死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸

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第1章〜塔の上の指揮者〜

第12話〜静かなる異変〜

 討ち取った数は、すでに全体の半数を超えている。
 押し切れる――そう思った、その矢先だった。

 魔物たちの動きに、明らかな“変化”が現れ始めた。

 これまでは誘導されるように突っ込んできた個体たちが、
 次第に“力任せ”に、柵ごと押し切ろうとし始めたのだ。

 

 バキッ。

 

 乾いた音が響いた。
 一本の防衛柵が、力任せにへし折られたのだ。

 
 その魔物は、
 まるで投石の合間を見計らったかのように身を沈め、
 岩弾の届かぬ角度から、一直線に柵へと突っ込んできた。
 

 そしてその背後から、同じように無理やり押し込む個体が、次々と現れる。

「やばい……っ!」

「押されてる! 食い止めろ、絶対に抜かせるな!」

 

 焦りの声が飛ぶ。

 

 防衛線はまだ保たれている。

 だが、確実に“綻び”が出始めていた。

 

 押し寄せる魔物の重みで、柵がしなり、ひび割れ、

 ついに一角が崩される。

 

 その瞬間――

 

「前に出ろ! タワーシールド隊、応戦だ!」

 最後の砦、“タワーシールド隊”が前に出る。

 村の力自慢たちが、鉄製の巨大な盾を構えて前へ。

 突撃してきた魔物の爪が、盾に弾かれて火花を散らす。

 

「ぐッ……押されるな、踏ん張れぇッ!!」


 防衛線が揺れる。

 タワーシールド隊が耐える一方、
 塔の2階から弓兵が狙い撃つ。

 矢が突き刺さり、魔物の動きが鈍る。

 すかさず盾兵が押し返し、ようやく一体を地に伏せさせる。
 

 矢だけでは仕留めきれない――だが、それでも連携は機能していた。

 
 タワーシールド隊が踏みとどまり、弓兵が支援する。

 ギリギリの攻防だったが、防衛線はまだ“持っていた”。
 

(いける……まだ、いける……!)


 そう思った矢先――違和感が走った。

 

 視界の外、北東の森。
 そこから、突如として高速で突っ込んでくる十体の反応。

 

(……ッ!?)

 

 十本の赤い軌跡が、塔の真横をすり抜け、村の背後へと回り込む。

 

 想定していなかった方向。
 そこは自然の崖地で、普通の魔物なら回り込めない“はず”の場所だった。

 

「セリア、北東! 崖沿いの隘路あいろだ!
 十体、突っ込んできてる!しかも速い!」

 

 俺の声に、すぐそばで地図を見ていたセリアが顔を上げる。

 

「……隘路あいろ、ですか?
 私の布陣でも、そこは死角にしています。
 本来なら侵入は困難な地形です。けれど……」

 

 セリアの声が一瞬だけ途切れる。
 彼女にとっても、想定外だったらしい。

 

「塔正面の突撃は、ただの囮だったのか……?
 だとすれば、こっちが“本命”……まさか、策でも講じているのか?」

 

 冷たい汗が背筋を伝う。

 

(馬鹿な。相手は魔物だ。
 連携や判断なんて、あるはずが――)

 

 脳裏をよぎるのは、迷いなく走る十体の動き。
 あまりにも整然としていて、まるで戦場を理解しているかのようだった。

 

 そんなはずはないと否定しかけたとき、隣から静かな声が届く。

 

「ルノス様、今は――それを考えても仕方ありません。
 “来ている”という事実があるだけで、理由は後です」

 

 セリアの言葉に、思考が引き戻される。

 

「……そうだな。今は止めることだけ考える」

 

 俺はすぐに問いかけた。

 

「北東に出せる戦力は?」

 

「……一人だけ。前線を崩さず動かせるのは、それが限界です」

 セリアの答えに、一瞬、胸の奥がざらついた。

 誰かを動かせば、その誰かを――危険に晒すことになる。
 けれど、それでも選ばなければならない。
 今、あそこに立てるのは、ただひとりしかいない。

「……リリィを向かわせる」 

 セリアが、わずかに視線を動かす。 

「弓の腕なら、彼女が一番だ。
 狩人としての勘もある。動きを読む力も、判断もできる。
 あの森で、俺たちを助けたときみたいに――きっと、応えてくれるはずだ」

 そう言って、さらに言葉を重ねる。

「ただし、敵に接近はさせない。
 裏手の丘から、動きを見て、撃てるなら撃たせる。
 それ以上の無理は、絶対にさせない」 

 自分の中の迷いを、断ち切るように。

「戦力として、あの娘を信じてる。
 けれどそれは、“任せて放り出す”って意味じゃない」

 命じることと、見捨てることは、違う。
 

 言い切ると、セリアは静かに頷いた。

 

「異論はありません。
 彼女なら――届くはずです」

 

 俺は、深く息を吸い込んだ。

 焦る気持ちを押さえ込み、できるだけ冷静な声で叫ぶ。 

「リリィ! リリィ、いるか!」 

 塔の最上階から声を張り上げると、二階の窓がばっと開いた。
 そこから、弓を構えたまま、リリィが顔をのぞかせる。

 

 その頬には汗が滲み、目元は緊張に強張っている。
けれど、しっかりとこちらを見上げていた。

「落ち着いて聞いてくれ!」

「北東から魔物が十体――崖沿いの道を回って、この塔を目指して突っ込んでくる!」

 息を飲む。
 言葉を選んでいる暇なんて、本当はなかった。
 それでも、伝えなきゃいけないことがあった。 

 「裏手の丘なら、一瞬だけ射程に入る。
 そこに立てるのは……リリィしかいない!」


 リリィの瞳が、かすかに揺れる。
 けれど、その手は微動だにせず、弓をしっかりと構えていた。

 

 「リリィの腕を、信じてる。
 狩人としての目と、勘と、判断……全部だ」
 

 言葉を吐くたび、胸の奥が焼けつくようだった。


 「少しでもいい。
 奴らの足を止めてくれれば、それだけで助かる!

 敵の動きを見て、いけると思ったら――撃つんだ!
 ただし――絶対に無理はするな!



 ……生きて帰ってこい。
 何があっても、命だけは優先してくれ!」

 
 最後の言葉は、願いでもあり、命令でもあった。

 一瞬だけ、リリィの目が揺れる。
 それでも、彼女は小さく頷くと、矢を収めて塔を飛び出していった。

 その背中が見えなくなっても、胸のざわつきは消えなかった。
 迷った末に選び、信じて送り出したはずだった。

 それでも――何ひとつ、解決してはいない。
 脅威は目前に迫り、打つ手は尽きかけている。
 焦りと不安が、喉の奥にこびりついたまま、離れてくれなかった。




◆◇◆ 次回更新のお知らせ ◆◇◆
更新は【明日12:05】を予定しております。
ぜひ続きもご覧ください。

よろしければ「お気に入り登録」や「ポイント投票」「感想・レビュー」などいただけると、とても励みになります。


◆◇◆ 後書き ◆◇◆

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!


どこかの柵がきしみ、
どこかの盾が火花を散らし、
どこかの青年が「どうする……どうする……!」と塔の上で自問中。

敵は正面から、そして回り道からも押し寄せてきます。
追い詰められた塔の上、見晴らしはいいけど、心境は完全にドン底。

それでも、誰かのせいにせず、「今ある手で何とかする」――
そんなルノスの姿が、少しでも胸に残っていれば嬉しいです。

 

◆次回:踏みとどまる者たち

そして次は、
塔の目の前で、ただ“踏みとどまる”ことだけを選んだ者たちの物語へ。

立ち止まれない者。
倒れられない者。
誰かを守ると決めた者。

極限の戦場で、ただ一歩も退かず、地を踏みしめる彼らの姿――
その先に、何が待つのか。

 

13話、少しだけ視点を変えてお送りします。
よろしければ、次回もぜひお付き合いください!

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