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22. 小話 ヒロインの試練(ウンデ視点)
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遂にこの時が来たわ。
私はヒロインなんだから絶対に助かると思っていた。あの聖国からの神官が時々きては私の話を聞いていく。でも、彼女? 彼女なのかしら、深くフードを被っているし顔も見えない。ほとんど何も話さないし、ただ私の話を聞いて肯くだけ。それでも話を聞いてくれる人が時々来るのは嬉しくて、何でもかんでも話してしまったような気はする。
脱獄の時はドキドキした。いつもの兵士ではなく兵帽を深くかぶった見知らぬ人物がやって来て、口元に指を当てて静かに! というジェスチャーをすると、「翌日の夕食後に迎えに行く、ここから脱出する時は頭から袋をかぶせるが抵抗せず静かにしている事」というメモを渡してきた。
私がそのメモを読み終わるとそのままそのメモを口に入れ、食べてしまったのは驚いた。まるでスパイ映画みたい。いえ、ここは乙女ゲームの世界だった。私が先走ったせいでシナリオが狂ったみたいだけど、魔女が馬脚を現したに違いない。それで、心ある人達が本来の聖女である私を助けようと動いているわけね。
そして、袋に入れられたまま運ばれたので、ここはどこだか分からない。けど、とても丁寧に遇されている。ただし侍女が居なくてフードを被った男ばかり。しかも、皆モゴモゴと一言、二言しか話さない。
私に前世の記憶がなかったら、一人で着替えも何もできなかったわよ。湯あみをして寝心地の良いベッドで休んでたら、夜明け前に起こされた。せっかく久々に良いベッドで寝れたのに……と思いつつ起きたら、またメモを渡された。メモには
『切り裂くナイフ』でリリアージュ様の腕に十字の印をつけて下さい。もし、貴女の言っている事が本当なら、十字を付ける事で貴女は聖なる力に目覚めるはずです。その時、我々は貴女に従います。と書かれていた。
そのメモはまたフードを被った男が食べてしまった。もう、アンタたち、どれだけ紙がすきなの、ヤギなの! と思いつつ、私が肯くとそのまま別の部屋に連れていかれた。そしてそこには、にっくきリリアージュが縛られて椅子に座っていた。
「あら、リリアージュ、良い恰好ね」
私は笑いが止まらなかった。そうよ、こうでなくちゃ。これがザマァという奴ね。
そして、このまま私が聖女になったら、リリアージュは泣くのかしら。リリアージュの罪は聖女に対しての不敬罪? でも、優しい聖女はリリアージュに慈悲を与えなくちゃ。
それにしても取り合えず、リリアージュの旦那のカンジーンも目が覚めるでしょうから、離婚させてカンジーンは私の護衛にしよう。私の相手はすぐに決めなくても気に入った人が見つかるまで、何人か侍らせるのも良いわね。楽しくなった私がそのままリリアージュの額に十字を刻もうとすると、側にいたフードつきの男が止めてきた。
「駄目だ! 額に十字は入れるな」
「えっ、なんで? ゲームでも童話でも額だったわ」
「とにかく額はダメだ。十字は腕にしろ!」
どうしてなの? 額に入れるからリリアージュが魔女だって誰にでもわかるのに。腕なんかじゃ包帯で隠れてしまうじゃない。でも、『切り裂くナイフ』は私の手の中にある。そうか、前の時はリリアージュの婚約者が十字の傷をつけたからいけなかったんだ。やっぱり、自分でやらなくちゃ。
あっ! そういえば十字の傷をつける前に何かしないといけなかった。うーん。何だっけ。
「何をしている! 早くしろ。この隠れ家が見つかると不味い」
「えっ、見つかるかもしれないの?」
「隙を見てさらったんだ。早く、お前が聖女であると証明してみせろ!」
もう、煩いわね。では、リリアージュはじっとしているし、腕に傷を付けるふりして、額に切りつけてしまおう。
ん! あれ、そういえば。ああ! なんで忘れていたんだろう! 『切り裂くナイフ』に私の魔力を纏わせなくては!
「ちょっと、待って」
「なんだ、とにかく早くしろ!」
ウーン、気があせる。でも魔力を纏わせないと『切り裂くナイフ』が効かない。よし、今度こそ。私が何とか『切り裂くナイフ』に魔力を纏わせようとすると、何だか反発を感じる。
このナイフ、他の魔力を纏っている? でも、せっかくの機会、何とかしなくては。
私はヒロインなんだから絶対に助かると思っていた。あの聖国からの神官が時々きては私の話を聞いていく。でも、彼女? 彼女なのかしら、深くフードを被っているし顔も見えない。ほとんど何も話さないし、ただ私の話を聞いて肯くだけ。それでも話を聞いてくれる人が時々来るのは嬉しくて、何でもかんでも話してしまったような気はする。
脱獄の時はドキドキした。いつもの兵士ではなく兵帽を深くかぶった見知らぬ人物がやって来て、口元に指を当てて静かに! というジェスチャーをすると、「翌日の夕食後に迎えに行く、ここから脱出する時は頭から袋をかぶせるが抵抗せず静かにしている事」というメモを渡してきた。
私がそのメモを読み終わるとそのままそのメモを口に入れ、食べてしまったのは驚いた。まるでスパイ映画みたい。いえ、ここは乙女ゲームの世界だった。私が先走ったせいでシナリオが狂ったみたいだけど、魔女が馬脚を現したに違いない。それで、心ある人達が本来の聖女である私を助けようと動いているわけね。
そして、袋に入れられたまま運ばれたので、ここはどこだか分からない。けど、とても丁寧に遇されている。ただし侍女が居なくてフードを被った男ばかり。しかも、皆モゴモゴと一言、二言しか話さない。
私に前世の記憶がなかったら、一人で着替えも何もできなかったわよ。湯あみをして寝心地の良いベッドで休んでたら、夜明け前に起こされた。せっかく久々に良いベッドで寝れたのに……と思いつつ起きたら、またメモを渡された。メモには
『切り裂くナイフ』でリリアージュ様の腕に十字の印をつけて下さい。もし、貴女の言っている事が本当なら、十字を付ける事で貴女は聖なる力に目覚めるはずです。その時、我々は貴女に従います。と書かれていた。
そのメモはまたフードを被った男が食べてしまった。もう、アンタたち、どれだけ紙がすきなの、ヤギなの! と思いつつ、私が肯くとそのまま別の部屋に連れていかれた。そしてそこには、にっくきリリアージュが縛られて椅子に座っていた。
「あら、リリアージュ、良い恰好ね」
私は笑いが止まらなかった。そうよ、こうでなくちゃ。これがザマァという奴ね。
そして、このまま私が聖女になったら、リリアージュは泣くのかしら。リリアージュの罪は聖女に対しての不敬罪? でも、優しい聖女はリリアージュに慈悲を与えなくちゃ。
それにしても取り合えず、リリアージュの旦那のカンジーンも目が覚めるでしょうから、離婚させてカンジーンは私の護衛にしよう。私の相手はすぐに決めなくても気に入った人が見つかるまで、何人か侍らせるのも良いわね。楽しくなった私がそのままリリアージュの額に十字を刻もうとすると、側にいたフードつきの男が止めてきた。
「駄目だ! 額に十字は入れるな」
「えっ、なんで? ゲームでも童話でも額だったわ」
「とにかく額はダメだ。十字は腕にしろ!」
どうしてなの? 額に入れるからリリアージュが魔女だって誰にでもわかるのに。腕なんかじゃ包帯で隠れてしまうじゃない。でも、『切り裂くナイフ』は私の手の中にある。そうか、前の時はリリアージュの婚約者が十字の傷をつけたからいけなかったんだ。やっぱり、自分でやらなくちゃ。
あっ! そういえば十字の傷をつける前に何かしないといけなかった。うーん。何だっけ。
「何をしている! 早くしろ。この隠れ家が見つかると不味い」
「えっ、見つかるかもしれないの?」
「隙を見てさらったんだ。早く、お前が聖女であると証明してみせろ!」
もう、煩いわね。では、リリアージュはじっとしているし、腕に傷を付けるふりして、額に切りつけてしまおう。
ん! あれ、そういえば。ああ! なんで忘れていたんだろう! 『切り裂くナイフ』に私の魔力を纏わせなくては!
「ちょっと、待って」
「なんだ、とにかく早くしろ!」
ウーン、気があせる。でも魔力を纏わせないと『切り裂くナイフ』が効かない。よし、今度こそ。私が何とか『切り裂くナイフ』に魔力を纏わせようとすると、何だか反発を感じる。
このナイフ、他の魔力を纏っている? でも、せっかくの機会、何とかしなくては。
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