初恋の行方

サラ

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20. 小話 暗躍(メリー神官視点)

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 あれから私はリリアージュを美化したイラストを使った『湖の聖女』という童話を描き、子供向けの聖書のイラストにもリリアージュの色を使った天使や女神様を散りばめた。
 カンジーンの監修の元に作成したそれらの本はとても好意的に受けとられ評判になった。著作料についてはカンジーンもリリアージュも受け取らなかったので、教会への寄付という形になったが一部は私に支払われ、これ迄の著作と合わせて私の元にはかなりの金額が集まった。

 この国に来るまでは知らなかったが、リリアージュはかなりの資産を持っている。どうも、この世界にはない画期的な品物を創り出しているようだ。
 その創り出している商品から彼女は転生者ではないかと思うけど、かまをかけてみても首を傾げるだけで、本人に自覚のない無意識の転生者かもしれない。つまり、リリアージュに乙女ゲームの知識はない。

 そして、彼女の作るお菓子は前世で食べていたお菓子やケーキにソックリなのでなつかしく美味しい。リリアージュに魅了の能力なんてないはずだけど彼女のお菓子は一度食べるとまた食べたくなってしまう。リリアージュとはずっと接触させてもらえなかったけど、絵のモデルにするという事でカンジーンが立ち会うのなら会えるようになったけど……。

「リリアージュ様、このお菓子はとても美味しいですね。どちらでお求めになったのですか?」
「まぁ、ありがとうございます。このお菓子は私が作りましたのよ。一応、私が考案したケーキやお菓子は『天使のお菓子』というお店で販売もしております」
「『天使のお菓子』ですか! あそこはとても評判の良いお店で、新作が出ると直ぐに売り切れてしまうという話ではありませんか。私も何度か買いに行きましたが、売れ筋のモノはすぐに無くなるようですし、ケーキ類は選べるほどなかったんですが、美味しかったですよ」
「まあ、有り難うございます。気にいって下さって嬉しいですわ。どうしても沢山は作れなくて数量限定になってしまうのですわ。日持ちのする焼き菓子などは多めに作ってますけど」
「リリアージュ様を訪ねる事でこのお菓子が食べれるのは役得ですね」
「ふふっ、そう言っていただけると」

 フワリと笑ったリリアージュは美しかった。穏やかに私とリリアージュは仲良くなっていったと思うのだけど、側にいるカンジーンの目は笑ってない。今だにずっと警戒している。確かに私は聖国から派遣された神官という立場を使って、色々と探っているし、先日は主人公を訪ねる事が出来たけど、そんなに警戒されるほどのボロは出してないはず。

 カンジーンにも主人公には一度会って、どんな人物か見てみたいと伝えているので問題はないと思う。神官として貧民街の慰問にも足を運び、絵を描く以外にもせっかくなので民の暮らしを見て回りたい、という事でアチコチ歩き回っている。そして、私の信奉者にも会って私のための組織作りも始めた。

 この組織と主人公を使って望みをかなえたい。それも、失敗してもうまく主人公に罪をかぶせる形で。
 それにはやはり『切り裂くナイフ』が必要で……。どうも、カンジーンが怪しいと思うけど、隙がないのが困る。
 でも、隣国からの救援要請でカンジーンが出かけるようだ。このチャンスを生かして先ずはリリアージュを攻略したい、と思う。
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