5 / 26
5.後編2
しおりを挟む
20歳を過ぎたらもう大人……のような気がする。この国では18歳が成人なんだけど何となく20歳まではお酒も飲むのが憚られて、これまでは飲まなかった。
「リリアージュ、誕生日おめでとう」
「おめでとう。リリアージュ。そろそろお酒を飲んで見るかい?」
「ありがとう、お父様にお母様、お兄様。そうね、ちょっとだけ飲んで見ようかしら」
「おおっー、やっとか。これは領地から取り寄せたのだが、リリアージュが教えてくれたやり方で作ったとても美味い酒だ」
「まあ、ありがとうございます」
渡されたお酒はシュワシュワと綺麗な泡が立ち、とても美味しかった。
頭の中に浮かんできたやり方でお酒を造ってほしいとお願いした時は不思議そうな顔をされたけど、あの時は何でも聞いてもらえる雰囲気だったので、お父様が私の為のお酒工房を作って下さったのだった。
まさか、工房までつくって本格的にするとは思わなかったけれど、そのおかげで美味しい泡のお酒、シャンパンが飲めるようになったのは良かったと思う。と言っても、私がほんの少しの味見以外に飲むのはこれが初めて。
初めてのお酒、シャンパン……美味しい。
「リリアージュは年々、綺麗になるような気がするな」
「まぁ、そんな」
「いや、リリアージュが考案した化粧水のおかげかもしれない」
「本当にリリアージュが考え付くものは貴重だ。この国の発展にも役立っている」
「まぁ、そう言っていただくと嬉しいですわ。ただ、私の欲しいものが形になっただけですけど」
「それがこれまで誰も考え付かなかったものだから素晴らしいんだ」
家族から褒められて気恥ずかしかった。
何となくこんなのがあったらいいな、と思うと頭の中に欲しいモノの設計図みたいなのが浮かんできて、材料も分かるし作り方も分かる。これは神様からの贈り物かもしれない。私は恵まれている。だからこれ以上望んではいけないのかもしれない。
7月7日、今日は私の誕生日。
この日は会いたい人に会える気がする。そんな気がしたんだけど、結局一目、見る事もかなわず普通に家族から誕生日をお祝いされて終わってしまった。
夜、そーっと秘密の本を開く。
本の中をくりぬいて小さな鍵が付いている私の宝物。その中にはカンジーン様の制服のボタンが入っている。
彼の袖のボタンが取れかかっているのを見つけて、本当は教えて縫い付けてあげたら良かったんだけど、言えなくてそのまま落ちてしまったボタンを渡さなくては、と持っているうちに新しいボタンが付いているのを見て、そのまま貰ってしまった。
それと彼の手書きの申請書。処理済の書類の中に入っていたのを偶然見つけて拾い上げた。そして、こっそり持って帰ってしまった。
カンジーン様のボタンと手書きの文字……。見ているだけで彼の笑顔が浮かんできて胸が苦しい。
あの時、勇気がなくて何も言えなかったけど、嫌われてはなかったと思う。
思い切って手紙を書いてみようか、と思いつつご迷惑になってはと躊躇してこの日にいたっている。
どうぞ、カンジーン様が無事でつつがなくお過ごしくださるように、と神様にお祈りしておく。
接点はないけれど、彼のおかれている状況がわかるこのお仕事が有難い、と思う。
今は正式に宰相補佐という役職でお給料もかなり貰っている。
発明と言うか思いついたモノの販売で個人的な資産もかなり多い。これから先、一人でも生きていけると思う。
以前、天使の焼き菓子は孤児院で販売していたけれど、今は王都に店舗を構えて焼き菓子だけでなくケーキや各種お菓子を扱う人気店となっている。孤児院には支店と言う形で焼き菓子だけ常時おいてもらっているけれど、お店の店員は孤児院出身者を雇っているので雇用の確保という点では助かっている。
あれからずっと私の日常は変わらない。平穏に日々が過ぎていく。
「まさか本当ですか?」
「ああ、まさかの宣戦布告だ」
「どうして、急に」
「国王が倒れて、好戦派の第3王子が軍部を押さえたらしい。王太子と第2王子の生死はわからない」
「それでどうして戦争に?」
「どうも国境の鉱山がほしいらしい。これから軍事国家を作るために鉱山がいくつもある国境の町を手に入れておきたいんだろう」
宰相であるお父様はため息をついた。隣国のクラーン国はこれまでは普通に付き合いのある穏やかな国だったのに、第3王子が権力を握ったとたんに野心をむき出しにした危険な国となってしまった。
「第3王子……」
「3番目の王子と言うのは何か鬱屈したモノがあるのかもしれないな」
「そう、ですね」
「うちの第3王子は洗脳もすっかり解けて、心を入れ替えたようにみえるが」
「そう、ですね」
「リリアージュに直接、謝りたいと言っていた」
「お父様、それは」
「わかっている。会いたくないよな」
「ええ……」
「一応、一応だが、もしリリアージュさえ良ければ王子妃として迎えたいとの話も」
「お父様!」
「おちろん、断った」
「なら、いいです。私、結婚はしません」
「それは……そうだよな。うん。もちろん、ずっと結婚なんてしなくていいとも」
お父様はちょっと嬉しそうだった。女性は結婚すべき、だとは思っているけど、私は傷物なので無理に結婚を勧めなくていい。複雑だけど内心は嬉しいのだと以前言っていたのを聞いたので、お嫁に行かせたくないとうのはお父様の本音なのだと思う。
それよりも、戦争! これまで何十年も戦争なんて起こった事はない。もし戦争となったら騎士たちは戦争に駆り出され、つまり、これまで魔獣討伐で功績を上げ続けてきたカンジーン様も、もちろん戦争に行かれる事になる。
カンジーン様、魔獣討伐の功績でもうすぐ準男爵になるはずだったのに……。
どうしよう。戦争にいかれてもしもの事があったら、……。
どうぞ、カンジーン様、無事でいて下さい。
遠くで祈るしかできないのが悲しい。
「リリアージュ、誕生日おめでとう」
「おめでとう。リリアージュ。そろそろお酒を飲んで見るかい?」
「ありがとう、お父様にお母様、お兄様。そうね、ちょっとだけ飲んで見ようかしら」
「おおっー、やっとか。これは領地から取り寄せたのだが、リリアージュが教えてくれたやり方で作ったとても美味い酒だ」
「まあ、ありがとうございます」
渡されたお酒はシュワシュワと綺麗な泡が立ち、とても美味しかった。
頭の中に浮かんできたやり方でお酒を造ってほしいとお願いした時は不思議そうな顔をされたけど、あの時は何でも聞いてもらえる雰囲気だったので、お父様が私の為のお酒工房を作って下さったのだった。
まさか、工房までつくって本格的にするとは思わなかったけれど、そのおかげで美味しい泡のお酒、シャンパンが飲めるようになったのは良かったと思う。と言っても、私がほんの少しの味見以外に飲むのはこれが初めて。
初めてのお酒、シャンパン……美味しい。
「リリアージュは年々、綺麗になるような気がするな」
「まぁ、そんな」
「いや、リリアージュが考案した化粧水のおかげかもしれない」
「本当にリリアージュが考え付くものは貴重だ。この国の発展にも役立っている」
「まぁ、そう言っていただくと嬉しいですわ。ただ、私の欲しいものが形になっただけですけど」
「それがこれまで誰も考え付かなかったものだから素晴らしいんだ」
家族から褒められて気恥ずかしかった。
何となくこんなのがあったらいいな、と思うと頭の中に欲しいモノの設計図みたいなのが浮かんできて、材料も分かるし作り方も分かる。これは神様からの贈り物かもしれない。私は恵まれている。だからこれ以上望んではいけないのかもしれない。
7月7日、今日は私の誕生日。
この日は会いたい人に会える気がする。そんな気がしたんだけど、結局一目、見る事もかなわず普通に家族から誕生日をお祝いされて終わってしまった。
夜、そーっと秘密の本を開く。
本の中をくりぬいて小さな鍵が付いている私の宝物。その中にはカンジーン様の制服のボタンが入っている。
彼の袖のボタンが取れかかっているのを見つけて、本当は教えて縫い付けてあげたら良かったんだけど、言えなくてそのまま落ちてしまったボタンを渡さなくては、と持っているうちに新しいボタンが付いているのを見て、そのまま貰ってしまった。
それと彼の手書きの申請書。処理済の書類の中に入っていたのを偶然見つけて拾い上げた。そして、こっそり持って帰ってしまった。
カンジーン様のボタンと手書きの文字……。見ているだけで彼の笑顔が浮かんできて胸が苦しい。
あの時、勇気がなくて何も言えなかったけど、嫌われてはなかったと思う。
思い切って手紙を書いてみようか、と思いつつご迷惑になってはと躊躇してこの日にいたっている。
どうぞ、カンジーン様が無事でつつがなくお過ごしくださるように、と神様にお祈りしておく。
接点はないけれど、彼のおかれている状況がわかるこのお仕事が有難い、と思う。
今は正式に宰相補佐という役職でお給料もかなり貰っている。
発明と言うか思いついたモノの販売で個人的な資産もかなり多い。これから先、一人でも生きていけると思う。
以前、天使の焼き菓子は孤児院で販売していたけれど、今は王都に店舗を構えて焼き菓子だけでなくケーキや各種お菓子を扱う人気店となっている。孤児院には支店と言う形で焼き菓子だけ常時おいてもらっているけれど、お店の店員は孤児院出身者を雇っているので雇用の確保という点では助かっている。
あれからずっと私の日常は変わらない。平穏に日々が過ぎていく。
「まさか本当ですか?」
「ああ、まさかの宣戦布告だ」
「どうして、急に」
「国王が倒れて、好戦派の第3王子が軍部を押さえたらしい。王太子と第2王子の生死はわからない」
「それでどうして戦争に?」
「どうも国境の鉱山がほしいらしい。これから軍事国家を作るために鉱山がいくつもある国境の町を手に入れておきたいんだろう」
宰相であるお父様はため息をついた。隣国のクラーン国はこれまでは普通に付き合いのある穏やかな国だったのに、第3王子が権力を握ったとたんに野心をむき出しにした危険な国となってしまった。
「第3王子……」
「3番目の王子と言うのは何か鬱屈したモノがあるのかもしれないな」
「そう、ですね」
「うちの第3王子は洗脳もすっかり解けて、心を入れ替えたようにみえるが」
「そう、ですね」
「リリアージュに直接、謝りたいと言っていた」
「お父様、それは」
「わかっている。会いたくないよな」
「ええ……」
「一応、一応だが、もしリリアージュさえ良ければ王子妃として迎えたいとの話も」
「お父様!」
「おちろん、断った」
「なら、いいです。私、結婚はしません」
「それは……そうだよな。うん。もちろん、ずっと結婚なんてしなくていいとも」
お父様はちょっと嬉しそうだった。女性は結婚すべき、だとは思っているけど、私は傷物なので無理に結婚を勧めなくていい。複雑だけど内心は嬉しいのだと以前言っていたのを聞いたので、お嫁に行かせたくないとうのはお父様の本音なのだと思う。
それよりも、戦争! これまで何十年も戦争なんて起こった事はない。もし戦争となったら騎士たちは戦争に駆り出され、つまり、これまで魔獣討伐で功績を上げ続けてきたカンジーン様も、もちろん戦争に行かれる事になる。
カンジーン様、魔獣討伐の功績でもうすぐ準男爵になるはずだったのに……。
どうしよう。戦争にいかれてもしもの事があったら、……。
どうぞ、カンジーン様、無事でいて下さい。
遠くで祈るしかできないのが悲しい。
0
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
恩知らずの婚約破棄とその顛末
みっちぇる。
恋愛
シェリスは婚約者であったジェスに婚約解消を告げられる。
それも、婚約披露宴の前日に。
さらに婚約披露宴はパートナーを変えてそのまま開催予定だという!
家族の支えもあり、婚約披露宴に招待客として参加するシェリスだが……
好奇にさらされる彼女を助けた人は。
前後編+おまけ、執筆済みです。
【続編開始しました】
執筆しながらの更新ですので、のんびりお待ちいただけると嬉しいです。
矛盾が出たら修正するので、その時はお知らせいたします。
2番目の1番【完】
綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。
騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。
それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。
王女様には私は勝てない。
結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。
※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです
自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。
批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…
もうあなた達を愛する心はありません
ぱんだ
恋愛
セラフィーナ・リヒテンベルクは、公爵家の長女として王立学園の寮で生活している。ある午後、届いた手紙が彼女の世界を揺るがす。
差出人は兄ジョージで、内容は母イリスが兄の妻エレーヌをいびっているというものだった。最初は信じられなかったが、手紙の中で兄は母の嫉妬に苦しむエレーヌを心配し、セラフィーナに助けを求めていた。
理知的で優しい公爵夫人の母が信じられなかったが、兄の必死な頼みに胸が痛む。
セラフィーナは、一年ぶりに実家に帰ると、母が物置に閉じ込められていた。幸せだった家族の日常が壊れていく。魔法やファンタジー異世界系は、途中からあるかもしれません。
婚約破棄された王太子妃候補ですが、私がいなければこの国は三年で滅びるそうです。
カブトム誌
恋愛
王太子主催の舞踏会。
そこで私は「無能」「役立たず」と断罪され、公開の場で婚約を破棄された。
魔力は低く、派手な力もない。
王家に不要だと言われ、私はそのまま国を追放されるはずだった。
けれど彼らは、最後まで気づかなかった。
この国が長年繁栄してきた理由も、
魔獣の侵攻が抑えられていた真の理由も、
すべて私一人に支えられていたことを。
私が国を去ってから、世界は静かに歪み始める。
一方、追放された先で出会ったのは、
私の力を正しく理解し、必要としてくれる人々だった。
これは、婚約破棄された令嬢が“失われて初めて価値を知られる存在”だったと、愚かな王国が思い知るまでの物語。
※ざまぁ要素あり/後半恋愛あり
※じっくり成り上がり系・長編
婚約破棄を伝えられて居るのは帝国の皇女様ですが…国は大丈夫でしょうか【完結】
繭
恋愛
卒業式の最中、王子が隣国皇帝陛下の娘で有る皇女に婚約破棄を突き付けると言う、前代未聞の所業が行われ阿鼻叫喚の事態に陥り、卒業式どころでは無くなる事から物語は始まる。
果たして王子の国は無事に国を維持できるのか?
失礼な人のことはさすがに許せません
四季
恋愛
「パッとしないなぁ、ははは」
それが、初めて会った時に婚約者が発した言葉。
ただ、婚約者アルタイルの失礼な発言はそれだけでは終わらず、まだまだ続いていって……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる