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ジャンケン後日談 何故そんな言葉が言えるのですか?
しおりを挟む「ねぇおっぱい。映像見てたけど、何負けてるの?」
「む、小梅ちゃんですか。だって仕方がないじゃないですか。私の大事な神友である天照ちゃんが介入してきちゃったんですから」
「そんなの私には関係ない。約束はどうするつもり?」
具現化ジャンケン終了後、聖梨華は小梅に連れられて彼女の部屋にいた。小梅はベッドに座りながらその正面に立っている聖梨華をにらみつける。その眼光はまるで人一人など簡単に殺せそうなほど。
暮人や美雪には聖梨華に内緒の頼みごとがある、と伝えているので特に不審がられるということはないだろう。
そんな視線に晒された聖梨華というと、溜息を吐きながらなんでも無いように答えた。
「はぁ。約束も何も、取引自体は小梅ちゃんも同意してくれたじゃないですか。私言いませんでしたっけ、それは勝ったら考えますよって」
「チッ、聞いてなかった………!」
「いくら嬉しかったからって浮かれてちゃダメですよ? まったく、『にいにの洗ってない使用済みパンツ』を欲しがるなんてとんだ変態ですねぇ! まぁその対価として小梅ちゃんの『従属手』を頂きましたが………しょ、正直私もドン引きです」
「にいには脱いだらすぐに洗濯しちゃうから私は漁れない。多分ばれる。あと変態じゃない。これは、愛」
「やはり兄妹なのに結婚したいほど好きなんですねぇ………」
ふふん、とぺったんな胸を張る小梅に対しジトっとした視線を向ける聖梨華。どんなことに使用するのかは知らないが、彼女にとってそのパンツは大変有意義に使われるのだろう。
流石勇者である暮人の妹、次元が違うと聖梨華は自分自身を納得させた。例え好意を抱いていたとしてもそこまでではない。
「でもまさかびっくりしましたよ。そこまでする小梅ちゃんの大切なお兄さんである如月さんを転生させたら、自分もその世界に転生したいだなんて言ってきた時は」
「その世界は一夫多妻制が認められる世界って、貴方が言った。家族も認められるとも」
「確かに言いましたねぇ」
「なら結論は一つ。妹である私は、にいにと結婚することが出来る。ここでは叶わない事が、貴方の世界では叶えることが出来るの………! ずっと、ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと、一緒に寄り添えていけるの………!」
頬に手を当てながら恍惚そうに表情を緩ませる。
「にいには私に女としての幸せを掴んで欲しいみたいだけど、にいに以外の男なんて眼中に無いし何の魅力も感じない。ましてや付き合って結婚して子供まで産むなんて吐き気がする。学校でも興味の無い有象無象がよって来るけど、対して知りもしない何の価値の無い男なんかより身を粉にして私を守ってくれたにいにの方がよっぽど素敵………♡」
「うわぁー、如月さんも如月さんですが小梅ちゃんもよっぽど重症ですね。シスコンブラコン極まれり………」
とろんとした瞳の小梅へ思わず渇いた笑みを浮かべる聖梨華。別に小梅に対して一歩引いた感情を抱いている訳ではないが、彼女の様子と言葉に本気を窺えた聖梨華は外側だけ装う。
次の瞬間、
「―――あ、でもいくら如月さんの妹である小梅ちゃんでも私の使命の邪魔はしないで下さいね?」
「………使命って?」
「もちろん小梅ちゃん、貴方のお兄さんの………殺害ですよ。私から言ったとはいえ、私の使命を知っている人間にあれこれ勝手に動かれるのは迷惑なんですよねぇ。………特に、彼の命を狙ったりすること、とか」
「………………………」
口を開いた聖梨華の声のトーンが、急に変わった事に気が付く小梅。小梅があの空間を除いて聖梨華と話した数なんて、それこそこの前家にケーキ作りに来た時と今日くらいしかない。
そのどれもが明るく天真爛漫さが伺える声質だったのにもかかわらず、今この場所、この空間にいる、小梅の目の前にいる彼女の声はとても―――冷ややかだった。
端的に言おう。小梅は目の前の女神に対し惧れを抱いていた。
「あと小梅ちゃん。これは女神としてではなく私個人の言葉なのですがはっきり言って貴方、不愉快です」
「っ、え………………?」
「如月さんを私の管理する異世界へ転移させる………確かにそれは勇者を必要とする世界の女神として崇高な使命です。本来ならば、何事よりも優先されなければいけない最重要事項です」
「なら、私の何が不愉快だっていうの………?」
「しかし―――たった一人の家族、妹である貴方が如月さんの殺害を望むような言い方は気に入りません」
「………ッ、それ、は………!」
目を見開きながら震える小梅。続く言葉を吐き出せず、空中へ視線を迷わせる。その様子を見つめる聖梨華の視線は変わらない。
彼女は怒っていた。その感情の原因は、もう既に分かっている。
見下ろしながら佇む聖梨華は言葉を続けた。
「家族ならば何故心配をしないのですか。妹ならば何故如月さんの思いを無視するのですか。―――好きならば、何故大切な人の死を肯定するような言葉を言えるんですか………!」
「………………………」
「如月さんは絶対に言わないでしょうから私が言いますね。小梅ちゃんは、"妹"という立場を利用して如月さんに今まで甘えてきただけです。自分の言動ならば如月さんが大体のことは叶えてくれるって、そう思っているのでしょう? 互いにとって残された大切な家族だとしても、それはあまりにも身勝手です」
小梅は聖梨華の紡ぐ言葉に何一つ反論できなかった。思いつく言葉などたくさんある。しかし、それは言ったところで言い訳にしかならないと小梅自身が理解していた。
夏場にもかかわらず、サァッと血の気が引く。指先の感覚が消える現象に襲われるが、急いで片方の手で掴んだ。
その表面は驚くほど冷たかった。
震えが止まらない。小さく歯音がかちかちとなる。息が、苦しい。他人から感じた初めての言葉の鋭さに聖梨華へ視線を向けることが出来なかった小梅は、恐る恐る彼女の顔を覗き込む。
聖梨華は眉を寄せながら複雑そうな顔をしていた。
「―――とまぁ、えらそーに叱責したものの強くは言えないんですよねー………ハァー」
「………ッ(ビクッ)」
「そりゃ小梅ちゃんは思春期真っ盛りの十四歳ですもんねぇ。私としたことが、少しだけ熱くなっちゃいました」
如月兄妹は両親が早くに亡くなるというハードさを抱えている。十四歳という精神的にも未熟故に利己的な考えに至っても仕方が無いと考えた聖梨華。
再度溜息を吐くと、聖梨華は小梅へと向き合い視線を合わせる。
「小梅ちゃんごめんなさい、言い過ぎました。………これは経験なんですがね、もう少しだけご自分を振り返ってみてはいかがでしょう? きっと、何か見えてくるものがある筈ですよ」
「振り、返る………」
「それじゃ、私はもう帰りますねっ! 今日は楽しかったです、ではではまた今度っ!」
聖梨華は元気な声で別れを告げる。沈んだ表情をしてる小梅に少しだけ心が痛むが、暮人の大切な妹であるならばこれはいずれ向き合わなければいけない問題。
なにせ"命"を狙っているのだ。その事を、決して軽視してはいけない。
「すぅ~~~、はぁ~~~」
ばたん、と音を立てて小梅の部屋から出た聖梨華は深呼吸を行なう。その表情には幾分か寂寥さが残っていた。
下のリビングにいる暮人や美雪に帰る事を伝える為、歩みを進める。
思い出すのは先程の小梅との会話。
「本当、なに言ってるんでしょうね」
片手で押さえた胸の奥底には、自分の言葉がまるで鉛のように重くのしかかっていた。
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