歪んだ日常の片隅で

暁基朋也

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指さすこども

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 帰り道、いつも通る公園に、その子はいた。
 夜の十一時。遊具も灯りも少なく、人通りもほとんどない住宅街の端の公園だ。
 街灯の下で、ぽつんとブランコに座っている。
 小学生くらいの、黒髪の子ども。年のわりに顔立ちがはっきりしていて、目元だけがやけに暗かった。

 最初に見かけたときは驚いた。
 こんな時間に、こんな場所に、子どもが一人?
 不審に思って警察に通報した。けれど──

「え? 子ども? 誰もいませんでしたよ?」
 数分後に駆けつけた警官はそう言った。
 俺はベンチで待っていた。公園の出口はひとつ。子どもが消えるはずなんてなかった。
 それでも、誰もいなかったらしい。

「酔ってるんですか? イタズラ通報はやめてくださいね」

 真顔でそう言われた俺は、黙って頭を下げるしかなかった。

 ──それから、俺は通報をやめた。

 あの子は、ほぼ毎晩そこにいる。
 仕事で疲れ果てた体に、不気味な存在はちょっと重すぎた。
 だから見かけても、足早に通り過ぎるようになった。
 知らない。関係ない。ただの見間違い。

 そう言い聞かせていた。

 でも、あの日は違った。

 金曜の夜。終電ギリギリで帰ってきた俺は、少し肌寒さを感じながら、いつものように公園を横切った。

 いた。
 いつものブランコに、例の子が座っている。
 ……いや、今日は立っていた。

 そして、こちらを向いた。

 その瞬間、体中の毛が逆立った。
 子どもは、にやりと笑って──俺を指さした。

 背筋に冷たいものが走る。
 たまらず視線をそらし、歩く速度を上げる。
 振り返らない。音もなくついてくる気配もなかった。でも確かに、あの子は俺を指していた。笑いながら。



 翌日、珍しく土曜に休みが取れた。
 朝の空気は清々しく、あの夜のことが夢だったかのように思えた。
 あてもなく、近所を散歩していたときだった。

 横断歩道を渡ろうとして、ふと目の前を見る。
 向かいの歩道に、子どもが立っていた。

 また──あの子だ。

 真っ黒な瞳でこちらを見ている。
 そして、昨日と同じように、俺を指さして、にやりと笑った。

 うわ……。

 背筋にゾクリとしたものを感じて、思わず踵を返そうとした。
 その瞬間、クラクションの音が頭を打った。

「……っ!」

 気づいた時には、もう遅かった。
 横から飛び出してきたワンボックスカーが、俺の体を撥ね飛ばした。



 意識が戻った時、俺は病室のベッドの上だった。

 命は助かったらしい。
 ただ、骨折と打撲がひどく、しばらくは入院だという。

 医者が言うには、「奇跡的に軽症で済んだ」とのことだった。

 だが俺には、あの事故が“偶然”とはどうしても思えなかった。

 なぜ、あの子は俺を指さしたのか。
 なぜ、あの瞬間だったのか。
 なぜ、助かったのか。

 あの子は何かを伝えようとしていた? それとも──
 単に、俺の運命を知っていただけなのか。



 それから二週間が過ぎた。
 退院して、またあの公園の前を通る機会があった。

 夜。例のブランコを、ふと見る。

 誰もいない。
 あの子は、もう、いなかった。
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