異世界へ全てを持っていく少年- 快適なモンスターハントのはずが、いつの間にか勇者に取り込まれそうな感じです。この先どうなるの?

初老の妄想

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Ⅱ-133 空中戦3

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■神殿の上空

 サリナを抱えたまま後ろ向きに倒れた俺の視界に鷹の翼が空から飛び込んできたように見えた。船の下から舷側を飛び越えて、鋭い鉤づめをこちらに向けようとしている。立ち上がらすにホルスターに入れているサブマシンガン-MP7を抜いて勘で鷹の翼に向けて銃弾をばら撒いた。左の翼に銃弾が吸い込まれると、鷹は大きく羽ばたきながら離れて船の下へと逃げて行った。上からの攻撃は無くなったが、船は激しく上下に揺れ続けて立ち上がる事さえ難しかった。下から鷹がぶつかっているにしては揺れ方が激しく、そして長く続いている。船の高度も下がり続けているようだった。

 -体当たりしているんじゃないとしたら・・・。

 後部デッキを見るとママさんもベンチにしがみついているのが精いっぱいのようだった。おそらく鷹はプロペラシャフトに取り付いて羽ばたきながら船を揺さぶっているのだろう。魔法で焼いてほしいところだが、加減と方向を失敗すると俺達が吹き飛ばされることになる。俺はサリナを放り出して、立ち上がらずに這って後部デッキへと向かった。船底に鷹が掴む場所があるとしたら後部にあるプロペラシャフト以外には無いはずだ。

「マリアンヌさん、上から来ないか見ておいてください!」
「ええ、上は任せてください。だけど、この揺れを何とかしてもらわないと!」
「そっちは任せてください!」

 なんとかエンジンフードがある場所よりも後ろにたどり着くと、膝立ちで起き上がってアサルトライフルの銃口をデッキの床に向けた。

「何を・・・」

 -バッ!バッ!バッ!バッ!バッ!バッ!

 ママさんの問いかけを無視して、そのまま船の床をフルオートで撃ち抜く。船の揺れが少し収まったところで立ち上がり銃を持ち替えて30発の弾倉が空になるまで船のFRP素材を貫通させて下に居るはずの鷹を撃ち続けた。水の上に浮かぶ船だったら船底に穴を開けるなんてことは出来ないが、空飛ぶ船に浸水する心配は不要だ。FRPはガラス繊維とプラスチックでできた強固な素材ではあるが、尖ったものや銃弾などを止められる鉄のようなものでは無い。7.62㎜弾は苦も無くデッキと船底を貫通して下にいた鷹に襲い掛かった。

 -キュエーーーーイ!

 甲高い鳴き声が船底から聞こえると船の揺れは収まり、ゆっくりと上昇し始めている。

「やったかな・・・」
「いやぁー! あっち行けぇ! ふぁいあ!」

 俺がひと段落ついたところで前部デッキに置いて来たサリナにさっき追い払った鷹が襲いかかろうとしているのが見えたが、サリナも転がったままロッドを鷹に向けて火炎風の一撃で鷹を火だるまにしていた。これで一通り追い払えたはずだが確認は必要だ。立ち上がったサリナとママさんに船の下に飛んでいる奴が居ないかを確認してもらう。今の俺には下をのぞき込む度胸は全くない。

「下には居ないみたいだよ」
「こっちも大丈夫みたいですね」
「じゃあ、一度下に降りよう」

 地上に降りたかったのは高いところが怖かったと言うのもあるが、リンネを安全な場所に置いておきたかったからだ。地上に降りるとすぐに非常用シェルターを取り出して、リンネをその中に3人で移した。鋼鉄製のシェルターは戦争や大地震にも耐えられる強固なもので、魔獣やゴーレム相手でも大丈夫のはずだ。

「リンネを置いて何処に行くの?」
「神殿の上に見つけた洞窟の入り口から中に入る。リンネは歩けそうにないからな、ここで待っていてもらおう。それよりも、マリアンヌさん、タロウさんは何処に行ったんでしょう?俺達の戦いの巻き添えになっていないですか?」
「あの人が? 大丈夫ですよ、あの人に限って巻き添えなんて・・・、貴方があの人の事をどう思っているか知りませんけど、思っている以上に強く、丈夫だと思って間違いないです」
「そうですか・・・」

 俺がどれだけ心配しても実の娘は全く心配していない。サリナもママさんの言う事が良く判らないようで、俺達の会話を不思議そうな顔で聞いているだけだった。可哀想なタロウさんの事を心配しているのは血のつながらない俺だけ・・・という事だ。

■神殿の地下

 タロウは暗闇の中で襲い掛かる気配を感じて半歩右に動きながら腰の短剣を抜いて、今まで頭があった場所に素早く構えた。構えた短剣にぶつかる激しい剣の音を聞きながらバックステップで後方に飛んで左袖に仕込んでいた苦無くないをアンダースロ―で剣を振った男の体の位置へと素早く放った。

「クゥッ!」

 暗闇から苦鳴が聞えたが、その方向から横殴りに剣が振るわれる音がする。だが、剣先が届く前にタロウは更に後方へと飛んでいた。

「貴様、暗闇でも見えるのか!?」

 剣を振るった男は空振りになった剣を引き戻しながら驚きの声を上げた。

「・・・」

 タロウは返事をせずに暗闇の中で音を立てずに静かに移動していた。暗闇の中で見えているわけでは無かったが、敵が動けば空気の揺らぎでその位置や動きを掴むことは造作なかった。勇者の一族は魔法力だけを修練してきたわけでは無い。タロウは幼いころから父に体術を徹底的に仕込まれているから、剣や槍相手の戦いでも後れを取ることは決してなかった。今、襲って来た相手も踏み込みも剣筋も一流の相手ではあるのだろうが、タロウにとっては脅威となるほどでは無いが・・・。問題は敵の数とこの部屋にある仕掛けの種類だろう。敵はこちらを待ち構えていたのだから、一人だけという事も考えにくいし、自分達だけが知っている罠があっても不思議はない。

 タロウ動きを止めて膝をついて手のひらを地面に当てた。土魔法は使えなくとも地面から伝わる微弱な振動を感じることはできた。

 -3人か・・・、少ないな。 右の床に空洞があるようだが・・・。

 少なくとも3人の敵と床の仕掛けへの対応を考えて立ち上がったタロウの耳に背後から飛んでくる刃の音が聞えた。
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