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第二幕 天使がぐいぐい来る日常
第57話 天使と雨と体育祭 7
しおりを挟む「くぅ……ッ!」
砲弾が炸裂したかのような音が風花さんの腕とボールの接地面から鳴り響く。その衝撃にくしゃりと顔を僅かにゆがめる風花さんだったけど、無事にセッターの位置へとボールを運び込むことに成功した!
よしっ、このまま風花さんがスパイクかフェイントを決めれば同点になってまだチャンスがある! やっちゃえ風花さん!!
僕は心の中で固唾を呑んで風花さんの攻撃の様子を見守る。レフト側に走り込む風花さんに合わせてセッターがボールを上げると、風花さんはその落ちるタイミングに合わせてジャンプ―――、
「……ッ!?? うぅ……ッ!」
したのだけれど、ボールは風花さんの手を掠って頭上を通過。体育館の床にてーん、てーんと転がったのだった。
僕はいったいどうしたのかと風花さんをじっと見つめる。彼女は足元がおぼつかないように片足だけで着地すると、眉を顰めながら床に寝転がるようにして左足のふくらはぎを押さえた。
風花さん……っ! もしかしてスパイクの助走の時に足に力を入れ過ぎてつっちゃった……!?
「風花さん……」
僕は思わず風花さんの名前を呟くけど、すぐさま審判から試合終了の笛の音が体育館中に響き渡る。結果、最終得点は『24対26』。優勝は『女神』である我が姉がいる三年生チームとなった。
試合に勝利したことにより三年生チームと同学年らしき観客たちは興奮と歓喜に包まれるが、その一方でほとんどの生徒は足をつったであろう風花さんを心配してざわざわとしていた。
風花さんと同じメンバーの女子は心配そうな表情で彼女に駆け寄る。その様子を見ていた姉が複雑そうに喜び合っていた三年生メンバーに優しげな顔で何かを伝えると、コート下を潜って風花さんのもとへ足を運んだ。
「これから私はこの方を保健室に連れていきますので、みなさんは閉祭式に参加して下さい」
『は、はいっ!』
誰もが見惚れてしまう笑みを浮かべながら一年生メンバーの女子たちにそう伝えると、一斉にこくこくと|頷(うなづ)く。
姉は風花さんの肩を支えながらゆっくりとした足取りで体育館入口へと向かう。その際に僕へ一瞥するとそのまま保健室へと向かったのだった。
そうして無事に授賞式を終えると、体育祭は幕を閉じた。
◇
長いようであっという間だった体育祭が終わり、帰宅時間になる。
「楽しかったなぁ!」「決勝戦すごかったねー!」「打ち上げしようぜー!」などと明るく生徒が話しながら体育館を出て行く中、僕は急いで保健室へと向かう。
本当ならば姉が風花さんを保健室へと連れて行ったときにすぐさま僕も同行したかったのだけれども、姉との一瞬のアイコンタクトで『少し時間が経ったら来い』と言われたからだ。
そして保健室の扉の前に立つと、その取手に手を掛けて力を入れた。
「あ、あぁ……ら、来人くぅん……!」
「風花さん、足の具合はどう?」
「……先に帰るわ。じゃあね、風花」
保健室の扉を開けると、風花さんのバッグが置かれた処置台に座る風花さんと、その側に立つ体操着姿の一人の綺麗な女子の姿があった。彼女は確か、いつもお昼休憩の時に風花さんと一緒に昼食を食べているという三ツ橋瑠璃さん。
優しいね。たぶん、そのまま帰宅できるように持ってきたんだと思う。
彼女は風花さんにそのように伝えると保健室を退出して行った。おそらく僕との関わりが全くないからという理由でこの場に留まるのを遠慮したのだろう。
気を使わせてしまって本当にごめんね? ……でも、なんで僕の横を通り過ぎる際にふっと微笑んでいったんだろ?
三ツ橋さんが去った方向へと視線を向けながら彼女が浮かべた笑みの意味を思考していると、背後の風花さんが小さく声を出した。
「くんくん、くんくん。……よしぃ、たぶん大丈夫…………!」
「……?」
僕が風花さんへと顔を向けると、顔を後ろへと向けて何かをぼそぼそと話してグッとこぶしを握っていた。何に対しての仕草なのか良く分からず首を傾げていると、風花さんはその様子を僕が見ていることに気が付いたのか、はにかみながら言葉を紡いだ。
「え、えへへぇ……な、なんでもないよぉ! そ、それで足の具合だよねぇ……!? 麗華先輩から処置して貰ったから大丈夫だよぉ!」
「そっか、良かった……! それにしても、着地した瞬間にいきなり倒れ込んだからびっくりしちゃったよ」
「中盤から無理をしたのがいけなかったのかもねぇ……。これを決めたらまだチャンスがあるぅ! って力を入れ過ぎちゃったらつっちゃったんだぁ。結局、私のせいで負けちゃって……かっこ悪かったねぇ」
しゅん、と風花さんは普段よりも力無く微笑んで目を伏せながらそのように話す。そんな落ち込んだ様子を見せる風花さんだけど、僕は自信を持って首を振る。そして間髪入れずに話し掛けた。
「―――かっこ良かったよ」
「え……っ!」
「あんな点数差でも諦めずに試合に向き合う風花さんの姿は、誰よりも輝いて見えたよ」
かっこ良くて、可愛くて、魅力的で。……そんな風花さんに見惚れて、試合中にずっと釘づけになっていたことは内緒だよ。
僕は頬を染めている彼女に視線を合わせると、勇気を出して右手を出す。そして、
「お疲れさま、風花さん。頑張ったね」
「―――ッ!」
ぽんぽん、と風花さんの頭に手を置く。すると制汗剤だろう、爽やかな香りが鼻孔をくすぐり柔らかな茶髪の感触が広がった。同時に心の中がとても暖かくなる。
いつの間にか、外は晴れていた。
きっと彼女にとって全力で挑んだ試合だったのだろう。
僕を見る風花さんは一瞬だけ泣きそうな表情になるけど、その可憐な唇をぎゅっと引き締めると恥ずかしそうにして顔を逸らした。
「ら、来人くんもぉ……っ、ねぇ……!」
……え、それって僕が試合中に風花さんを応援したこと? それとも風花さんに触れたことについて? どっちの意味? ……それとも両方?
なんだか自分からそれを聞くのはとても恥ずかしかったので、そのまま風花さんと共に帰宅しました(照れ顔)。
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