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救い
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キリウスの双眸は双眸は怒りの蒼い炎を宿していた。
もし、外務担当大臣のマルコス・ベネジクトがローマリウス国に戻って、あの側近の言った通りにレーナに伝えたとしたら・・・
俺がマーガレッタ王女を愛したと、だから国には戻らない、と・・・
そんな有もしないことをレーナに伝える気か。
自分が帰らないだけなら、大臣たちが何か手を打ってくれるだろうと、思っていた。待てば助けは来るだろうと。
甘かった。
キリウスはギリッと歯噛みした。
俺がマーガレッタ王女に心変わりしたと、レーナが聞かされたら、どうなる。
キリウスは何度も何度も頭の中で、レーナの反応を思い描いてみた。
そんなことをレーナが信じるものか。
レーナなら、俺を信じてくれる。
いや、それとも泣くだろうか・・・俺に裏切られたと思って。
自分よりマーガレッタ王女を選んだのだと、悲嘆するだろうか。
レーナなら・・・レーナなら・・・
焦燥感で胸が焼け付くように焦がれた。
ここから出て、早くレーナの元に戻らなければ。
すべてマーガレッタ王女の仕組んだことだ。俺は貴女しか愛していない、と告げなければ。
はやく・・・レーナが悲しみに暮れる前に。
はやく・・・レーナが俺を見限る前に。
歩き回るとジャラジャラと足枷の鎖がうるさく鳴って、神経を逆なでした。
ナイフがあればいっそ、この足を切ってでも外したい、と、そこまで考えた時、頭の中に声がした。
ココカラダシテヤロウカ
前にも聞いたことがある、あの声だ。
闇の中から聞こえてくるようにも思える。けれど、見回しても実態はどこにも見えない。
キリウスの本能がその声を聞いてはいけない、と、警戒した。
この声は『妖し』だ。
人間の弱い心につけこんで『妖物』に変えてしまう、人外のモノだ。
憑りつかれた人間がどうなるか、よく分かっているキリウスは、声に意識を向けないようにした。
マーガレッタ王女に対する怒りとレーナに対する焦燥感は絶えず心を蝕んでいく。
ココカラダシテヤロウ
声に応と答えそうになるのを耐えるのは、まるで苦行のようにキリウスの体力を奪っていった。
地下部屋の扉が静かにゆっくり開けられた。
マーガレッタ王女が来たのか。と、キリウスは頭の隅で思った。
もう、顔を上げる気力もないほど彼は憔悴していた。渇きと飢えと妖しの抗いがたい誘惑の声が寝ることさえ許さなかった。
「国王陛下」
囁くような青年の声だった。
キリウスがようやく重い頭を持ち上げると、注意深く若い側近近づいてくるところだった。
「国王陛下、これを召し上がってください」側近は手にした藤作りのカゴをキリウスの前に置いた。
カゴの中には水とパンと干し肉が入っていた。
「今は、真夜中なんです。マーガレッタ王女が寝ているのを確認してきました。大丈夫です」
これも幻覚か、とキリウスはカゴに手を伸ばした。確かに存在を感じて、カゴを引き寄せて、水とパンを口に持っていった。
貪った。絶食の期間が長かったから、胃が戻しそうになるのを上から詰めて押し込んだ。
水が体中を満たし、パンは考える力を与え、干し肉は筋力の衰えを取り戻してくれるようだった。
ガツガツとまるで飢えた肉食獣のように全部たいらげると、キリウスはやっと側近に気がついたように尋ねた。
「なぜ、こんなことを?もし王女にばれたら首が飛ぶんじゃないのか?」
若い、少年とも見える側近は悩まし気な顔でキリウスの問いに答えた。
「あれから・・・ずっと、考えたんです。これは私一人の命で済む問題ではないと・・・王女は国王陛下が自分の意に添わぬなら殺してしまうつもりです。そういう方なのです。その後のことは知らないふりをするつもりです。けれど、ローマリウス国はそれでは納得しないでしょう。国王陛下の死の原因を調べます。もし王がこんなところで餓死などしたと、ローマリウス国に知れたら、戦争になります」
側近は訴えるように言った。
「戦争になれば、ローマリウスに敵うわけはありません。私の父は田舎子爵ですので闘うのは仕方ありませんが、母と幼い兄弟を戦火に巻き込みたくはありません。勝手な願いだとは分かっています。どうか、王女の無体をお許しください。私は・・・」
側近は言葉を切ってキリウスの足枷を見た。
「お待ちいただければその足枷の鍵を探します。国王陛下を逃がします。だから・・・この国に攻め入ることだけは・・・」
「わかった。約束しよう」
キリウスは緊張している若い側近に穏やかな目を向けた。
「ローマリウス国の戦力を強化したのは俺だ。以前の俺は国には戦力さえあればいいと思っていたからな。だけど」
レーナに怒られた。『どこぞと戦争でもするおつもりですか』と。民をないがしろにして国を強くしようなどという愚かな俺をレーナは真っ向避難した。
「戦争など、レーナが悲しむだけだからな」
やはり、と側近は思った。
この国王陛下はローマリウスの女王陛下のことを語るときには本当に幸せそうだ。うちの王女など眼中にないのは当たり前だ。
「お前の名はなんという」
国王に名を尋ねられ、側近はわずかに戸惑い、答えた。
「フラン・カリサドルです。まだ子爵は継承しておりませんので」
「フランか。手をかけさせるが、頼む。お前のことはローマリウスが威信にかけて守る。王女に処刑などさせない」
若い側近は首を深く垂れて「必ず、鍵を探してきます。いましばらくご辛抱を」
そう言うと音を立てないように慎重に扉を閉め、地下の暗闇の廊下に消えていった。
もし、外務担当大臣のマルコス・ベネジクトがローマリウス国に戻って、あの側近の言った通りにレーナに伝えたとしたら・・・
俺がマーガレッタ王女を愛したと、だから国には戻らない、と・・・
そんな有もしないことをレーナに伝える気か。
自分が帰らないだけなら、大臣たちが何か手を打ってくれるだろうと、思っていた。待てば助けは来るだろうと。
甘かった。
キリウスはギリッと歯噛みした。
俺がマーガレッタ王女に心変わりしたと、レーナが聞かされたら、どうなる。
キリウスは何度も何度も頭の中で、レーナの反応を思い描いてみた。
そんなことをレーナが信じるものか。
レーナなら、俺を信じてくれる。
いや、それとも泣くだろうか・・・俺に裏切られたと思って。
自分よりマーガレッタ王女を選んだのだと、悲嘆するだろうか。
レーナなら・・・レーナなら・・・
焦燥感で胸が焼け付くように焦がれた。
ここから出て、早くレーナの元に戻らなければ。
すべてマーガレッタ王女の仕組んだことだ。俺は貴女しか愛していない、と告げなければ。
はやく・・・レーナが悲しみに暮れる前に。
はやく・・・レーナが俺を見限る前に。
歩き回るとジャラジャラと足枷の鎖がうるさく鳴って、神経を逆なでした。
ナイフがあればいっそ、この足を切ってでも外したい、と、そこまで考えた時、頭の中に声がした。
ココカラダシテヤロウカ
前にも聞いたことがある、あの声だ。
闇の中から聞こえてくるようにも思える。けれど、見回しても実態はどこにも見えない。
キリウスの本能がその声を聞いてはいけない、と、警戒した。
この声は『妖し』だ。
人間の弱い心につけこんで『妖物』に変えてしまう、人外のモノだ。
憑りつかれた人間がどうなるか、よく分かっているキリウスは、声に意識を向けないようにした。
マーガレッタ王女に対する怒りとレーナに対する焦燥感は絶えず心を蝕んでいく。
ココカラダシテヤロウ
声に応と答えそうになるのを耐えるのは、まるで苦行のようにキリウスの体力を奪っていった。
地下部屋の扉が静かにゆっくり開けられた。
マーガレッタ王女が来たのか。と、キリウスは頭の隅で思った。
もう、顔を上げる気力もないほど彼は憔悴していた。渇きと飢えと妖しの抗いがたい誘惑の声が寝ることさえ許さなかった。
「国王陛下」
囁くような青年の声だった。
キリウスがようやく重い頭を持ち上げると、注意深く若い側近近づいてくるところだった。
「国王陛下、これを召し上がってください」側近は手にした藤作りのカゴをキリウスの前に置いた。
カゴの中には水とパンと干し肉が入っていた。
「今は、真夜中なんです。マーガレッタ王女が寝ているのを確認してきました。大丈夫です」
これも幻覚か、とキリウスはカゴに手を伸ばした。確かに存在を感じて、カゴを引き寄せて、水とパンを口に持っていった。
貪った。絶食の期間が長かったから、胃が戻しそうになるのを上から詰めて押し込んだ。
水が体中を満たし、パンは考える力を与え、干し肉は筋力の衰えを取り戻してくれるようだった。
ガツガツとまるで飢えた肉食獣のように全部たいらげると、キリウスはやっと側近に気がついたように尋ねた。
「なぜ、こんなことを?もし王女にばれたら首が飛ぶんじゃないのか?」
若い、少年とも見える側近は悩まし気な顔でキリウスの問いに答えた。
「あれから・・・ずっと、考えたんです。これは私一人の命で済む問題ではないと・・・王女は国王陛下が自分の意に添わぬなら殺してしまうつもりです。そういう方なのです。その後のことは知らないふりをするつもりです。けれど、ローマリウス国はそれでは納得しないでしょう。国王陛下の死の原因を調べます。もし王がこんなところで餓死などしたと、ローマリウス国に知れたら、戦争になります」
側近は訴えるように言った。
「戦争になれば、ローマリウスに敵うわけはありません。私の父は田舎子爵ですので闘うのは仕方ありませんが、母と幼い兄弟を戦火に巻き込みたくはありません。勝手な願いだとは分かっています。どうか、王女の無体をお許しください。私は・・・」
側近は言葉を切ってキリウスの足枷を見た。
「お待ちいただければその足枷の鍵を探します。国王陛下を逃がします。だから・・・この国に攻め入ることだけは・・・」
「わかった。約束しよう」
キリウスは緊張している若い側近に穏やかな目を向けた。
「ローマリウス国の戦力を強化したのは俺だ。以前の俺は国には戦力さえあればいいと思っていたからな。だけど」
レーナに怒られた。『どこぞと戦争でもするおつもりですか』と。民をないがしろにして国を強くしようなどという愚かな俺をレーナは真っ向避難した。
「戦争など、レーナが悲しむだけだからな」
やはり、と側近は思った。
この国王陛下はローマリウスの女王陛下のことを語るときには本当に幸せそうだ。うちの王女など眼中にないのは当たり前だ。
「お前の名はなんという」
国王に名を尋ねられ、側近はわずかに戸惑い、答えた。
「フラン・カリサドルです。まだ子爵は継承しておりませんので」
「フランか。手をかけさせるが、頼む。お前のことはローマリウスが威信にかけて守る。王女に処刑などさせない」
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