【読み切り】辺境の村防衛団で獣人の俺のただの日常物語

白夜

文字の大きさ
1 / 1

辺境の村防衛団で獣人の俺のただの日常物語

しおりを挟む
「虎丸!そっちだ!そっちに逃げたよ!」

静寂に包まれた深い森の中、その静寂を破るように
1人の銀色の髪の青年の声が飛ぶ。

その視線の先にいるのはまるで人ぐらいなら丸呑みしてしまいそうなほど大きな兎の魔獣だった。

その声を受けた金と黒が入り交じった髪の──
虎丸と呼ばれた青年は、まるで獣のような身のこなしでその兎を巨大な木の方へ追い詰めると、一気に刀を抜き放ちそのまま兎の首を切り裂いた。

兎は首から血を吹き出しながらその場に倒れ、
二度と動くことはなかった。

「ナイス!さっすが虎丸!見事な太刀筋だね!」

銀髪の青年は虎丸に追いつくと、開口一番にそんな言葉を放った

「そんなに褒められても分け前ぐらいしか
増えないぜ。アル」

そんな軽口を叩きながら満更でもなさそうに笑顔を見せ、猫のような耳をピクつかせ黄色と黒の縞模様のしっぽを振る青年。
そう、その青年は普通の人間ではなく、この世界では『獣人』と呼ばれる種族だった。

「さ、このデカ兎の血の匂いに誘われる奴が
出てこないうちにさっさと解体しちまおうぜ。
肉食の魔物は面倒なのが多いからなー」

そういってダガーを取り出し、手際よく皮を剥いでいく虎丸。
そしてその皮を剥いだ部分から次々とナイフで肉を切り出していくアル。
その2人のコンビネーションは随分と慣れたものだった。

「”デカ兎”じゃなくてフォレストラビット。
そろそろちゃんと覚えなよ」

「んー?別に対して変わらないだろ。
フォレストラビットっていちいち言うの面倒臭いしさ」

「......まぁ、それには確かに同意するけどさ」

「だろ?だからもうこの際デカ兎の方を正式名称としてだな」

「出来るわけないでしょ、そんなこと。馬鹿なこと言ってないで、早く運ぼう。日が暮れちゃうよ」

そう言ってアルは背負っていた鞄から本を取り出すと少し集中する。
すると、何も書かれていない白紙のページが光り出した。
そしてその光るページの中に大きな肉の塊を次々と無造作に放り込んでいく。

「...いいなー、その『収納の魔導書』
   俺も欲しいなー」

「これは借り物だって。別に僕のって訳じゃないよ」

「でもアルしか貸してもらえてるの見た事ないぞ。実質アルの物みたいなものだろ」

「まぁ、『戦士隊』で魔力を使える人が僕ぐらいしかいないからね......」

「あー、俺もこの刀とかしまいたいんだけどなぁ」

「よく言うよ、意地でも離さない癖に」

「いや、『はやて』はともかく、『紅牙こうが』は外せないんだって!」

「はいはい、呪いだっけ?そりゃご愁傷さま」

「相変わらず信じてないだろお前」

「だって呪いの武器だって知ってるのに自分から
装備したんでしょ?そんなん信じれないよ」

「いや、だからぁ」

「あ、ほら虎丸。着いたよ。報告しに行こう」

そう言ってアルは『ピース村防衛団本部』のドアをノックして入っていく。
虎丸は納得が行かないのを表すように口をへの字に曲げながらアルに続いて入っていった
中には5人がけのテーブルや椅子、本棚、簡単な台所など様々なものがあるが
部屋の奥に置いてある横長の少し豪華な机。
その机とセットになった椅子に腰掛けながら書類を見ている黒髪のキリッとした女性に話しかけた

「レイ隊長、防衛団員アルギュロス=ツァール。
   ただいま帰還しました」

「同じく虎丸。帰還しました」

レイと呼ばれた女性は書類から目を離すと、
少し微笑んで2人に話しかけた

「あぁ、おかえり2人とも。どうだった?
フォレストラビットの調査は」

「はい、かなり大きな個体でしたが、倒す難易度
自体は従来のフォレストラビットとそう変わりませんでした。あれならむしろ肉も毛皮も沢山取れるので幸運だと思います」

そういって魔導書を開き、先程肉を放り込んでいたページを見せる。
そこには入っている重量や数なども表示されているようだ。

「ほう、確かにたくさんの資材が取れているな......わかった。村のみんなにもそう伝えておく。
ご苦労だったな、アル、虎丸。
今日はもう仕事はないぞ。ゆっくり休むといい」

「はい、お疲れ様でした」

「そうそう、お前たち昼食はまだ食べていないのだろう?ミードの店にその肉を持っていくといい。
何やら新しい兎料理をちょうど作りたいと言っていたぞ。もしかしたらそのまま試作品が食えるかもな」

そういうとレイはニヤッと笑った。

「本当ですか?ありがとうございます。
行ってみることにします」

「あぁ、気をつけてな」
 
そう言って2人は本部を後にした

「......虎丸、お前ずっと黙ってたな」

「黙ってればアルが全部報告してくれるからな」

「全く......氷華にも報告してやろうかな」

「勘弁してくれ」

「はは、冗談だよ冗談。やだなぁ本気でするわけないだろ」

「相棒、そういうのはせめて目を笑わせて
言うもんなんだぜ相棒」

アルは1つ伸びをすると、わざとらしく話題を変える

「......さーて、どんな料理なのかなぁ。
ミードの料理は美味しいからなぁ。楽しみだ」

「......ま、大抵ピースエールも飲まされるけどな。
こっちが仕事中だって言ってるのに聞きやしねえんだあのオヤジは」

「いや、結局ノリノリで呑むじゃないか」

「勧められた酒を断るのは男じゃない、
そう教わって来たからな」

「全く、虎丸の親の顔が見て見たいよ」

そんな話をしながら店のドアを開けると、
カランカラン、とドアに付けられた小さな鐘が鳴る。

店の中は昼食時らしい賑わいを見せており、様々な料理の匂いがすきっ腹に響く。

2人はカウンター席に座ると、テーブルの上のベルを鳴らした。

少しすると、店の奥から髪を剃りあげた坊主頭の
巨漢が出てくる。
その肌は褐色に焼けており、十人に聞いたら十人が実に「らしい」という感想を述べる酒場の店主だろう

「おぉ、虎丸にアルじゃねえか。どうしたんだ」

「どうしたもこうしたもねーよ。
兎の肉を届けるついでに昼飯食いに来たんだ。
欲しいって聞いたもんでな」

虎丸が合図すると、アルが本を開いて兎の肉を出す

「それは助かる。ちょうど切らしてたんだ」

そう言ってミードが肉に手を伸ばすと、虎丸がそれを横から阻止する

「まぁもちろん、タダではないけど...な?」

そう言って笑う虎丸のイタズラっぽい笑みを見て、ミードは何かを察したようだった。

「...あぁ、そういう事か。ったくしょうがねえな。お前らに1番に食わせてやるよ」

その言葉を聞いてアルと虎丸は軽く片手で
ハイタッチをする。

「ただし、酒の1杯ぐらいは頼んでもらうからな」

「ま、そんぐらいなら注文するよ。いいよな、アル」

「まぁ、今日はもう仕事終わってるからね。
それでも昼間からお酒はどうかと思うけど」

「細かいことは気にするな。俺の故郷なんか
朝から晩まで酒飲んでる奴がいたぞ。鬼だけど」

「ほんとに1度見てみたいものだね」

その後も少し話をしてるうちに、奥からミードが
料理と酒を持って出てくる。

「これは...ハンバーグ?」

「お、正解。兎の肉で作ってみたハンバーグだ」

「へぇ、ハンバーグなんて街の方でしか見たこと
ないよ。なんでこれにしようと思ったの?
あんまりお酒のアテって感じじゃないけど」

「まぁ、最近昼間は普通に家族連れが来るからな。
その辺をターゲットにしたメニューってことだ」

「ふーん......あ、美味しい」

「だろ?やっぱりアルはわかってるな」

「うん、これなら子供とかでも食べられるよ。
ソースも辛くないし」

「ほら、虎丸。おめぇにも食わせてやってるんだから感想よこしな」

「美味い、んだけど。やっぱ俺とかには物足りないって思っちゃうな。女性と子供とかには人気だと思う。だから大人用というかさ、もっとガッツリしたそういうのも増やすといいんじゃないか。って思った」

「ふん、なるほどな。参考にしとくよ」

「その言い方は参考にしない時の奴だろ」

「いいから兎の香草焼きでも食っとけってのが本音だ」

「本音ってのは隠しとくもんだぜマスターさん」

「そうだな、参考にしとくよ」

「この野郎...」

「ほら、早く食べなよ虎丸。冷めるよ?
あと眠くなってきた」

「先に帰って寝とけよ。もう少し飲んでから帰ることにするわ」

「ん、わかった。じゃ、ご馳走様。ミード」

「おう、じゃあなアル。また来いよ」

「うん、約束するよ。またね」

そう言って店のドアがカランカラン、と音を立てた

─────────────────────

「ふぅ、今日は疲れたなぁ」

虎丸と自分に割り当てられた部屋のベッドに転がりながら、そう呟く。

「明日は、どんな仕事があるのかなぁ」

そう言って目を瞑る。
いつ仕事があるか分からないのだ。
寝れる時に寝ておくのは大切なのだと誰に言うわけでもなく言い訳をして。

「...待っててね、姉さん」

思い浮かべるのは昔、自分を守る為に代わりに人攫いに攫われてしまった姉の姿
もう、5年は経っただろう。
それでも鮮明におもいだせる。
あの時の、姉の無理やり作った悲しい笑顔は。

「必ず、助けるから」

誰に言うわけでもなく、そう誓うのだった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

妹が嫁げば終わり、、、なんてことはありませんでした。

頭フェアリータイプ
ファンタジー
物語が終わってハッピーエンド、なんてことはない。その後も人生は続いていく。 結婚エピソード追加しました。

追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」 ──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。 だが彼は思った。 「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」 そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら…… 気づけば村が巨大都市になっていた。 農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。 「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」 一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前! 慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが…… 「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」 もはや世界最強の領主となったレオンは、 「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、 今日ものんびり温泉につかるのだった。 ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

年の差にも悪意がみなぎりすぎでは????

頭フェアリータイプ
ファンタジー
乙女ゲームの悪役令嬢?に転生した主人公。でもこんな分かりやすい状況でおとなしく嵌められるはずもなく。。。

死んだ土を最強の畑に変える「土壌神の恵み」〜元農家、異世界の食糧難を救い、やがて伝説の開拓領主になる〜

黒崎隼人
ファンタジー
土を愛し、土に愛された男、アロン。 日本の農家として過労死した彼は、不作と飢饉に喘ぐ異世界の貧しい村の少年として転生する。 そこは、栄養を失い、死に絶えた土が広がる絶望の土地だった。 だが、アロンには前世の知識と、土の状態を見抜き活性化させる異能『土壌神の恵み』があった! 「この死んだ土地を、世界で一番豊かな畑に変えてみせる」 一本のスコップと規格外の農業スキルで、アロンは大地を蘇らせていく。 生み出されるのは、異世界人がかつて味わったことのない絶品野菜と料理の数々。 飢えた村人を救い、病弱な公爵令嬢を元気にし、やがてその評判は国をも動かすことに――。 食で人々を繋ぎ、戦わずして国を救う。 最強の農家による、痛快異世界農業ファンタジー、ここに開幕!

令嬢失格な私なので

あんど もあ
ファンタジー
貴族の令息令嬢が学ぶ王都学園。 そこのカースト最下位と思われている寮生の中でも、最も令嬢らしからぬディアナ。 しかしその正体は……。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...