5 / 8
5話:ヴィルフリートの本音
しおりを挟む***
次に目を覚ました時は、翌日の黄昏時だった。
団長の個人テントのベッドに寝かされていたようで、いつもと違う寝起きを迎えたことに少なからず動揺した。そして隣にヴィルフリートの姿がないことも。
慌ててテントを飛び出したら、夕焼けの空とご対面したというわけだ。
無論、騎士団は皆魔物討伐で出払っていたものだから、人っ子ひとり、誰の気配もない。つまり、置いて行かれたのである。
寂しい気持ちが、時間が経つごとに憤りに変わっていったのは言うまでもない。それでも騎士団員として、夜食やら湯浴みやらの準備はしっかりと整えた自分は偉いと思う。
無事に帰還した団員を、ステラは不機嫌な顔で出迎えた。
素直に「起こしてくれなかったので怒っています」と宣言した。
みんな口々に「いつも大変な思いをさせているから」とか「俺らのせいで疲れさせちゃったと思ったんで……」と気遣ってくれたが、それでもステラの機嫌は直らなくて、これにはヴィルフリートも苦い顔をした。
こっそりとステラを森の中に連れ出して、不機嫌を宥めるようにぎゅっと抱き締める。
「せんぱ……団長! どうして私を起こさずに討伐に行っちゃったんですか!」
「昨日、無茶をさせたからに決まってるだろう」
「目を覚ました時、私がどんな気持ちになったかわかりますか!?」
「……いや、そこまでは」
「寝て起きたら、誰もいなくて、寂しかったんです……!」
「ステラ……」
「それに、昨日は命の危機だったんですよ!? 理由はしょうもないしくだらないし、団長にとっては面倒なことだったでしょうけれど…………今も面倒でしょうけれど……」
「そんなことはない。昨日だって、一度も面倒だなんて思わなかった」
「……抱いてくれたのは部下を助けるためで、要するに、嘘も方便ってやつですよね?」
「は?」
「わかってるんです。二度も私の告白を断ってきた人が、そんな急に心変わりするわけな――」
ステラの言葉がヴィルフリートの唇によって遮られる。
突然のことに驚いて、ぱちぱちと瞬きする以外の動作ができなくなってしまった。
「――ただの部下に、後輩に、キスができると思うか?」
「……っ」
熱のこもった視線に射抜かれる。昨日の情事の記憶が蘇ってきてぶわりと頬が赤く染まった。
一呼吸遅れて、ステラが小さく首を横に振る。
ヴィルフリートはもう一度ステラを腕の中に閉じ込めると「すまない」と謝罪の意を述べた。
「最初に、君が学園で「彼氏になってくれないか」と言われた時は、何かの罰ゲームをやらされてるんだと思ったんだ」
「ばっ、罰ゲーム……!?」
勢いでとはいえ、人の一世一代の告白を、罰ゲーム!?
「ひどい……!」
「俺の境遇も考えてくれ、ステラ。この顔面のせいで誰かに好かれるということが人生の中で一度もなかったんだ。学園でもそうだ。俺が誰かに好かれているように見えていたか?」
「いいえ……」
「そうだろう。だから、信じられなかったんだ。実際、近付くと後ろに逃げただろう?」
「あれは、首がしんどかったんです。真上を向かなきゃならなかったから……」
「ああ……。君は小柄だものな……。それは俺が悪かった」
「いえ、私も、勘違いさせてしまっていたのは謝ります」
ヴィルフリートの背中に腕を回して、ぎゅっと力を込める。
「1回目の告白は確かに、私も唐突だったなって思ってました。だから先輩に会うために私、めちゃくちゃ頑張ったんですよ」
「そうだな、2回目の時も、素直に信じてやれなくて申し訳なかった」
「あの時はどうして断ったんですか? 本気で色恋沙汰に興味がなかったんですか?」
「そういう訳じゃなかったが……。まさか本気で俺に会うために、合格倍率0.1%の狭き門をかいくぐってくるなんて思わないじゃないか……」
どこか気まずそうな顔を隠すように、ステラを抱き直した。
「王国騎士団に入団した、騎士科の学友がいるだろう。そいつが教えてくれたんだ。俺に告白するために、必死になって勉強してたって。俺がどれだけ優しい人間かを熱弁してたと聞いて、あの告白は本当だったんだって、その時初めて信じられたんだよ」
(本人に喋ったの……!?)
一緒に勉学に励んだ学友の顔を思い出して、想像の中で頬を叩く。……いや、喋ってくれて良かったのかもしれない。結果として、告白の本気度が伝わったのだから。叩いてごめんね、友よ。
「……それを知ったなら、なんで言ってくれなかったんですか」
「仮に本気だと知ったところで、「俺のこと本当に好きだったんだな、ありがとう。付き合おう」なんて、自惚れが過ぎるし、格好悪くて言えない」
「それじゃあ……、いつ私のことを好きになってくれたんですか?」
ステラが身体を離して、深緑の瞳をじいっと見つめた。もう数秒だけなんて言わない。穴が開くほど見つめてもきっと許される。
期待に満ちたステラの視線に、堪えていた何かを手放したかのようにヴィルフリートはくしゃりと破顔した。突然の笑顔に驚きで目を瞠るステラの唇に何度もキスを落とす。
「その目だよ。時々、俺の目をじっと見つめる癖があるだろう。たった数秒程度のそれが、だんだん可愛く思えてきてな」
「かわ、可愛い……?」
「ああ。潤んだ瞳で意味ありげに見つめられて、俺にとってはいつしか特別な数秒になってた」
ヴィルフリートのことを心の中で想い続けると決めてから、これだけは許して欲しいと願った、特別で、貴重な時間。
ステラの視線の意味は、いつの間にかバレていたというわけだ。
穏やかな表情がステラを見下ろす。見つめ合うそのまなざしに、どんどんと熱がこもっていく。
ヴィルフリートがステラの腰を抱いて、近くの木の幹まで誘導した。木の凹凸に背中と後頭部を預け、ヴィルフリートのシャツを握りしめる。
きっと見飽きることはないだろう、深い緑の奥を覗き込んで、言葉の続きを促した。
ヴィルフリートはステラの腰を抱いたまま、身を屈めて目線を合わせる。
「実は昨日……俺から告白しようと思ってた」
「えっ!?」
「2人きりになれる環境をわざと作ってたんだ。備品管理を徹底している君なら絶対に俺を探しに来るだろうと思って、こっそり包帯の桶を持って行ったんだよ」
「か、確信犯……」
まさに寝耳に水。青天の霹靂とはこのことだ。
びっくりして気が動転してしまいそうになるのを、ステラは必死にこらえた。
「なかなか勇気が出なくて、結局、謎の沈黙を作ってしまったんだが……」
(ああ、そうだったのか)
ステラの頭に手を添えたまま微動だにしなかったあの時間は、ヴィルフリートにとって葛藤の時間だったのだ。
緊張で目を瞑っていたのが悔やまれる。彼がどんな顔をしていたのか見たかった。
「ステラのそばにいられるなら想いを伝えなくても良いかと思ったんだが、でも、俺と違って君は魅力的だから」
「そんなことないですよぅ」
「そんなことあるんだ。部下たちが君に向けている視線がどんなものか、君はわかっていないだろう」
素直に「わからない」と首を振る。
「だから、早く俺のものにしたかった。ある意味ではあの淫魔に感謝している。君を守る為という大義名分のおかげで、本音を言えた」
本人はすっきりした顔でひょうひょうと言ってのけたが、ステラは納得いかなかった。
自分の時は最初から気持ちを拒絶されて、拒否されて、それで想い続けようと踏ん切りがついたのに、きっかけさえあれば良かっただなんて。
そんなずるい話があってたまるもんですか。
ぶくっと頬を膨らませて、不機嫌な表情をヴィルフリートに向ける。
彼は戸惑いと焦りの表情を滲ませて、ステラの顔を覗き込んだ。
「……俺に幻滅したか?」
「幻滅はしてません。でも、納得はいってません。私はもう、この先ずっと、心の中だけで先輩だけを想うつもりでいたのに。先輩だけずるい。私にもチャンスが欲しかったです」
「悪かったよ、ステラ。心の中だけじゃなくて、身も心も俺のことを想ってほしい」
優しい瞳に見つめられて、優しい声音でそんなお願いをされたら、不服を申し出たいのにすべてを許してしまいそうになる。
やっぱりずるい人だ。
「……ステラ?」
強面で恐れられている男が、自分にだけ向けてくれる穏やかな微笑み、柔らかい声音。
絆されない女がどこにいようか。
2
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ王子に鉄槌を
ましろ
恋愛
私がサフィア王子と婚約したのは7歳のとき。彼は13歳だった。
……あれ、変態?
そう、ただいま走馬灯がかけ巡っておりました。だって人生最大のピンチだったから。
「愛しいアリアネル。君が他の男を見つめるなんて許せない」
そう。殿下がヤンデレ……いえ、病んでる発言をして部屋に鍵を掛け、私をベッドに押し倒したから!
「君は僕だけのものだ」
いやいやいやいや。私は私のものですよ!
何とか救いを求めて脳内がフル稼働したらどうやら現世だけでは足りずに前世まで漁くってしまったみたいです。
逃げられるか、私っ!
✻基本ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~
石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。
食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。
そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。
しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。
何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。
扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。
小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。
【完結】溺愛婚約者の裏の顔 ~そろそろ婚約破棄してくれませんか~
瀬里@SMARTOON8/31公開予定
恋愛
(なろうの異世界恋愛ジャンルで日刊7位頂きました)
ニナには、幼い頃からの婚約者がいる。
3歳年下のティーノ様だ。
本人に「お前が行き遅れになった頃に終わりだ」と宣言されるような、典型的な「婚約破棄前提の格差婚約」だ。
行き遅れになる前に何とか婚約破棄できないかと頑張ってはみるが、うまくいかず、最近ではもうそれもいいか、と半ばあきらめている。
なぜなら、現在16歳のティーノ様は、匂いたつような色香と初々しさとを併せ持つ、美青年へと成長してしまったのだ。おまけに人前では、誰もがうらやむような溺愛ぶりだ。それが偽物だったとしても、こんな風に夢を見させてもらえる体験なんて、そうそうできやしない。
もちろん人前でだけで、裏ではひどいものだけど。
そんな中、第三王女殿下が、ティーノ様をお気に召したらしいという噂が飛び込んできて、あきらめかけていた婚約破棄がかなうかもしれないと、ニナは行動を起こすことにするのだが――。
全7話の短編です 完結確約です。
狼隊長さんは、私のやわはだのトリコになりました。
汐瀬うに
恋愛
目が覚めたら、そこは獣人たちの国だった。
元看護師の百合は、この世界では珍しい“ヒト”として、狐の婆さんが仕切る風呂屋で働くことになる。
与えられた仕事は、獣人のお客を湯に通し、その体を洗ってもてなすこと。
本来ならこの先にあるはずの行為まで求められてもおかしくないのに、百合の素肌で背中を撫でられた獣人たちは、皆ふわふわの毛皮を揺らして眠りに落ちてしまうのだった。
人間の肌は、獣人にとって子犬の毛並みのようなもの――そう気づいた時には、百合は「眠りを売る“やわはだ嬢”」として静かな人気者になっていた。
そんな百合の元へある日、一つの依頼が舞い込む。
「眠れない狼隊長を、あんたの手で眠らせてやってほしい」
戦場の静けさに怯え、目を閉じれば仲間の最期がよみがえる狼隊長ライガ。
誰よりも強くあろうとする男の震えに触れた百合は、自分もまた失った人を忘れられずにいることを思い出す。
やわらかな人肌と、眠れない心。
静けさを怖がるふたりが、湯気の向こうで少しずつ寄り添っていく、獣人×ヒトの異世界恋愛譚。
[こちらは以前あげていた「やわはだの、お風呂やさん」の改稿ver.になります]
氷のメイドが辞職を伝えたらご主人様が何度も一緒にお出かけするようになりました
まさかの
恋愛
「結婚しようかと思います」
あまり表情に出ない氷のメイドとして噂されるサラサの一言が家族団欒としていた空気をぶち壊した。
ただそれは田舎に戻って結婚相手を探すというだけのことだった。
それに安心した伯爵の奥様が伯爵家の一人息子のオックスが成人するまでの一年間は残ってほしいという頼みを受け、いつものようにオックスのお世話をするサラサ。
するとどうしてかオックスは真面目に勉強を始め、社会勉強と評してサラサと一緒に何度もお出かけをするようになった。
好みの宝石を聞かれたり、ドレスを着せられたり、さらには何度も自分の好きな料理を食べさせてもらったりしながらも、あくまでも社会勉強と言い続けるオックス。
二人の甘酸っぱい日々と夫婦になるまでの物語。
推しであるヤンデレ当て馬令息さまを救うつもりで執事と相談していますが、なぜか私が幸せになっています。
石河 翠
恋愛
伯爵令嬢ミランダは、前世日本人だった転生者。彼女は階段から落ちたことで、自分がかつてドはまりしていたWeb小説の世界に転生したことに気がついた。
そこで彼女は、前世の推しである侯爵令息エドワードの幸せのために動くことを決意する。好きな相手に振られ、ヤンデレ闇落ちする姿を見たくなかったのだ。
そんなミランダを支えるのは、スパダリな執事グウィン。暴走しがちなミランダを制御しながら行動してくれる頼れるイケメンだ。
ある日ミランダは推しが本命を射止めたことを知る。推しが幸せになれたのなら、自分の将来はどうなってもいいと言わんばかりの態度のミランダはグウィンに問い詰められ……。
いつも全力、一生懸命なヒロインと、密かに彼女を囲い込むヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:31360863)をお借りしております。
贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる
マチバリ
恋愛
貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。
数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。
書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。
貧乏子爵令嬢は両片思いをこじらせる
風見ゆうみ
恋愛
「結婚して」
「嫌です」
子爵家の娘である私、アクア・コートレットと若き公爵ウィリアム・シルキーは、毎日のように、こんなやり取りを繰り返している。
しかも、結婚を迫っているのは私の方。
私とウィルは幼馴染みで婚約者。私はウィルと結婚したいのだけど、どうやらウィルには好きな人がいるみたい。それを知った伯爵令息が没落しかけた子爵家の娘だからと私の恋を邪魔してくるのだけど――。
※過去にあげたお話のリメイク版です。設定はゆるいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる