異之国奇譚1~平凡OL王女は常ならむ~

月乃 影

文字の大きさ
6 / 25

6話 お見合い

しおりを挟む
 「姫、一曲お相手願えますか?」
 なんとなく予想はしてたけど、ダンスを真っ先に申し込んできたのは熊・・・もといトマール・デ・キリウス公爵だった。
 きょうはチャイナスーツの腰を帯で絞ったようなデザインの黒い服に、黒い皮のロングブーツだ。
 黒い布にはドラゴンのような紋章が銀糸で刺繍されているので、上品には見える。
 よかった。
 もしヨーロッパの宮廷貴族のような白いぴっちりタイツにオー・ド・ショースにハイヒールの靴なんて履いてこられたら、吹き出さずにいられる自信がなかった。
 キリウスの手を取り、姫様らしく鷹揚に微笑んで
「喜んで」と私は応える。
 ああ、私、この異世界にきて、人格は崩壊したわ。ウソも上手くなったわよ。
 でも、はた、と重大なことを思い出した。今さらだけど。
 私、ダンス踊れるの!?
 現代でダンスなんか習ったことないよ!?記憶にあるのは高校の体育祭でフォークダンスを踊ったくらい・・・
 あれもけっこうギリギリでやばかった。男子の足を思いっきり踏んづけてしまったし。
 わざとじゃなかったんだけど、あの男子からは卒業までずっと避けられてしまった。
 ぐるぐると過去の忌まわしい記憶が頭を駆け抜ける。
「あ、あのキリウス様」
 キリウスが、なにか?というように片眉をあげた。
「私、その・・・病み上がりなので、足がもつれるかも」へたくそだった場合の予防線をしっかり張る。
 黒ヒゲで口元はよく見えないけど、キリウスは笑ったようだった。
 それがなんとなく少年っぽく見えた。
 もしかして私が想像してるより歳は若いのかもしれない。そういえば、爵位を先月継いだばかりって、サラさんが言ってたっけ。
「大丈夫ですよ、レーナ姫。私がリードしますから」
 熊ってば意外に紳士的なんだ。
 「ダンスもできないのか」って呆れるかもしれないって思ってた。
 
 泳げる人間は例え記憶を無くしても泳げるのだと聞いたことがある。ダンスの記憶は無くても体が覚えているみたいで、私の足は勝手に軽やかなステップを踏む。
 レーナって、本当にこういうことは得意だったんだ。学力は小学生レベルだけど。
「病み上がりとは思えませんよ」キリウスの猛禽類のように鋭い青い瞳も、今は獲物を腹におさめて満足で穏やかな獣の瞳のようだ。
 それに体育会系はダンスも上手い。しなやかな動きできちんと私をリードしてくれてる。少し見直した。
 曲がスローになり、私はキリウスの肩に頭を預けて、ゆったりとした体の流れを楽しんだ。
 相手が熊・・・(いや、人間だけど)とはいえ、こうやって異性の体に触れる機会なんて現代ではなかった私には新鮮だ。
 踊りって気持ちいい。なんだか心がフワフワする。
 心地よく、うっとりとした気分になっていたら
「姫はやはり私と結婚されるのがいい」
 イキナリ頭上で声がして、私はキリウスを見上げた。
 は?今、何て言った?
 ヒゲで表情はよく分からないけど、冷めた青い目が不穏な色をはらんでいる。
「そのほうが貴女の身のためだ」
 一瞬、頭が真っ白になって、それから怒りがこみ上げた。 
 え、なに、それ、私を脅してるの!?
 私はステップを間違えたふりをして、思いっきり体重をかけてキリウスの足を踏んづけた。
「いっ!」
「あ~ら、ごめんあそばせ」
 ギリギリと歯噛みが聞えそうなキリウスを放っておいて、私は王女用の席にスタコラサッサと戻った。

 なんなの、アレ
 私の身のためって、なに!?
 結婚しなかったら何をするっていうのよ!
 こんなとこで、脅迫とか、あり得ないでしょ!
 あんな男とのダンスに一瞬でも気持ち良くなった自分が嫌になる。
 私は驚愕と怒りのあまり頭がグルグルになって目の前も見えていなかったらしい。
「レーナ様」サラさんの声で我にかえる。
 目の焦点が目の前に立っている男に合った。
「第2大臣ナビス・デ・ローマリウス公爵様です」サラさんがそっと耳打ちしてくれた。
 目の前にいるのはメガネをかけた貧相なネズミ顔の小男だった。服はヨーロッパ宮廷貴族のモロそれで、似合わなすぎるのが吹き出すよりなんだか哀れになった。
 ・・・これが、大臣?
 まるで、昔読んだ『妖怪漫画』の小ズルいネズミみたいだ。
 男はおどおどと遠慮がちに手を差し出すと、私にダンスを申し込んだ。
 並んで踊ってみると、身長は私より2,3センチは高い。小男だと思ったんだけど、キリウスが高すぎたせいで感覚がマヒしてしまったみたい。
 顔はともかく、ダンスは上品でこなれている。相手の女性に対する配慮っていうのを感じる。
 キリウスがリードならこの人はサポートって感じかな。
 ずいぶん、年上っぽいけど。ま、親子ほど齢が違う結婚も昔は普通だったんだよね。
 う~~~ん。
 悪い人ではなさそうだけど・・・イケメンからはフルマラソンの距離くらい遠い。
 でも、結婚は外見だけで決めるわけじゃないし・・・
 踊りながら考えていると、
 「兄上も大変なことでしたね」メガネのネズミ・・・ナビス・デ・ローマリウスが小声で言った。
「え?」 
 うん?今、兄上って言った?誰のこと?
「レーナちゃんも大けがで大変だったでしょう。ずっと心配してたんだよ」
 んん?レーナちゃん?
 王女・・・私をレーナちゃんと呼ぶこの人はいったい・・・
 だれ?

 「ナビス・デ・ローマリウス様は国王の弟君です」席に戻った私にサラさんがこともなく告げる。
 は!?弟!?
 あ、だから、姓がローマリウスなんだ。
 でも、国王、私のお父さんの弟ってことは私の叔父さんってことでしょ?
「え!?叔父さんが婿候補!?・・・なんですか?」
「ご安心ください。ナビス様は独身でいらっしゃいます」
 サラさん、問題点はそこじゃない。
「叔父さんって血縁者だよ・・・じゃなくて血縁者でしょう?結婚はできないのでは?」
 私が何を言ってるのか分からないとでも言うように眉をひそめたサラさんは「国王の弟君との結婚がおかしいとでも?」
 あ、そういうの、いい世界なんだ。
 私のいた現代じゃ法律でも禁止されてたし、倫理的にも無理だったもんね。
 ここじゃ当たり前のことでも、現代を生きてきた私にはどうしても享受すること、無理。
 叔父との結婚は100%あり得ない。
 あと、あんなおとなしい小動物みたいな人が国のナンバー3あたりにいるのも国王の弟なら納得。
 ここじゃ、実力や能力よりも地位や財産で役職が決まるらしい。
 ま、そんなの珍しいことじゃないけど。現代だって、いまだに社長以下、重要ポストは親族っていう同族会社あるもんね。
 でも、叔父さんのお嫁さんになるなんて私には死んでも無理。
 結婚相手候補者として、熊男と叔父が削除された。
 さて、次の大臣は・・・・・
 
 
 「第3大臣、カテリア・デ・ニーサル公爵様です」
 サラさんに紹介されても私はしばらくお地蔵さまになって固まっていた。
 青白い顔色に三白眼、不機嫌な顔をして目の前に立っているのは・・・パワハラ課長田所だった。
 ・・・じゃなくて、宮廷衣装に身を包んだ田所課長激似のおじさんだった。
 もうカンベンして、という心の中の声を押し殺して私は田所課長似の男に微笑みかけた。
 スゴイ精神力の自分を褒め称えたくなる。
 ニーサル公爵はムッツリと無言で手を差し出した。私も固まった笑みのまま無言で手を取る。
 ぎくしゃくと機械仕掛けの人形のようにダンスを踊りながら、私の頭には「無理無理無理無理」のフレーズがエンドレスに流れていた。
 困ったことに似てるのは顔だけじゃないらしい。
 始終ムッとした顔で「年下の小娘なんぞの機嫌がとれるか」オーラが体中に充満していた。
 会社で部下を近寄らせない田所課長と同じ黒いオーラだ。
 相手が拒否感満載なので、私も話かける気持ちなどない。
 別におべっかとか使わなくていいけど・・・本当に私と結婚の意思があるのか甚だ疑問だ。
 ある意味では、こんな美少女相手でもにやけない強固な性格だと判断できるけど。
 でもまるで針のムシロの上で踊っているようにアチコチが痛い。
 曲が終わって席に戻ったときには心底疲れ切っていた。
 ダンスだけでこんなに生気を吸い取られるのだ。結婚したらどうなるか火を見るよりも明らか。
「ニーサル公爵様は残念ながら私になど興味はなさそうですわ」サラさんに悪態の一つもついてみたくなる。
「そうでございますね、ニーサル様はお金にしか興味がないかただという噂ですから」軽く応えられた。
 私はガッツリ落胆した。
 愛なんてなくったって、相手を好きじゃなくったって、お金のためなら結婚できるのか。
 『政略結婚』
 理屈ではわかってるけど、自分にそれができるのかわからなくなってきた。
 
 結婚相手候補者として、熊男と叔父と田所課長が削除された。
 こうなったら最後の一人に賭けるしかない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

処理中です...