初恋の行方

サラ

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4.後編1

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 カンジーン様はあの事件があった時、偶々お家の事情で学園を休んでいたため咎められる事はなかった。
 私に対する第三王子とその取り巻きの振る舞いはカンジーン様が証人となってくれたし、ウンデ様が私のお菓子を自分が作ったと言っていた事についても彼が証言してくれた。
 ウンデさんは家の領地を通って実家に行く時に、偶々侍女が買い求めた天使の焼き菓子を食べて、美味しかったので度々天使の焼き菓子を買い求めてくれたみたい。

 学園に天使の焼き菓子を持ってきて食べるところを第三王子に見られた時、見栄をはって自分が作って孤児院に卸しているとウソをついてしまった。
「誰にも内緒にしているから」、と一応口止めはしていたみたいだけど、取り巻きの中ではその振る舞いが「まるで聖女のようだ」、となってしまった。それがあの時の事件を引き起こす切っ掛けとなった。


 事件の後、しばらくしてカンジーン様は騎士学校に転校する事になった。やはり、第三王子の護衛として側にいたのでこのままこの学園にいるのは外聞が悪かったらしい。

「リリアージュ様、どうかお元気で」
「カンジーン様、どうしても行ってしまわれるのですか?」
「はい。元々騎士学校に行く予定だったのに、第三王子と同じ年だ、という事で剣の腕を買われてこちらに通っていたものですから」
「そうだったんですね」
「私の事を忘れずにいてもらえたら、嬉しいです」
「私も……」
「……、きっと又会える日が来ると……思います」
「はい」

 カンジーン様は私に向かって深く頭を下げるとそのまま去って行った。きっと、庇えなかった事を気にしているに違いない。

 学園生活は第三王子とその取り巻き、ウンデ様が居なくなって居心地が良くなった。でも、カンジーン様の姿が見られないのはとても寂しい。ただ、時々目で追うだけで良かったのに。
 あの時、学園で起きた事件は各方面に波紋を広げた。いくら洗脳されたとはいえ、貴族令嬢の額に傷をつけ、それを誰も止めようとしないのは大きな問題とされた。
 私の婚約者は廃嫡され、第三王子もずっと軟禁状態になっている。他の取り巻きだった皆さまもそれぞれ別の辺境に一兵卒として送られた。

 ウンデさんは王家の魔道具を持っていたという事で処刑されるところだったが、言動が可笑しいので背後関係を探る為、いまだに牢の中にいる。地下牢でも一番奥なので、処刑よりもかえって辛いかもしれない。
 時々、訳の分からない事を言っては暴れているらしい。私は完全な被害者として扱われたけれど、それはそれとして、貴族令嬢としては傷跡が残ってしまったのでもう、まともな嫁ぎ先はないだろうと思われた。


 もう既にあの事件があった時から3年の月日が経っている。私は19歳だけど、もうすぐ20歳になる。私は婚約が解消されたけれど、額に十字の傷が残ってしまったのでそのまま誰とも婚約する事もなく、お父様のお仕事を手伝っている。

「リリアージュ、いつも仕事を手伝って、と言うより今やお前がいないと仕事に支障が出るくらいに、なくてはならない存在になってしまった。すごく助かるが、お前、結婚はしなくて良いのか?」
「お父様、私はお仕事が手伝えて楽しいです。結婚は額の傷がありますからこのまましなくてもいいかな、と思っています」
「リリアージュ、その傷だがな。傷があっても構わないから是非来てほしい、という話は結構あるんだよ。お前がとても優秀だから領地の事を考えると、傷なんて些細な問題だと言われてしまって」
「お父様、私は領地経営の為にお嫁に行くのは嫌です。それでしたら、お父様の側でお仕事するほうがいいですもの」
「うーん。お前の幸せを考えるといつまでも側に居て、と言うのは良くないが、でも、私も娘がずっとそばに居てくれるのは嬉しい」
「ええ、お兄様にもいずれ、宰相になった時には頼りにしていると言われましたから」
「そうか。何か欲しいモノがあったり、したい事があったら遠慮なく言いなさい。何としてでも、叶えてやるからな」
「ありがとう、お父様」

 そうして私は理解あるお父様のもとでお仕事をしている。
 書類仕事は私に向いていたみたいで効率の良い仕事の仕方を提案しては感心されたり、計算がとても速いので頼りにされたりしている。
 各部署によって書類の形式が違っていて、見にくいし纏める時に確認する場所が一々違って間違いの元となるので、見やすい書類の形式を考えてみた。
 こういった書類仕事は初めてのはずなのに、頭の中に色々な事がスラスラと浮かんでくるのは凄く不思議だった。

 それに、計算するのに便利な算盤と言うのを作ってみた。何故か具体的な作り方と完成品、名称が鮮やかに頭の中に出てきてしまったので、それを形にしてみたら各方面に絶賛された。
 おかげで王宮の事務処理能力が飛躍的にあがったし、商人の間にもこの算盤はアッという間に広がってしまった。この算盤を考案した事で売り上げの一部が私の元に入る事になり、個人財産もできた。もう、結婚はしなくてもいいんじゃないかと思う。

 カンジーン様は騎士学校を卒業後、騎士として辺境に赴任された。辺境といっても魔の森の近くなので強い魔物が出る。時々、宰相であるお父様の所に辺境や騎士団の情報がもたらされるので、カンジーン様が活躍している話を聞く事ができた。
 カンジーン様の話が聞ける、というだけでも嬉しい。けど、彼は強いので大丈夫と思いつつ、心配でたまらない。

 誰とも結婚せずカンジーン様の事を想っていられるって、何て幸せなんだろうと思う。実は額の傷は綺麗に治ってしまっているけど、化粧で傷跡を作ってそれをまた化粧で薄くしているかのように見せかけている。私には化粧の才能もあったみたい。
 だけど、それは誰にも内緒、秘密にしている。
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