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向こう側の灯り
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夏休み。免許を取ったばかりの友人・高橋の提案で、俺たち大学生五人は肝試しに出かけることになった。
目的地は郊外の山中にある橋。
通称「白水橋」。自殺の名所として地元では有名で、毎年何人かが身を投げるのだという。幽霊を見たという噂も絶えない。
もちろん行くのは夜。
薄暗い道を走り、日付が変わる頃に橋へと辿り着いた。
あたりに灯りはない。
街灯も、橋の照明もない。ただ、月明かりだけが頼りだ。
車を降りた瞬間、冷気のようなものが肌を撫でた。
深夜というだけじゃない。何かが違う。
橋の向こうは、闇に沈んでいた。
「うわ、マジでヤバいってここ……」
歩きスマホで動画を回していたケンジが、思わず声を漏らす。
「なーなー、せっかくだし向こうまで渡ってみね?」
そう言い出したのはノリの良さだけが取り柄の佐々木だった。
他のやつらが笑いながら止めに入る。
「バカ、滑って落ちたらどうすんだよ」
「幽霊とかより、そっちのが怖ぇよ」
「マジでやめとけって!」
佐々木は不満げに口を尖らせていたが、やがて黙った。
そのときだった。
「……あれ、見ろよ」
誰かがそう言って、指さす。
橋の向こうに、微かに光が見えた。
懐中電灯のような、スマホのライトのような、白い光が──ゆらゆらと、こちらへ向かってくる。
「ほらな、やっぱ人いるじゃん! 行こうぜ、マジで!」
佐々木が再び意気込む。
でもその時、全員がぎょっとする声を聞いた。
「……ダメだ、今すぐ帰るぞ」
車を出した高橋が、震えた声で言った。
「え?」
「何言ってんの、まだ来たばっかじゃ──」
「乗らないなら置いてく。……冗談じゃねぇ」
本気の声だった。
唇が青ざめ、目は何かを見てしまったかのように、恐怖に染まっていた。
さすがに様子がおかしいと感じ、俺たちは急いで車に乗り込んだ。
高橋はエンジンをかけると、急発進でその場を離れた。
バックミラーを何度も何度も確認しながら。
⸻
翌日。
俺は高橋に何があったのかを聞いた。
最初は黙っていたが、根負けしてぽつりと語り出した。
「あの時さ、橋の向こうに光、見えただろ?」
「ああ、いたよな。誰か」
「……ちがう。いたのは、“誰か”じゃねぇ」
高橋の目が、真っ直ぐ俺を見据えた。
「あれな……光に見えたろ? でもあれ、人の頭なんだよ」
「髪が長くて、下向いてて……」
「で、な。……浮いてた」
「浮いてた?」
「……橋の外側。欄干の、下。
夜風で揺れてんのに、動かない。足が、なかった。
……あれ、俺と目が合ったんだよ」
息を呑んだ。
「他のやつらには、見えてなかったんだと思う。
お前らが“光だ”って言ってるのが信じられなかった……
あれ、ずっと、こっち見てたんだよ。ニタァって……」
高橋はそれ以上何も言わず、俯いた。
⸻
その話を聞いた夜、俺は眠れなかった。
高橋が見たという“顔”。
俺たちは光だと思っていた。だが、あの夜の月は満月で、強く明るかったはずだ。
もしそれが、月明かりに照らされた顔だったとしたら……?
今になって、あのときの“光”の位置を思い出す。
確かに……橋の欄干の、外側だった。
もし高橋が車を出さなかったら──
佐々木が、向こうに行っていたら──
俺たちも、今はいなかったかもしれない。
目的地は郊外の山中にある橋。
通称「白水橋」。自殺の名所として地元では有名で、毎年何人かが身を投げるのだという。幽霊を見たという噂も絶えない。
もちろん行くのは夜。
薄暗い道を走り、日付が変わる頃に橋へと辿り着いた。
あたりに灯りはない。
街灯も、橋の照明もない。ただ、月明かりだけが頼りだ。
車を降りた瞬間、冷気のようなものが肌を撫でた。
深夜というだけじゃない。何かが違う。
橋の向こうは、闇に沈んでいた。
「うわ、マジでヤバいってここ……」
歩きスマホで動画を回していたケンジが、思わず声を漏らす。
「なーなー、せっかくだし向こうまで渡ってみね?」
そう言い出したのはノリの良さだけが取り柄の佐々木だった。
他のやつらが笑いながら止めに入る。
「バカ、滑って落ちたらどうすんだよ」
「幽霊とかより、そっちのが怖ぇよ」
「マジでやめとけって!」
佐々木は不満げに口を尖らせていたが、やがて黙った。
そのときだった。
「……あれ、見ろよ」
誰かがそう言って、指さす。
橋の向こうに、微かに光が見えた。
懐中電灯のような、スマホのライトのような、白い光が──ゆらゆらと、こちらへ向かってくる。
「ほらな、やっぱ人いるじゃん! 行こうぜ、マジで!」
佐々木が再び意気込む。
でもその時、全員がぎょっとする声を聞いた。
「……ダメだ、今すぐ帰るぞ」
車を出した高橋が、震えた声で言った。
「え?」
「何言ってんの、まだ来たばっかじゃ──」
「乗らないなら置いてく。……冗談じゃねぇ」
本気の声だった。
唇が青ざめ、目は何かを見てしまったかのように、恐怖に染まっていた。
さすがに様子がおかしいと感じ、俺たちは急いで車に乗り込んだ。
高橋はエンジンをかけると、急発進でその場を離れた。
バックミラーを何度も何度も確認しながら。
⸻
翌日。
俺は高橋に何があったのかを聞いた。
最初は黙っていたが、根負けしてぽつりと語り出した。
「あの時さ、橋の向こうに光、見えただろ?」
「ああ、いたよな。誰か」
「……ちがう。いたのは、“誰か”じゃねぇ」
高橋の目が、真っ直ぐ俺を見据えた。
「あれな……光に見えたろ? でもあれ、人の頭なんだよ」
「髪が長くて、下向いてて……」
「で、な。……浮いてた」
「浮いてた?」
「……橋の外側。欄干の、下。
夜風で揺れてんのに、動かない。足が、なかった。
……あれ、俺と目が合ったんだよ」
息を呑んだ。
「他のやつらには、見えてなかったんだと思う。
お前らが“光だ”って言ってるのが信じられなかった……
あれ、ずっと、こっち見てたんだよ。ニタァって……」
高橋はそれ以上何も言わず、俯いた。
⸻
その話を聞いた夜、俺は眠れなかった。
高橋が見たという“顔”。
俺たちは光だと思っていた。だが、あの夜の月は満月で、強く明るかったはずだ。
もしそれが、月明かりに照らされた顔だったとしたら……?
今になって、あのときの“光”の位置を思い出す。
確かに……橋の欄干の、外側だった。
もし高橋が車を出さなかったら──
佐々木が、向こうに行っていたら──
俺たちも、今はいなかったかもしれない。
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