エーテルニア・コード:世界からの脱出

蒼清

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第6話帝都グリムヴァルトの支配者、そして新たな絆

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廃屋での戦いを終えたリオスは、自身の右の手の甲に浮かんだ青白い異晶(イショウ)の紋様と、制御不能な力に困惑していた。強烈なノイズが彼の神経を苛み、視界の隅では「歪み」が不快に明滅する。
しかし、ソラの治癒魔法(ヒール)スキル『魂の共鳴』が、彼の《イレギュラー・データ》としての特異な力の過剰なシステム干渉を「調律」し、精神的な支えとなることで、彼は何とか平静を保っていた。ソラは、リオスの手を優しく包み込み、その紋様が輝き出す。彼女の治癒魔法が、リオスの疲労を癒やす中で、二人の距離は一層縮まっていった。

アデルからの通信と指示を受け、リオス、ソラ、そしてミオは、機械的なノイズの中心である「帝都グリムヴァルト」の領域に足を踏み入れた。
彼らがここに来たのには、明確な理由があった。
「ヴァイス」という存在は、帝都グリムヴァルトのシステムを支配し、この都市を拠点としていた。彼の目的は、人類を《オプティマス》の監視から解放し、感情を排除した「完璧な世界」を再構築することだ。
アデルは、ヴァイスの野望を阻止し、彼を倒すためには、彼の情報網とシステムの中枢に侵入する必要があると判断したのだ。
アデルの演算補助(アシスト)スキル『真理の導器(ロゴス・デバイス)』は、帝都グリムヴァルトのシステムに潜入し、リオスたちを誘導していた。
しかし、彼らが帝都グリムヴァルトの中心部に近づくにつれ、周囲のノイズは次第に強まり、リオスの「歪み」の感覚をより鮮明にした。
突如、周囲の風景が歪んだ。街並みが一瞬にしてピクセル化し、別の光景に上書きされる。そこは、無数のモニターが並び、情報が奔流のように流れ去る、巨大なデータセンターだった。リオスたちの目の前に、一人の男が姿を現した。
「よく来たな、《イレギュラー・データ》ども」
男は、嘲るような笑みを浮かべていた。彼の全身からは、無数のコードが伸び、周囲のモニターやシステムと連結している。彼こそが、帝都グリムヴァルトの情報網とシステムを操る情報統括官ルークだった。彼の瞳には、青白い光が宿り、その全身からはデータが常に漏れ出している。彼は、自身の情報操作(マニピュレート)スキル『認識改竄(アストラル・イリュージョン)』によって、リオスたちの視覚情報を操作し、幻影を見せていたのだ。
「貴様らの力、ヴァイス様の糧にさせてもらう」
ルークは、そう告げると、指先を軽く動かした。すると、データセンターの空間全体が歪み、無数の《ノイズ・アブソープション》が出現した。それらは、ルークの能力によって生成された、データで構成された幻影でありながら、リオスたちに襲い掛かる。
「幻影だと!? くそっ!」
リオスは大剣を構えて応戦するが、幻影の《ノイズ・アブソープション》は実体を持たず、攻撃がすり抜けてしまう。彼の異晶による異質な感覚が、幻影の虚偽を見破ろうと試みるが、ルークの能力はあまりにも巧妙だった。
「リオスさん、これは実体じゃない! 奴の情報操作スキルで、私たちの知覚を誤魔化してるんだ!」
ソラが叫び、自身の『魂の共鳴』で、ルークの幻影に光を放つ。ソラの光が当たると、幻影の《ノイズ・アブソープション》は、僅かにその姿を揺らめかせた。しかし、ルークは動じない。
「小癪な。だが、それも無駄な抵抗だ。魔法陣展開:幻影増幅(イリュージョン・ブースト)!」
ルークは、さらに指を動かし、幻影の数を増やした。リオスたちは、四方八方から襲い来る幻影の波に、次第に追い詰められていく。
その時、データセンターの奥から、複数の新たな敵が現れた。彼らは、黒いローブを纏った『闇を視る者』たちだ。彼らはルークの能力によって操られているかのように、無感情にリオスとソラに襲い掛かる。
「ちっ、ちょっとは本気出せよ、リオス! 後ろは任せたからな!」
焦りの表情を浮かべたリオスの横から、ミオが鋭い声で叫んだ。彼女は両手に持つ双剣を構え、その全身から微細な電光を放つ。ミオは迷うことなく、ルークただ一人に狙いを定めて駆け出した。
「能力解放:電光石火(ライトニング・フラッシュ)!」
ミオが地面を蹴ると、その姿は残像を残して消えた。ミオの機動(ムーブメント)スキル『電光石火』は、物理的な速度に加え、システムの演算速度を欺き、自身を予測不可能な《イレギュラー・データ》として認識させる力だった。これにより、ルークの幻影も、ミオの高速なシステム干渉によって、その整合性を保てずに崩壊していく。
「なに!? この速さは……システムのエラーか!?」
ルークが驚愕の声を上げる。ミオは、ルークの懐に飛び込み、双剣を突き出した。ルークは、自身の力で空間を歪ませ、ミオの攻撃を回避しようとするが、ミオの速度はそれを上回っていた。
「くっ!」
ルークの頬を、ミオの双剣がかすめた。ルークは、即座に距離を取り、さらに強力な幻影を生成しようとするが、ミオはひるまない。
一方で、リオスとソラは、ルークの援護に来た『闇を視る者』たちによって足止めされていた。彼らは、ミオをルークに到達させないよう、執拗にリオスたちを攻撃する。
「リオスさん、数が多い! 治癒魔法(ヒール):範囲回復(エリア・ヒール)!」
ソラが叫びながら、治癒魔法でリオスの体を支える。
リオスは、迫り来る敵を大剣で薙ぎ払うが、ルークが生成する幻影と、『闇を視る者』たちの連携攻撃により、思うように動けない。
「くそ、ミオを一人にするわけには……!」
ミオの覚悟と決着
「おっそーい! あんたみたいな陰気なヤツは、ぶっ飛ばしてやるよ!」
ミオの挑発的な声がデータセンターに響き渡る。彼女はルークの幻影の虚偽をすり抜け、その本体に肉薄する。ルークは焦り、モニターから無数のデータ弾を放つが、ミオは電光石火の動きでそれらを全て回避した。
「なぜだ! この幻影は、データに干渉するイレギュラーをも惑わすはず……!」
ルークは信じられないといった表情でミオを見る。
ミオは双剣を構え、鋭い視線をルークに突きつける。
「そんな小細工、あたしには通用しないね! あたしは、あんたたちに捕まって、怖い思いをしたんだ! あたしの大切なものを傷つけようとする奴は、絶対に許さない!」
ミオの言葉には、捕らえられた際の屈辱と、仲間を守ろうとする強い意志が込められていた。彼女の全身から放たれる電光がさらに強まる。
「機動スキル:電光石火・零(ライトニング・フラッシュ・ゼロ)!」
ミオが叫ぶと、彼女の姿は光の残像と化し、データセンター内を瞬時に移動した。ルークの視界には、無数のミオの残像が同時に存在するかのように映る。ミオは、ルークの防御網を完全に無効化し、その背後に回り込んだ。ルークは反応する間もなく、ミオの双剣がその核であるシステム接続部に突き立てられる。
「ぐっ……馬鹿な……この私を……!」
ルークは苦痛の声を上げ、全身からデータを撒き散らしながら崩れ落ちた。彼の体はピクセル化し、瞬く間に消滅していく。
ルークの消滅と共に、データセンターの空間は元の無機質な金属の部屋へと戻った。『闇を視る者』たちも、支配者を失ったかのように動きを止め、その場に崩れ落ちる。
「ミオ……やったのか!」
リオスが驚きと共にミオに駆け寄った。ソラもその隣にいる。
「えへへ、これくらいどうってことねぇよ! あたしがいないとダメなんだから!」
ミオは、そう言いながらも、どこか誇らしげに胸を張っていた。
ソラはミオの手を強く握りしめる。
「ミオちゃん、さすがだよ! ありがとう!」
その時、隠れていたアデルが姿を現した。彼は、ミオの能力を目の当たりにしたことを前提に、会話を始める。
「よくやってくれたな、ミオ。君の機動スキル『電光石火』は、私の解析結果通り、ルークの『認識改竄』の虚偽を打ち破るに十分だった。まさに予測不能な動きだ。特に、最後に放った『電光石火・零』……あれは君自身の意志がシステムに干渉した結果だろう」
アデルの言葉に、ミオは胸を張る。
「だろ? あたしの力、すごいんだから!」
アデルは静かに頷いた。
「ああ。君もまた、ヴァイスが求める《システム・ブレイカー》の一人だ。この戦いは、君の力が必要になる。ここからは、君も我々と行動を共にしてほしい」
ミオは、アデルの言葉に改めて頷いた。アデルの元に滞在していた際に、自身の持つ力が「能力」と呼ばれ、ヴァイスに狙われていることを既に聞かされていた彼女は、この戦いに加わる覚悟を改めて決めていたのだ。
こうして、リオス、ソラ、ミオ、そしてアデルという、それぞれが特別な能力を持つ四人の仲間たちが、帝都グリムヴァルトの深部へと足を踏み入れることになった。彼らは、ヴァイスの野望を阻止し、この世界の真実を明らかにするため、新たな絆と共に進んでいく。
 
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