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*番外編:巨躯で強面の騎士団長は可愛いものがお好き
しおりを挟む『まるで殺人犯の人相だな』
ヴィルフリートが誕生した時に、父親が投げかけた第一声がそれだったらしい。
美人な母は切れ長の目をさらに吊り上げ『人のことを言えるお立場でしょうか?』と鏡を突き付けたという話は、ヴィルフリートが成人を迎えても事あるごとに話題に出る。
要するに、このいかつい顔は父親譲りということだ。
大柄で筋肉質な体躯で周囲を威圧し、太い眉はつねに中央に寄せて厳格な雰囲気をまき散らしている父親は、その顔に似合わず庭いじりが趣味だった。薔薇やガーベラ、百合、ネモフィラにラベンダー、最近は一角を囲ってハーブ系にも挑戦している。
可愛い花を育てるのが好きな父親の背中を見て育ったせいか、ヴィルフリートも漏れなく可愛いものが大好きだった。
大柄な男二人が、庭の可愛い花を世話し、遊びに来た猫に餌をやって可愛がる姿は、かなり異様なんだそうだ。
母親曰く「恐怖でしかない」
なんとも失礼な話である。
そういうわけで、ヴィルフリートは次第に可愛いものを愛でることに慎重になっていた。
魔術師高等学園の庭先でたまに餌をやっていた猫が、いつの間にか子を産み落として、存在を消した。猫は死期が近づくと、誰も目につかぬところに行って静かに死んでいくという話を聞いたことがある。そして、信頼している人間に子を託すことがあるということも。
母猫の意思を察したヴィルフリートは、目も開いていない時期から放置されてしまった仔猫の世話を請け負ったのである。
誰も見ていないからと油断して、締まりのない表情をしていた自覚はあった。その顔を後輩のステラに見られたのは今思い返してもカッコ悪かったなと思う。
彼女は実習で同じチームになることがあるだけの、ただの後輩で、それ以上でもそれ以下でもなかった。
ただ、小柄で大人しくて、身長差のせいで常にこちらを見上げて来る、可愛いだけの後輩。
可愛いものと接するときは慎重になるヴィルフリートは、怖がらせてはいけないと必要最低限の関りだけにとどまらせていた。だから、特に親しくもない彼女から唐突に発せられた「私の彼氏になってください」という告白を、真正面から受け止められなかったのである。
そして考えた。
(これはたぶん、言わされているんだろう)
街を歩けば人が避けていくこの顔である。こんな華奢で小柄で小動物のような愛嬌を持ち合わせている彼女が、犯罪者のような人相の男を好きになる筈がない。
彼女は優秀だ。実習でも文句なしの成績を納めている。一度のアドバイスで完璧に軌道修正する、完璧な才女だ。
自分なんかを好きになるわけがない。
じっとこちらを窺っているアメジストの瞳が、太陽の光に反射して輝いていた。本物の宝石に見えるぐらいに美しい。
立ち上がって近寄ると、ステラは2歩ほど後ずさった。それで確信を得る。
(やっぱりな。この子はなにか、罰ゲームでもやらされているに違いない)
そんなわけで、体のいい断りの文句として「色恋沙汰に興味はない」と告げ、接触を断った。
可愛いものは愛でたいタイプのヴィルフリートにとって、心が痛まないわけではなかったが、言わされているのなら断ってあげた方が良いだろう。あの時の判断は今でも間違っていなかったと思う。
そんな出来事があってから2年の歳月が経ったある日、当時の騎士団長から、王国騎士団に専属の治癒魔術師が入団するとの通達があり、その場がどよめいた。
無理もない。治癒魔術師として王国騎士団に入るのは狭き門より狭く、合格倍率0.1%の世界を突破しなければならないからだ。1000人に1人がたどり着く険しい試練なのである。
突破してきたのは、ステラだった。
騎士団の紋章を背中に背負いながら、凛とした通りの良い声音で団員に挨拶をする彼女から目を離すことは難しかった。喋りながら周りを見渡しているようで、誰かを探しているような目が、自分を見つけた瞬間に見開かれる。きらりとアメジストが光って、ぱあっと輝いた。
不覚にも、心臓が跳ねた。
彼女は目を細めてこちらに笑いかけたあと、挨拶の言葉を締めくくる。その場は解散となって皆がはけていくなか、ステラはまっすぐ自分に向かって走り寄ってきた。勢い余って躓いたステラを抱きとめる。
「先輩、お久しぶりです」
あの日の告白以来話もしなかった彼女が、目の前にいる。
心底嬉しそうに笑うステラになんと声を掛けて良いものかしばらく考えたが、出てきた言葉は「久しぶり」という当たり障りのない挨拶だった。
急に真顔になったステラは言った。
「先輩、私、先輩が好きです! だから――」
〝私の彼氏になってくれませんか〟
聞こえてもいないのに、あの日の言葉が重なって、ヴィルフリートはたまらない気持ちになった。悪い方の意味で。
王国騎士団は命がけで戦う騎士の集団だ。色恋沙汰は似合わない。ましてや、自分は次の団長候補に選ばれている。気を抜くわけにはいかないし、ステラにとっても、そんな男に興味はないだろう。何を思って告白してきたのかわからないが、ヴィルフリートは痛む胸を無視して断りではなく拒否の意をステラにぶつけた。
これは正直、言葉選びがまずかったと反省している。
彼女は賢い子だった。玉砕を引きずることなく任務を忠実にこなし、治癒魔術師としての能力値も悪くない。むしろほかの騎士団から支援要請を受けるぐらいには良い腕を持っている。
そして、ステラから数秒だけ、じぃっと目を見つめられていることに気が付いたのだ。
それはただ目線が合ってるわけじゃない。小動物が潤んだ瞳で人間を見上げるときのそれと同じだった。愛嬌の中に感じる熱が、意味ありげにヴィルフリートを見上げるのだ。
言葉もなく交わされるスキンシップを受けていたある夜、魔獣討伐で野営をしていた時。
馬の世話をしていたステラの学友だという者が、同じく愛馬を世話するヴィルフリートに声をかけてきたのだ。
「ステラちゃんからの告白、断ったそうですね」
ちゃん付の呼び方に無意識にぴくりと眉が吊り上がった。
「……まぁな」
短くそう答えて、愛馬に向き直る。
小屋は仕切られていないために、学友はヴィルフリートを見やって「可哀想なことをしますね」と憐れみを帯びた表情を投げかけてきたのだ。
団長に向かってやっていい態度ではない。
自然と眉間にしわが寄るが、彼はヴィルフリートの表情を気にする様子もなく言葉を続けた。
「ステラちゃんがなぜ狭き門に挑戦したのかわかりますか?」
「いや」
「あなたのそばにいるためなんですって」
愛馬に櫛を通していた手をぴたりと止める。
「どういうことだ?」
学友に目線を移して、真意を問う。
「勢いで告白してしまったけど、あまりにも唐突過ぎてフラれたから、もう一度告白するんだって、それが試験へのモチベーションになったみたいですね。あなたがどれだけ優しい人で、どれだけ親切で、どれだけ人を思いやれる人なのかということを、延々と語ってました。あまりに沢山言われ過ぎて内容覚えてませんけど」
「覚えておけよ」
ちょっと聞いてみたかったのに。
褒められるのは別に嫌いではない。そわっとしてしまった感情を殺して、自分を想うステラの表情を想像した。
「健気ですよね」
心の中を読まれたのかと思って一層黙りこむ。
「本当に、可愛らしい」
手に持っていた櫛がびしりと音を立てて割れた。
気に食わないと思ってしまったのだ。何故かはわからない。
「信じてやってくださいよ。唐突だったかもしれませんけど、ステラちゃんの目はマジでしたから、団長を好きな気持ちは嘘じゃないです。今でも想ってるはずですよ。……目がマジですから」
学友はそれだけ言って、手際よく後片付けを済ませると厩舎を出ていった。
「目がマジ……とは」
自分の中のステラの目は、宝石のように瞬いている。綺麗で美しいとさえ思う。
――でも、そうか。
と、学友の言葉で、どこか腑に落ちたような気がする。あの熱のこもった目は、ステラの中からあふれ出ている気持ちだったか、と。
ステラのことは嫌いじゃない。どれだけ大変でしんどい任務でも、自分を見つけた時に一瞬で表情が明るくなって、走り寄ってくるのが可愛い。
目を細めて笑う笑顔が可愛い。治癒魔法をかける真面目な表情でさえ美しく、魅力的だ。
「……そうか」
既に自分は、ステラの魅惑にはまっていたのだ。
それから、彼女に見つめられる数秒がとても貴重なものになった。
時にうるっとして、時にすがるように、時に妖艶で、時に――いや、常に、可愛い。
元来可愛いものを愛でたいタイプの人間だ。
気付いてしまえば早かった。
重症の騎士をステラに預け、救い出してくれた夜。こっそりと救護テントから血の包帯が入った桶を持ち出したのだ。
ステラがおいかけてくることはわかっていた。
二人きりになれる時間が欲しかったのだ。
包帯の扱い方は知っている。彼女がくるのを、緊張と期待と、少しの申し訳なさを抱えながら待った。
そこからはどういうミラクルか、タガが外れて欲に溺れた結果、ステラを自分のものにすることができたのである。
彼女の健気な気持ちを無下にしてしまった自分を許すことはできないが、それ以上の愛を返してやることはできる。
「――そうだよな? ステラ」
「はぇ……え、なに……なにが……っ?」
騎士団の寮――団長部屋のベッドの上で、息も絶え絶えな彼女のうなじにキスを落とした。
顎を優しい手つきで包み込む。少しだけ力をくわえると、察してくれたステラが顔をあげた。涙で潤んだアメジストがきらきらと輝く。
それを至近距離で見つめながら、彼女の中に埋め込んでいる欲求を奥に押し付けた。
「んぁっ……! ~~~……っ」
一度突き立てただけで襞が収縮し、己を締めあげる。これが癖になりそうなぐらい気持ちよくて、調子に乗って何度も最奥を穿った。
「あ"っ、あ、あッ、い、やぁ……っ」
絶頂を迎えるたびに下を向こうとするステラの顔を固定して、存分にイキ顔を眺めたおす。良い表情をするのだ。
本当に可愛い。
「イってる、の、ッ……イってる……うぅぅ……~~~イぐ……ッ」
びくんと小柄な身体が跳ねる。イク感覚がどんどん短くなっているようで、ステラは何度も緊張と弛緩を繰り返していた。
うわ言のように「せんぱい、せんぱい」と縋ってくるのが可愛い。
抱きつぶしている自覚はある。
けれどもステラが可愛すぎるから、抑えが利かない。
「可愛いな、ステラ。可愛い」
「んむ、っ、ン~~~!」
酸素を奪うように、唇を塞いだ。舌をからめとって、歯列をなぞる。
腰のあたりがぞくぞくしてきて、自分も絶頂が近付いてくるのを感じた。
(我慢しようか……でもそろそろ限界そうだな)
あんまり無理をさせ過ぎると任務に支障が出るかもしれない。まだまだ全然抱いていたいが、団員に怒られる可能性を考えて、ヴィルフリートはステラの身体をひっくり返した。
ステラの背中をシーツに押し付ける形で、上から差し込むように抽挿する。いやらしい水音と肌がぶつかり合う音が部屋の中に響き渡った。
「ああ"ッ! そ、こ、だめ……ぇッ」
「気持ちいいな、ステラ。ここがいいんだよな」
「やめて、やめて、すぐイっちゃうから、イっ……~~~ッ」
つながった箇所からあふれ出たステラの体液が、太ももを伝って彼女の尻を濡らしていく。
がくがくと痙攣する身体を押さえつけて、容赦なく自身の昂りを打ち付ける。
「もうだめ、もうやぁ、いやぁ……ッ」
いやいやと首を振って絶頂を迎えるステラがあまりにも可愛くてどうにかなりそうだ。
「ステラ、愛してる」
「あぅ"……ッ、ん、わ、わたしも、愛してる、せんぱい……っ」
縋りついてくる身体をぎゅうと抱き締めて、ぐぐっと腰を押し付けた。声もなく果てたステラの最奥に、子種を注ぐ。
ナカのうねりが、最後の一滴まで搾り取ろうとするような動きで、喉からくぐもった声が漏れ出た。
とんでもなく気持ちよくて。
とんでもなく幸せだ。
「ステラ」
顔面に何度もキスの雨を降らせて、ピンクブロンドの髪を撫でまわす。
「せんぱい、重い……」
息を整えるのに必死なステラが腕の中で身を捩った。
しばらく逡巡して、ゆっくりと上体を起こす。
「ステラ、俺のことを先輩と呼ぶのはやめにしないか」
「へ……? な、なんて呼べば……団長呼びの方が好きですか……?」
「いやそういうことじゃなく。……名前で呼んでくれ」
「な、なまえ……」
さっきの情事で赤くなっていたステラの頬が、いっしゅんで真っ赤になる。
「ヴィルフリートは長くて呼びにくいだろうから、ヴィルでいい。ヴィルが言いにくければ、ウィルでもいいし、ビルでも。他に呼びたいのがあれば、それで」
熱いぐらいの頬を撫でながら、にこりと笑いかけた。ステラの目が泳ぎに泳いで、言葉にならないうめき声をあげ、次第に落ち着きを取り戻したのか、こてんと小さく首をかしげながら、困り顔で目線を合わせてきた。
期待に胸を膨らませて、ステラの言葉を待つ。
「ヴィル……?」
遠慮がちな声に、心臓が爆発するかと思った。
可愛いの権化がいる。
「っあ、ちょっと、もう大きくしないで……っ」
「……すまない。あと一回」
逃げ出そうとするステラの腰を掴んで、繋がったままのそれをこすりつける。白濁がぽたぽたと落ちて、ステラの喉から嬌声がもれた。
可愛いものは愛でたい人間なのだ。
これからも思う存分、愛でていきたいと思う。
終
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