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Ⅱ-132 空中戦2

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■神殿の上空

 船を黒い蜂が出てきた方向に向けながら、双眼鏡で神殿の上の岩肌をチェックした。ほぼ垂直に切り立ったがけには入り口のような場所は見当たらない。所々に岩が付きだしたり、くぼんだ場所はあるのだが・・・!

 双眼鏡の中で崖の一部が動いたように見えた。大きな岩が少しだけ・・・、何かが出てくるのが見える。

 -今度は間違いなく鳥だな・・・かなり大きいけど。

 レンズの向こうから大きな羽を広げたのは猛禽類の鋭い牙と足爪をもった鳥だったが、不思議なことに穴から出ると同時に大きくなったように見えた。しかも、続々と飛び立とうとしている。

 -これは元から立つ必要がある。

「サリナ! 鳥が近づいて来たら炎でぶっ飛ばせ!」
「鳥? ・・・あれね! 判った!」
「マリアンヌさんも船の後方をお願いします」
「いいですよ、それよりもこの服はもう脱いでもいいかしら?なんだか動きにくいのです」
「魔法を使うのに支障が無いなら、しばらくは着ておいてください。まだ、蜂が隠れて居るかもしれませんからね」
「はーい」

 ママさんは拗ねた子供のような返事をして、虫よけの防護服を着たまま船尾へと向かってくれた。俺は指示をしながら対戦車ロケット砲AT4を構えて、安全装置のロックを外した。距離は700メートル程あるが少し上を狙えば行ける気がする。船を横に向けて後方の安全を確保しながらスコープで照準が合わせると、すぐに発射ボタンを押した。

 -ゴゥオン! ――― ドゴォーン!

 発射の爆音で砲塔から放たれた榴弾は糸を引くように断崖に直撃して盛大に岩肌を破壊した・・・が、右に大きく外してしまった。鳥は既に5羽がこちらへ向かい、さらに奥から続々と出ようとしている。ストレージから次のAT4を取り出して慎重に狙いをつけ直す。

 -ゴゥオン! ――― ドゴォーン!

 2発目は正確に狙いの岩の上に直撃して、出て来ようとしていた鳥を吹き飛ばしながら穴をふさいだ。これで追加出撃は無くなったが、最初に出てきた鳥は既に俺達の上空へと到達している。種類は鷹のようだが、10メートル以上あるこの船ぐらい翼長がありそうだから地球の鷹とは違うのは間違いない。鉤づめだって、俺の腕よりは太いのだろう。

「ふぁいあ!」

 サリナは前方から近づいてきた巨大鷹に炎をぶつけようとしたが、伸びる炎を綺麗にかわしながら鷹は真っすぐにこちらへ突っ込んで来る。

 -距離があると炎魔法ではかわされるが、近づけば追い払えるだろう。

 俺の予想通りサリナが鷹の動きに合わせてロッドを振り回すと、距離が近づくにつれてかわし切れなくなった鷹は船の下方向へと逃げて行った。後方のママさんはヘルメットの位置を直しながら、後ろに回り込もうとした鷹の1羽を風の刃で地面に叩き落した。後ろは問題なさそうだったので。俺は上空で旋回している2羽を解決することにした。重機関銃を使いたいところだが、ほぼ直上にいる敵を掃射するのは重い重機関銃では難しそうだったので。アサルトライフルの7.62㎜弾の連射で威力をカバーすることにした。

 キャビンの天井にアサルトライフルの二脚を乗せて、上空を旋回している鷹に向けてフルオートで銃弾を叩き込む。的の大きさが仇となり、銃弾は羽や胴体を切り裂くように直撃して、鷹は羽ばたきが不規則になると重力に負けて地面へと落ち始めて行った。銃弾は7.62㎜弾で十分な効果が発揮できると判ったので、安心して次を狙おうと銃口を回した。だが、鷹も旋回している危険性を察知したのだろう。翼を閉じてこちらを目指して急降下を始めていた。羽を閉じても的は小さくは無いが、さっきと比べると10分の1ぐらいになっている。

 -落ち着け俺!

 自分に言い聞かせながら、新しいアサルトライフルを取り出して膝をついて降下する鷹を引き付けた。自分の中で限界と思えるところまで引き付けてから、短く3回トリガーを引くと、鷹の頭部と胸から羽と血が飛び散り、翼を広げて空中で急停止するように逃げようとした。的が大きくなったので、フルオートで残弾を叩き込むと大量の血を流しながら地上へと落ちて行った。

 -良し、これで3匹。あと2か3か?

 船より上空に鷹が居ないことを確認して、サリナの様子を見に行った。

「どうだ? やっつけたか?」
「ダメー! 逃げるのが早くて、炎が追いつかないの!」
「だったら、手元から炎を出すな。鷹の目の前で炎を出してやれ」
「・・・そっか! そうだね。やってみる!」

 ロッドを持つとどうしても手元から炎を出したくなるが、炎も風もロッドから放つ必要は無い。自分が出したい場所で出してやることが出来るのだ。もっとも、それには強い魔法力と繰り返しの練習が必要になるが、俺とサリナは勇者のノートを見て、いろんな使い方を試してみている。

「しかし、もう船より上には上がって来ないな。学習能力があるのか・・・」
「がくしゅうのうりょく?」
「ああ、船の上は危険だと学んだと言う事だ」
「鳥のくせに? 生意気ね!?」

 余り学習能力が無いちびっ娘は鷹を見下しているようだが、敵を舐めてはいけない・・・、そう思ったとたんに船が足元から大きく揺さぶられた。

「ウワーっ!」

 バランスを崩してサリナが俺の方へ飛んできた。ムチムチの体を抱えながら尻もちをついた俺の上空に黒い影が覆いかぶさった。

■洞窟の中

 女は壁にあるネフロスの紋章へ祈りを捧げながら、水晶球を見ている男の首領に声を掛けた。

「鷹はどうだい?」
「うむ。ほとんどやられたが、時間を稼ぐ役には立っているようだ」
「ここの入り口も見つけられたみたいだからね。次の準備が必要だよ」
「ああ、ここまで来るとは思っていなかったがな。洞窟の中に入れば、奴らの魔法は使えない。見たところ剣の腕は大したことが無いようだから、料理するのは容易いだろう」
「あの若い男の魔法はどうだい?ここでは使えないのは間違いないかい?」

 男は呪法による結界で光の魔法を全て封じ込んでいることに楽観視しているが、女の方はそこまで効果に自信が無いようだ。

「わからぬ。だが、暗闇ではあの男も自由には動けんだろう」
「暗闇とて、炎を消す呪法と言う事であろう? 確かに松明もランプも使えぬが・・・」
「そうだな、あの男の魔法は我らの物とは全く違う。だが、女どもが使う魔法を封じ込めれば、死人の数で押し切れるだろう」
「・・・確かに。死人の数に不足は無い」
「そういう事だ」

 女は改めてネフロス神へ祈りを捧げて、この洞窟内に埋葬してあるすべての死人を操るべく意識を集中し始めた。
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