初恋の行方

サラ

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21. 小話 誘拐(リリアージュ視点)

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 毎日楽しく日々を過ごしていたのに、カンジーン様が隣国に魔物退治に出られる事になってしまった。
 私のいるこの国は以前に比べると魔物がでる頻度も下がって、出る魔物もそんなに強い個体は出なくなったので、カンジーン様が出るまでもなく辺境警備の騎士たちで何とかなるようになっていた。だので、カンジーン様は領地の事を主にみていれば良くなっていたのに。

「ここが平和なのはリリアージュが聖女としてこの国に居るからだと思うよ」
「そんな、私は何もしておりませんわ」
「ううん。リリアージュが心穏やかに過ごしているから、少しずつこの国の気候も穏やかになってきているし、作物の実りも良くなってきている。特に俺たちとリリアージュの実家の領地は明らかに豊作だ」
「まぁ、そんな……カンジーン様」
「リリアージュ」

 そうして、私達の距離が少しずつ近づいていくと、「ゴホン、ゴホン」という執事の声が聞こえた。また、他の人がいるのを忘れてしまっていたみたい。もう、恥ずかしい。
 どうしてもカンジーン様にじっと見つめられると気持ちがファンとしてしまって他の人の事を忘れてしまう……、でも、カンジーン様も同じだって言っていたから、フフッ、仕方ないのかもしれない。

 それにしても、隣国ではカンジーン様の評価は高い。魔法も使えるし剣の腕も軍の指揮も優れているとカンジーン様は憧れの将軍様になっている。
 それで、申し訳ないけれど隣国、クラーン国の危機に将軍のお出ましをお願いしたいと頼まれてしまった。

 宰相であるお父様は渋い顔をしていたけど、代わりにお兄様が私の側についていることになったので、カンジーン様はクラーン国に出かけて行った。物凄く不本意な顔をしていたけど、決してカンジーン様の留守の間は外に出ないように、また、メリー神官とは会わないように厳命された。カンジーン様は今だにメリー神官の事を許してないみたいで、彼女と会う時は嫌な顔をする。


 そして今、私は目隠しをされて見知らぬ場所にいる。
 カンジーン様が旅立って5日目。ちょうどカンジーン様が魔物と対峙している頃を狙ったような誘拐は、こちらの状況を知っているという事かしら。
 お兄様がカンジーン様の留守中はこちらの領地に来てくださったのだけど、実家の領地で山林火災が起こって急遽、領地に行かれてしまったので一時的に私の警備が緩くなったのを狙われてしまったみたい。
 それにしてもここはどこかしら。私は目隠しをしたまま縛られて椅子に座らされている。

「あら、リリアージュ、良い恰好ね」
「えっ?」
「ホホホッ、ようやく私の出番がきたわ。ヒロインは不遇な目にあっても返り咲くのよ。だって、ヒロインだから」
「ヒロイン?」
「そうよ。悪い魔女のリリアージュ。今度こそ成敗してあげるわ」
「成敗?」

「そうよ。さっくりやっつけたいんだけど、そうすると聖なる気が穢れるって言うから、仕方ないから十字の印だけ入れてその後は監禁エンドね。厳しい修道院に入れたげる。精々、後悔するといいわ」
「えっ、貴女は?」
「私は真なる聖女よ。さあ、リリアージュの額に十字を入れるわ。押さえといて!」
「駄目だ! 額に十字は入れるな」
「えっ、なんで? ゲームでも童話でも額だったわ」
「とにかく額はダメだ。十字は腕にしろ!」

 知らない男の声がする。女の人は多分ウンデさん。どうして、私に十字の傷を入れようとするのかしら。
 今更、どうしようと? 私は魔女じゃないのに。
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