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Ⅰ-122 探しているもの

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■風の国 王都 ゲイル

 ハンスはイースト商会の紹介状を見せて、ようやく王都ゲイルに入ることが出来た。馬に乗る獣人は珍しいからだろう、ゲイルの入市税以外に素性の分かるものの提示を求められ、兵士小屋の中へ連れて行かれた。ハンス以外に呼び止められたものは、後にも先にもいなかった。自分が目立つ存在であるのは十分に承知している。それでも、なんとしても情報を得なければならない。魔竜の復活は近いのだ、炎の剣を使いこなせるアイツを何としても見つけなければ・・・。ハンスは馬から降りるとマントのフードを深くかぶり直して、背中を丸めて王都の石畳を歩き始めた。

 無事にゲイルに着いたことを知らせるために、まずはイースト商会へ立ち寄った。イースト商会の早便なら、2・3日中にはイースタンの所に届くはずだ。イースト商会は大陸中に販路を持っている。ゲイルのイースト商会もこの国で一番の大店だろう。風の国自体がもともと商業や工業が盛んな国で、衣服や農機具等を作って他の国に売っている。その代わりに水の国からは大量の農産物が入ってきていた。二つの国はお互いに補い合うことで、ここまで発展してきているのだ。

 宿は下町にある小汚いところに泊まることにしてある。あのあたりなら、黒い死人達の事を知っているやつらも多くいるだろう。だが、シリウスの時もそうだが、獣人だと嗅ぎまわっている事がすぐに伝わってしまう。誰かほかの人間を使う必要がある・・・

 ■黒い死人達のアジト

「それで、奴は宿屋に入ったんだな?」
「へい、今晩押し込んで連れてきましょうか?」
「いや、まだ良い。だが、人手をかけて後をつけろ。絶対に見失うなよ!」
「わかりました!」

 ホリスは相手からこの町へ来てくれたことで強気になっていた。うまくすれば、他の奴らも一緒に捕らえられるだろう。兄貴の指示は4人だ、一人捕まえれば期限を延ばしてもらうつもりだったが、期限内に4人捕らえられるなら文句なしだ。

 何故かはわからないが、獣人から俺達に探りを入れているらしい。わざわざ死ぬために来るとは、変わった奴もいるものだが、こっちには好都合だ。どうやらツキが回って来たらしい。

 ホリスの口元には不気味な笑みが広がっていた。

 ■風の国 町の宿屋

「それで、明日ゲイルに着いたら、どうするつもりなんだい?」
「えっと、まずはイースト商会に行きます」
「その後は?」
「えっと・・・、お兄ちゃんからの伝言があると思うから・・・」
「そうかい、じゃあ、あたしはゲイルに入るときに別行動にさせてもらうよ」
「えっ!何処かへ行っちゃうの!?」
「安心おし、あんたもあたしも奴らの仲間に顔を見られているだろ?一緒に居ない方が良いんだよ」
「そっか・・・」

 やっぱり、リンネの方が私よりしっかりしている。一人は怖いけど頑張らないと。

「あたしもイースト商会に日暮れ前に行くからさ、それまでに宿を探しておいておくれ」
「うん、わかった」

 宿か、自分でお金を払ったことは無いけど、たぶん大丈夫。いつもサトルが話してたのを聞いてたし、銀貨1枚ぐらいの所なら問題ないはず。お金は大事に使わないと・・・。
 あれ? その前にイースト商会は何処にあるんだろ?

■セントレアの北東 林の中

 セントレアへ残り2時間ぐらいの場所で完全に日が沈んだ。車のライトはあるが、舗装されていない道を夜に走るのは危ない。近くの林の中で野営することにした。林の中で平らな場所を見つけて、小さめのキャンピングカーを呼び出す。車で寝るのはミーシャだけだからベッドが一つしかなくても問題はない。

 シャワータイムのあとの夕食は焼き飯と野菜スープを用意した。肉中心の生活だと米がどうしても食べたくなる。寿司も考えたが・・・、一人の時にしておこう。

「それで、明日はゲイルに着いたらどうするの?」
「リンネを当てにしているのだ。あいつなら、ゲイルに居る黒い死人達に伝手があるから、話が聞き出せるかもしれない」
「リンネを信用しても大丈夫なのか?」
「ああ、私は信用している」
「だけど、不死の死人使いで、もともとはあいつ等の仲間みたいなもんだろ?」
「確かに不死の死人使いだが、あそこに居たのはあの女なりの義理堅さだろう。黒い死人の仲間じゃないさ」
「義理堅さ?」
「あいつは領民と一緒に死んで、その死んだ領民と一緒に領主を討った。その後は死人が人を襲い始めても放っておくことも出来たが、あいつはもう一度領民のために戻ってきたのだ。自分と一緒に死んだ領民の方を見捨てることができなかったらしい」

 ミーシャはリンネの小屋で長い寝物語を聞かされていたから、俺よりもリンネの想いをくみ取ったのだろう。

「わかった。じゃあ、俺も信じるよ。それで、狼を攫ったやつは何が目的だったんだろう?」
「オールドシルバーは幸せを呼び込む存在だ。手元に置いておけば、幸せになれると考える奴が居てもおかしくないのだ」

 -無理矢理連れて行っても幸せは呼んでくれない気がするが。

「それでも、人手をかけて捕まえたってことは、黒幕はお金がある人だよね?」
「そのはずだ、かなりの金が動いていると思う」

 -金持ち、権力者、いずれにせよ、黒い死人達を動かせる力のある奴だ。

「狼がどこにいるか、判ったらどうするつもりなの?」
「相手によるが、金で譲ってもらうように話をしてみるつもりだ」

 -悪人を使ってわざわざ捕まえたやつが金で譲るだろうか?

「もし、譲ってくれなければ」
「何とかして、解き放つしかないだろうな」

 -何とかして・・・実力行使ということか。

「お前は何もしなくて良いぞ。これは私の問題だからな」
「うん、俺はこっちに危害を加えない人間は攻撃したくないんだよ」
「知っている。お前は優しい奴だからな」

 優しい・・・、と言うよりも現世の倫理観に縛られたヘタレなだけだ。異世界だからと言って、気軽に人を撃つのは避けたい。単純にそれだけの話だ。

 でも、襲われれば・・・、撃つしかないのだろう。相手が人であってもだ。

■ゲイルの組合

 ハンスは組合のホールで二人の男と酒を飲みながら話をしていた。この二人を選んだのは、見るからに金に困っている様子だったからだ。酒をおごると持ちかけて、銀貨5枚の仕事に興味がないかと聞くと、二人とも乗り気になっている。

「それで、あんたは俺に何をさせたいんだい?」
「そうだな、今から飲み屋に行って話を聞いてもらうだけでいいよ」
「それだけで良いのか? なんだか胡散臭い話だな・・・」
「いや、仕事はそれだけだが、聞いてきてほしいのは黒い死人達のことだ」
「黒い・・・、そいつはヤベエだろ!」

 ほろ酔い機嫌だった二人が急に真剣な顔になって声を潜めた。

「慌てるなよ、お前たちは何処に行けば黒い死人達に会えるかだけを聞いてくればいいんだ。あいつらに会う必要はない。最初に銀貨2枚、会える場所か人を聞き出せたら銀貨3枚を払うが、どうだ?」
「聞き出すだけでも、ヤベエだろ・・・、最初に銀貨3枚、聞き出せたら銀貨5枚だ。これなら、聞いてきてやるよ」

 最初の金だけ持ち逃げされる可能性もあるがやむを得ないだろう。

「わかった、その条件で良いだろう。ただし、お前たちがちゃんと動いているかは俺の仲間が見張っているからな、金に見合った分は働けよ。今から行けば飲んでる連中は口が軽くなってる頃だろう。良い話を聞いてきてくれ、明日の晩にここで聞かせてもらうから」

 ハンスの仲間は誰も居ないが、目の前の二人は辺りを見回した。ハンスはテーブルの上に銀貨を6枚置いて、その場を静かに離れて行った。
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