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2.中編1
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「リリアージュ様、ごきげんよう」
「ごきげんよう、フレグル様」
「リリアージュ様の婚約者様、また、あの方と一緒でしたわよ」
「そうですか」
「とても仲良くしてらして、まるで恋人同士のように見えましたわ。このままで宜しいのですか?」
「ええ、特に婚約者と言っても交流はありませんし、私たちは政略ですので問題はございません」
「でも、あの方のやり様は目に余りますわ」
「そうですわね」
あっさりと流した私にフレグル様はあきれたような目を向けると去って行ってしまった。
フレグル様は何とかして、私があの方に敵意を向けるようにされたいみたいだけど、あいにく私は自分の婚約者にこれっぽっちも好意を抱いていないのでむしろ浮気はどんどんして、できれば早く婚約破棄でもしてほしいと思っている。
あちらのおじい様がご存命でいる限り、それは難しい事だけど。
「リリー、大丈夫?」
「ええ、有り難う。平気よ」
「フレグル様はリリーに矢面に立ってほしいのね」
「そうね。いざとなれば切り捨てるのにいいんでしょうね」
「なんてこと。余計な罪を押し付けられないように一人にはならないようにしてね」
「ええ、そうね」
この学園に来て嬉しかったのは仲良くしてくれるお友達が何人かできた事。彼女たちも『氷の魔女』のお話を知っていたけれど、挿絵がそっくりなのは私と関係ないし、むしろ被害者だと言ってくれたのは嬉しかった。
私がお友達のマリア様と一緒に廊下を歩いていると向かい側からにぎやかな声が聞こえてきた。第三殿下とその取り巻き、護衛の方々だった。中に囲われて華やかな笑い声を上げているのはナーニソレ子爵のご令嬢、ウンデ様。
ウンデ様は私達と同学年だけど16歳になってから途中編入してきた方だ。ナーニソレ子爵の子ではあるけれど、お母様が侍女だったので、これまで市井で過ごされていたらしい。
お母様が亡くなられた為にナーニソレ子爵に引きとられたそうだ。礼儀作法が今一だけど、フレンドリーに男の方に接するので高位貴族の方々にはとても新鮮に映ったようだ。
お顔も可愛らしく親しみやすいし、こっそり同級生の方が教えて下さったけれど、笑うと、『氷の魔女』に出てくる心優しき魔術師の娘にそっくりなんですって。あの童話は魔女の挿絵と共に、魔術師の娘も緑髪と平凡な顔立ちに変えたけど、前の挿絵は茶髪に茶色の目、だけど笑うとエクボができる可愛らしい顔をしていた。
「あら、リリアージュ様」
「リリアージュ?!」
軽く会釈をしてやり過ごそうとしたのに、声をかけられてしまった。どうしてウンデ様が私の名前を御存じなのかしら? 面識もないのに。私の一応婚約者も側にいる。
「何か、悪い事を企てているんじゃないか?」
「確かに。何かとウンデを目の敵にしていると聞いているぞ」
「大方、婚約者が相手にしないので妬んでいるんじゃないか。氷の魔女なんか、王子に討伐されてしまうのに」
「皆さま、お止めになって。私は気にしていませんのに」
「いや、ウンデは優しいな」
「お前、氷の魔女、ウンデに感謝するんだな。お前の嫌がらせも許してやる、と言っているんだから。全く何でお前みたいなのが俺の婚約者なんだ、嫌になる」
こっちだってお断りです。婚約者らしいことなんて何一つした事がないくせに偉そうに言わないでほしい。嫌がらせも何も、接点などないのに何かできるというのかしら。
でも、殿下の護衛の中にカンジーン様がいて困ったような顔をされているのが見られた。カンジーン様は私と目が合うと僅かに頭を下げた。良かった。彼だけはこの言いがかりが理不尽だとわかって下さっているみたい。
「行きましょう。皆さま。リリアージュ様も私に意地悪はしないで下さいね」
「そうだぞ。何かしたら容赦しないぞ」
「まったく、氷の魔女なんかに関わり合うと碌な事がない」
「本当だ」
勝手な事を言って、集団は去って行ったけど、去り際に軽く頭を下げたカンジーン様を見られたので良し、としよう。
「リリー、凄く誤解されているけど」
「そうね。多分、フレグル様たちが何かされているのかもしれないわ」
「このままでは冤罪を掛けられてしまうかもしれないわ」
「ええ、困ったわ」
何とかしなくてはと思いつつ日々は過ぎ、通りかかる度に悪口を言われ、妙にウンデ様に庇われるので、かえって第三王子とその取り巻きに罵倒され、カンジーン様には申し訳ないという顔をされて居たたまれない。
あの人たちに会うのは嫌だけど、その度にカンジーン様と目が合うので其れは嬉しい。
念のためになるべく人目のあるところを移動して、一人にはならないようにしたし、学園に相談して密かに護衛を付けてもらう事にした。
学園長も最近の第三王子の様子に危惧を抱いていたらしく、私とウンデ様の様子を見たいと言って下さったので位置を追跡、記録する魔道具を私は自分から、ウンデ様にはこっそりと学年バッジに取り付けた。これで何か冤罪をかけられようとしても大丈夫だと思う。
備えあれば憂いなし、と言いますもの。
「ごきげんよう、フレグル様」
「リリアージュ様の婚約者様、また、あの方と一緒でしたわよ」
「そうですか」
「とても仲良くしてらして、まるで恋人同士のように見えましたわ。このままで宜しいのですか?」
「ええ、特に婚約者と言っても交流はありませんし、私たちは政略ですので問題はございません」
「でも、あの方のやり様は目に余りますわ」
「そうですわね」
あっさりと流した私にフレグル様はあきれたような目を向けると去って行ってしまった。
フレグル様は何とかして、私があの方に敵意を向けるようにされたいみたいだけど、あいにく私は自分の婚約者にこれっぽっちも好意を抱いていないのでむしろ浮気はどんどんして、できれば早く婚約破棄でもしてほしいと思っている。
あちらのおじい様がご存命でいる限り、それは難しい事だけど。
「リリー、大丈夫?」
「ええ、有り難う。平気よ」
「フレグル様はリリーに矢面に立ってほしいのね」
「そうね。いざとなれば切り捨てるのにいいんでしょうね」
「なんてこと。余計な罪を押し付けられないように一人にはならないようにしてね」
「ええ、そうね」
この学園に来て嬉しかったのは仲良くしてくれるお友達が何人かできた事。彼女たちも『氷の魔女』のお話を知っていたけれど、挿絵がそっくりなのは私と関係ないし、むしろ被害者だと言ってくれたのは嬉しかった。
私がお友達のマリア様と一緒に廊下を歩いていると向かい側からにぎやかな声が聞こえてきた。第三殿下とその取り巻き、護衛の方々だった。中に囲われて華やかな笑い声を上げているのはナーニソレ子爵のご令嬢、ウンデ様。
ウンデ様は私達と同学年だけど16歳になってから途中編入してきた方だ。ナーニソレ子爵の子ではあるけれど、お母様が侍女だったので、これまで市井で過ごされていたらしい。
お母様が亡くなられた為にナーニソレ子爵に引きとられたそうだ。礼儀作法が今一だけど、フレンドリーに男の方に接するので高位貴族の方々にはとても新鮮に映ったようだ。
お顔も可愛らしく親しみやすいし、こっそり同級生の方が教えて下さったけれど、笑うと、『氷の魔女』に出てくる心優しき魔術師の娘にそっくりなんですって。あの童話は魔女の挿絵と共に、魔術師の娘も緑髪と平凡な顔立ちに変えたけど、前の挿絵は茶髪に茶色の目、だけど笑うとエクボができる可愛らしい顔をしていた。
「あら、リリアージュ様」
「リリアージュ?!」
軽く会釈をしてやり過ごそうとしたのに、声をかけられてしまった。どうしてウンデ様が私の名前を御存じなのかしら? 面識もないのに。私の一応婚約者も側にいる。
「何か、悪い事を企てているんじゃないか?」
「確かに。何かとウンデを目の敵にしていると聞いているぞ」
「大方、婚約者が相手にしないので妬んでいるんじゃないか。氷の魔女なんか、王子に討伐されてしまうのに」
「皆さま、お止めになって。私は気にしていませんのに」
「いや、ウンデは優しいな」
「お前、氷の魔女、ウンデに感謝するんだな。お前の嫌がらせも許してやる、と言っているんだから。全く何でお前みたいなのが俺の婚約者なんだ、嫌になる」
こっちだってお断りです。婚約者らしいことなんて何一つした事がないくせに偉そうに言わないでほしい。嫌がらせも何も、接点などないのに何かできるというのかしら。
でも、殿下の護衛の中にカンジーン様がいて困ったような顔をされているのが見られた。カンジーン様は私と目が合うと僅かに頭を下げた。良かった。彼だけはこの言いがかりが理不尽だとわかって下さっているみたい。
「行きましょう。皆さま。リリアージュ様も私に意地悪はしないで下さいね」
「そうだぞ。何かしたら容赦しないぞ」
「まったく、氷の魔女なんかに関わり合うと碌な事がない」
「本当だ」
勝手な事を言って、集団は去って行ったけど、去り際に軽く頭を下げたカンジーン様を見られたので良し、としよう。
「リリー、凄く誤解されているけど」
「そうね。多分、フレグル様たちが何かされているのかもしれないわ」
「このままでは冤罪を掛けられてしまうかもしれないわ」
「ええ、困ったわ」
何とかしなくてはと思いつつ日々は過ぎ、通りかかる度に悪口を言われ、妙にウンデ様に庇われるので、かえって第三王子とその取り巻きに罵倒され、カンジーン様には申し訳ないという顔をされて居たたまれない。
あの人たちに会うのは嫌だけど、その度にカンジーン様と目が合うので其れは嬉しい。
念のためになるべく人目のあるところを移動して、一人にはならないようにしたし、学園に相談して密かに護衛を付けてもらう事にした。
学園長も最近の第三王子の様子に危惧を抱いていたらしく、私とウンデ様の様子を見たいと言って下さったので位置を追跡、記録する魔道具を私は自分から、ウンデ様にはこっそりと学年バッジに取り付けた。これで何か冤罪をかけられようとしても大丈夫だと思う。
備えあれば憂いなし、と言いますもの。
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