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第1章
第13話 『その男、奇人変人変態につき』
しおりを挟む古びた扉を開けて店に入った瞬間、すぐさまオレ様達の鼻に飛び込んできたのは紙とインクの独特な匂いだった。言い表すならば―――カビ臭い。ほんの少しだけだけどな。
店構えよりも広く見える店内を見渡すと、天井には古ぼけた黄色の明かりが等間隔で灯されており、壁側には壁面が見えなくなるほどの本棚が並んでいる。その本棚は見事役割を果たし、そこにはぎっしりと数多くの本や紙束が収まっていた。
しかし本や纏められた冊子の膨大な量に本棚が間に合わないのか、本来来客の対応を行なうカウンター机が本や紙束の山と化しているのが現状。その証拠に、その奥にいるであろう彼奴の姿が見えない。
……相変わらず、机や床へ無造作に紙の束を置いてやがる。せっかくオレ様が以前助手を拾ってきてやったんだから、もう少し管理に気を付けろよ。このクソ野郎が。
「うわっ、なにここ……お店っていうよりは、小さな蔵書庫ってカンジね……。そこら中に紙とか本が散乱してるじゃない……」
「見たままの内を正直に言えば良い。”私、こんな不衛生で薄汚い畜生小屋などに足を踏み入れたくないわ。きっと身も心も冒されて穢れるわよっ”とな」
「辛辣ぅ!? それ流石に辛辣過ぎるわよー!? ここに初めて来たばかりの……いえ、それ以前に民を導く貴族である私がそんなこと言う訳ないじゃないっ!?」
「心配するな」
知ってるよ。そもそも先程の言葉はオレ様がここへ訪れる度に常々思っている事だからな。貴様の言葉として代弁してみただけだ。……おい、そんなに喚くなよドロシー。貴様の魅力はオレ様だけが知っていれば良いだろう? あと彼奴はそんな陳腐な暴言で傷つくようなタマじゃねぇから安心しろ。
はぁ、まぁドロシーとの些細な戯れも一旦ここで打ち止めだ。現在はこの本と紙束の山で視界が遮られているが、この奥に彼奴が埋もれている筈だからな。
隣で「私のなりの貴族として尊厳が踏み躙られた気がするわ……」と諦めたかのように力無く呟くドロシーだが、その様子に構う事なくオレ様は声を張った。
「ハイド、とある情報が欲しい。さっさと這い出てきて教えろ」
「ち、ちょっと……っ! そんな頼み方で大丈………」
「―――おーーっとぉ! キタキタァ! この鼓膜を震わせるセクスィーなワタスィの名を呼ぶ美声はァっ~~! ロロロローーーーッランドサマじゃァないデッスかァ!!!」
「きゃぁっ……!!」
奥からがさがさと紙が擦れる大きな音が聞こえたと思ったら、オレ様とドロシーの目の前にある積まれた本や紙が崩れた。
それらを押し退けるようにして姿を現したのは、目元や鼻を白いヴェネチアマスクで隠した黒いスーツを着た黒髪の男。オレ様を仮面の奥から見つめる紅い瞳は見開いており、口角は何が楽しいのか大きく曲げている。
彼奴の戯言から分かる通り無駄にテンションが高く、所々癖のある話し方が印象的だが中身もそれ相応。いや、それ以上に変人さも目立つな。片足の爪先でクルクル回ってんじゃねぇよ。キモいぞ。
床に散らばった本など気にも留めた様子もないが、その理由はまさしくオレ様が来たからだ。……だからそう彼奴の事を変人を見るような視線で見つめるのは止めろドロシー。逆に喜ぶぞこいつ。
彼奴はオレ様達を見遣るとパチンッ、と指から小気味の良い音を鳴らす。
気分良さげに来客用のテーブルを挟んだソファへと案内し、全員が腰を掛けると目の前の彼奴は言葉を放った。
「さってさてさて本日はどどんな情報をお求めにぃ~~? 近頃バンツェッタ皇国にあーるイグニスタ火山の麓に炎龍が住み着いたせいでぇ、火山活動がカッパツ化寸前なコトですかァ? はたまた水上都市の水資源動力が停止して水不足に陥り、住民が暴動を起こしたコトぉ? そ・れ・と・もォ―――」
生意気にも言葉に合わせて人差し指を左右に揺らした後、彼奴の瞳が妖しげにオレ様を捉えた。
「―――王国で密かに流行している『黄昏薬』のコトですかぁ??」
「え………っ、なんでそのことを……!?」
「……チッ、相変わらずウゼェな。貴様は」
オレ様が舌打ちを打つ横でドロシーが驚きに包まれながら目を見開いている。
ふん、オレ様からの言伝で騎士団寮に忍び込んだシノアから訊いたメルトやドロシーはともかく、貴様ももう既に情報を手に入れているとはな。流石は情報屋を名乗るだけはある。相変わらず早い男だ。
「知っているのなら話が早い。さっさと持ってる情報を全部寄越しやがれ。じゃねぇとその趣味の悪い仮面叩き割るぞ」
「ンンン~~っ! 乞う立場でありながらもブレないその強欲さ、我儘さ、傲慢さ!! 薬に浸食されかかった王国を想う姿、そしてその愛国心にこのワタスィ惚れ惚れして思わずゾクゾクしちゃいますぅ! でもでもでもぉ~~、対価として大切な肝心ななァ~にか、お忘れではありませんかァ? ―――コ・レ♡」
まるで劇場の舞台で舞う演者のように四肢をくねらせながら軽快な口先で|ほざくハイド。
彼奴がオレ様の前に差し出した片腕、その指先をくっつけて丸の形を表していた。
そう、オレ様がここへ来る度にハイドが要求するのはただ一つ。
「はぁ、いくらだ?」
「そうデスねぇ………ざっと―――一千万オーザでいかがデショ♡」
「なぁ………ッ! 一千万オーザ!?」
―――決して安くはない、莫大な情報料だ。
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