異之国奇譚1~平凡OL王女は常ならむ~

月乃 影

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5話 イケメンだといいのだけど。

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 「えと・・・例えば、私が魔法使いに魔法をお願いすることもできるのかしら?」サラさんに尋ねてみる。
「可能です。レーナ様は一国の王女ですから」サラさんが「当然」と言わんげな表情で断言した。
 やった!これで私の異世界脱出問題は解決したも同然。
 魔法で私を私がいた現実世界にサクッと戻してもらえばいい。
「ですが」とサラさんは続けた「魔法使いに魔法を依頼するのには多額の報酬が必要です」
 は?報酬って・・・あ、代金のことね。
 そうだよね、いくら異世界でもお金はかかるのよね。
「え・・と。報酬って、どの程度の?」
「報酬は、魔法の難易度にもよりますが・・・国王陛下はご自分に魔法をかけていただくために、私財のすべてを魔法国に差し出されてしまいました」
 そう言ってサラさんは奈落の底から湧き出たような暗い溜息をついた。
 これはたぶん『あ~なんてもったいないことを』という意味の溜息だ。
 私財のすべて。国王の私財なんて見当もつかないけど、サラさんの溜息から察すると、かなり法外な値段なのは間違いない。
「隣国のヨークトリア国では妖物を退治するために国家予算の5分の1を使って魔法使いを雇ったそうです」
 えっ。国家予算って言葉が出るほどの報酬なの?
 そうですか。そりゃそうですよね。魔法のスペシャリストですもんね。特殊な資格を持った人のお給料は高いですもんね。
 あら、そういえばサラさん、さらりと『妖物』って言いましたよね。なるほど、この世界には妖しい感じのもいるんですね。・・・って。
 いやいやいやいや、なんかそういうの無理だから!後出しでそういうこと言われても困るよ。
 王女とか魔法とかだけでも大変なのに、これ以上ややこしいのは勘弁して!! 
 自分の理性と自我が悲鳴を上げて逃走しそうになるのを私は必死に引き止めた。
 落ち着け自分。こういうときには深呼吸だ。
 とにかく、例え自分の世界に戻れる魔法があったとしても、私には多額の報酬を払うアテがないことだけは確かだ。
 サクッと私が現実世界に帰るってわけにはいみたいみたい。

 「それで、昨日の続きなのですが」
 サラさんが話題を変えるように顔を上げて切り出した。
 えっと・・・昨日の続き・・・続き・・・
 色んなことがありすぎて、どの続きなのかがわからない。
 私の呆けたような顔を見ても、少し慣れたのか軽蔑の表情を浮かべることなくサラさんは言った。
「我が国の法律のことです」
 そうだった。思い出した。たしか、国王に会った後に説明するって言ってたっけ。

 「我がローマリウスは国王陛下と陛下の重臣である4人の大臣で統治されております」
 
 ここで、サラさんの説明をまとめると。
 国王と4人の大臣が年に数回、城の『会議の間』で国の内外のことを話し合う。例えば、どの道路を造るか、とか、どんな建物を造るか、とか、他の国との付き合い方、法律を作ったり変えたり。
 話し合った結果、どうするかは国王が決める。
 で、今は決定権を持つ国王が不在なので、大臣だけで話し合いして決めている。
 法律では国王の不在は2年を限度として、2年内に王位継承者(つまり私)が国王代理として立ち、18歳になったら戴冠して正式に女王となる。もしくは現大臣の中の一人が王女と結婚して国王になる。
 二者択一ってこと。
 
 う~~~~ん
 国のことどころか世界のこともよく分からない私が国王代理なんて、絶対無理だよね。
 自慢じゃないけど、今までリーダーシップを発揮したことなんかないし。
 会社では『目立たない、でしゃばらない、発言しない』の三ない主義を守ってきたんだもの。
 ここは大臣と結婚という選択しかないか・・・
 ふっ、と部屋に押しかけてきた熊男・・・もといキリウス公爵の顔が頭によぎった。
 無い無い。アレとの結婚なんて絶対無い。
 となると、他の3人の大臣から、ってことになるんだけど。
 残りの大臣ってどんな人たちなんだろう。とにかく会ってみないことには好みかどうかもわからないし。
 できれば・・・
 そう、できることなら・・・
 細身のイケメンだといいのだけど。
 理知的で穏やかで優しくて、読書と釣りなんかが趣味だったらなお良し。
 とか、心の中で乙女の願望をつぶやいてみる。
 でも、きっと好み云々の問題ではなくて、国家の政略のために多少は妥協して結婚しなくちゃいけないんだろうな。
 彼氏いない歴4年のさえないOLの私が、まさか異世界に来てイキナリ結婚するハメになるとは思わなかった。
「3人、いえ、4人の大臣たちとお会いできるかしら」
 サラさんに問うてみる。
 まるで私の問いを予想していたように、サラさんはすんなりと答えた。
「近日中に王女の快気祝いの舞踏会を催す予定でございます。その席で大臣たちが王女にダンスを申し込まれる手はずになっております」
 さすが、サラさん。まるで社長の行動を先読みできる有能な秘書のようだわ。
 私はカップに残った冷めた紅茶を飲み干すと、「サラさ・・・いえ、サラ。私、この国の情勢や政治のことが知りたいの。なにか記録した書類や書物があるといいんだけど」
 王女が国のことをまるで知らないっていうのもあり得ないしね。
 とにかくココで生きていくための知識が必要だ。
 と、サラさんを見たらまるで森の中で人魚にでも出会ったかのような妙な顔をしてる。
 あれ?私、何か変なことを言った?
 私の凝視にハッと我にかえったサラさんは「申し訳ありません。私としたことが取り乱してしまいました」
 取り乱してた顔だったんだ、アレ。
「レーナ様はお花摘みとお菓子とダンスにしか興味のないかただと思っておりましたので」
 どんな人間やねん、私。
 つか、サラさん、サラリと私をディスたわよね?
「社会学も歴史学もサボってばかりだと、家庭教師の先生がたが嘆いておりました」
 なんというか・・・・・・天は二物を与えずってことね。
 はっきり言ったら、私はキレイなだけのお飾りアホ姫ってこと。
 確かに私がお花を編んだり、歌や踊りに興じる様は絵になるだろう。でも、今はキャッキャうふふ、お歌を歌いましょう、なんてやってる場合ではない。
 私はつとめて真面目な表情を作り
「この国に関する資料を全部持ってきてください」と、サラさんに命じた。
 かしこまりました。と、うやうやしく姿勢正しい礼をしてサラさんは部屋を出ていった。



 翌日、肉や野菜、卵のたっぷり詰まった山盛りのサンドイッチと木苺のタルトもどき、果物のジュースといった昼食をすませた後、私は一人、国王が使っていた執務室にこもった。
 長く使っていなかった執務室は少し埃の匂いがしたが、掃除だけは行き届いていた。
 私は国王用の大きな背もたれの椅子に腰かけ、サラさんが用意してくれたこの国に関する書類とにらめっこを始めた。
 この世界の文字が読めるのだろうかと不安だったけど、話せたのと同様に文字も読めるようだった。
 ただし、レーナが分からない文字は私も読めない。
 17歳にしては悲しいくらいなさすぎる学力に、私は何度も溜息をつきながら書類と格闘しなければならなかった。
 地図によるとローマリウスの近隣には3つの王国がある。それとどの国にも属さない魔法国マグノリア。国土だけだとローマリウスが1番広い。
 ま、広けりゃいいってもんじゃないけど。
 主な産業は商業、林業、漁業、農業・・・特に変わった産業もなく日本と変わらない。
 王族と貴族と領主と平民で構成されてて、貴族には貴族院という学校制度があるけど平民に対して学校はないみたい。
 基本的にはまんま『中世』って感じ。
 私は「今年度に決めた法律」という書類を手に取った。
 法律は大事だもんね。
 『男子は15歳になったら兵舎に入り兵士訓練を2年間受ける』・・・これは、体育会系熊男が考えそうなことだな。
 『国民1人につき1つ、特定の番号が与えられる』・・・マイナンバーってことかな?ま、人口把握とかにはいいかも。
 『荷車の所有者には1台につき銅3枚を徴収する』・・・重量税かな。
 『年に4回の料理大会を催す』・・・なんじゃそりゃ。イベントを法律で決めるのかい?
 後はなんだか重箱の隅をつつくような法改正をつらつらと斜め読みしていく。
 たいして重要とも思えない内容が続いたので、なんだか瞼が重たくなってきてしまった。
 あくびを噛み殺しながら、涙目で文字を追っていると。
 んっ?
 何かが私の琴線的なものに引っかかった。
 あれ?なにかコレ、変じゃない?
 見間違いじゃないよね?
 自分の目がおかしくなったかと、目をこすってみたけど、やっぱり書面の文字と数字は変わらない。
 まさか・・・うそでしょ、こんなの。
 これが本当に法律で決められたら、この国の国民は・・・いやこの国は、大丈夫なの?
 そこに記されていた現代の常識では考えられない内容に私は考え込んでしまった。

  
 快気祝い舞踏会のその日、私は気合の入った召使いらにさらに磨きをかけられた。
 少女召使いたちがキャッキャとはしゃぎながら選んだ「舞踏会にふさわしい」ドレスは。
 薄い桃色の絹に金銀の糸で刺繍がほどこされ、所々に宝石が散りばめられていた。ティアラにも貴重な宝石がふんだんに使われている。
 まるで札束を着ている気分だ。
 胸元を飾るピンクダイヤに似た宝石だけで私のアパートの1年・・・ううん、2年分くらいの家賃は払えそう。
 などというシミったれた計算は顔に出さず、私はドレスの裾を優雅に持ちあげ、艶然と(見えるように)微笑んでみせた。

 王女、つまり私の登場で舞踏会の大広間は静まり返る。
 豪華な衣装で着飾った男女が見守る中、大広間の中央のレッドカーペットを私はファッションショーのモデルのように歩いた。
 一同の視線が私に集中しているのを感じるけど、あまり緊張しないのは、すべてがお芝居の一幕のようで現実感が乏しいせいかもしれない。
 舞台に上がった大物女優ってこんな気持ちなのかな?
 自分にこんな度胸があったとは自分で感動してしまう。
 いや、たぶん小島美里の私ならあがりまくるだろう。他人に見られて平気なほど厚顔じゃない。
 でも、レーナなら。完璧な美少女のレーナなら「私を御覧なさい」とかゆっても許される気がする。
 その証拠にレーナの美しさに魅了された感嘆の声があちこちから洩れる。
 宮廷の楽団でさえ演奏を忘れて見惚れているみたい。
 サラさんが咳払いで楽団に促したようだ。慌てたように楽の音が流れ出す。
 サラさんは上等な絹に銀のバラの刺繍がほどこされた黒いドレスに身を包んでいる。結い上げた髪は黒いバラのコサージュで止めてある。
 やはり、ちゃんと装ったら美しい女性だ。
 私はレッドカーペットの最後に鎮座する王女用の豪華な椅子に座った。
 音楽がダンス用のそれに変わったのが分かった。
 
 さあ、舞踏会、というか集団見合いの始まりだ!
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