冷女が聖女。

サラ

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13. パン屋の看板娘。

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「レインちゃん、お早う」
「レインちゃん、相変わらず可愛いね」
「レインちゃん、よかったらこれ、貰って! レインちゃん、果物好きだったよね」
「有り難う、皆さん。でも、急がないともうお仕事に行く時間じゃない?」
「ああ、本当だ」
「「じゃぁ、また」」
「はい。気を付けて行ってらっしゃい」

 今、私はパン屋で働いている。レインと言う名前で。
 割と大き目の村にはパン屋が2軒あって、そのうちの1軒で3か月前に雇ってもらった。村の青年と少年、おじさんやオバサンにも人気の看板娘である。この世界の成人は15歳なので、私も成人したばかりの15歳、と年齢詐称中。

 世捨て人で無口の父と人里離れた山奥で暮らしていたが、父が亡くなったので旅に出た、という設定にしている。母は早くに亡くなって、母を愛していた父はすっかり無口になって、家にいる時はほとんどしゃべらなくなった、けど、成人したら母の事やこの世の中の常識とか教えてあげなくては、と言っていた。

 父は猟師をして生計を立てていたし、必要なモノは麓の村で買ってきていたので、買い物もした事がなかった。私は山から下りた事がない。父は何日も帰らない事もあったからひょっとして、冒険者だったのかもしれない。私がもうすぐ15歳、という時に突然父が倒れ、そのまま帰らぬ人となった。

 生活必需品を買わなくては生きていけないので麓の村に行こうと山を下りたが、たどり着けず道に迷ってしまった。父の残したお金があったので、そのまま旅に出たけど、世の中のことを何もわからず不安なので、もし、ここで仕事があるなら働きたい。という事にした。

 大き目な町の冒険者ギルドでお金を引き出したので、一応、現金の持ち合わせはある。冒険者のカードは名前と魔力で認識するので他の人が勝手にカードを利用する事はできない。登録した時と見かけが変わっていても本人認証ができるので、その点は助かった。

 名前もこちらの文字でレイ、とだけ登録しておいたから、本当はレインと言う名前だけど、登録する時にレイになってしまって……と説明したらそれで通ってしまった。よくある話らしい。
 私の見かけも綺麗な栗色の髪にどう見ても15,6歳にみえる少女の姿になっているし、目の色も茶色で、わりと彫りの深い顔立ちだから、どこからどう見ても現地の人に見える。
 でも、かなり可愛いし、もう少しすれば凄い美人になりそう、とアランが言っていたからそう悪くはないと思う。

 朝早くから午後2時くらいまで働いて、時々買い物をしてから丘の上にポツンと建っている一軒家に帰る。その家に行くには村長の家の前を通らないといけないし、坂が急だから人が訪ねてくる事がないのは有難い。
 元々、村長の弟さんが住んでいた家で、今は外国に行っているので空き家にするよりは人が住んでいたほうが良いから、という事で、格安で貸してもらっている。

 この村の人は仕事を探している、と話をした時から皆がとても親切で優しい。
 アランが「若い嫁ゲット、と思われて、村の誰かとひっつく事を期待されているんだ」と言うけど、確かに村の若者がやたらと親切に寄ってくる。
 でも、お互いに牽制し合っているせいか紳士的な距離感があるので助かっている。こんなに直接的にモテて、チヤホヤされたのは生まれて初めてで正直に言うとチョット嬉しい。

 買い物をして夕方に帰ってきたら、アランがソファーでゴロゴロしていた。「お帰り」と言う声がちょっと拗ねている?

「玲ちゃん、何だか毎日楽しそう」
「あら、毎日働いて大変なのよ」
「聖女に成ったせいか疲れないし、今日だってニコヤカな顔でプレゼント、貰っていたじゃないか。モテモテだし」
「見ていたの? 大したものではないけど花やお菓子をよく貰えるから困るわ」

「収穫祭が終わると、アクセサリーも色々、貰えるんじゃない?」
「えっ、そうなの? そういえばプレゼントが花やお菓子ばかりだなぁって思っていたのよ」
「収穫祭の後に行商の人が来るから、そこで買い物をするらしいよ。収穫祭の後は懐も温かくなるらしいし」
「そうなんだ」
「収穫祭が終わって、冬になる前に若者を集めてお見合いパーティーがあるってさ。そこで村の若者は結婚相手をみつけるらしい」
「へぇー、詳しい」

「そりゃぁ、俺は暇だし、アチコチでうろついて噂話も集めているからね。玲ちゃん、そこでプロポーズされるよ、きっと」
「ええーっ、それは困るかな。皆、私よりかなり年下なんだよ」
「玲ちゃん、年齢詐称してるものね」
「そうなのよ。可愛い弟分にしか見えないけど、断ったら悪いかしら」
「別に……良いと思うよ」
「アラン、プリン食べる?」
「食べる!」

 何となく不貞腐れていたアランの機嫌が直った。
 すぐ食べ物につられるのは扱いやすくていいな、と思う。冷蔵庫のレベルは3だからプリンとかゼリーとかデザート系が手に入るようになった。冷凍室が開けるようになったらアイスが食べられるんだけど、まだ灰色のベールの向こうなのは残念。

 アランは相変わらず、人には見えない。アランのレベルは浄化レベル3とキャンプレベル2に上がったけれど、存在レベルは1のまま。この世界の食べ物も食べてみたけれど幽霊状態は変わらなかった。隠密には最適だし、今は一軒家に住んでいるから普通に過ごす分には問題はないけど、やっぱり話相手が私だけと言うのは寂しいかもしれない。

 2、3か月だけこの村に住む予定だったけど、思いのほか居心地が良くてもうしばらくここに居ようかな、なんて思っている。やっぱり、ちゃんと屋根があってベッドと水場があるところで休めるのは有難いと思う。家がなくて、彷徨うみたいに旅をするのは結構辛い。

 私がパン屋で働いている間に、アランは村長の家の本、ギルドの本とか書類、薬屋の本とかアチコチの家に勝手にお邪魔して置いてある本を片っ端から読んでまわっている。幸いにして文字は書けないけど読めるしこちらの言葉もわかるのは良かった。

 こちらの常識もわかってきたし、このままアランを日陰の身にしておくのも気の毒だな、とは思うけどね。
 そろそろ動かないと、いけないかしら。
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