エーテルニア・コード:世界からの脱出

蒼清

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第8話 暴食者の猛攻とヴァイスの思想

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束の間の休息は、あっという間に過ぎ去った。リオスたちは、アデルの案内で帝都グリムヴァルトの中心部へと向かう準備を進めていた。隠れ家の岩壁に囲まれた空間で、アデルは半透明のスクリーンに、帝都グリムヴァルトの複雑に入り組んだ詳細なマップと、主要な施設、そして予想される敵の配置を投影する。
アデルの演算補助(アシスト)スキル『真理の導器(ロゴス・デバイス)』が、膨大なデータを瞬時に解析し、必要な情報を色鮮やかに可視化していた。マップ上には、赤いマーカーで示された各エリアの《警戒態勢:最高レベル》という文字が、リオスたちの緊張感を一層高める。画面に映し出される敵の《推定能力値》は、これまでリオスたちが遭遇してきたどの敵よりも、はるかに高レベルを示していた。
「帝都グリムヴァルトは、このエーテルニアの中でも最も大規模な『歪み』の塊だ。彼らは膨大なエネルギーと技術力で、世界のシステムそのものを操作し、完璧な秩序を構築しようとしている」
アデルの声は冷静沈着だが、その言葉には並々ならぬ警戒感が込められていた。
「この先、奴らの仕掛けた巧妙な罠や、強力なスキル持ちの幹部が待ち構えているだろう。特に警戒すべきは、ヴァイス直属の武力部門統括官グレイだ。彼のスキルは、周囲の『歪み』を吸収し、自身の肉体能力と防御力を極限まで高める『暴食(グラトニー)』の能力を持つ。同時に、吸収した『歪み』を操り、《ノイズ・アブソープション》を生成、強化する力も兼ね備えている。まさに、生きたバグの集合体だ」
アデルの言葉に、リオスは以前遭遇した情報統括官ルークを思い出す。すでにルークが倒されている以上、次に現れる敵は、その強さも狡猾さも桁違いに違いないと直感した。
「奴を突破しないと、ヴァイスには辿り着けないということか」
リオスが重々しく呟いた。彼の右の手の甲に浮かぶ青白い異晶(イショウ)の紋様が、微かに脈打つ。制御不能な異晶のスキル『存在抹消(アナイアレーション)』の力が、常に彼の内側で暴れようとしている。だが、ソラの治癒魔法(ヒール)スキル『魂の共鳴(ソウル・レゾナンス)』が、その暴走を一時的に抑え、「調律」し、彼を繋ぎ止めていた。
「大丈夫だよ、リオスさん。私たち、みんなでリオスさんを支えるから!」
ソラがリオスの手を優しく握り、力強く微笑んだ。彼女の瞳には、一切の迷いがなく、リオスの心に温かい光が灯る。ミオも双剣を「カチャリ」と音を立てて構え、やる気に満ちた表情で自信を示した。
「任せといて! どんな奴が来ても、あたしが二刀流スキル『クロス・スラッシュ』でぶっ飛ばしてやるぜ!」
彼女たちの言葉、そしてその表情から伝わる確固たる決意に、リオスの心に温かいものが込み上げてきた。一人ではない。このかけがえのない仲間たちがいれば、どんな困難にも、どれほど強大な敵にも、共に立ち向かえる。彼の心に宿っていた不安の影が、少しずつ薄れていくのを感じた。
アデルがスキルの力で『真理の導器(ロゴス・デバイス)』を操作し、洞窟の奥に隠された巨大な通路を開いた。それは、厚い金属製の扉が電子音と共にスライドし、冷たい空気を洞窟内部へと送り込んできた。通路の奥からは、微かに機械的な駆動音と、かすかなノイズが流れ込んでいる。それは、帝都グリムヴァルトの心臓部から発せられる音だった。
「準備はいいか。ここから先は、もう引き返せないぞ。幸運を祈る」
アデルの言葉は、まるで彼らの覚悟を試すかのようだった。リオスたちは静かに頷き、通路の奥、未知の闇へと足を踏み入れた。彼らの歩みは、迷いなく、そして確固たる決意に満ちていた。
通路を抜けると、彼らの眼前に広がるのは、息をのむような巨大な空間だった。そこは、無機質な金属と無数のコードで構成された、まさに帝都グリムヴァルトの心臓部。《エリア名:コア・ジェネレーター》という表示がリオスの視界に現れる。天井ははるか高く、巨大な機械アームが規則的に動き、無数のパイプが蜘蛛の巣のように張り巡らされている。機械の唸り声が空間全体に響き渡り、無数のモニターが青白い光を放ちながら、膨大なデータが流れ去っていた。エーテルニアに存在する「歪み」の源流が、まさにここに集約されているかのような威圧感があった。
「警戒しろ。このエリアは、帝都グリムヴァルトの最前線だ。最も危険な領域だ」
アデルの警告が響く間もなく、空間の奥から、複数の巨大な《ノイズ・アブソープション》が出現した。それらは、これまでのバグとは一線を画す異形だった。金属の鎧を纏った兵士のような姿をしており、その目は赤く光り、異様なオーラを放っている。その威圧感は、これまで遭遇したどの《ノイズ・アブソープション》よりも、はるかに圧倒的だった。彼らは一斉に、侵入者であるリオスたちに照準を合わせた。
「くそっ、いきなり大物か! 機動スキル:高速連撃(クイック・ストライク)!」
ミオが叫び、素早く両手の双剣を構えた。彼女の全身から、瞬発力を高めるスキルの力が放出され、その動きはまるで残像を伴うかのようだ。彼女は、先頭の一体に稲妻のような速さで突進した。
リオスも大剣を構え、側面から襲いかかってきた《ノイズ・アブソープション》の一体を迎え撃った。彼の剣術熟練度ERRORが示す、予測不能な完璧な剣技が火を吹き、《クリティカル・ヒット!》の文字と共に、鎧を纏ったバグを両断する。しかし、次から次へと襲い来るバグの波は、容易に数を減らせるものではなかった。
激しい戦闘が繰り広げられる中、突如として、空間全体に地響きのような重厚な足音が響き渡った。ドシン、ドシン、という規則的なリズムが、彼らの心臓に直接響いてくるかのようだ。その音と共に、巨大な影が、《ノイズ・アブソープション》の群れをかき分け、彼らの前に立ちはだかった。
それは、全身を重厚な金属の装甲で覆った、異様に巨大な男だった。その装甲は所々からひび割れ、不規則なデータが漏れ出し、周囲の空間をわずかに歪ませている。男の瞳は、血のような赤い光を放ち、まるで獲物を探す飢えた獣のように、リオスたちを冷酷に睨みつけていた。その存在自体が、強大な『歪み』の塊のようだった。
《ボス出現:武力部門統括官グレイ》という表示がリオスの視界に飛び込む。
「お前たちが……ヴァイス様の目的を阻む、招かれざる存在か。特に、そこにいる異晶を持つ《イレギュラー・データ》よ」
男の声は、まるで地の底から響いてくるかのような、低い重低音だった。その声だけで、空間の空気が震えるかのようだ。
「武力部門統括官、グレイ。お前たちのスキルは、ここで全て回収させてもらう」
グレイは、そう告げると、その巨大な腕をまるで油圧式のアームのようにしなやかに、そして驚異的な速度でリオスに迫った。彼の拳には、空間の歪みが凝縮されているかのような圧力が込められていた。
「っ! 速い! 剣技:鋼鉄の壁(アイアン・ウォール)!」
リオスは、反射的に大剣で攻撃を受け止めたが、その衝撃に体がわずかに浮き上がる。グレイの一撃は、彼の剣術熟練度ERRORが示す予測すらも、わずかに上回るような、圧倒的な質量と速度を伴っていた。剣を持つ腕が痺れ、全身に衝撃が走る。
「リオスさん! 治癒魔法(ヒール):精神安定(メンタル・ケア)!」
ソラが叫び、グレイの体にスキルの力である治癒魔法を放った。神聖な光がグレイの装甲に当たると、わずかに彼の体を覆うデータの歪みが揺らぎ、装甲の表面に亀裂が走る。しかし、彼はその僅かな動揺をものともせず、さらに追撃を仕掛けてきた。その動きには、一切の迷いがなく、ただ純粋な破壊衝動のみが込められているかのようだった。
「お前たちの力など、所詮は『歪み』の欠片! ヴァイス様が与えし我がスキル『暴食(グラトニー)』の前では無力!」
グレイは、自身の体に宿るスキルの力を誇示するように、全身から黒いオーラを放った。そのオーラは、周囲の《ノイズ・アブソープション》に吸収され、彼らをさらに凶暴化させる。バグたちの動きは俊敏さを増し、攻撃もより苛烈になった。
「こいつ、自分のスキルで《ノイズ・アブソープション》を操ってるのか!?」
ミオが驚愕の声を上げた。彼女の双剣が、迫り来るバグの猛攻をギリギリで捌いている。
アデルは、彼の演算補助スキル『真理の導器(ロゴス・デバイス)』を操作し、グレイのデータを瞬時に解析した。彼の眼鏡の奥の瞳が、高速で流れるデータを捉えている。
「彼のスキルは、周囲の『歪み』を吸収し、自身の肉体能力と防御力を極限まで高める『暴食(グラトニー)』の能力を持つ! 同時に、吸収した『歪み』を操り、《ノイズ・アブソープション》を生成、強化する力も兼ね備えている! まさに、生きたバグの集合体だ!」
アデルの言葉に、リオスは全身に冷や汗が流れるのを感じた。グレイの力は、これまでの敵とは比べ物にならないほど強力で、まともに戦えば勝ち目はないと直感した。
グレイは、リオスたちを囲む《ノイズ・アブソープション》たちに、咆哮を上げて指示を飛ばした。彼らは一斉に、四方八方からリオスたちに襲い掛かる。
「分断されたら終わりだ! 連携で乗り切るぞ! 剣技:斬り払い(スウィープ・スラッシュ)!」
リオスが叫んだ。彼の声に、ソラとミオが力強く頷く。
ミオは、機動スキル『電光石火(ライトニング・フラッシュ)』によって、敵の攻撃を紙一重でかわしながら、双剣で《ノイズ・アブソープション》の隙を突く。その動きは、まるで予測不能なダンスのようだった。ソラは、リオスとミオの間に立ち、治癒魔法スキル『魂の共鳴(ソウル・レゾナンス)』による治癒魔法で彼らの傷を癒やし、同時にグレイのスキルの力を不安定にさせるべく、光の波動を放ち続ける。アデルは、後方から自身の演算補助スキルを使い、『真理の導器(ロゴス・デバイス)』を操作し、グレイの弱点や、周囲のシステムのエラーポイントをリオスたちに正確に伝える。《ターゲット・ロックオン:右腕接合部》という指示がリオスの視界に表示された。彼らの連携は、まるで一つの生命体のように機能していた。
リオスは、グレイの猛攻をしのぎながら、彼の攻撃パターンを分析していた。彼の剣術熟練度ERRORは、敵の動きの「予測データ」を視覚的に捕捉できる。グレイの攻撃は確かに速く、重いが、パターンは単調だった。そこに勝機を見出す。
「ソラ! グレイの右腕を狙え! そこが弱点だ!」
リオスが指示を飛ばすと、ソラはすぐにグレイの右腕に治癒魔法の光を集中させた。清らかな光がグレイの腕に集中すると、彼の体を覆う黒いオーラが激しく揺らぎ、装甲の一部がピクセル化して崩れ始めた。グレイのスキルによって生成された防御層が、ソラの純粋な光によって剥がされていく。
「ぐああああっ! 小癪な! 反撃スキル:デモリッシュ・アーム!」
グレイが苦痛の声を上げる。ソラのスキルは、グレイのスキルの力を攪乱し、そのシステムを不安定にさせる能力があるのだ。その苦悶の隙を、リオスは見逃さない。
「剣技:ハイ・ブレード!」
リオスは、渾身の力を込めて大剣を振り上げた。彼の剣は、システムのエラーポイントを正確に捉え、グレイの右腕を覆う装甲を破壊した。《破壊成功!》という文字と共に、内部から、無数のコードと金属片が飛び散る。グレイの肉体が、システム****エラーを起こしたかのように痙攣する。
しかし、グレイは痛みを感じていないかのように、残った左腕でリオスに反撃を仕掛けてきた。その攻撃は、先ほどよりもさらに重く、速い。まるで、痛覚を切り離し、純粋な戦闘プログラムと化したかのようだ。
「お前たちの力など、所詮は『歪み』の欠片! ヴァイス様が与えし我がスキルの前では無力!」
グレイは、そう叫んだ。その時、ホールの巨大なモニターが一斉に起動し、そこに一人の男の顔が映し出された。
それは、帝都グリムヴァルトの真の支配者、ヴァイスだった。冷酷で感情の読めない表情の男が、グレイの後ろに立つリオスたちを、まるで無価値なゴミを見るかのように見下ろしていた。
「このエーテルニアは、すでに限界を迎えている。無数の『歪み』が蔓延し、いずれは根源から崩壊する。それは、創造主《オプティマス》が隠蔽した、この世界の『真実』だ。私がこの世界を再構築する。より強く、より洗練された世界へと。そこには、無駄な感情も、無意味な争いも存在しない。──これは、我々『闇を視る者』が、この世界に与える、究極の『救済』なのだ」
ヴァイスの声は、ホールの機械的な駆動音にかき消されることなく、リオスたちの耳に直接響いてきた。その声には、絶対的な確信と、一切の感情が宿っていなかった。
「お前たちは、感情という弱さに縛られている。感情があるから、争いが生まれる。無駄なノイズが生まれる。私の世界に、感情は不要だ。私が目指すのは、一切の無駄を排し、効率と秩序にのみ基づいた、完璧な調和の世界だ。それは、真の平和であり、究極の進化だ」
ヴァイスの言葉が、リオスの胸中に激しい怒りを燃え上がらせた。その言葉は、ソラの優しさや、ミオの純粋な喜び、アデルの冷静な知性といった、彼らが育んできた「本物」の感情と絆を、根底から否定するものだった。
「させるか……! そんなものは、進化じゃない! ただの、傲慢な破壊だ! 俺たちは、お前のような存在に、この世界を滅ぼさせはしない! 剣技:絶影(ゼツエイ)!」
リオスは叫んだ。彼の異晶のスキルが、怒りに呼応するように全身を駆け巡り、青白い紋様がさらに強く輝く。ソラもミオも、ヴァイスの冷酷な言葉と歪んだ思想に激しい怒りを露わにし、戦闘態勢を固めた。彼らの絆こそが、この仮想現実の世界を救う唯一の希望なのだと信じて。
グレイは、ヴァイスの声に呼応するように、全身から黒いオーラをさらに強めた。彼の体から、無数のコードが伸び、周囲の《ノイズ・アブソープション》と連結していく。彼の肉体は、ヴァイスの思想を体現するかのように、感情なき破壊兵器へと変貌していく。
「貴様らのスキルは、ヴァイス様の糧となる! 来い、我が『暴食』の力よ! スキル:グラトニー・オーバーロード!」
グレイの体は、さらに巨大化し、その全身を覆う装甲が、より禍々しい輝きを放ち始めた。彼の背後から、無数の触手のようなものが伸び、リオスたちに襲い掛かる。その猛攻は、先ほどよりもはるかに苛烈で、止めどない破壊の奔流だった。
リオスたちは、ヴァイスの思想と、グレイの圧倒的な力に、改めて世界の真の脅威を認識した。しかし、彼らは決して諦めない。この世界が虚構であろうと、そこに生きる人々の命と、彼らが紡ぐ絆は「本物」なのだ。彼らは、ヴァイスの歪んだ理想郷を打ち砕くため、そしてこの世界の真実と平和を取り戻すため、再びグレイへと立ち向かっていく。
 
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