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第一幕 隣の天使が話しかけてきた
第21話 天使と保健室に行こう 3
しおりを挟む『天使』と呼ばれる風花さんとはいえ相手は同級生。二人きりの状況という意識もある中、加えて美少女から言われたということもあって羞恥心がどんどん湧き上がってきた僕。
自分の顔色がリンゴのように真っ赤になっていくのが分かり、思わず腕で覆い隠したくなったのだが、現在風花さんが氷水が入った袋を顔に押さえているのでその行動は移せない。
やがて風花さんも顔色の変化に気付いたのか、そのことを指摘してきた。
「あれぇ、顔真っ赤じゃぁん。熱でもあるのぉ?」
「え、あっ、いやっ………ふぇあっ!?」
「んぅー、ないねぇ……? だとしたらどうしてぇ………。! あぁ、もしかしてぇ」
風花さんの小さな手のひらが僕の額にくっついたと自覚した瞬間に思わず声をあげるが、彼女はそのままゆっくりと離して首を傾げる。
一拍間を空けると、彼女は何かを思い至ったかのように口元をにゅふりと曲げた。
「―――二人っきりだからぁ?」
「う、わぁ………っ!!」
僕の隣に腰掛けていた風花さんだったが、急に顔をずいっと近づけてきた。整ったパーツと極め細やかな白肌をした風花さんの顔が僕の顔と超至近距離になったので思わず仰け反る。そしてその勢いのままベッドの上に倒れ込んだ。
覆い被さるか被らないか絶妙な体勢のまま、風花さんはそのまま斜め上から僕の顔を覗き込んでじーっと見つめる。その視線に先程の羞恥心と共に、美少女に見つめられることによる高揚感や恥ずかしさで息が詰まり顔が真っ赤になるのが自分でもわかった。
もう身体も心もかっちかち。
(ひぃぃ逃げられないし顔近いというか風花さんの顔めっちゃ小さいね! 睫毛はぱっちりしてるしつぶらな瞳もくりくりっとしててとってもキュートなのがはっきりわかる! 肌綺麗! 良い匂い! でもなにこれどういう状況!? 『天使』な風花さんがどうして僕に覆い被さるに近い体勢で目の前にいるのかな!? 僕のフリーズした頭では情報を処理しきれないんですけどぉ!?)
いきなりの状況についてこれず、僕は目をぎゅっと瞑ると顔を背ける。
しばらくの沈黙。互いの息遣いだけが聞こえるなか耳朶を揺らしたのは、まるで耐えきれないかのような笑い声だった。
「ぷっ、あはははははぁっ………っ!」
「ふ、風花さん……? あ、これってもしかしてなにかのシミュレーションだったりする……?」
「保健室で男の子と女の子だけの二人っきりなこの状況、確かにラノベ的には萌えるシチュだもんねぇ。………うん、まぁそう考えて貰っても良いよぉ。えへへぇ、来人くんのお顔ぉ、おもしろぉい……っ!」
うっすらと瞳を開ける。僕は戸惑いや呆然が混ざり合った複雑な表情をしているだろうが、身体を起こしながら風花さんはどこか満ち足りた、嬉しそうな表情を浮かべていた。………んぅ?
えーっと、ということはつまり……僕らは風花さんが考えていたであろうシミュレーションをいつの間にか実行していたっていうこと……?
そんな思いを抱きながらも、彼女の様子を見て脱力。未だ僕の顔が真っ赤なのは自分でもわかるほど。
何故なら、にへらっとした表情の『天使』に揶揄われていた事に気が付いたからだ。
くぅ……っ、不意打ちとはいえその笑みの可愛さは陰りを見せないなぁ……っ! 僕の負けだぜ風花さん!
悔しさを感じるどころか僕は風花さんの『天使』力を再度噛みしめていると、時計の方向を見ていた彼女はそのまま言葉を続けた。
「あぁ、そろそろ朝のHRが終わった頃かなぁ……? でも授業がもうすぐ始まるけどぉ、来人くんはまだ休んでた方が良いねぇ―――だってぇ」
「え………?」
「―――お顔だけじゃなくぅ、耳まで真っ赤っかだよぉ?」
「………ッ!!」
「あははぁ! それじゃぁ来人くん、またあとでねぇ?」
風花さんはそう僕に囁くように耳の赤さを指摘すると、氷水の入った袋を僕に手渡しながらそそくさとベッドから降りる。
そうして彼女は自らの荷物を持つと僕に手を振りながら保健室から出て行った。
………………………ふぅ。
ゆるふわ系『天使』による怒涛の展開の果て、しばらく固まっていた僕はほっと息を吐く。その音はたった一人きりになった保健室に異様に響き渡ったような気がした。
やがて僕は真っ白な天井を見上げると、早まっている胸の鼓動を聴きながらひんやりとした袋を頬に押し当ててしみじみ呟いた。
「もしかして"保健室での怪我の手当てシミュレーション"、だったのかな……?」
………うん、まぁいっか。顔の火照りが治まるまで一限目は少しだけ遅れていこっ☆
◇
「あぅぅ………っ!」
来人くんの処置を終えて保健室を出た私は廊下を歩いていた。赤くなった顔を隠すように口元を押さえると、自然と歩みが早くなる。
うにゅ、早々に保健室から出て良かったぁ……! あのまま顔を赤くしたカワイイ来人くんと二人っきりでいたらぁ、また色々と先走る危険性があったよぉ。反省を活かせてほっと一安心。
うん、今も胸のドキドキが続いているねぇ。
「確かにあの痣を手当てを望んだのは私だったけどぉ、正直あんな顔を近づけるつもりはなかったんだよねぇ……」
いやぁ、最初は純粋に来人くんの事が心配で手当てするだけだったんだよぉ。私は全然シュミレーションとか考えてなかった。……いや本当だよぉ?
因みに職員室に鍵を取りに行ったときに他の先生が霧山せんせぇの代わりに保健室への同行を申しでたんだけどぉ、私が来人くんの手当てをしたかったからその旨を丁寧に断ったんだぁ。
せっかく好きな人と二人っきりになれるんだからぁ、積極的にそんな機会は逃さないようにしないとねぇ。
ま、まぁ最後の辺りはシュミレーションって事になっちゃったけど多分違和感はない筈だよねぇ? ……来人くんがいけないんだよぉ? あんな恥じらうようなお顔とか反則ぅ!
「でも私としては心が満たされて満足かなぁ。通学以外で二人っきりの空間は初めてだったしぃ……うん、これから教室や通学以外でそういう状況をどんどん作っていくのもあり寄りの大ありだよねぇ!」
よしっ、鍵を職員室に返してから教室に行こぉっとぉ!
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