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19話 真夜中の恋バナ
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そこは、王都ローマリウスからさほど遠くない大きな町だった。
古い石畳の道を一台の馬車が駆けてきて、これもまた古い建物の前で止まった。その建物は以前は町の集会所として使われていたが、今の通り名は『食事の家』だ。
昼時になると王城から料理人が数名派遣されて料理を作る。スープやパン、肉類なども多少は出る、それを無償で食べさせてもらえるところだ。料理の配給が始まる時刻なると、食に困っている民人の列ができる。
その『食事の家』の前で止まった馬車から、「よいしょ」としんどそうに出てきたのは巨漢の大臣、アランフェットだった。
先日、レーナ姫から『厚生担当大臣』の任を拝命して、『食事の家』の視察に行けと命じられた。
「視察・・・って言われても。いったい何をするのやら」困惑気にそう漏らすと、アランフェットは食事の家によいしょ、よいしょと掛け声をかけながら入って行った。
建物の中には粗末な長テーブルと長椅子が並んでいて、食事を受け取った人々がテーブルに着いていた。
彼らの前にはスープとわずかばかりの焼いた肉と出来立てのパンが柔らかな湯気を上げていた。
感謝の祈りの声がどこからか、聞こえる。
そこに大臣の豪華な服を纏って、護衛を連れて現れたアランフェットはあまりにも異質だった。
中にいた人々の視線が一斉に彼に集まった。
さすがに「鈍い」と言われているアランフェットも自分の異質さを肌で感じた。人々の視線に居たたまれなくなった。さっさと通り一辺倒の見回りだけして急いで帰ろうと、彼は足を踏み出した。
「うん?」
踏み出せなかった。何かに服の裾を掴まれている。
アランフェットは自分の腹に遮られた視界の下を見た。どうやら、服の裾を掴んでいるのは小さな女の子らしい。あまりに身長が低すぎて衛兵の目にも入らなかったのだ。
「な・・・なんでしょう?」アランフェットは女の子に声をかけた。
「大臣さまですか?」
女の子は見かけによらずしっかりした声で尋ねた。
「そ、そうですよ」
普段、女子と接することのないアランフェットは小さい女の子にも緊張してしまった。
女の子はお辞儀をして「ありがとうございます」と言った。
アランフェットは女の子に礼を言われた理由が分からずに、うろたえた。よく見たら、自分を見ている民人の目にも感謝の色が浮かんでいる。
なぜだ?私は何も、有り難がられることはしていないが。
「このおうちを作られたのが、大臣さまたちだと聞きました。わたしたちがご飯を食べれるようにしてくださったと聞きました。だから、ずっとお礼を言いたかったのです」
女の子はもしかして、見かけより年齢は上なのかもしれないと、アランフェットは思いながら
「いや・・・ここを作ったのは・・・」
レーナ王女だ。自分は何もしていない・・・いや、私はむしろ・・・
アランフェットの心臓が何かに掴まれたように締め付けられた。
思い出したのだ。自分がしてきたことを。
そうだ。民から食料を奪っていた。
自分に向けられた女の子の視線が鋭い棘のように全身を貫いて痛かった。真っ赤になって汗を流しながら、何かを言わねばと彼は焦った。ふと、上着のポケットに飴が入ってるのに気がついた。時々小腹がすいたときに空腹をごまかすための甘いものだ。
「これを・・・」
女の子の手に飴を握らせた。女の子は目を丸くして、高揚で声を震わせて、ありがとうと言った。
しかし、女の子はツギのあたったポケットに飴を仕舞いこんだ。
それを不思議に思い、「食べないの?」とアランフェットは尋ねた。
「家で弟が病気で寝ているから。持って帰ってあげるんです。すごくよろこぶと思います」と、幸せそうに笑う女の子に、アランフェットの心はまるで嵐にあったかのように揺さぶられた。
たった1個の飴やろくに具の入っていないスープですら、こんなに人は幸せな顔になるのだ。
改めて見回すと、家族連れも多い。母親がパンやスープを幼子に与えている。優しい微笑みを浮かべながら。
アランフェットは頽れそうになる自分を懸命に支えた。
自分はどんなに美味しいご馳走を食べても、満たされたことがあっただろうか、幸せだと思ったことがあっただろうか。
否、ただ、食べていただけだ。
食べても、食べても、満たされないのに、ただ、食べていた。
アランフェットはかがんで膝をつき、女の子と目線をいっしょの高さにすると、言った。
「約束するよ。これからは、ちゃんとご飯をお腹いっぱい食べられるようにするからね。お菓子も食べられるようにするからね」
女の子はポカンとした顔でアランフェットを見つめ、それから満面の笑みで頷いた。
王女は言ったのだ。厚生担当大臣の仕事は
「国民みんながご飯を食べれて、健康に生きていくためには、どうすればいいかを考えること」だと。
その責務を全うするのが自分の役目なのだと、アランフェットは堅く心に誓った。
おふれ、というか『求人広告』を出した数日後には、お城の裏門には長蛇の列ができていた。
列に並ぶ人の顔は誰もが希望と期待に輝いている。なかには明らかに年齢詐称の少年や老人も混ざっていたけど。
農民でも平民でも大臣になれるチャンスなのだから、とりあえずは挑戦しよう、って感じなのだろう。
私室の窓から列を眺めて「ま~すごい」と、ワクワクしてしまった私に
「人ごとではありません」とサラさんが冷たい声で釘を刺す。
国中の人間から大臣を選ぶ、という『おふれ』を指示したときに、難色は示したものの、「国王代理の決めたことだから」と、反対はしなかったサラさんだった。
けれど、さすがに異例というか無謀というか、そういう私の行動に気をもんでいるようだ。
「大丈夫です。ちゃんと大臣に相応しい方を選びます」
むしろ、身分に胡坐をかいた貴族なんかより、よほど優秀な人材はいるに違いない、と思う。漫画や小説ではそうなんだから。
並んだ順に10人ほど、筆記試験を受けてもらう。文字の読み書きは最低限の条件なのだから、これがクリアできなければ大臣の資格はない。
簡単な計算問題と常識問題を合格したら、最後に私と現大臣の2名を前に、会議の間での面接となる。
そう、2人。私の横にいるのはニーサルとアランフェットだけ。
キリウスが来ない。私にプロポーズした日からずっと音信不通状態が続いている。
キリウスはいったいどうしたんだろう。会議の間のポツンと一つ開いた大臣の席を見ながら、私は不安に顔を曇らせた。
電話もメールもないこの世界では、唯一の伝達手段は人づての伝言と伝書鳩くらいだ。
キリウスに何かあったのだろうか。
私は面接など放っておいて、キリウスの屋敷に走りたくなる衝動を抑える。
油断すると気が散ってしまう。そわそわと落ち着かない。
ニーサルが私の挙動不審を敏感に見てとって、「いかがなされたのですか?」と声をかけてきた。
「きょうのような日にキリウス様の姿が見えないようなので、どうされたのかと」私は素直に答えた。
別に、王女が無断欠席の大臣の身を案じるのは不思議なことではないよね。
「キリウス公ならば、領地巡りをする、とかなんとか言って旅に出られた・・・いや、わびをする、だったかな・・・たしかそのようなことを言っておられたような・・・」
記憶を探りながらニーサルが答える。
旅?は?詫び・・・?
詫びというワードを脳内で検索して、私は「あっ」と、声をあげた。
わかった、アレだ!確か罪の償いに「民に詫びる」とか言ってたっけ。
アレを実行したんだ。たぶん。
じゃあ、領地巡りに出ちゃったの!?
私ってば、キリウスの猪突猛進な行動力を甘くみてたよ。
それにしたって
「旅に出る前に私に一言、言ってくれたっていいじゃないか」私の押し殺したつぶやきから、ただならぬ怒気を感じたのか、ニーサルが椅子ごと後ずさった。
最初の試験が終わり、合格者が確定したと、試験担当の役人が告げにきた。
「では、1番目のかたから面接します。ここへ通すように」私は背筋をのばした。
とりあえず、キリウスが私に会いに来ない理由も、不本意ながらわかったことだし、大臣候補の面接に専念することにしよう。
国の為に働く人間をこれから選ぶのだ。選び間違いのないよう、しっかり見定めなければ。
その後、しばらくは求人の応募にきた民人の対応で、城は大わらわだった。
「それにしても、なかなかよい人材っていないものですね~」アランフェットが、面接の休憩にお茶を飲みながら、独り言のようにつぶやく。
「そうなの。やる気はあっても野心とかじゃダメで、国のために働ける人じゃないと」
私はお茶のカップを手にした。ほんの少し、柑橘系の香りがする。
「国のためという定義は難しいですな。それに、口では何とでも言える」
お茶が熱かったのか、ニーサルが顔をしかめて・・・いや、いつもの顔か。
「人事課の苦労が分かった気がしますわ」私は溜息をつく。
「人事課?」二人が揃って、なんだそれは、みたいな顔をする。
あ、いけない、話題変えよう。
「ところで、アランフェット様はお茶だけでよろしいの?」私とニーサルの前にはお茶とクリームのたっぷりのった果物のケーキがおいてある。
アランフェットは自分から「お茶だけでいい」と出されたお菓子を受け取らなかったのだ。
「ううう。それは・・・お菓子は食べたいです」とアランフェットは私たちのケーキに、視線を合わせないようにしながら「ですが、1杯の粥さえ満足に食せない民人もいるのですから」
我慢です、と小さな声で呻くように言った。
『食事の家』の視察で思うところがあったのだろう。根はいい人なんだね、きっと。
「こう、毎日だらだらと面接しても、しょうがないですな。そろそろ募集を打ち切って、今の候補の中で選びませんか」ニーサルの提案に私も賛同した。
さすがに国中から募集しただけあって、面接まで残ったのは200名ほど。その中からたった4人を選ぶとなると、私と二人の大臣の意見が合わずに、人選は難航した。
国政に対する意欲はあっても性格に問題はないか、犯罪歴はないか、家庭環境は?健康面はどうだろう・・・
なんとか、妥協できる4名に決まったときには、すでに夜中の12時を回っていた。
「これで、よろしいですな」ニーサルが疲れ切った顔で最終確認して、私は無言で頷いた。もう話をする気力もない。
とにかく、もう、はやく寝たい。ベッドに潜り込みたい。
「では、任命式の日取りは、これより7日後ということでよろしいかな」
はいはい、もう、いいです。なんでも、してください。
「会場の設置などの段取りは・・・」
はいはい、もう、いいです。好きなようにやって。
「ときに王女は」
はいはい、なんでしょう。
「キリウス公となにかあったので?」
はいはい、ありました・・・って!?
「えっ!?なんで、それを」あっ、しまった、と慌てて口を押えたけど後の祭りだった。
ニーサルはポツンと空いたキリウスの大臣席を顎で指して「そこを見て、溜息をついたり、そわそわ落ち着かなかったりすれば、猿でも気づこうというものです」
えええええっ。私、そんなことしてた!?無意識だ。
死んだ目をしていたアランフェットがガバッと起きて「キリウス公と王女様が・・・!?」喰いついた。
「違います!私とキリウスは、まだなにも」私は真っ赤になって叫んだ。
「まだ?」ニーサルとアランフェットがハモる。
ヤバイ、二人の目が宴会で女子社員をからかうオッサンの目になってる。
なぜか私はキリウスにプロポーズされたことを、打ち明けるはめになった。
「求婚した後で王女を放置して、領地巡りの旅に出るとは、なんたるボクネンジン」ニーサルが心底呆れたように吐き捨てる。
「あの男は女心に疎いところがありますからな」アランフェットがとりあえずは自分のことは棚に押しあげて、ニーサルに追従する。
「で?王女様はなんとお返事をするつもりなのですか?」
「まだ決めてません」とか、はぐらかす私。
なんで、こんな真夜中にオッサンズと恋バナしてんだ、私は。
「しかし、キリウス公は一途だ。昔から王女一筋だ。それだけは保証しますぞ」
「そうそう、ヒゲを伸ばしたのだって・・・」アランフェットが自分の三重あごに手を当てて言った。
ヒゲ!?
私のわずかに残っていた眠気が吹っ飛んだ。
「ヒゲって?ヒゲってなんですの!?」
「あれは、たしか王女が14歳の誕生パーティーのときでしたな。王女が皆に『私、お父さまのようなおヒゲの似合う男のかたが好き』とか言って」ニーサルが私の物まねをして言った。ちょっと気色悪いのは置いといて。
「私がそんなことを?」私じゃなくて、レーナだけど。
「それから、キリウス公はヒゲを伸ばし始めたんでしたね」アランフェットがニヤニヤして私を見る。
「そういえば、また、剃っていたようだが」ニーサルが、王女が原因か?と問うような目で見たので、私はコクコクと頷いてしまった。
レーナの好みに合わせちゃったの?・・・キリウス、純だよ。なんか可愛いよ。いや、カワイイって言葉はボキャ不足極まりないけど、可愛い以外に表現のしようがないんだからしかたない。
にまにまと顔が緩みそうになるのを咳払いでごまかしたとき、
コンコン、と、遠慮がちに会議の間の扉がノックされた。
「レーナ様、本日の公務に差し支えますので、もうお休みになられてください」サラさんが迎えにきた。
古い石畳の道を一台の馬車が駆けてきて、これもまた古い建物の前で止まった。その建物は以前は町の集会所として使われていたが、今の通り名は『食事の家』だ。
昼時になると王城から料理人が数名派遣されて料理を作る。スープやパン、肉類なども多少は出る、それを無償で食べさせてもらえるところだ。料理の配給が始まる時刻なると、食に困っている民人の列ができる。
その『食事の家』の前で止まった馬車から、「よいしょ」としんどそうに出てきたのは巨漢の大臣、アランフェットだった。
先日、レーナ姫から『厚生担当大臣』の任を拝命して、『食事の家』の視察に行けと命じられた。
「視察・・・って言われても。いったい何をするのやら」困惑気にそう漏らすと、アランフェットは食事の家によいしょ、よいしょと掛け声をかけながら入って行った。
建物の中には粗末な長テーブルと長椅子が並んでいて、食事を受け取った人々がテーブルに着いていた。
彼らの前にはスープとわずかばかりの焼いた肉と出来立てのパンが柔らかな湯気を上げていた。
感謝の祈りの声がどこからか、聞こえる。
そこに大臣の豪華な服を纏って、護衛を連れて現れたアランフェットはあまりにも異質だった。
中にいた人々の視線が一斉に彼に集まった。
さすがに「鈍い」と言われているアランフェットも自分の異質さを肌で感じた。人々の視線に居たたまれなくなった。さっさと通り一辺倒の見回りだけして急いで帰ろうと、彼は足を踏み出した。
「うん?」
踏み出せなかった。何かに服の裾を掴まれている。
アランフェットは自分の腹に遮られた視界の下を見た。どうやら、服の裾を掴んでいるのは小さな女の子らしい。あまりに身長が低すぎて衛兵の目にも入らなかったのだ。
「な・・・なんでしょう?」アランフェットは女の子に声をかけた。
「大臣さまですか?」
女の子は見かけによらずしっかりした声で尋ねた。
「そ、そうですよ」
普段、女子と接することのないアランフェットは小さい女の子にも緊張してしまった。
女の子はお辞儀をして「ありがとうございます」と言った。
アランフェットは女の子に礼を言われた理由が分からずに、うろたえた。よく見たら、自分を見ている民人の目にも感謝の色が浮かんでいる。
なぜだ?私は何も、有り難がられることはしていないが。
「このおうちを作られたのが、大臣さまたちだと聞きました。わたしたちがご飯を食べれるようにしてくださったと聞きました。だから、ずっとお礼を言いたかったのです」
女の子はもしかして、見かけより年齢は上なのかもしれないと、アランフェットは思いながら
「いや・・・ここを作ったのは・・・」
レーナ王女だ。自分は何もしていない・・・いや、私はむしろ・・・
アランフェットの心臓が何かに掴まれたように締め付けられた。
思い出したのだ。自分がしてきたことを。
そうだ。民から食料を奪っていた。
自分に向けられた女の子の視線が鋭い棘のように全身を貫いて痛かった。真っ赤になって汗を流しながら、何かを言わねばと彼は焦った。ふと、上着のポケットに飴が入ってるのに気がついた。時々小腹がすいたときに空腹をごまかすための甘いものだ。
「これを・・・」
女の子の手に飴を握らせた。女の子は目を丸くして、高揚で声を震わせて、ありがとうと言った。
しかし、女の子はツギのあたったポケットに飴を仕舞いこんだ。
それを不思議に思い、「食べないの?」とアランフェットは尋ねた。
「家で弟が病気で寝ているから。持って帰ってあげるんです。すごくよろこぶと思います」と、幸せそうに笑う女の子に、アランフェットの心はまるで嵐にあったかのように揺さぶられた。
たった1個の飴やろくに具の入っていないスープですら、こんなに人は幸せな顔になるのだ。
改めて見回すと、家族連れも多い。母親がパンやスープを幼子に与えている。優しい微笑みを浮かべながら。
アランフェットは頽れそうになる自分を懸命に支えた。
自分はどんなに美味しいご馳走を食べても、満たされたことがあっただろうか、幸せだと思ったことがあっただろうか。
否、ただ、食べていただけだ。
食べても、食べても、満たされないのに、ただ、食べていた。
アランフェットはかがんで膝をつき、女の子と目線をいっしょの高さにすると、言った。
「約束するよ。これからは、ちゃんとご飯をお腹いっぱい食べられるようにするからね。お菓子も食べられるようにするからね」
女の子はポカンとした顔でアランフェットを見つめ、それから満面の笑みで頷いた。
王女は言ったのだ。厚生担当大臣の仕事は
「国民みんながご飯を食べれて、健康に生きていくためには、どうすればいいかを考えること」だと。
その責務を全うするのが自分の役目なのだと、アランフェットは堅く心に誓った。
おふれ、というか『求人広告』を出した数日後には、お城の裏門には長蛇の列ができていた。
列に並ぶ人の顔は誰もが希望と期待に輝いている。なかには明らかに年齢詐称の少年や老人も混ざっていたけど。
農民でも平民でも大臣になれるチャンスなのだから、とりあえずは挑戦しよう、って感じなのだろう。
私室の窓から列を眺めて「ま~すごい」と、ワクワクしてしまった私に
「人ごとではありません」とサラさんが冷たい声で釘を刺す。
国中の人間から大臣を選ぶ、という『おふれ』を指示したときに、難色は示したものの、「国王代理の決めたことだから」と、反対はしなかったサラさんだった。
けれど、さすがに異例というか無謀というか、そういう私の行動に気をもんでいるようだ。
「大丈夫です。ちゃんと大臣に相応しい方を選びます」
むしろ、身分に胡坐をかいた貴族なんかより、よほど優秀な人材はいるに違いない、と思う。漫画や小説ではそうなんだから。
並んだ順に10人ほど、筆記試験を受けてもらう。文字の読み書きは最低限の条件なのだから、これがクリアできなければ大臣の資格はない。
簡単な計算問題と常識問題を合格したら、最後に私と現大臣の2名を前に、会議の間での面接となる。
そう、2人。私の横にいるのはニーサルとアランフェットだけ。
キリウスが来ない。私にプロポーズした日からずっと音信不通状態が続いている。
キリウスはいったいどうしたんだろう。会議の間のポツンと一つ開いた大臣の席を見ながら、私は不安に顔を曇らせた。
電話もメールもないこの世界では、唯一の伝達手段は人づての伝言と伝書鳩くらいだ。
キリウスに何かあったのだろうか。
私は面接など放っておいて、キリウスの屋敷に走りたくなる衝動を抑える。
油断すると気が散ってしまう。そわそわと落ち着かない。
ニーサルが私の挙動不審を敏感に見てとって、「いかがなされたのですか?」と声をかけてきた。
「きょうのような日にキリウス様の姿が見えないようなので、どうされたのかと」私は素直に答えた。
別に、王女が無断欠席の大臣の身を案じるのは不思議なことではないよね。
「キリウス公ならば、領地巡りをする、とかなんとか言って旅に出られた・・・いや、わびをする、だったかな・・・たしかそのようなことを言っておられたような・・・」
記憶を探りながらニーサルが答える。
旅?は?詫び・・・?
詫びというワードを脳内で検索して、私は「あっ」と、声をあげた。
わかった、アレだ!確か罪の償いに「民に詫びる」とか言ってたっけ。
アレを実行したんだ。たぶん。
じゃあ、領地巡りに出ちゃったの!?
私ってば、キリウスの猪突猛進な行動力を甘くみてたよ。
それにしたって
「旅に出る前に私に一言、言ってくれたっていいじゃないか」私の押し殺したつぶやきから、ただならぬ怒気を感じたのか、ニーサルが椅子ごと後ずさった。
最初の試験が終わり、合格者が確定したと、試験担当の役人が告げにきた。
「では、1番目のかたから面接します。ここへ通すように」私は背筋をのばした。
とりあえず、キリウスが私に会いに来ない理由も、不本意ながらわかったことだし、大臣候補の面接に専念することにしよう。
国の為に働く人間をこれから選ぶのだ。選び間違いのないよう、しっかり見定めなければ。
その後、しばらくは求人の応募にきた民人の対応で、城は大わらわだった。
「それにしても、なかなかよい人材っていないものですね~」アランフェットが、面接の休憩にお茶を飲みながら、独り言のようにつぶやく。
「そうなの。やる気はあっても野心とかじゃダメで、国のために働ける人じゃないと」
私はお茶のカップを手にした。ほんの少し、柑橘系の香りがする。
「国のためという定義は難しいですな。それに、口では何とでも言える」
お茶が熱かったのか、ニーサルが顔をしかめて・・・いや、いつもの顔か。
「人事課の苦労が分かった気がしますわ」私は溜息をつく。
「人事課?」二人が揃って、なんだそれは、みたいな顔をする。
あ、いけない、話題変えよう。
「ところで、アランフェット様はお茶だけでよろしいの?」私とニーサルの前にはお茶とクリームのたっぷりのった果物のケーキがおいてある。
アランフェットは自分から「お茶だけでいい」と出されたお菓子を受け取らなかったのだ。
「ううう。それは・・・お菓子は食べたいです」とアランフェットは私たちのケーキに、視線を合わせないようにしながら「ですが、1杯の粥さえ満足に食せない民人もいるのですから」
我慢です、と小さな声で呻くように言った。
『食事の家』の視察で思うところがあったのだろう。根はいい人なんだね、きっと。
「こう、毎日だらだらと面接しても、しょうがないですな。そろそろ募集を打ち切って、今の候補の中で選びませんか」ニーサルの提案に私も賛同した。
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「これで、よろしいですな」ニーサルが疲れ切った顔で最終確認して、私は無言で頷いた。もう話をする気力もない。
とにかく、もう、はやく寝たい。ベッドに潜り込みたい。
「では、任命式の日取りは、これより7日後ということでよろしいかな」
はいはい、もう、いいです。なんでも、してください。
「会場の設置などの段取りは・・・」
はいはい、もう、いいです。好きなようにやって。
「ときに王女は」
はいはい、なんでしょう。
「キリウス公となにかあったので?」
はいはい、ありました・・・って!?
「えっ!?なんで、それを」あっ、しまった、と慌てて口を押えたけど後の祭りだった。
ニーサルはポツンと空いたキリウスの大臣席を顎で指して「そこを見て、溜息をついたり、そわそわ落ち着かなかったりすれば、猿でも気づこうというものです」
えええええっ。私、そんなことしてた!?無意識だ。
死んだ目をしていたアランフェットがガバッと起きて「キリウス公と王女様が・・・!?」喰いついた。
「違います!私とキリウスは、まだなにも」私は真っ赤になって叫んだ。
「まだ?」ニーサルとアランフェットがハモる。
ヤバイ、二人の目が宴会で女子社員をからかうオッサンの目になってる。
なぜか私はキリウスにプロポーズされたことを、打ち明けるはめになった。
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「で?王女様はなんとお返事をするつもりなのですか?」
「まだ決めてません」とか、はぐらかす私。
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「しかし、キリウス公は一途だ。昔から王女一筋だ。それだけは保証しますぞ」
「そうそう、ヒゲを伸ばしたのだって・・・」アランフェットが自分の三重あごに手を当てて言った。
ヒゲ!?
私のわずかに残っていた眠気が吹っ飛んだ。
「ヒゲって?ヒゲってなんですの!?」
「あれは、たしか王女が14歳の誕生パーティーのときでしたな。王女が皆に『私、お父さまのようなおヒゲの似合う男のかたが好き』とか言って」ニーサルが私の物まねをして言った。ちょっと気色悪いのは置いといて。
「私がそんなことを?」私じゃなくて、レーナだけど。
「それから、キリウス公はヒゲを伸ばし始めたんでしたね」アランフェットがニヤニヤして私を見る。
「そういえば、また、剃っていたようだが」ニーサルが、王女が原因か?と問うような目で見たので、私はコクコクと頷いてしまった。
レーナの好みに合わせちゃったの?・・・キリウス、純だよ。なんか可愛いよ。いや、カワイイって言葉はボキャ不足極まりないけど、可愛い以外に表現のしようがないんだからしかたない。
にまにまと顔が緩みそうになるのを咳払いでごまかしたとき、
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