよ」
「か、確信犯……」


 まさに寝耳に水。青天の霹靂とはこのことだ。
 びっくりして気が動転してしまいそうになるのを、ステラは必死にこらえた。


「なかなか勇気が出なくて、結局、謎の沈黙を作ってしまったんだが……」

(ああ、そうだったのか)

 ステラの頭に手を添えたまま微動だにしなかったあの時間は、ヴィルフリートにとって葛藤の時間だったのだ。
 緊張で目を瞑っていたのが悔やまれる。彼がどんな顔をしていたのか見たかった。


「ステラのそばにいられるなら想いを伝えなくても良いかと思ったんだが、でも、俺と違って君は魅力的だから」
「そんなことないですよぅ」
「そんなことあるんだ。部下たちが君に向けている視線がどんなものか、君はわかっていないだろう」


 素直に「わからない」と首を振る。


「だから、早く俺のものにしたかった。ある意味ではあの淫魔に感謝している。君を守る為という大義名分のおかげで、本音を言えた」


 本人はすっきりした顔でひょうひょうと言ってのけたが、ステラは納得いかなかった。
 自分の時は最初から気持ちを拒絶されて、拒否されて、それで想い続けようと踏ん切りがついたのに、きっかけさえあれば良かっただなんて。
 そんなずるい話があってたまるもんですか。
 ぶくっと頬を膨らませて、不機嫌な表情をヴィルフリートに向ける。
 彼は戸惑いと焦りの表情を滲ませて、ステラの顔を覗き込んだ。


「……俺に幻滅したか?」
「幻滅はしてません。でも、納得はいってません。私はもう、この先ずっと、心の中だけで先輩だけを想うつもりでいたのに。先輩だけずるい。私にもチャンスが欲しかったです」
「悪かったよ、ステラ。心の中だけじゃなくて、身も心も俺のことを想ってほしい」


 優しい瞳に見つめられて、優しい声音でそんなお願いをされたら、不服を申し出たいのにすべてを許してしまいそうになる。
 やっぱりずるい人だ。 


「……ステラ?」


 強面で恐れられている男が、自分にだけ向けてくれる穏やかな微笑み、柔らかい声音。
 絆されない女がどこにいようか。


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