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18話 昨日の敵は
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何回目かのあくびを噛み殺し、眠い目をこすりながら、わたしは国王の執務室で書類の山と格闘していた。
本日中に決済しなければならない案件が数十件。
私のサイン待ちの案件が数十件。出席しなければならない公式行事が数件。
無理だよ。も、ドッペルゲンガーでもなんでもいい、もう一人、いや、あと二人自分がほしい。
つい、未来のニャンコ型ロボットでも来てくれないかと引き出しを開けて覗いてみる。
執務中は一人なので、嘆き相手のサラさんもいないし。っていうかサラさんに嘆いても、反撃で私のダメージが大きくなるだけなんだけど。
現実逃避で、お庭でも散歩に行こうかな~ルンルン、と、席を立ちかけたとき、扉がノックされた。
入室の許可をすると、年配の女性召使いが遠慮がちに扉を開け「カテリア・デ・ニーサル公爵様とエブ・デ・アランフェット公爵様が王女様に謁見を希望されております」
おお、きちんとした、謁見の申し込みだ、と私はちょっと感動した。
これがキリウスなら問答無用で、ドカドカと入ってくるのだろうに。とか思いながら、二人を謁見の間に通すように召使いに指示をした。
「これは、どういうことですか、王女!」
謁見の間の椅子に腰をおろしたとたんに、ニーサルからの先制攻撃を食らった。
まあ、こうなるだろうと予想していたことだったので、動じることなく私は答えた。
「どうって、おふれの通りです」
その、『おふれ』の紙をニーサルは握りしめて、怒りに身を震わせている。握りしめられたノート大の薄茶色の紙はクシャクシャだ。
「王女様、このような『おふれ』は前代未聞です」
アランフェットが泣きそうな声で巨体を震わせている。
「我々を侮辱するおつもりか、こんな、こんな・・・」
怒りで語尾が震え、頭からは湯気が立ちそうなニーサルだ。
キリウスはともかく、ニーサルとアランフェットの反応はバッチリ想定していたことなので、私は冷静に言った。
「なにが侮辱なのです?『大臣』を民人から選ぶことの、何が悪いのですか」
そう、私は国中に『求人広告』というおふれを出したのだった。
『大臣求む!年齢は20歳以上50歳未満まで。資格経験問わず(未経験者には親切指導)。試験、面接あり。我こそは国の為に働けるという者は下記の住所まで・・・』
大臣募集要項の書かれたおふれの紙をニーサルはビリビリと破り捨てて
「大臣は昔から貴族がなるものと決められているのですよ。そんなこともご存知ないのですか」
興奮した口調に、私への侮蔑の色が混ざっている。
どうせ「このアホ王女はやらかしてくれた」とでも思っているんだろうな。
「ニーサル様ほどのお方が、まさか、法律をご存知ないのですか」わ~ビックリした!という感じで私は応戦した。
「ほ、法律!?」思ってもみなかった角度からの切り込みに、ニーサルは慌ててアランフェットのほうを見る。アランフェットは「知らない、知らない」とばかりにブルブルと、ない首を振った。
私はサラさんに教えてもらった、この国の大臣を決める法律をそらんじてみせた。
「・・・つまり法律によると、国王が任命した者が大臣になるんです。そして、その出自、つまり身分や家柄は問わない、とあります。決して貴族から選ぶものではありません」
ずっと、何世代も前から貴族が支配してきた大臣職だったから、誰も法律など顧みることはなかったのだ。あのサラさんでさえ、気にも留めていなかったのだから、普通の人間ならまず法律書を紐解こうなんて思わないだろう。
「そんな・・・まさか」
ニーサルは三白眼の目をむいたまま絶句した。青白い顔がさらに青ざめて、大病を患っているみたいだ。
アランフェットはそのまま溶けてしまいそうなほどに、大汗をかいている。
「カテリア・デ・ニーサル公、エブ・デ・アランフェット公」できるだけ、威厳が感じられるような口調で名前を呼ぶと、二人は緊張したように身を固くした。
「ちょうどいい機会なので。お二人にご相談があるのですが」
親身ともいえる口調に改めて言った。
「私は、大臣を7名まで増やし、それぞれに、専門の職務についていただきたいと思ってるのです」
ニーサルとアランフェットの顔に疑問の表情が浮かぶ。
「専門の?それは、どういう・・・」
「煩雑な国務を財務、法務、外務、文部、防衛、厚生、産業の7つに分けて」私は両手の指を7つ折った。さしあたって、必要な職務だ。環境やIT大臣はこの世界には不要だろう。つか、現代でも必要なのかは甚だ疑問だったけど。
「その一つずつに専門の担当大臣をおく、仕事を分配する、ということですかな?」さすが、ニーサルは金に細かいだけあって、理解も早い。私はにっこりと頷く。
「そのほうがより密度の高い、合理的な政治が行えると思うのです」
「うーむ・・・まったく無理というわけでもないが・・・それなら組織の構築や大臣の権限など、細かい取り決めをしなければ。いや、その前に法改正なども必要・・・しかし・・・このようなことを突然言い出されても迷惑しごく」
ニーサルは何事か思案しながらぶつぶつ呟いている。 明白に不賛成とは言わないだけマシだけど、とりあえずは私への文句だけは入れておかないと気がすまないらしい。
「それで、私はニーサル様には財務担当大臣になっていただきたいと思ってます」
ニーサルが衝撃のあまり、口を「は?」の形に開けたまま硬直した。
「いかかでしょう?」という私の言葉に、はっと我に返ったニーサルは
「王女、私は・・・」公金を横領していたのに。それが分かっていて「なぜ、私が財務なのですか」疑惑と戸惑いの目を私に向ける。解任ならまだわかる。しかし、財務の専門大臣を任せるとはどういうことだ?という目だ。
私はまっすぐにニーサルを見つめて答えた。
「あなたは不正を知っている。不正をする方法も、その心理も。だからこそ、それを見抜く力がある。皮肉ではなく、私はその能力をこれからは不正を正す方向に生かして欲しいと思います。もちろん、高い計算能力も財務大臣には必要です。あなたほど相応しい人がいるとは思えません」
ニーサルは長く、長く、黙って私を見つめていた。
その目はどこか深いところに潜って、求める何かを探しているような目だった。
「国の大切なお金をあなたにお任せしても、いいでしょうか?」
長い沈黙を破って、私は彼に問うた。彼はすぐに反応した。
「本気ですか?」
「本気です」
「私のことを信用すると?」
「信用すると決めました」私は迷いなく即答した。
ニーサルは深く溜息をつくと「破天荒な王女だと思ってはいたが、ここまでとは」呆れたように首をふり、しばらく物思いにふけるかのように押し黙った。
ニーサルはまっすぐに自分に向けられたレーナ王女の琥珀色の瞳が、疑いようもなく「あなたを信用します」と告げていることに気がついた。
前々から、いや、落馬の事故から蘇って、明らかにレーナ姫は変わった。
あれほど国政のことなど興味がなく、まるで自身の楽しみのためだけに生きているような王女が、今は自分に厳しく、民を思い、昼夜問わず身を粉にしている。
私はレーナ王女を軽んじていた。
王女ならば、私がどんな罪を犯しても気づくことはないだろうと。
ところが、看破された。断罪された。その上で私を信用して、財務を任せると言う・・・なんて、破天荒な。
けれど。
王女は優しいが、侮ることはできない。今度私が不正を働いたら、もう2度とその高潔な眼差しを私に向けることはないだろう。
その真っ直ぐな眼差しはかつての国王を思い出させる。
初めて国王から大臣の任を拝命したときに、この胸には忠誠心しかなかった。
国王とともに、この国を豊かで誇りある祖国にするのだと、心に誓った。
王女の幼い真っ直ぐな瞳はあの日の私を思い出させる
・・・私は・・・
いつの間に誇りを失い、腐敗してしまったのだろう。
これは蘇生の機会なのだ。
私を信じてくれる真っ直ぐな眼差しに応えなければならない。
長く王族に仕えてきた貴族の誇りをもって。
長く思案していたニーサルが、すっと顔を上げると重い口を開いた。
「国王代理のおおせとあらば」
その右手を胸に当て、深い礼をした。
「カテリア・デ・ニーサル。財務担当大臣の任、拝命いたします」
「では、さっそく組織編成案を考えてみましょう。それと財務整理もせねば。報告書ができたらお持ちしましょう」
そう言い、そそくさと謁見の間を後にしたニーサルを見送って、私はほ~っと息をついた。
やった!これで王様の仕事が一つ、財務関係が減った!語尾にニッコリ顔文字でもつけたい気分だ。
確かにニーサルを財務担当にするにはスゴク思い悩んだけど、国務をよく知らない新大臣に任すわけにも、ましてや老獪さのないキリウスや、アバウトな感じのアランフェットに任すわけにもいかなかったのだ。
ニーサルは諸刃の剣だけど、その剣はとても鋭く、使い方によっては強い味方になる。
それに、昨日の敵はきょうの友とか、いうじゃないか。
「王女様、私は、何をすればいいので?」
ホッと気が緩んでいた私はアランフェットの声で我に返った。
あ、この人の存在忘れてた。
アランフェットは飼い主の命令を待つブルドッグのような目をして、私を見ている。
ポチ、と呼びたい気分になったけど、そこはぐっと我慢して。
「そうですね、アランフェット様には『厚生担当大臣』になっていただこうかしら」
「こ、厚生?」アランフェットはない首をかしげた。かしげてもさほど角度は変わらないのだけど。
厚生って聞き慣れない言葉だよね。
「つまり、ですね。この国の国民が、みんなご飯が食べれて、健康に生きていくためにはどうしたらいいか、を考える仕事です」
「はぁ?」
小学生でもわかるように説明したつもりだったけど、今一つ要領を得ないアランフェットに
「さしあたっては、各地の『食事の家』の視察に行ってください。視察の報告書、よろしくお願いします」
とりあえず、仕事を与えてみるしかない。
「わかりました。厚生担当大臣の任、拝命しました」と深い礼をして、謁見の間をあたふたと出ていくアランフェットの常人の3倍はありそうな後姿を見ながら、思った。
『食事の家』は貧困にあえぐ民人に食事を提供する場所だ。アランフェットの巨体で視察されたら、嫌味かと思われそうだ。
「恥ずかしさに身も細る思いをしたら、少しはダイエットにせい出すかしらね」と私は人ごとのようにつぶやいた。
でも、これで、2つ、仕事は減ったのだ。喜ぶべきことだ。
それにしても・・・と、私は二人が出て行った謁見の間の扉を見ながらつぶやいた。
こんなときに真っ先に何かを言いに来そうなキリウスが、何の音沙汰もない。
私に結婚の申し込みだけしておいて、姿を見せないなんて、どうしてだろう。
私は寂しさと不安に胸がしめつけられた。
本日中に決済しなければならない案件が数十件。
私のサイン待ちの案件が数十件。出席しなければならない公式行事が数件。
無理だよ。も、ドッペルゲンガーでもなんでもいい、もう一人、いや、あと二人自分がほしい。
つい、未来のニャンコ型ロボットでも来てくれないかと引き出しを開けて覗いてみる。
執務中は一人なので、嘆き相手のサラさんもいないし。っていうかサラさんに嘆いても、反撃で私のダメージが大きくなるだけなんだけど。
現実逃避で、お庭でも散歩に行こうかな~ルンルン、と、席を立ちかけたとき、扉がノックされた。
入室の許可をすると、年配の女性召使いが遠慮がちに扉を開け「カテリア・デ・ニーサル公爵様とエブ・デ・アランフェット公爵様が王女様に謁見を希望されております」
おお、きちんとした、謁見の申し込みだ、と私はちょっと感動した。
これがキリウスなら問答無用で、ドカドカと入ってくるのだろうに。とか思いながら、二人を謁見の間に通すように召使いに指示をした。
「これは、どういうことですか、王女!」
謁見の間の椅子に腰をおろしたとたんに、ニーサルからの先制攻撃を食らった。
まあ、こうなるだろうと予想していたことだったので、動じることなく私は答えた。
「どうって、おふれの通りです」
その、『おふれ』の紙をニーサルは握りしめて、怒りに身を震わせている。握りしめられたノート大の薄茶色の紙はクシャクシャだ。
「王女様、このような『おふれ』は前代未聞です」
アランフェットが泣きそうな声で巨体を震わせている。
「我々を侮辱するおつもりか、こんな、こんな・・・」
怒りで語尾が震え、頭からは湯気が立ちそうなニーサルだ。
キリウスはともかく、ニーサルとアランフェットの反応はバッチリ想定していたことなので、私は冷静に言った。
「なにが侮辱なのです?『大臣』を民人から選ぶことの、何が悪いのですか」
そう、私は国中に『求人広告』というおふれを出したのだった。
『大臣求む!年齢は20歳以上50歳未満まで。資格経験問わず(未経験者には親切指導)。試験、面接あり。我こそは国の為に働けるという者は下記の住所まで・・・』
大臣募集要項の書かれたおふれの紙をニーサルはビリビリと破り捨てて
「大臣は昔から貴族がなるものと決められているのですよ。そんなこともご存知ないのですか」
興奮した口調に、私への侮蔑の色が混ざっている。
どうせ「このアホ王女はやらかしてくれた」とでも思っているんだろうな。
「ニーサル様ほどのお方が、まさか、法律をご存知ないのですか」わ~ビックリした!という感じで私は応戦した。
「ほ、法律!?」思ってもみなかった角度からの切り込みに、ニーサルは慌ててアランフェットのほうを見る。アランフェットは「知らない、知らない」とばかりにブルブルと、ない首を振った。
私はサラさんに教えてもらった、この国の大臣を決める法律をそらんじてみせた。
「・・・つまり法律によると、国王が任命した者が大臣になるんです。そして、その出自、つまり身分や家柄は問わない、とあります。決して貴族から選ぶものではありません」
ずっと、何世代も前から貴族が支配してきた大臣職だったから、誰も法律など顧みることはなかったのだ。あのサラさんでさえ、気にも留めていなかったのだから、普通の人間ならまず法律書を紐解こうなんて思わないだろう。
「そんな・・・まさか」
ニーサルは三白眼の目をむいたまま絶句した。青白い顔がさらに青ざめて、大病を患っているみたいだ。
アランフェットはそのまま溶けてしまいそうなほどに、大汗をかいている。
「カテリア・デ・ニーサル公、エブ・デ・アランフェット公」できるだけ、威厳が感じられるような口調で名前を呼ぶと、二人は緊張したように身を固くした。
「ちょうどいい機会なので。お二人にご相談があるのですが」
親身ともいえる口調に改めて言った。
「私は、大臣を7名まで増やし、それぞれに、専門の職務についていただきたいと思ってるのです」
ニーサルとアランフェットの顔に疑問の表情が浮かぶ。
「専門の?それは、どういう・・・」
「煩雑な国務を財務、法務、外務、文部、防衛、厚生、産業の7つに分けて」私は両手の指を7つ折った。さしあたって、必要な職務だ。環境やIT大臣はこの世界には不要だろう。つか、現代でも必要なのかは甚だ疑問だったけど。
「その一つずつに専門の担当大臣をおく、仕事を分配する、ということですかな?」さすが、ニーサルは金に細かいだけあって、理解も早い。私はにっこりと頷く。
「そのほうがより密度の高い、合理的な政治が行えると思うのです」
「うーむ・・・まったく無理というわけでもないが・・・それなら組織の構築や大臣の権限など、細かい取り決めをしなければ。いや、その前に法改正なども必要・・・しかし・・・このようなことを突然言い出されても迷惑しごく」
ニーサルは何事か思案しながらぶつぶつ呟いている。 明白に不賛成とは言わないだけマシだけど、とりあえずは私への文句だけは入れておかないと気がすまないらしい。
「それで、私はニーサル様には財務担当大臣になっていただきたいと思ってます」
ニーサルが衝撃のあまり、口を「は?」の形に開けたまま硬直した。
「いかかでしょう?」という私の言葉に、はっと我に返ったニーサルは
「王女、私は・・・」公金を横領していたのに。それが分かっていて「なぜ、私が財務なのですか」疑惑と戸惑いの目を私に向ける。解任ならまだわかる。しかし、財務の専門大臣を任せるとはどういうことだ?という目だ。
私はまっすぐにニーサルを見つめて答えた。
「あなたは不正を知っている。不正をする方法も、その心理も。だからこそ、それを見抜く力がある。皮肉ではなく、私はその能力をこれからは不正を正す方向に生かして欲しいと思います。もちろん、高い計算能力も財務大臣には必要です。あなたほど相応しい人がいるとは思えません」
ニーサルは長く、長く、黙って私を見つめていた。
その目はどこか深いところに潜って、求める何かを探しているような目だった。
「国の大切なお金をあなたにお任せしても、いいでしょうか?」
長い沈黙を破って、私は彼に問うた。彼はすぐに反応した。
「本気ですか?」
「本気です」
「私のことを信用すると?」
「信用すると決めました」私は迷いなく即答した。
ニーサルは深く溜息をつくと「破天荒な王女だと思ってはいたが、ここまでとは」呆れたように首をふり、しばらく物思いにふけるかのように押し黙った。
ニーサルはまっすぐに自分に向けられたレーナ王女の琥珀色の瞳が、疑いようもなく「あなたを信用します」と告げていることに気がついた。
前々から、いや、落馬の事故から蘇って、明らかにレーナ姫は変わった。
あれほど国政のことなど興味がなく、まるで自身の楽しみのためだけに生きているような王女が、今は自分に厳しく、民を思い、昼夜問わず身を粉にしている。
私はレーナ王女を軽んじていた。
王女ならば、私がどんな罪を犯しても気づくことはないだろうと。
ところが、看破された。断罪された。その上で私を信用して、財務を任せると言う・・・なんて、破天荒な。
けれど。
王女は優しいが、侮ることはできない。今度私が不正を働いたら、もう2度とその高潔な眼差しを私に向けることはないだろう。
その真っ直ぐな眼差しはかつての国王を思い出させる。
初めて国王から大臣の任を拝命したときに、この胸には忠誠心しかなかった。
国王とともに、この国を豊かで誇りある祖国にするのだと、心に誓った。
王女の幼い真っ直ぐな瞳はあの日の私を思い出させる
・・・私は・・・
いつの間に誇りを失い、腐敗してしまったのだろう。
これは蘇生の機会なのだ。
私を信じてくれる真っ直ぐな眼差しに応えなければならない。
長く王族に仕えてきた貴族の誇りをもって。
長く思案していたニーサルが、すっと顔を上げると重い口を開いた。
「国王代理のおおせとあらば」
その右手を胸に当て、深い礼をした。
「カテリア・デ・ニーサル。財務担当大臣の任、拝命いたします」
「では、さっそく組織編成案を考えてみましょう。それと財務整理もせねば。報告書ができたらお持ちしましょう」
そう言い、そそくさと謁見の間を後にしたニーサルを見送って、私はほ~っと息をついた。
やった!これで王様の仕事が一つ、財務関係が減った!語尾にニッコリ顔文字でもつけたい気分だ。
確かにニーサルを財務担当にするにはスゴク思い悩んだけど、国務をよく知らない新大臣に任すわけにも、ましてや老獪さのないキリウスや、アバウトな感じのアランフェットに任すわけにもいかなかったのだ。
ニーサルは諸刃の剣だけど、その剣はとても鋭く、使い方によっては強い味方になる。
それに、昨日の敵はきょうの友とか、いうじゃないか。
「王女様、私は、何をすればいいので?」
ホッと気が緩んでいた私はアランフェットの声で我に返った。
あ、この人の存在忘れてた。
アランフェットは飼い主の命令を待つブルドッグのような目をして、私を見ている。
ポチ、と呼びたい気分になったけど、そこはぐっと我慢して。
「そうですね、アランフェット様には『厚生担当大臣』になっていただこうかしら」
「こ、厚生?」アランフェットはない首をかしげた。かしげてもさほど角度は変わらないのだけど。
厚生って聞き慣れない言葉だよね。
「つまり、ですね。この国の国民が、みんなご飯が食べれて、健康に生きていくためにはどうしたらいいか、を考える仕事です」
「はぁ?」
小学生でもわかるように説明したつもりだったけど、今一つ要領を得ないアランフェットに
「さしあたっては、各地の『食事の家』の視察に行ってください。視察の報告書、よろしくお願いします」
とりあえず、仕事を与えてみるしかない。
「わかりました。厚生担当大臣の任、拝命しました」と深い礼をして、謁見の間をあたふたと出ていくアランフェットの常人の3倍はありそうな後姿を見ながら、思った。
『食事の家』は貧困にあえぐ民人に食事を提供する場所だ。アランフェットの巨体で視察されたら、嫌味かと思われそうだ。
「恥ずかしさに身も細る思いをしたら、少しはダイエットにせい出すかしらね」と私は人ごとのようにつぶやいた。
でも、これで、2つ、仕事は減ったのだ。喜ぶべきことだ。
それにしても・・・と、私は二人が出て行った謁見の間の扉を見ながらつぶやいた。
こんなときに真っ先に何かを言いに来そうなキリウスが、何の音沙汰もない。
私に結婚の申し込みだけしておいて、姿を見せないなんて、どうしてだろう。
私は寂しさと不安に胸がしめつけられた。
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