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25. 小話 排除 (カンジーン視点)
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信じられない事にリリアージュが誘拐された。
その知らせを受けた俺の頭は真っ白になってしまった。魔物退治のほうはすぐに方がついたのでそのまま速攻で領地に帰り、リリアージュに付けていた追跡魔法でその位置を確認した。追跡魔法は俺とリリアージュが魔力で繋がっているので構築された魔法だ。
「リリアージュ!」
「カンジーン様」
「リリアージュ、心配した」
「ごめんなさい」
「いや、リリアージュ、は悪くない。周到に計画された誘拐だったようだ」
リリアージュの無事な顔を見て安心すると同時にまた、失うかもしれないと怖かった。前世でひょっとして学生時代に告白をして、もし付き合う事ができたなら彼女は俺の側で笑っていたのかもしれない、なんて詮無い事を時々考えていた。
今世こそ許されるのなら一緒に年を重ねたい、リリアージュのいろんな顔を見たい、リリアージュと共に年取って皺くちゃになってそれでも穏やかに笑っていられるような老後を送りたい。できるならリリアージュに手を取られて最後の時を迎えたい。リリアージュさえいればいい。俺のこの気持ちは執着と言うのだろうか、いや、熱い恋心だと思う。
家に戻り、俺が凄く心配したせいかリリアージュは許可しなければ触れない魔法を自分自身に掛けた。目の前で名前を呼んで「この人が触る事を許可します」と言わなければ誰もリリアージュに触れない。リリアージュが通ると空気の層がバリアーになったみたいに人を押しのける事ができる。
おかげでしばらく俺でさえリリアージュに触れなくてイラッとした。が、俺だけはいつでも触れるようにしてくれたので良し、としよう。
しばらく、はしゃいでいたリリアージュだったが、突然クタッとして、俺に寄りかかって目をつぶってしまった。
これまで張りつめていた気持ちが急に緩んだせいかもしれない。医師によるとこのまま安静にしておくだけで良いとの事なので、幾重にも防御を重ねてゆっくり寝かせる事にした。
「カンジーン、リリアージュは?」
「ああ、寝ている。しばらくは目覚めないかもしれないと言われた」
「大丈夫なのか?」
「ああ」
「リリアージュの事を任されていたのに、悪かったな」
「いや、仕方なかったと思う。実際、聖女として目覚めたリリアージュを物理的に傷つける事は出来ないからと油断していた。それに何か今回の誘拐は意図的なモノを感じる」
「そうか、聖女の結界が張ってあるからもう誰も触れないな。では、私は今回の誘拐を詳しく調べる事としよう」
そうして今回の裏にメリー神官が居るという事にたどり着いた。周到に目くらましをして、アリバイも作っていたようだが無駄だ。アリバイは前世の「疑わしきは罰せず」できちんとした証拠がないと裁けない場合に必要なモノで、今回は状況証拠と関わった者の証言で追い詰めた。
何しろ、彼らは聖女である事を確認する為と思っているので悪意がない。バレても真実を話せば納得されると思っているからその点は楽だった。
しかし、メリー神官は違う。こいつは前世の記憶があるだけでなく何か企んでいる事が分かる。最初は自分は関わりがないとシラを切っていたが、複数の証言によりメリー神官の関与が明らかにされた、と言うかこいつが主犯だ。
「私には前世の記憶がありますから、念のために本当にウンデさんが聖女でないと確認したかっただけなんです」
「そのためにリリアージュを傷つけたのか! リリアージュを害する事はしないと言っていたのに」
「リリアージュ様を傷つけるつもりはありませんでした。だので、他に関わった人達に確認してもらってもいいですけど、傷つける事はしないようにと言い含めていました」
「腕に十字の傷を付けるように言ったそうじゃないか」
「十字の傷ではなく印です。そうする事で本当に聖女かどうかが分かる、と思ったんです」
「じゃぁ、『切り裂くナイフ』にお前の魔力を纏わせていたのは何故だ!」
「えっ!? 何で?」
「『切り裂くナイフ』がお前の借りていた金庫から見つかった。そして、ウンデの魔力の下にはお前の魔力があった。何故だ?」
「そんなバカな……」
「どういうつもりだかわからないがな。どのみち、お前はもう終わりだ。ウンデを気に入っているようだから二人で仲良く修道院に入れ」
修道院と聞いて、メリー神官はホッとした顔をした。ところがどっこい、その修道院にはメリー神官とウンデしか入れない。世話をする者もいないから自分たちで全てをしなければならないし、自給自足の生活になる。彼らのためにワザワザ堅牢な修道院を立てたが部下にはあれは牢獄ですよねと言われてしまった。
一生そこから出る事なく神に祈っていろ。前世でいう終身刑のようなモノだ。
その知らせを受けた俺の頭は真っ白になってしまった。魔物退治のほうはすぐに方がついたのでそのまま速攻で領地に帰り、リリアージュに付けていた追跡魔法でその位置を確認した。追跡魔法は俺とリリアージュが魔力で繋がっているので構築された魔法だ。
「リリアージュ!」
「カンジーン様」
「リリアージュ、心配した」
「ごめんなさい」
「いや、リリアージュ、は悪くない。周到に計画された誘拐だったようだ」
リリアージュの無事な顔を見て安心すると同時にまた、失うかもしれないと怖かった。前世でひょっとして学生時代に告白をして、もし付き合う事ができたなら彼女は俺の側で笑っていたのかもしれない、なんて詮無い事を時々考えていた。
今世こそ許されるのなら一緒に年を重ねたい、リリアージュのいろんな顔を見たい、リリアージュと共に年取って皺くちゃになってそれでも穏やかに笑っていられるような老後を送りたい。できるならリリアージュに手を取られて最後の時を迎えたい。リリアージュさえいればいい。俺のこの気持ちは執着と言うのだろうか、いや、熱い恋心だと思う。
家に戻り、俺が凄く心配したせいかリリアージュは許可しなければ触れない魔法を自分自身に掛けた。目の前で名前を呼んで「この人が触る事を許可します」と言わなければ誰もリリアージュに触れない。リリアージュが通ると空気の層がバリアーになったみたいに人を押しのける事ができる。
おかげでしばらく俺でさえリリアージュに触れなくてイラッとした。が、俺だけはいつでも触れるようにしてくれたので良し、としよう。
しばらく、はしゃいでいたリリアージュだったが、突然クタッとして、俺に寄りかかって目をつぶってしまった。
これまで張りつめていた気持ちが急に緩んだせいかもしれない。医師によるとこのまま安静にしておくだけで良いとの事なので、幾重にも防御を重ねてゆっくり寝かせる事にした。
「カンジーン、リリアージュは?」
「ああ、寝ている。しばらくは目覚めないかもしれないと言われた」
「大丈夫なのか?」
「ああ」
「リリアージュの事を任されていたのに、悪かったな」
「いや、仕方なかったと思う。実際、聖女として目覚めたリリアージュを物理的に傷つける事は出来ないからと油断していた。それに何か今回の誘拐は意図的なモノを感じる」
「そうか、聖女の結界が張ってあるからもう誰も触れないな。では、私は今回の誘拐を詳しく調べる事としよう」
そうして今回の裏にメリー神官が居るという事にたどり着いた。周到に目くらましをして、アリバイも作っていたようだが無駄だ。アリバイは前世の「疑わしきは罰せず」できちんとした証拠がないと裁けない場合に必要なモノで、今回は状況証拠と関わった者の証言で追い詰めた。
何しろ、彼らは聖女である事を確認する為と思っているので悪意がない。バレても真実を話せば納得されると思っているからその点は楽だった。
しかし、メリー神官は違う。こいつは前世の記憶があるだけでなく何か企んでいる事が分かる。最初は自分は関わりがないとシラを切っていたが、複数の証言によりメリー神官の関与が明らかにされた、と言うかこいつが主犯だ。
「私には前世の記憶がありますから、念のために本当にウンデさんが聖女でないと確認したかっただけなんです」
「そのためにリリアージュを傷つけたのか! リリアージュを害する事はしないと言っていたのに」
「リリアージュ様を傷つけるつもりはありませんでした。だので、他に関わった人達に確認してもらってもいいですけど、傷つける事はしないようにと言い含めていました」
「腕に十字の傷を付けるように言ったそうじゃないか」
「十字の傷ではなく印です。そうする事で本当に聖女かどうかが分かる、と思ったんです」
「じゃぁ、『切り裂くナイフ』にお前の魔力を纏わせていたのは何故だ!」
「えっ!? 何で?」
「『切り裂くナイフ』がお前の借りていた金庫から見つかった。そして、ウンデの魔力の下にはお前の魔力があった。何故だ?」
「そんなバカな……」
「どういうつもりだかわからないがな。どのみち、お前はもう終わりだ。ウンデを気に入っているようだから二人で仲良く修道院に入れ」
修道院と聞いて、メリー神官はホッとした顔をした。ところがどっこい、その修道院にはメリー神官とウンデしか入れない。世話をする者もいないから自分たちで全てをしなければならないし、自給自足の生活になる。彼らのためにワザワザ堅牢な修道院を立てたが部下にはあれは牢獄ですよねと言われてしまった。
一生そこから出る事なく神に祈っていろ。前世でいう終身刑のようなモノだ。
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