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始まりは初夜2

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 夜着を脱いだキリウスの裸体はしなやかに引き締まり、まるで俊足を誇る肉食獣のようだった。
 これから若い獅子に組み敷かれるのだと、いやらしい想像をしてしまって、勝手に胸の鼓動が早くなる。
「レーナ、目を閉じてくれないか」
 キリウスがなぜか困ったような顔をするので、私は首をかしげた。
「そんな、純粋な目で見られたら・・・できない」

 え?

 いや、脳内ではけっこうエロい妄想してるんだけど・・・

 でも、キリウスにとっては私は純粋で純真なお姫様なのだろう。今までキリウスは私・・・つまりレーナ一筋で、ずっとレーナを想ってきたから、まるで無垢な天使に手をかけるような気持ちなのかもしれない。
 ヤリたいけど、汚したくない、って葛藤があるのかもしれない。
 私は餌となって食べられる草食動物のように覚悟を決めて、琥珀色の瞳を閉じた。すぐにベッドが大きくきしむ音がして私の体にキリウスの重みがかかった。
 もちろん私を潰さないように気を使ってくれてるのが分かる。
 目を閉じていると、体中の神経が研ぎ澄まされているみたい。キリウスの熱い吐息が耳にかかる。
「あ・・・っん」
 唇を求められるのだと思っていたら、耳朶をまれて思わず声を漏らしてしまった。しばらく耳を弄ばれて、首筋を唇と舌がゆっくり這う。
「ん・・・あ・・・っ」
 もう、「あ」とか「ん」とかしか声にならない。
 私の夜着を脱がせながら、キリウスの唇はもう胸元に到達している。
 柔らかい弾力を確かめるように舌を這わせていないほうの膨らみを彼の手が包み込む。やっぱりこんなときでもまるで壊れ物を扱うような優しい手つきだ。
 どちらかというと貧しかった美里わたしの胸とは違い、レーナの胸はふくよかだ。なんとなく、誇らしげに思うのはなぜだろうか、と、いらないことを考えていたら
「あっ・・・!」
 脳に電流が走ったような快感に体をのけぞった。小粒のさくらんぼのような胸の果実を口に含まれたのだ。
「あ・・・だめ」
 舌先で果実を転がされる快感に身をよじって逃れようとしたけれど、キリウスの手は私の腕を拘束して逃さない。
 これは、もう、「汚す」方向に決意を固めたのだ。
 天使の羽根をもぎ取る覚悟を決めたのだ。
 汚されて、犯されて、天使は淫らな人間の女になる・・・そんな妄想に私の下腹部が鈍い痛みのような痺れを感じた。

 不意に、腕が拘束を解かれ、果実を食んでいた口が離れた。
 もう、胸への愛撫だけで息があがってた私はホッと体を弛緩させた。けれど、下腹部にキリウスの長髪の先端が当たったのを感じて、硬直した。

 まさか 

「だ・・」

 だめ、と言おうとしたけれど、後は言葉にならなかった。さっきとは比べ物にならない快感が頭を直撃した。
 まだ膨らみ始めたばかりの小さな花の蕾を唇で探られ、舌で舐め取られ、絡み取られた。
 あまりの刺激に本気で身をよじって逃げようともがいたけれど、私の太ももを押さえるキリウスの手はまるで鋼の手枷のようにびくともしない。
 それだけが別な生き物のように、私の秘部を蹂躙する舌に喘ぐことしかできない。溢れだした私の愛密とキリウスの舌の咀嚼音が淫らな音を奏でる。
 
「いや、お願い許して、そこは・・・いやぁ」
 懇願で泣くような声が出た。

 突然、攻めから解放された。
「?」
 肩で息をしながらも、訝しく私は目を開けてキリウスを見た。
 彼は、真剣な目をして
「本当にやめて欲しいのか?」
 
 ・・・・・・
 
 これって、『言葉責め』って・・・・やつじゃないよね?

 キリウスの表情はどう見ても「楽しんでる」のじゃなくて「質問してる」だ。

 ・・・どう、答えろっていうの?

「すまない」とキリウスは視線を外して「こういうことは・・・初めてだから。見届け人に一応の手ほどきは受けたのだが・・・本当にこれでいいか、不安になった」

 ・・・・・ん?

 今、『初めて』・・・とか言った?

 え?・・・・まさかの・・・

 童貞?

 あ・・・ああ、そうか、ずっとレーナ一筋だったんだよね。他の女と経験してるわけがなかった。

 思い当たらなかった私がウカツだった。
 ここは素直に言ったほうがいいんだろうな。
「ごめんなさい。あまりに気持ちよくて・・・変になりそうで、怖いの」
「気持ちいいと・・・変になるのか?」
 キリウスは不思議そうな顔になったけど、「気持ちいい」というフレーズに安堵の色が浮かんでいる。
「怖いというのもよく分からないが、続けていいんだな?」

 え・・・ちょっと、確認されると、返答に困るんだけど。

 見届け人にどんな指導を受けたのか知らないけど・・・もしかしてかなり我慢と無理をさせたのかもしれない。
 「キリウス」
 私は彼に向かって腕を伸ばした。
 「もう、十分私は潤ってる。だから、貴方がしたいことしていいよ」 
 ゴクリ、と、キリウスの喉が鳴った。
 いや、鳴ったのは私の喉かもしれない。私は目を開けて、ちゃんと見てしまったのだ。
 なるべく見ないようにしていたキリウスの・・・
 
 とってもハイスペック(?)なサイズと形容に私は怖気づいてしまった。
 
 いや・・・ちょっと、無理かもしれない。ソレは、受け入れられる自信がない。
 
 たぶん経験豊富な女人なら喜ばしいのかもしれないけど、いかんせん何度も言うけど、私の乏しい経験では・・・
 『入れて』みたいなこと言ってしまった自分に嵐のような後悔が襲う。
 
「レーナ、愛してる」

 え、『愛してる』なんて、初めて聞く言葉じゃないの?なんで、今頃言うかな。
 この流れじゃ、もう、『あ、やっぱ無理』とか拒否れない。
「私も、愛してる」
 覚悟を決めて、私は目を閉じた。

 キリウスが私の両足を開いて間に割って入った。
 無意識に逃げで腰を引こうとしたけれど、動けない。
「キリウス、お願い、優しくして・・・」
 私のか細い懇願は緊張したキリウスの耳には届かなかったみたいだ。
 彼の硬く起立したモノが私の秘密の扉の入口を見つけ出し、こじ開けるように入ってきた。

 !!!!!

 引き裂かれるような痛みで私は声にならない悲鳴を上げた。
 
 
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