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派遣勇者の進む道
136.空の魔獣
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■獣人の村
~第12次派遣2日目~
村人たちが漁で使う船は両舷にオールをつけて二人で漕ぐ作りになっている。二隻の船で網を張って沖を流すだけで魚が獲れると言うが、沖のポイントに出ると空の魔獣に確実に見つかるらしい。
「船には何人乗るんですか?二隻なら私ともう一人が分かれて乗りたいんですが、大丈夫でしょうか?」
「大丈夫です。船は10人乗っても沈みません。今日は波も無いので、一隻には6人乗って行きます」
「マユミ、もう一隻に乗ってよ。俺が合図したら頭上に炎を何個も出して」
「わかりました!隊長!」
恐れを知らない関西女子は俺に敬礼をして、船を押し出そうとしている村人の方に歩いて行った。
「俺達はどうすれば?」
「コーヘイとアキラさんは他の村人から情報を引き出しながら、魔獣がどんな動きをするか見ておいてよ」
「二人で大丈夫ですか?」
「何とかなると思ってる」
いや、何とかするしかないだろう。タケルは弓の練習をおろそかにしていたことを後悔していた。
タケルは浜から村人たちと一緒に船を海に押し出して船尾から乗り込んだ。並んだ二人の漕ぎ手がオールを操り力強く船を進めて行く。
「サムスさん、魔獣はどっちから来るんですか?」
「左の海沿いにある高い崖の上がねぐらのようです」
サムスが指し示す方向には海から少し入った場所に小高くなっている岩場があった。ここからだと1kmぐらいは離れているはずだから、すぐに襲われることは無いだろう。
「誰か襲われた人が居るんですか?」
「ええ、漁の時に一人が私の目の前で・・・」
-咥えて運ばれたのだろうか?
「それはお気の毒に、魔獣はどんな姿形をしてるんでしょう?」
「大きな翼で長い口と鋭い歯を持っています。足の爪も大きいようでした」
-鳥と言うか・・・、恐竜なのか?
タケルは凪ぎの海を進んで行く船の上から、魔獣が飛んでくるであろう方向を眺めたが、今のところ気配はない。
砂浜の人影が小さくなった辺りで二隻の船が近寄った。接舷してこちらの船に積んである網をもう一隻に渡しながら海に落とし込んでいく。二隻は10メートルぐらい離れて、岸に沿って平行に船を並べてゆっくりとオールを漕ぎ始めた。
-ドン! ドン! ドン! ドン!
網を流し出してすぐに岸の方から大きな太鼓の音が聞えてきた。
「魔獣が来る合図です!」
「合図?」
「見張り台のものが、見つけると太鼓を叩くことになっています。岸に戻りましょうか?」
「いえ、このまま漁を続けてください」
タケルは崖の方を眺めながら不安そうなサムスをみて笑顔を向けてやった。
「大丈夫です。確実に仕留めますから」
そいつは青い空にある黒い点のようにタケルには見えた。だが、黒い点はどんどん大きく横に広がって来た。たまにしか羽ばたかないようだが、空飛ぶ魔獣に間違いないだろう。かなり高い場所を飛びながら、タケルが見上げる上空で旋回を始めた。
「マユミ! 炎を出す用意をしておいて!」
「了解!」
黒い魔獣は下から見ると図鑑で見たことのある翼竜そのものだった。大きな翼を広げて高い場所を滑空しながら回っている。上昇気流にのったトンビのようだ。
「よし! 大きな炎を5メートルぐらいの高さに出して!
「ファイア!」
マユミはすぐに頭上に大きな炎を立ち上らせた。
-オォー!!
船上の村人たちは炎を拝むように仰ぎ見ている。
「こちらの船にも炎をお願いします」
「いえ、こっちには炎は出しませんよ」
「な、なぜですか? 襲われてしまいます!」
「ええ、それを待っているんですよ」
翼竜は高いところをゆっくりと旋回しながら、徐々に高度を下げてきたようだ。タケルは槍を構えながら片膝を着いて、相手が下りてくるのを待ち構えた。揺れる船の上で立ってバランスをとるのは難しい。チャンスは1度だと思っていた。
-来た!
翼竜が翼を畳んで垂直に落下してくる。重力を利用した急降下でみるみる海面に近づいてきた。
「ヒィィー!!」
タケルの船の村人たちは頭を低くして船の舷側に隠れようとしていた。
-まだ、まだ・・・
タケルは顔と槍を翼竜に向けながら落下地点をイメージする。
-50メートル、20メートル、そろそろのはずだ、良し!
翼竜は5メートルぐらいの高さで降下から翼を広げて空中で羽ばたいた。
「ファイアーランス!」
空中で動きが遅くなった瞬間を狙って炎の槍を一気に突き出す。槍の穂先から細い炎が迸り、翼竜の首の付け根を直撃した。
-ブギィー!!
悲鳴を上げた翼竜へ槍の炎を追加する。
「ファイアーウィンド!」
槍の穂先から巨大な火炎風が翼竜を包み込みながら吹き飛ばしていった。翼竜は飛び上がろうともがいたが、羽ばたきが足りなかったようで海面に墜落した。それでも致命傷は与えられなかったようだ。海面でバシャバシャやってもがき続けて居るが、飛ぶのは無理だろう。ハンザ達は驚いた顔で海面の翼竜を眺めて呆然としていた。
「魚はもう獲れましたかね?」
「え!? 魚?」
「ええ、だって漁のために来たんでしょ?網を上げるのはまだ早いですか?」
「いえ、そろそろ上げても良い頃です」
「だったら、網を上げてあいつにとどめを刺しに行きましょう」
「わ、判りました。おい! 網を上げるぞ!」
サムス達は翼竜を倒したことで喜びよりも驚きを通り越した戸惑いがあるようだったが、網をこちらの船にどんどんと引き上げていく。離れていた二隻が徐々に近づいて、網の中にたくさんの魚が掛かっているのが水中に見えてきた。
「オッ! これは大漁じゃないですか!?」
「ええ、久しぶりの漁ですから魚影が濃かったようですね」
よし、今夜のご飯をゲットできた。後は翼竜の回収だな・・・ひょっとするとこいつも食べられるんじゃないか?
~第12次派遣2日目~
村人たちが漁で使う船は両舷にオールをつけて二人で漕ぐ作りになっている。二隻の船で網を張って沖を流すだけで魚が獲れると言うが、沖のポイントに出ると空の魔獣に確実に見つかるらしい。
「船には何人乗るんですか?二隻なら私ともう一人が分かれて乗りたいんですが、大丈夫でしょうか?」
「大丈夫です。船は10人乗っても沈みません。今日は波も無いので、一隻には6人乗って行きます」
「マユミ、もう一隻に乗ってよ。俺が合図したら頭上に炎を何個も出して」
「わかりました!隊長!」
恐れを知らない関西女子は俺に敬礼をして、船を押し出そうとしている村人の方に歩いて行った。
「俺達はどうすれば?」
「コーヘイとアキラさんは他の村人から情報を引き出しながら、魔獣がどんな動きをするか見ておいてよ」
「二人で大丈夫ですか?」
「何とかなると思ってる」
いや、何とかするしかないだろう。タケルは弓の練習をおろそかにしていたことを後悔していた。
タケルは浜から村人たちと一緒に船を海に押し出して船尾から乗り込んだ。並んだ二人の漕ぎ手がオールを操り力強く船を進めて行く。
「サムスさん、魔獣はどっちから来るんですか?」
「左の海沿いにある高い崖の上がねぐらのようです」
サムスが指し示す方向には海から少し入った場所に小高くなっている岩場があった。ここからだと1kmぐらいは離れているはずだから、すぐに襲われることは無いだろう。
「誰か襲われた人が居るんですか?」
「ええ、漁の時に一人が私の目の前で・・・」
-咥えて運ばれたのだろうか?
「それはお気の毒に、魔獣はどんな姿形をしてるんでしょう?」
「大きな翼で長い口と鋭い歯を持っています。足の爪も大きいようでした」
-鳥と言うか・・・、恐竜なのか?
タケルは凪ぎの海を進んで行く船の上から、魔獣が飛んでくるであろう方向を眺めたが、今のところ気配はない。
砂浜の人影が小さくなった辺りで二隻の船が近寄った。接舷してこちらの船に積んである網をもう一隻に渡しながら海に落とし込んでいく。二隻は10メートルぐらい離れて、岸に沿って平行に船を並べてゆっくりとオールを漕ぎ始めた。
-ドン! ドン! ドン! ドン!
網を流し出してすぐに岸の方から大きな太鼓の音が聞えてきた。
「魔獣が来る合図です!」
「合図?」
「見張り台のものが、見つけると太鼓を叩くことになっています。岸に戻りましょうか?」
「いえ、このまま漁を続けてください」
タケルは崖の方を眺めながら不安そうなサムスをみて笑顔を向けてやった。
「大丈夫です。確実に仕留めますから」
そいつは青い空にある黒い点のようにタケルには見えた。だが、黒い点はどんどん大きく横に広がって来た。たまにしか羽ばたかないようだが、空飛ぶ魔獣に間違いないだろう。かなり高い場所を飛びながら、タケルが見上げる上空で旋回を始めた。
「マユミ! 炎を出す用意をしておいて!」
「了解!」
黒い魔獣は下から見ると図鑑で見たことのある翼竜そのものだった。大きな翼を広げて高い場所を滑空しながら回っている。上昇気流にのったトンビのようだ。
「よし! 大きな炎を5メートルぐらいの高さに出して!
「ファイア!」
マユミはすぐに頭上に大きな炎を立ち上らせた。
-オォー!!
船上の村人たちは炎を拝むように仰ぎ見ている。
「こちらの船にも炎をお願いします」
「いえ、こっちには炎は出しませんよ」
「な、なぜですか? 襲われてしまいます!」
「ええ、それを待っているんですよ」
翼竜は高いところをゆっくりと旋回しながら、徐々に高度を下げてきたようだ。タケルは槍を構えながら片膝を着いて、相手が下りてくるのを待ち構えた。揺れる船の上で立ってバランスをとるのは難しい。チャンスは1度だと思っていた。
-来た!
翼竜が翼を畳んで垂直に落下してくる。重力を利用した急降下でみるみる海面に近づいてきた。
「ヒィィー!!」
タケルの船の村人たちは頭を低くして船の舷側に隠れようとしていた。
-まだ、まだ・・・
タケルは顔と槍を翼竜に向けながら落下地点をイメージする。
-50メートル、20メートル、そろそろのはずだ、良し!
翼竜は5メートルぐらいの高さで降下から翼を広げて空中で羽ばたいた。
「ファイアーランス!」
空中で動きが遅くなった瞬間を狙って炎の槍を一気に突き出す。槍の穂先から細い炎が迸り、翼竜の首の付け根を直撃した。
-ブギィー!!
悲鳴を上げた翼竜へ槍の炎を追加する。
「ファイアーウィンド!」
槍の穂先から巨大な火炎風が翼竜を包み込みながら吹き飛ばしていった。翼竜は飛び上がろうともがいたが、羽ばたきが足りなかったようで海面に墜落した。それでも致命傷は与えられなかったようだ。海面でバシャバシャやってもがき続けて居るが、飛ぶのは無理だろう。ハンザ達は驚いた顔で海面の翼竜を眺めて呆然としていた。
「魚はもう獲れましたかね?」
「え!? 魚?」
「ええ、だって漁のために来たんでしょ?網を上げるのはまだ早いですか?」
「いえ、そろそろ上げても良い頃です」
「だったら、網を上げてあいつにとどめを刺しに行きましょう」
「わ、判りました。おい! 網を上げるぞ!」
サムス達は翼竜を倒したことで喜びよりも驚きを通り越した戸惑いがあるようだったが、網をこちらの船にどんどんと引き上げていく。離れていた二隻が徐々に近づいて、網の中にたくさんの魚が掛かっているのが水中に見えてきた。
「オッ! これは大漁じゃないですか!?」
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