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第一幕 隣の天使が話しかけてきた
第20話 天使と保健室に行こう 2
しおりを挟むと冗談はさておき、僕はなんだか張り切っている様子の『天使』に声を掛ける。真剣さが滲み出てて素敵なんだけど、頑張るベクトルがなんか逸れてる気がするよ?
消毒液は百歩譲って分かる。しかし絆創膏とは!?
僕は風花さんがチョイスしたラインナップに疑問を抱きながらも修正を試みる。
「ふ、風花さーん。湿布と氷水を入れた袋だけで良いんじゃないかなぁ? ただ見た目が少し派手なだけで重病人じゃ……」
「私にとっては重病人だよぉ。……でもそうだねぇ、思えばこんなに必要ないっかぁ。じゃあ湿布と袋を準備してっとぉ」
「………ふぅ」
唐突なご主人様の御乱心を諫めた忠犬としてはまず一安心。いやぁ、(外見だけだけど)重病人って認識して心配してくれるのは本当に嬉しいわん。風花さんの思い遣りのある優しい性格故だろうねぇ、ほっこりしながら素直にお座りしてるんだわん(じーっ)。
目を細めながら暖かい視線で見ていると、風花さんは冷蔵庫の製氷機を開けながら分厚い袋に氷を入れ始めた。その後水を入れてしゃばしゃば。
彼女は湿布数枚とハサミ、そして氷水の入った袋を手に持つとベッドに腰掛ける僕の方へと近づいてきた。
ふと視線を上げると壁掛け時計が目に入ったので何気なく見る。すると僕は表情が固まった。
………もうすぐで朝のHRが始まる時間じゃないか! クラスのみんなは僕なんてどうでもいいだろうけど、教室にいない風花さんの事を心配してる筈だよ。『天使』は教室内の、いや、学園全体の清涼安定剤だからね!
風花さんに手当てして貰えるのはご褒美って考えていたけど、こんな僕の為に彼女の貴重な時間を奪うわけにはいかない。
そもそもこの怪我は自分で蒔いた種で出来た怪我だし、何よりこんな事に付き合わせてしまって申し訳が無いから。
あれ、冷静に考えてこの状況って二人っきりだね。
うわぁい。あの『天使』と呼ばれるゆるふわ系美少女、風花さん成分多量な空気を吸ってるー(棒)。
……もしクラスメイトにばれたら、これってハラキリ案件確定ですよね(ガクブル)。
よし、彼女が張り切っているところ言いにくいけどここは教室に行って貰おう。僕の流血沙汰を回避する為、そして何より風花さんの風評を守る為!
鋼よりも硬い意思をこの胸にぃぃぃ(くわっ)!!
「じゃぁ来人くん、まずはこれで冷やそっかぁ。患部に当てやすいように顔傾けてぇ」
「ふ、風花さん! 色々ありがとう。でも手を怪我してるわけじゃないし、もう自分で出来るから大丈夫だよ。ほら、HR間に合わなくなるよ?」
「あぁ! 職員室に行ったときついでにぃ、担任の小織せんせぇに「私が手当てするので一時限目までに戻ってきまぁす」って断ったから大丈夫だよぉ。ぁ………もしかして私ぃ、迷惑だったかなぁ?」
「いや全っ然迷惑じゃないよ、むしろ嬉しいな!」
「良かったぁ……っ!」
ダメでした。この風花さんの触れれば壊れそうな儚い表情からの満面の笑み、破壊力抜群だね。あっけなく打ち砕かれた僕でした。
もう欠片も無く微粉砕だよ。びふんびふん。
安心したかのように一息ついた風花さんは、いつもと変わらずにゆったりと言葉を続けた。
「じゃぁ改めて来人くん、顔傾けてぇ?」
「う、うん。お手柔らかにね……」
「あははぁ、数か所に痣が出来てるから小まめに当ててくねぇー。その後に湿布を張るよぉ」
風花さんがベッドに座る僕の隣に腰掛けると、手を伸ばして微量な熱の籠った患部を冷やしていく。袋越しに伝わる優しげな手付きが心地良い。
あぁーー、キンッキンに冷えて……はないけど程よくひんやりしてて気持ちいいなぁ。目を瞑ったまま思わず風花さんと同じようなにへらっとした表情をしてしまったよ。これは彼女だけの永久特権なのにねぇ。こんな間抜け面晒してごめんねぇ?
その後しばらく僕は風花さんによる処置を堪能。複数の痣や腫れている部分に満遍なく袋を当てたのだろう、最初に当てた患部と同じ位置に再度当てると彼女は言葉を紡いだ。
「どぉ? 気持ちいーいぃ?」
「うん、風花さんのおかげで今度こそすっかり痛みが引いたよ。ありがとね」
「どういたしましてぇ………ってぇ、やっぱり無理してたんじゃぁん。ダメだよぉ? ちゃんと痛い時は素直に痛いって言わないとぉ」
「うっ、……ごめん。少しだけ見栄張ったよ………次からは気を付けるね」
「よろしぃ」
心配げに僕を見つめる風花さんだったが、僕の返事に猫のように目を細めながら口角を上げる。はい可愛い。
そのまま彼女は湿布を手に取ると、ハサミで成形したのち僕の顔に貼り付けた。
だが、ふと僕はある事に気が付く。
……あれ、なんだかこの会話や構図って、まるで悪い事をした自分が年上の人に諭されているみたいだなぁ。こう、通学時のときとはややマイルドさが際立つ感じだったけどこれは案外―――、
(恥ずかしいなぁ………っ!)
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