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立夫のある魂胆
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海棠の秘書から一本のメールが届いた。件名には淡々と「常務の伝言」とだけある。
開くと、そこには驚くほど簡潔な文面が並んでいた。
――千賀子の妊娠を、素直に祝いたい。
孫が生まれるというのは、わしとしてはうまく言えないが、言えないほど嬉しいと解釈してほしい。
妻を大事にしてやってくれ。
それから、この機会に言っておく。君の器量を軽く見ていたことを詫びる。
今後は、わしにできることがあれば支援したい。遠慮なく言ってくれ。
短い。だが一行一行に、海棠という男の性格がにじんでいた。
祝福も謝罪も、これ以上は削れないところまで削り落とした言葉だ。
立夫は画面を見つめながら、思わず鼻で笑った。
――下手に出るのが、よほど悔しいのだろう。
「できることがあれば支援したい、か……」
立夫の頭の中で、すぐに計算が走った。
これは好機だ。逃す理由はない。
彼は返礼を兼ねる形で、秘書宛てにすぐさま返信を打った。
内容は極めて事務的だ。
姫路には研修所も保養所もない。行員の士気向上と人材育成のため、ぜひ建設したい。
予算は二十億ほどを想定しているが、ご配慮いただけないだろうか――。
二十億。
常務クラスからすれば、正直「鶴の一声」で済む額だ。
だからこそ、立夫はあえて遠慮を装わなかった。
本当の狙いは別にある。
建てさせること、そのものではない。
建った施設を、いずれ意のままに動かせる位置に自分を据えること。
人も金も流れ込む場所を押さえれば、支店長という肩書きの先が見えてくる。
だが、さすがに返事は数日後だろう。
そう高を括っていた。
ところが数時間後、再び通知音が鳴った。
秘書からの返信は一行だけだった。
――了承した。関西本部の施設部長に直接話を通してある。明日、顔を出すように。
立夫は思わず、ゆっくりと息を吐いた。
早すぎる。迷いがない。
海棠はすでに覚悟を決めている。
「……なるほどな」
妊娠は祝福であり、同時に力関係を塗り替える札でもあった。
立夫は椅子に深く腰掛け、次の一手を思い描く。
これは始まりに過ぎない。
家族と野心、その両方を手にした男の物語は、ここから一気に加速していくのだった。
開くと、そこには驚くほど簡潔な文面が並んでいた。
――千賀子の妊娠を、素直に祝いたい。
孫が生まれるというのは、わしとしてはうまく言えないが、言えないほど嬉しいと解釈してほしい。
妻を大事にしてやってくれ。
それから、この機会に言っておく。君の器量を軽く見ていたことを詫びる。
今後は、わしにできることがあれば支援したい。遠慮なく言ってくれ。
短い。だが一行一行に、海棠という男の性格がにじんでいた。
祝福も謝罪も、これ以上は削れないところまで削り落とした言葉だ。
立夫は画面を見つめながら、思わず鼻で笑った。
――下手に出るのが、よほど悔しいのだろう。
「できることがあれば支援したい、か……」
立夫の頭の中で、すぐに計算が走った。
これは好機だ。逃す理由はない。
彼は返礼を兼ねる形で、秘書宛てにすぐさま返信を打った。
内容は極めて事務的だ。
姫路には研修所も保養所もない。行員の士気向上と人材育成のため、ぜひ建設したい。
予算は二十億ほどを想定しているが、ご配慮いただけないだろうか――。
二十億。
常務クラスからすれば、正直「鶴の一声」で済む額だ。
だからこそ、立夫はあえて遠慮を装わなかった。
本当の狙いは別にある。
建てさせること、そのものではない。
建った施設を、いずれ意のままに動かせる位置に自分を据えること。
人も金も流れ込む場所を押さえれば、支店長という肩書きの先が見えてくる。
だが、さすがに返事は数日後だろう。
そう高を括っていた。
ところが数時間後、再び通知音が鳴った。
秘書からの返信は一行だけだった。
――了承した。関西本部の施設部長に直接話を通してある。明日、顔を出すように。
立夫は思わず、ゆっくりと息を吐いた。
早すぎる。迷いがない。
海棠はすでに覚悟を決めている。
「……なるほどな」
妊娠は祝福であり、同時に力関係を塗り替える札でもあった。
立夫は椅子に深く腰掛け、次の一手を思い描く。
これは始まりに過ぎない。
家族と野心、その両方を手にした男の物語は、ここから一気に加速していくのだった。
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