無属性魔術師、最強パーティの一員でしたが去りました。

ぽてさら

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『セントパール魔術学園~学園ダンジョン編~』

第35話『爆☆拳☆少☆女、来訪』③

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 互いの得物を打ち鳴らす鈍い音が辺りに響き渡るが、しばらく止む気配が無い。しかしあれからというもの疲労が蓄積してきたのか次第にペースは落ちてきていた。リフィアは手甲を装着した状態で何度もエーヤの身体を狙ってきていたが、当たれば骨折どころじゃ済まない事を知っていたエーヤは今のところなんとか躱したり『具現の警棒』で手甲を弾いたりして必死に避ける。


「はぁはぁ………っ、なぁ、これはいつまで続けるんだ? そろそろお前も限界なんじゃないのか?」
「………はっはーん、エーヤっちぃ。もしかして自分の体力の無さを棚に上げてウチを理由にこれを中断させようとしてるのかにゃーん?―――言っとくけど、ウチが怒ってる理由がわからなぃ限り止めてぁげなぃから」


 リフィアがそう言い放った途端打ち込みの速度が速くなる。互いにペースダウンしていたと思っていたがどうやら彼女の方は調整していただけのようだ。しかし一方は違う。事実、エーヤの身体は当に限界に達しており、身体中の筋肉が悲鳴を上げている状態だった。


 リフィアは知らない。エーヤが数日前まで魔物の大群と戦った事を。―――『罪』の力と共に魔力を全て引き出してついさっきまで意識を失っていた事を。





 少女の猛烈な拳によるラッシュ、エーヤは躱し続けるが徐々に全ては捌ききれなくなっていく。僅かながら休息を摂れたおかげである程度魔力貯蔵庫プールには魔力を回復出来ていたのだが、先程から身体強化を使用し続けていたせいで少しづつ減っているのが判る。


「お前が怒る理由っつっても…! 俺には勝手に出て行った事と、『具現の警棒コレ』を無理に扱ったことしか分からねぇよ!」
「ッ……ウチらとエーヤっちが離れて三年間経ったんだもんね。そりゃぁの時はイロイロあったし、エーヤっちも思うところがあったり武器が消耗するのは仕方ないし!」


 でも、と一拍空けると少女は言葉を紡ぐ。いつしか猛攻の勢いは静まっており、脱力したかのように腕は下がっていた。
 二人の間を吹き抜ける風は柔らかくも清涼さを含む。


「でもそんなことよりも、ただ、相談して欲しかった。あの出来事を、失った悲しみを! 一人で全部抱えるよりも、ウチに、みんなに、話して欲しかった………!」
「―――――――――」


 目元に涙を浮かべながら話すリフィアを見て思わずはっとするエーヤ。パーティに居た頃でも決して涙を見せる事がなかった少女が込める想いの吐露に、激しく胸を締め付けられるような気持ちになる。途端に重苦しく圧し掛かるこの感情は、何と表現したら良いのかエーヤ自身でも分からない。
 


「エーヤっちにとってウチらの関係はそんなちっぽけなものだったの………? 責任を分かち合えない、頼りない仲間だった?」
「―――そんなこと無いっ!!」


 リフィアの瞳を真っ直ぐに見つめながら咄嗟に言い放つ。三年前と云えども共に過ごし支え合った彼女らが、頼りにならない存在な訳がなかった。


「そんなわけ、ないだろ………? あれから今までお前たちの存在がどれだけ俺を支えてくれたか………」
「じゃあ! なんで何も言わずに帝国から離れたの? 確かにあの後・・・エーヤっち含めてみんな離れ離れになった。でも時間をかけてみんな戻ったのにエーヤっちだけ戻ってこなかった!! みんな、心配してたんだよ………メチャクチャ疲れてたのに血眼になってあちこち探して、プッちーなんて食事も喉を通らなくて一回倒れたんだよ! そんである日拠点に戻ってみればただの置き手紙一枚だけ!」
「そ、れは………」


 エーヤは何も言えずに押し黙る。実際、戻らなかったのは事実であり今更それを弁明したところでただの言い訳に過ぎない。
 そしてリフィアが語った、エーヤ不在時の出来事はあまりにも衝撃で。当時は自分の事ばかりでみんなの事など考えられなかった。いつも心の中にあった思いは後悔や恐怖ばかりだったから。何度も何度もそんな気持ちが自らの心をかき乱すのが嫌で前向きになろうと決意する度、その先端が首をもたげるのだ。

 ―――『なぜ彼女を守る事が出来なかったのか』。
 ―――『自分にもっと強い力があれば』。
 ―――『責められるのが怖い』。

 その悔恨が心を蹂躙するほど、意識は彼女らから遠ざかった。例え心は共に在ろうと思考するが、何度も繰り返してしまう気持ちを断ち切ることが出来なくて。
 ―――結果、『逃げ出してしまった』。


「今、言い訳してもしょうがないってカオしてる………! やっぱ―――」
「―――私が、提案したんだよ」


 エーヤが過去の感情を反芻し瞳を揺らす中、再燃しかねない状況に横から口出しをするリル。今までエリーとメアと一緒にやりとりを静観していた幼女精霊だが、このままではますます悪化してしてしまうだろうという判断ゆえの行動。ふわりと浮き上がると魔力を散らし一瞬でエーヤの元へやって来る。


「提案………? なんでリルっちが………?」
「勘違いしていけないのは、あの時エーヤは一度戻ったんだよ。みんなのところにね」
「それは知ってる。置き手紙があったっていうのが証拠だし、何よりもメリっちの嗅覚がエーヤっちの体臭?を嗅ぎ取ってたし。それで?」


 リフィアは手甲を両腕から取り外すと腕を組む。戦闘を続行する意思は消えたようだが、このままでは本人は納得出来ないようで続きを促す。


「一旦戻ったんだけどさ。エーヤ、顔ではなんともないような顔をしておきながら心ではすっごく落ち込んだり後悔してたんだよー。それはもう、心が壊れかけてしまう・・・・・・・・・・。痛いほどどばっと私に流れてきたから、療養りょーよー目的で帝国から、しいてはみんなから離れる事を提案したんだよ」
「………なぁにそれ、それってウチらじゃエーヤっちの支えにはならなぃって前提の考ぇだよねぇ!? ウチらこそエーヤっちの抱ぇる痛みや悲しみは十分にわかって―――」
「―――本当に?」


 ぞくり、と何処からともなく寒気が走ったリフィアに対し、リルは静かに問い掛ける。


「エーヤの言う通り、あのパーティ・・・・の存在自体はエーヤの心の支えになっているんだよ。でも、貴方たちはエーヤの為に何をしてあげられる?」
「………ッ」
「『辛かったね』『側にいるから』『お前の気持ちはわかる』って慰める? 何か別なモノで簡単に紛らわせようとする? ………どれもぜーんぶ、当事者じゃないから出来る事」


 ちらりとエリーの方向に視線を向けるがすぐに戻す。だからさ、と言葉を区切るとリフィアを見つめて言い放った。


「―――いくらリーちゃんでも、軽々しくエーヤの気持ちを分かるなんて言わないで欲しいんだよ。エーヤの心は、エーヤ自身の物だから」
「リル………」


 エーヤはリフィアへ矛先を向けたリルに思わず息を呑む。リルがここまで『永遠の色調カラーズネスト』のメンバーであるリフィアに言い放つのは初めてだ。

 リルはエーヤの契約精霊であることには変わりない。即ち、契約した時点から精霊回路パスでエーヤとリルのお互いは繋がれており契約者の強い感情や気持ちが精霊側に流れる場合がある。三年前など特に顕著で、住居をエリディアル王国へ移して生活していても度々リルの側にエーヤの強い喪失感や怯えが流れた。現在では何の支障も無く普段通りに過ごせるようになったエーヤなのだが、常日頃その感情を痛烈に感じていたリルはある日決意する。

 ―――『絶対に、守ってみせる』と。

 あらゆる障害や悪意、彼を脅かすもの全てを守ろうと決めた。その意思は絶対に譲れるものではなく、それは『永遠の色調カラーズネスト』のメンバーの言葉や行動だとしても例外ではない。悪意や害意は無いのはリルも理解している。しかし、ともにエーヤと行動してきた彼女らだからこそ・・・・・・・・、その領分は見極めなければならないとも考える。


「………そっか」
「お、おいリフィア?」


 リフィアは無言でエーヤの元へ近づくと立ち止まる。身長差という事もあり俯いた状態の少女の表情は窺えないが、先程までの威勢の良い様子は鳴りを潜めていた。脈絡も無く近づいてきたリフィアに対し訝しむ表情を向けると、エーヤが片手に持っていた『具現の警棒』を奪い取る。するとその表面をじっと観察し始めた。


「ちょっ―――」
「やっぱ、所々摩耗してるねん。このままじゃ耐久度も品質も下がるからメンテナンスするし」 


 口調はそのままに、しかし元気がない様子で言葉を吐き出すリフィアにかける言葉が無いエーヤ。以前彼女が魔具の開発や派生方法で行き詰まったとき何度か覇気の無い状態を見かけたときがあったが、いざ自分が発端だとなんと言葉を掛けたら良いのか分からない。思いつく言葉は山ほどある。しかしどれも今の彼女にとって必要な言葉は、見当たらない。
 彼女は背中を向けると歩き出し、しばらくするとそのまま言葉を続ける。


「ウチ、テキトーにどっかの宿に泊まるから。メンテ完了したら届ける。あとエリっち、あっちでもヨロシク・・・・・・・・・
「あ、あぁ………」
「ふぇっ!? う、うん………?」
 

 
 その背を見送るエーヤは呆然と、突然話しかけられたエリーは最後の言葉に首を傾げながら曖昧に言葉を返す。それらの返事を確認する前にリフィアは走り出し、その姿は一瞬で見えなくなった。


 事の顛末を終始傍観していた一人のメイドは片手を頬に当てながら周囲を見渡すと一言呟く。


「あらあらまぁまぁ」


 抱く思いは数多く。しかしまずはこの現状をどうにかしなければ、としなくてはいけない優先順位を決めていた。

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