初恋の行方

サラ

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16. 小話 対決(メリー神官視点)

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 どうしよう、困った。
 何故この童話のイラストを私が描いた、とばれたのだろう。これは私が前世の記憶に目覚めた時、それこそ20年以上前に描いたものだ。
 密かに伝手を作り、間に3か国ほど入れてこっそりとあの国の隣国に挿絵付き童話を持ち込ませた。

 この世界でのあの挿絵はかなり評判になったらしい。リリアージュはゲームにそっくりに描いたけど、主人公は笑うと似ているにしておいた。他の王子とか取り巻き達はよく見ると似てるとこもある、程度にしてある。
 流石にあまりにソックリだと不味いかな、と思って。私のイラストの腕は伊達じゃない。だけど、この世界では斬新だと思う絵柄はこちらの親、兄弟には不評だった。芸術という観点からはあまり感心しないらしい。

 記憶に目覚めたのは10歳の時、それからこの世界の地理、歴史を調べてこれは私の知っている乙女ゲームの世界だと認識した。ただ、残念な事に早く生まれすぎたために乙女ゲームに関わる事は出来ない。でも、主人公が何故聖女に成るのかを知っている私はこれを利用できないかと考えた。
 乙女ゲームだけど、ゲームの裏設定を私は制作サイドにいる友人から聞いて知っていた。リリアージュの膨大な魔力がキーになるのだと。

「このゲームね。普通に攻略すると最後にエッーってなるのよ」
「どういう事?」
「リリアージュが鍵なの。バッドエンドを繰り返す事で真実に気づいてハッピーエンドにたどり着く。何度も繰り返し、ゲームをしてもらう為に考えた苦肉の策というか、考えたのは社長なんだけどね。バカじゃないのって思うんだけど戦争に勝たなくてはいけないとか、悪役を殺したら魔力がもらえないから聖女になれないとか、色々と罠を張っているのよ」

「悪役を処刑したらダメなの?」
「そうなの。実は本当の聖女はその悪役だったんだけど、悪に落ちたから主人公が堕ちた聖女になり代わるってのがポイントなんですって」
「なり代わる?」
「そう、主人公が悪役を哀れんで改心させるために修道院で軟禁するの。そこは罪を犯した貴族を収容する場所で、監視されつつ穏やかに過ごすってのがミソ。リリアージュが亡くなると魔力の供給が無くなるからバッドエンド」

「そうして、もし、リリアージュが改心したらどうなるの?」
「どうもならないわよ。『切り裂くナイフ』で傷を付けられたらもう、その魔力はずっと主人公のモノ」
「リリアージュが亡くなったらどうなるの?」
「20年経ったら、もう魔力は主人公に馴染んで完全に主人公のモノになってしまうんですって。ご都合主義よね」

「20年って長くない? ゲームの中で20年の時間経過があるわけ?」
「それが何だか設定の面白さ、とか言っていたわよ。最後の何かえーと、誰かのルートで聖女になった時に20年後のエンディングが見られるようにしているって言ってた」
「あーっ、なるほど。じゃぁさ、もし、そのリリアージュの魔力を主人公以外が手に入れたら、その人物が聖女に成る?」
「えっ、そうね。『切り裂くナイフ』に魔力を纏わせてリリアージュに十字の傷をつければいいんだから、他の誰でもいいんじゃない。でも、ゲームにその選択肢はない、ないよねぇ。あの社長だから全部攻略後に見知らぬ誰かが聖女になるルートなんて作っているかもしれないけど……。まさかねぇ」

 その話を覚えていた私は、モブである私が聖女に成るルートに賭ける事にした。だって、せっかく生まれたからには聖女になってチヤホヤされたい。
 年齢は少しいってしまっても、まだ何十年もあるから構わない、と思っていたんだけど、どうしよう。
 教皇猊下はウソを見抜くスキルがあるから嘘は言えない。仕方ない、開き直る。


「どうしました? この絵を描いたのはメリー神官ではないのですか」
「はい。これは私が20年以上前に描いたものです。この絵はこの聖国では受け入れられなくて他の離れた国だったら良いかもしれないと思いまして」
「絵がリリアージュ様にソックリなのはどうしてですか?」
「私には生前の記憶がありまして、その中のゲームに出てくるのがリリアージュ様なのです」
「ゲームですか?」

「架空の物語なんです。ですが、その物語の中でリリアージュ様は悪い人で、聖女は他の女性なんです。その、主人公が色々と紆余曲折の上で聖女に成るのですが、その途中でリリアージュ様が魔女になって対立するモノですから、そのゲームのお話と同じように物語を書いたんです。まさか、リリアージュ様が聖女としてこちらに来られるなんて、夢にも思いませんでした。私がそのイラストを描いた時、リリアージュ様は生まれてなかったはずです」
「なるほど、ウソは言ってないようですね」

 何とか、教皇猊下は納得してくれたようだ。問題はこちらの二人。上手くごまかせるだろうか。
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