歪んだ日常の片隅で

暁基朋也

文字の大きさ
11 / 17

8月の檻

しおりを挟む
夏休み最終日――。

窓の外では、ジリジリと蝉が鳴いている。
太陽は眩しく、空はどこまでも青い。
だけど、少年・カズトの心は重く沈んでいた。

「終わってない、終わってない……!」

机の上には、白紙の宿題が山のように積まれている。
ドリル、読書感想文、自由研究、絵日記。
ひとつも手をつけていない。

遊び尽くした八月。
川遊びに、プールに、花火に、虫取り。
楽しい思い出ばかりが、日焼けした肌に刻まれている。

だけど現実は――地獄だ。

「もう無理だぁ……神様、お願いだよ。
 毎日が夏休みだったらいいのに。ずっと八月だったら……!」

カズトは宿題の山に顔を伏せたまま、祈るように呟いた。
そのまま、意識が薄れていく。

そして――
目を覚ますと、カレンダーの日付は**「8月1日」**になっていた。

「え?」

何度見直しても、8月1日。
昨日までは確かに31日だったはず。

母に聞いてみても、「なに言ってるの?今日から夏休みでしょ?」と笑う。
友達も同じ反応だった。

「何言ってんだよカズト、今日からが夏休みじゃん!遊ぼーぜ!」

狐につままれたような気分だったが、次第にカズトは気づく。
――願いが、叶ったのだ。

最高の夏休みが、もう一度始まる。
それからカズトは、前よりも思いきり遊びまくった。
今度は宿題のことなど気にもせず、思うがままに。

だが、ふたたび8月31日を迎えた夜――
次の日のカレンダーも、また**「8月1日」**だった。

「……え?」

まただ。
母も、友達も、同じ反応。

「何寝ぼけてんの、今日から夏休みじゃん」
「カズトー!今日プール行こーぜ!」

再び始まった、夏休み。
そして、その次の31日も――また1日に。

カズトは、同じ1ヶ月を繰り返し始めた。

最初のうちは楽しかった。
繰り返すたびにやれることを増やし、試し、探検し、冒険もした。

でも――四回目のループを過ぎたころから、カズトはおかしなことに気づき始める。

友達との会話が、毎回まったく同じ。
言うタイミングも、笑う瞬間も、間違いなく同じ。

風景も、音も、空の雲の形まで、寸分違わない。

“新しいこと”をしようとすると、不思議なことが起きた。
例えばいつもと違う道を歩こうとすると、なぜか道が通行止めになっていたり。
お小遣いを使い切ってしまうと、次のループでは財布が空のままだったり。

ループの中で、“自由”が少しずつ失われていくような感覚。

やがて、カズトは気づく。

――これは、夢でも奇跡でもない。
――檻だ。

どれだけ夏休みを楽しんでも、どれだけ宿題から逃げても、
何も変わらない、変えられない。
終わらない夏休みが、まるで罰のように繰り返される。

願ったのは自分だ。
「ずっと八月だったら」と。
でも本当に望んでいたのは――“楽しい夏休みの終わり”だったのかもしれない。

そして、五度目の8月31日の夜。

カズトは机に向かい、白紙のドリルを開いた。
字を書く手が震える。
今さら何になるか分からない。
だけど、もしかしたら――

宿題を終わらせた先に、9月1日はあるかもしれない。

ページの端に「おわり」と書いた瞬間、
蝉の声がスッと消えた。

窓の外から、秋の虫の声が聞こえた気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく… なお、スピンオフもございます。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...