無属性魔術師、最強パーティの一員でしたが去りました。

ぽてさら

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『セントパール魔術学園~学園ダンジョン編~』

第二章:プロローグ~『迷宮に挑む者』 後編

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 悠然と歩み寄るは二人の女性。髪を靡かせながら優雅に歩く様子は歴史に残る絵画のよう。

 言葉の端々に妖艶な雰囲気を纏わせながら近づいてくるのは、手入れの行き届いた緩くウェーブのかかった長い水色の髪を後ろから細いリボンで二つにまとめているユリアと呼ばれた一人の美女。
 年齢は二十歳を超えたあたりだろうか。左目には眼帯をしており、パッと見ると彼女は無造作にロングヘアを二つに纏めているようだが、口調・仕草・雰囲気の一つ一つが艶めかしいのでさほど気にはならず、更に魅力的に映る。
 そしてそんな容姿とは裏腹に、腰に武器である刀を差しているのもその妖艶さを際立たせている要因の一つだろう。

 隣で歩く彼女の事をユリアという名で呼んだ一方の美女は、深碧しんぺき色の髪をしたボーイッシュな見た目。軽さがあるフレームの眼鏡を掛けており、その薄いレンズ越しには僅かに吊り上がった瞳が印象的だ。
 隣にいるユリアと同年代なのか、赤と緑のラインが入った黒のコートを羽織っており、白のレディースでフリル付きのワイシャツを着ている。その胸元には真っ赤な紐状のリボンが映えていた。


「ガッハッハ、やはりここは摩訶不思議じゃあのう!! 何もない場所に攻撃を放ちおったら空間・・が剥がれ落ちたわい!!」
「ここは七大迷宮の内の一つだからな。魔素の量が桁違いに多く、ある不特定の場所には不可視の物質……まぁ例えるとするならば、魔素で出来た頑丈な膜が広く張られてある。このダンジョンの特性である『強欲』も相まって、ガンドローグとアヤトがいる空間に集中して遮る形になったのだろうね。そしてそれは、膜のどこかにある綻びを見つけて結合崩壊させない限り解除されない」


 口を大きく開口して目の前で起きた事実に慣れているにも拘らず高笑いするのはガンドローグと呼ばれた褐色の肉体を晒す老人。それに対し説明するように凛とした口調で深碧色の髪をした女性が返答すると、アヤト、つまりガンドローグから"アヤ坊"と呼ばれていた少年が表情を歪めながら口をへの形にした。目に見えてテンションが低くなっているのが分かる。


「えぇー………じゃあ何、つまり僕は『強欲』の適正者であるローグ爺の側にいたから延々と同じ場所を歩く羽目になったし、大勢の魔物にも遭遇したの?」
「うふふ、結果的にそうなるわねぇ。でもローちゃんだけを責めちゃダメよ? 基本的に私たちは『罪』の性質に引っ張られやすいんだからぁ」


 不貞腐れるように口を尖らせるアヤトは目を細めながら責めるように隣にいるガンドローグをジト目で見るが、いつの間にか側に来ていたユリアからフード越しにポンポンと頭を撫でられると同時にたしなめられる。

 背が低いという事もあり、子ども扱いされる事に若干のコンプレックスを感じていたアヤトは「もう、やめてよぉ!」と言いつつその手を振り払った。ユリアはその様子を見ると、いつもの事なのか少しだけ困ったように目を細める。但し、その中には微笑ましさが十二分に含まれているが。
 

「それはそうと、お主らはどうだったのじゃ? 前回と比べて何か変わりはあったのか?」
「あ、それ僕も気になるぅー」


 本当は何故今回ダンジョンを探索したのかも分からないのにガンドローグに便乗して訊ねるアヤト。その心情を知ってか知らずか、深碧色の髪をした女性は切れ長な目をほんの少しの間伏せながら溜息を吐く。眼鏡のブリッジに人差し指と中指を軽く添えながら撫でた後、クイッとフィットするように調節しながら押し上げる。


「………あぁ。会議の際にも伝えたが、前回このダンジョンを踏破した後、私は地上に戻る瞬間にあるモノをこの目で見たんだ。魔物、そしてダンジョンボスとの激闘と迷宮による精神的な疲弊かとも思ったがどうしても気になってね。だから改めて確認する為に今日潜ったんだ。途中で私とユリアが合流して行動を続けたが—――私の目に狂いは無かった」
「と、いうことはお主が言っていた―――」


 静かに、けれども力強く彼女は頷くと言葉を続ける。


「天に真っ直ぐに伸びる巨大な『紅い塔』。直ぐに不自然な黒霧に包まれて消え去ったが、それは確かにあった」
「えぇ、ワタシも一緒だったから嘘じゃないわよぉ? 初めて見たときはと~ってもびっくりしたわぁ。不思議よねぇ、今まであんなの一回も見たことなかったんだからぁ」
「ほぅ、お主らがそう言うのであればそうなのであろうな!」


 『巨大な塔』という程のスケールなのだから、過去にこのダンジョンを探索したことのある彼女らがこれまでも一切見かけなかったという事はまず有り得ない。例え距離が大幅に離れていたとしても塔自体が大きいのだから視界に入って当然。塔の出現時間が短いという点を踏まえてもこれまでたった一回も見かけなかった事には違和感を感じる。
 感嘆するように腕を組みながら頷くガンドローグだが、一方のアヤトは口を固く結んだ後、恐る恐る口を開く。


「………それってさぁ、もしかして『巻き戻った』事に関係がある?」
『――――――――――』


 フードで表情を隠した少年が言い放つ『巻き戻った』という単語に過去を想起し無言になる各々。

 ―――嘗ての日々を、挑戦を、喜びを、踏破する為に努力してきた全ての出来事を。あの女神に踏み躙られた屈辱は、決して忘れない。

 あの頃の情景を皆が瞳に宿す中、艶やかな髪を搔き上げながら眼鏡をキラリと輝かせた女性が口を開く。


「さて、それはまだ詳しく調べてみないとわからないね。でも」


 普段真面目な口調の彼女がおどけた様な、それでいてどこか確信めいた表情で言葉を続ける。


「また新たな『物語』が紡がれたという事は確かだろう。―――そうだな、第一章の冒頭、『プロローグ』………というところかな?」
「まーたリーダーの意味深な表現が出たぁ。そういうところはまぁったく変わらないねぇ………あの頃と・・・・。あ、そういえばぁ、今エーヤ兄はどうしてるかなぁ? 手紙送ったんでしょ、えーと………そう、『エリディアル王国』に!」


 リーダーと呼ばれた女性の独特な表現に皆は調子を取り戻す。

 子供さながらに声を弾ませるアヤトの様子に「あらあら」と笑みを溢すメリアは頬に手を当てる。その表情は完全に蕩けきっており、目尻も下がっている。背後からは心なしかピンク色のオーラがむんむんと出ていた。今彼女が考えているのは一人の青年のこと。


「あらあらうふふ、エーちゃん、エーちゃぁん! 置き手紙だけ残して何処かにいなくなっちゃったと思って心配していたけれどまさかあの王国にいるなんてねぇ。今頃何しているのかしら………あぁんもう! あの可愛らしい黒髪を撫でながら、身体をぎゅうっと抱きしめたくて堪らないわぁ!」


 先程の膜を斬ったような凛とした口調ではなく、大きな艶やかな嬌声。服の上からでもハッキリと判る、くびれている腰をくねくねと揺らすと同時にその豊満な胸も一緒に揺れる。
 ゆっさゆっさと揺れる様子をジッと凝視しながら、眼鏡をかけた女性はさり気なく胸に手を当てる。だがそこには、どんなに努力したとしても縮められない差があった。気を取り直してごほん、と咳払いをする。


「エーヤの事だが、帝国で最近ようやく情報が手に入ってね。どうやらあれからずっとエリディアル王国で活動しているようだ。アヤトの言う通り手紙と、アイツしか扱えない『シンズ・オーバー・ユニット』をこの前ギルド宛に送った。勿論、皆から精製・・して貰った『罪』入りの魔力結晶もな」
「ガッハッハ! 儂の燃え滾る魂が、情熱が、エーヤへの想いが伝わったかぁ!!」
「あれって疲れるんだよねぇ………まぁエーヤ兄の為だから苦ではなかったけどぉ」
「なんだかんだ言ってみーんなエーちゃんの事大好きだからねぇ。私もたーっくさんの愛情を込めてつくったものぉ」


 ユリアは一拍だけ間を空けてある女性に流し目を向ける。


「メーちゃんも、それは一緒よねぇ?」
「…………ふん、まぁ義理とはいえたった一人の家族だからな。家族愛という意味合いでは愛情をたっぷりと込めたさ。そう、家族だからね」



 ユリアが放つ含みがある言葉に気付いているのか、メーちゃんと呼ばれた女性が頬を薄く染めながら『家族』という言葉を強調する。
 彼女は話題を変えるように片手で眼鏡をカチャッと上に押し上げながら続けた。


「エーヤの事だ、最近嫌な予感がしたがどうせそれもどうにか乗り越えるのだろう。側にはリルもいるし、リフィ・・・もエリディアル王国へ向かった。魔術学園に用事もあるだろうし彼女の事だからすぐさまエーヤを探して合流する予定だろうね」
「リフィアかぁ、無駄に元気だしエーヤ兄と相当会いたがっていたからねぇ………武器のメンテナンスも含めて。まぁ妥当かなぁ。………あとレオ兄は今どうしているのぉ? 最近連絡ほとんどないけどぉ」
「レオナルドの事は気にしなくても良い。王からの頼みで隣国にいるがアイツの事だ、涼しげな顔でふらっと戻って来るさ」


 柔らかな笑みを浮かべながらアヤトの問いに答える女性。新たに話題に出た二人とエーヤの事で話が盛り上がる三人を見ていたが、ふと視線を外し遠くを見据えると―――


「―――ッ」


 いつから出現していたのかは分からない。一瞬、たった一瞬だけ女性が視線を向くと巨大な紅い塔が姿を現していた。女性は目を見開くがそれもすぐさま黒い霧に包まれて、すうっと消え去る。


(一瞬だけ姿を現すのには何か仕掛けがあるのか…? それとも、何か条件が無いと入れない…?)


「メーちゃん?」
「…………あぁいや、なんでもない。そろそろ戻ろうか。お腹がすいてしまった」


 『紅い塔』が見えた事で女性の表情が一瞬だけ強張るがユリアの声で現実に引き戻される。長時間ダンジョンを探索していたという事もあり、どうしても時間の感覚が鈍る。
 この場にいるみんなに声を掛けると各々返事をする。眼鏡をかけた女性を先頭にしてヴェルダレア帝国へと戻る為に歩き出した。






 そう、この女性の名は『プルメリア・クリアノート』。

 現在エリディアル王国にいるエーヤ・クリアノートの義姉であり、『書庫創造ブック・メイカー』などの二つ名を持つ。そして―――ヴェルダレア帝国を中心に活動拠点としている曲者揃いの最強Sランク冒険者パーティ『永遠の色調カラーズ・ネスト』のメンバーを率いるリーダーだ。





 エーヤと彼女らが再び邂逅するのは、時間の問題だろう―――。





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