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Ⅱ-161 ネフロス国5

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■ネフロス国密林

 猿人部隊には装備を与えて半数をキャンプで休憩させて、残りの半数を連れてメイが暮らしていた農場へ向かうことにした。装備といっても与えたのは最大サイズの工事用ヘルメットとチタンの棒だ。ヘルメットは防護の意味もあるが、間違えて撃たないように黄色い目印で安全第一という事だ。チタン製の鋼材は単なる棒だが直径5㎝、長さ1メートルで猿人たちの膂力りょりょくなら人間の頭蓋を破壊するには十分な武器になるはずだった。装備を貰った猿人たちは大喜びで木を飛び回りながら、いろんなものをしばき上げていた。

 密林の中にある農場についてメイの通訳で猿人たちから情報を集めたが、密林には4か所の農場があり、メイが居た場所は獣人ばかりが集まっている農場と言う事ぐらいしか猿人たちは知らなかった。

「ミッドランドに獣人は沢山いるのか?」
「いや、ミッドランドには居ない。俺は洞窟で初めてメイを見た時はシンディの子供だと思ったが、話せるから違う種族だと判ったぐらいだ」

 ミッドランドに獣人が居ないなら、メイ達は何処から連れて来られたんだろうか?俺達が居たドリーミア? あるいは他の世界?

 農場の近くまで来ると、亀兵士が飛んできたがミーシャがすかさず撃ち落として、落ちた兵士を猿人たちがタコ殴りにしていく。最初から死人の兵士は血を流すことも無いが、顔の原型はとどめていなかった。猿人たちの知能は俺の意思を伝えるには十分で、チタンの棒だけで思った以上の戦力になってくれる。更に俺が頼むと農場の柵を乗り越えて中から扉を開けてくれたので、装甲戦闘車のまま乗り入れて中にいた兵士へ7.62㎜機銃で銃撃を浴びせた。

 農場には亀で飛んできたのも入れて18人の兵がいたが銃で撃たれるか猿人に殴られるかして、あっという間に無力化された。猿人は倒れた兵士を引きずりまわして俺の前まで連れて来てくれる。とりあえず3人残してからストレージに放り込んでおいた。

 3人の兵士は仲間の兵士が目の前で消えたところを見て、十分に怯えてくれたので聞きたいことの大部分を聞き出すことが出来た。用が済むと仲間がいるストレージの個室に追加していく。既にどのぐらいの死人を預かっているか判らなくなりつつあるが、時間のある時に確認することにしよう。

「メイ、お前はここに残るか?この農場には知り合いがいるんだろ?」
「ここには居ない・・・、お母さんもお父さんも神殿に・・・」

 可哀想なことを聞いてしまったのかもしれない。

「じゃあ、シンディと一緒に来てくれるか? 戦いに行くから危ないかもしれないけど、居てくれると助かるんだ」
「うん! 連れて行って!」

 メイは農場に残ってもいいと言った時とは全く違う笑顔でついて行くことを喜んでくれた。幼子を連れて戦いに行くのは危険だが、この世界に安全な所はそんなに多くない。農場にいるよりも装甲戦闘車の中でシンディが守ってくれる方が安全かもしれない。捕らわれていた獣人たちにパンと干し肉を中心に食料をふんだん置いてから次の農場へと向かった。

 メイ達が居たところは第4農場と言うところだったが、。続いて第2農場、第1農場と回ってベースキャンプへと戻った。猿人たちは襲撃が成功して活躍できたのでご機嫌だったが、俺は農場で集めた情報にめぼしい物が無く、神殿の攻略をどうするか悩んでいた。だが、既に日没の時間になり、夕食を食わせてから猿人たちには交替で見張りに出てもらうことにした。

 休憩する猿人のために外壁に使っているコンテナの中にマットレスを敷いてやると、狂ったように喜んで転がりまくっていた。メイによると食事も寝床も最高なので狼様と俺の言う事は何でも聞くと言っているらしい。

 俺達はメイとストックと一緒にシェルターの中に入って夜を過ごすことにした。明日以降の作戦を練る必要があるからだったが、外への警戒のために赤外線カメラを3台設置して、モニターで監視しながら食事をとることにした。

「明日は鉱山に捕らわれている人を解放しようと思っていますが、ストックさんはどうしますか? ここに残ってもらっても良いですし、農場に居てもらっても構いませんよ」
「そうだな・・・、迷惑でなければ一緒について行けないだろうか?ミッドランドの人間が捕らえられているなら、手助けしたいと思う。無論、連れて帰ることが出来れば謝礼が貰えると言う事もある」
「わかりました。その代わり自分の面倒はお願いします。解放した人間についても同じです。我々はミッドランドまでお連れすることは出来ませんから、農場の人達と一緒に自力で戻ってください」
「ああ、判っている。いずれにせよ感謝しているよ」

 農場で集めた情報では農場にいるのは子供と老人だけで、男達は鉱山で作業をさせられていると言う事だった。そして、女性の多くは年齢にかかわらず生贄となったと・・・。鉱山には100人ぐらいが働いているらしいが、入り口は神殿の北側に位置する場所にあって、捕虜と同じぐらい兵士がいる。

 農場や神殿を襲撃しているのは敵の戦力を確認するためだった。今の所手応えのある敵はいなかったが油断はできない。神殿には数百の死人兵が居る以外にも様々な仕掛けや土魔法を使える魔術師がいるらしいのだ。そう、この世界では魔法は土魔法しか使えない・・・。

「ストックさん、この世界にも神様はいるんでしょうか? 神を信仰する教会はある?」
「もちろん神はいるよ。ミッドランドには太陽神ラムー様を信じる神殿があるし、王家はラムー様の血を受け継いでいると言われている」

 -ラムー。ドリーミアとは違う神様ってことか。俺の“神”とも違うんだろう。

「ラムー様は魔法の恩恵を与えてくれないんですか?」
「それは俺には判らんな。傭兵の中には土魔法を使える者は居たが、太陽の魔法ってのは聞いたことが無い」
「そうですか・・・」

 今のところは土魔法だけを警戒しておけばいいと言う事だろう。それよりも大きな問題があった。どうやってドリーミアに戻るかという事だ。集めた情報から俺がネフロスについて導き出したのは、ネフロスの信者達はいろんな世界に祭壇を移動させることで行き来しているのではないかという仮説だった。兵士達は祭壇はこの世界から消えている時がある、そして、辺りの景色が突然変わることがあると言っていた。実際にあるはずの第3農場は無くなっていたし、その場所はドリーミアの森が持って来たようになっている。

 -パラレルワールドなのか? しかし、地面が移動するのか?

 一つだけ確かなのは、このミッドランドのネフロスにも、ドリーミアにもボルケーノ火山があり、火山から見て同じ場所に神殿があると言う事だ。火山とネフロスの神殿になにか秘密が隠されているような気がするが、確証があるわけでもない。

 -親玉を殺さずに捕まえないと・・・、帰れないかも・・・。

「サトル、明日は鉱山が終わったら神殿に行くのか?」
「それは時間次第かな。鉱山がすぐに片付けば、そのまま行っても良いけど。慌てないようにしたいと思っている。武器の訓練もしないといけないしね」
「そうか、判った」
「ミーシャとサリナは心配じゃないのかな? その・・・、ドリーミアに戻れないかもしれないだろ?」
「ふむ。戻れないか・・・、大丈夫だろう。お前もシルバーもいるのだしな」
「そう! サトルが居るから大丈夫!」
「そ、そうか・・・」

 俺以外の二人が何の心配もしていないのが解せないが、信頼されているなら頑張らないと・・・。
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