初恋の行方

サラ

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15. 小話 対決(カンジーン視点)

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 リリアージュが聖女に成ってしまった。
 元々、聖女に相応しい優しく慈愛に満ちた性格をしていたけれど、正式に聖国から聖女と認められる事で、これまで根深く残っていた『氷の魔女』の影響を払拭できるかもしれない。いや、むしろ『氷の魔女』の入れ替わりという童話を書いて広めたら良いかも。

 本当の聖女であるリリアージュと魔女のウンデが奸計で入れ替わってしまったが、ウンデの企みを王子が見破って正体がばれたウンデは破滅、リリアージュと王子はめでたし、めでたし。
 いや、ダメだ。それだとリリアージュがあの王子と結ばれてしまう。
 では王子の護衛の騎士が魔女を見破る……、それだと俺か、うーん。二人で見るならいいけど、民の間に広がるのは、ちょっと恥ずかしいな。

 しかし、リリアージュの銀髪に薄い水色の目を清浄なる美しさを反映したモノとして広めたら、これから先の良いバイブルになるかもしれないし。聖書にリリアージュの容姿を反映させるのは良いかもしれない。リリアージュは聖女という立場に戸惑っているみたいだけど、今のうちに教皇猊下に話をしてみよう。

「実は……」とこれまで『氷の魔女』という童話の挿絵のせいで、謂われない悪意に晒されて人間関係に苦労していた事を話すと教皇猊下は痛ましげにリリアージュを見た。

「それは大変苦労されたのですね」
「あっ、いいえ。わかって下さる方はいましたし、家族には労わってもらいました。それにカンジーン様も……その、いつも気遣ってくださって」
「私は何もできませんでした。残念ながら王子の護衛という立場でしたので」
「それでも、お二人はお互いに想いあっていたのですね」
「えっ、それはそう、そうですね」

 リリアージュが恥ずかしそうに俺を見るので思わず抱きしめたくなったが、人前なので自重した。俺たちを微笑みながら見ていた教皇猊下は

「実は私の従妹の子にあたるのですが、絵が得意な女性神官が居まして、本人は内緒で活動しているつもりらしいのですが、何冊か挿絵も描いているみたいなのです。彼女にリリアージュ様の挿絵付き、子供向けの聖書をかいてもらいましょう」
「それは……」
「彼女は聖国が付けたリリアージュ様のお世話係でもあります。これ、メリー神官をこちらへ」

 部屋付きの神官にメリー神官を呼ぶように言うと教皇は少し、悪戯っぽく笑った。

「お呼びと伺いましたが、失礼いたします」
「ああ、メリー神官か、こちらに来てくれたまえ」
「はい」

 メリー神官は俺たちを見て少し目を見張ったが、直ぐにニッコリと笑って見せた。俺たちに軽く会釈をすると教皇猊下に綺麗な礼をして見せる。教皇猊下はそれを見て少し眉をひそめた。

「メリー神官」
「はい。なんでしょうか?」
「君はまず聖女様に対して礼を取らねばならない」
「えっ? あっ、ハイ。そうでした。申し訳ありません」
「君の中では聖女様の存在はどうなっているのかね?」
「あっ、ハイ。聖女様は至高の存在でいらっしゃいます。ただ、これまでの習慣で教皇猊下を優先してしまいました。聖女様、申し訳ありません」

 そう言うと、メリー神官はリリアージュに向かって深々と頭を下げた。それから、俺に向き直り、「配偶者様にも申し訳ありません」と言って頭を下げてきた。こうして見ると普通の神官に見える。

「そうか、これからは気を付けるように」
「はい。恐れ入ります」
「ところで、この童話に見覚えはあるかね」
 そう言いながら教皇が出してきたのは、『氷の魔女』の初期イラストが載った童話だった。
「……」

 メリー神官は思わず言葉を飲み込み、その本を凝視した。表紙には手を取り合った茶髪の主人公と王子が描かれ、それを木の陰からリリアージュが悔しそうに眺めている。
 そう、そのイラストは今のリリアージュにそっくりだった。
 座りこんだリリアージュの額には十字の傷がつき両手は拘束されている。リリアージュに対して王子の元取り巻き達が剣を向けている。その中に俺らしき人物が描かれているのは業腹だったが、幸いなことに後ろ姿だった。それは本当に有難い。

「このイラストに見覚えはないかね?」

 黙り込んだメリー神官に教皇は追い打ちをかけた。いつの間に、この童話を手に入れていたのだろう? 
 そして、その本を見たリリアージュが悲しそうに眼を伏せたので俺はそっと彼女の肩を抱いた。
 こいつ、どう答えるつもりなんだろう?
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