13 / 69
13. パン屋の看板娘。
しおりを挟む
「レインちゃん、お早う」
「レインちゃん、相変わらず可愛いね」
「レインちゃん、よかったらこれ、貰って! レインちゃん、果物好きだったよね」
「有り難う、皆さん。でも、急がないともうお仕事に行く時間じゃない?」
「ああ、本当だ」
「「じゃぁ、また」」
「はい。気を付けて行ってらっしゃい」
今、私はパン屋で働いている。レインと言う名前で。
割と大き目の村にはパン屋が2軒あって、そのうちの1軒で3か月前に雇ってもらった。村の青年と少年、おじさんやオバサンにも人気の看板娘である。この世界の成人は15歳なので、私も成人したばかりの15歳、と年齢詐称中。
世捨て人で無口の父と人里離れた山奥で暮らしていたが、父が亡くなったので旅に出た、という設定にしている。母は早くに亡くなって、母を愛していた父はすっかり無口になって、家にいる時はほとんどしゃべらなくなった、けど、成人したら母の事やこの世の中の常識とか教えてあげなくては、と言っていた。
父は猟師をして生計を立てていたし、必要なモノは麓の村で買ってきていたので、買い物もした事がなかった。私は山から下りた事がない。父は何日も帰らない事もあったからひょっとして、冒険者だったのかもしれない。私がもうすぐ15歳、という時に突然父が倒れ、そのまま帰らぬ人となった。
生活必需品を買わなくては生きていけないので麓の村に行こうと山を下りたが、たどり着けず道に迷ってしまった。父の残したお金があったので、そのまま旅に出たけど、世の中のことを何もわからず不安なので、もし、ここで仕事があるなら働きたい。という事にした。
大き目な町の冒険者ギルドでお金を引き出したので、一応、現金の持ち合わせはある。冒険者のカードは名前と魔力で認識するので他の人が勝手にカードを利用する事はできない。登録した時と見かけが変わっていても本人認証ができるので、その点は助かった。
名前もこちらの文字でレイ、とだけ登録しておいたから、本当はレインと言う名前だけど、登録する時にレイになってしまって……と説明したらそれで通ってしまった。よくある話らしい。
私の見かけも綺麗な栗色の髪にどう見ても15,6歳にみえる少女の姿になっているし、目の色も茶色で、わりと彫りの深い顔立ちだから、どこからどう見ても現地の人に見える。
でも、かなり可愛いし、もう少しすれば凄い美人になりそう、とアランが言っていたからそう悪くはないと思う。
朝早くから午後2時くらいまで働いて、時々買い物をしてから丘の上にポツンと建っている一軒家に帰る。その家に行くには村長の家の前を通らないといけないし、坂が急だから人が訪ねてくる事がないのは有難い。
元々、村長の弟さんが住んでいた家で、今は外国に行っているので空き家にするよりは人が住んでいたほうが良いから、という事で、格安で貸してもらっている。
この村の人は仕事を探している、と話をした時から皆がとても親切で優しい。
アランが「若い嫁ゲット、と思われて、村の誰かとひっつく事を期待されているんだ」と言うけど、確かに村の若者がやたらと親切に寄ってくる。
でも、お互いに牽制し合っているせいか紳士的な距離感があるので助かっている。こんなに直接的にモテて、チヤホヤされたのは生まれて初めてで正直に言うとチョット嬉しい。
買い物をして夕方に帰ってきたら、アランがソファーでゴロゴロしていた。「お帰り」と言う声がちょっと拗ねている?
「玲ちゃん、何だか毎日楽しそう」
「あら、毎日働いて大変なのよ」
「聖女に成ったせいか疲れないし、今日だってニコヤカな顔でプレゼント、貰っていたじゃないか。モテモテだし」
「見ていたの? 大したものではないけど花やお菓子をよく貰えるから困るわ」
「収穫祭が終わると、アクセサリーも色々、貰えるんじゃない?」
「えっ、そうなの? そういえばプレゼントが花やお菓子ばかりだなぁって思っていたのよ」
「収穫祭の後に行商の人が来るから、そこで買い物をするらしいよ。収穫祭の後は懐も温かくなるらしいし」
「そうなんだ」
「収穫祭が終わって、冬になる前に若者を集めてお見合いパーティーがあるってさ。そこで村の若者は結婚相手をみつけるらしい」
「へぇー、詳しい」
「そりゃぁ、俺は暇だし、アチコチでうろついて噂話も集めているからね。玲ちゃん、そこでプロポーズされるよ、きっと」
「ええーっ、それは困るかな。皆、私よりかなり年下なんだよ」
「玲ちゃん、年齢詐称してるものね」
「そうなのよ。可愛い弟分にしか見えないけど、断ったら悪いかしら」
「別に……良いと思うよ」
「アラン、プリン食べる?」
「食べる!」
何となく不貞腐れていたアランの機嫌が直った。
すぐ食べ物につられるのは扱いやすくていいな、と思う。冷蔵庫のレベルは3だからプリンとかゼリーとかデザート系が手に入るようになった。冷凍室が開けるようになったらアイスが食べられるんだけど、まだ灰色のベールの向こうなのは残念。
アランは相変わらず、人には見えない。アランのレベルは浄化レベル3とキャンプレベル2に上がったけれど、存在レベルは1のまま。この世界の食べ物も食べてみたけれど幽霊状態は変わらなかった。隠密には最適だし、今は一軒家に住んでいるから普通に過ごす分には問題はないけど、やっぱり話相手が私だけと言うのは寂しいかもしれない。
2、3か月だけこの村に住む予定だったけど、思いのほか居心地が良くてもうしばらくここに居ようかな、なんて思っている。やっぱり、ちゃんと屋根があってベッドと水場があるところで休めるのは有難いと思う。家がなくて、彷徨うみたいに旅をするのは結構辛い。
私がパン屋で働いている間に、アランは村長の家の本、ギルドの本とか書類、薬屋の本とかアチコチの家に勝手にお邪魔して置いてある本を片っ端から読んでまわっている。幸いにして文字は書けないけど読めるしこちらの言葉もわかるのは良かった。
こちらの常識もわかってきたし、このままアランを日陰の身にしておくのも気の毒だな、とは思うけどね。
そろそろ動かないと、いけないかしら。
「レインちゃん、相変わらず可愛いね」
「レインちゃん、よかったらこれ、貰って! レインちゃん、果物好きだったよね」
「有り難う、皆さん。でも、急がないともうお仕事に行く時間じゃない?」
「ああ、本当だ」
「「じゃぁ、また」」
「はい。気を付けて行ってらっしゃい」
今、私はパン屋で働いている。レインと言う名前で。
割と大き目の村にはパン屋が2軒あって、そのうちの1軒で3か月前に雇ってもらった。村の青年と少年、おじさんやオバサンにも人気の看板娘である。この世界の成人は15歳なので、私も成人したばかりの15歳、と年齢詐称中。
世捨て人で無口の父と人里離れた山奥で暮らしていたが、父が亡くなったので旅に出た、という設定にしている。母は早くに亡くなって、母を愛していた父はすっかり無口になって、家にいる時はほとんどしゃべらなくなった、けど、成人したら母の事やこの世の中の常識とか教えてあげなくては、と言っていた。
父は猟師をして生計を立てていたし、必要なモノは麓の村で買ってきていたので、買い物もした事がなかった。私は山から下りた事がない。父は何日も帰らない事もあったからひょっとして、冒険者だったのかもしれない。私がもうすぐ15歳、という時に突然父が倒れ、そのまま帰らぬ人となった。
生活必需品を買わなくては生きていけないので麓の村に行こうと山を下りたが、たどり着けず道に迷ってしまった。父の残したお金があったので、そのまま旅に出たけど、世の中のことを何もわからず不安なので、もし、ここで仕事があるなら働きたい。という事にした。
大き目な町の冒険者ギルドでお金を引き出したので、一応、現金の持ち合わせはある。冒険者のカードは名前と魔力で認識するので他の人が勝手にカードを利用する事はできない。登録した時と見かけが変わっていても本人認証ができるので、その点は助かった。
名前もこちらの文字でレイ、とだけ登録しておいたから、本当はレインと言う名前だけど、登録する時にレイになってしまって……と説明したらそれで通ってしまった。よくある話らしい。
私の見かけも綺麗な栗色の髪にどう見ても15,6歳にみえる少女の姿になっているし、目の色も茶色で、わりと彫りの深い顔立ちだから、どこからどう見ても現地の人に見える。
でも、かなり可愛いし、もう少しすれば凄い美人になりそう、とアランが言っていたからそう悪くはないと思う。
朝早くから午後2時くらいまで働いて、時々買い物をしてから丘の上にポツンと建っている一軒家に帰る。その家に行くには村長の家の前を通らないといけないし、坂が急だから人が訪ねてくる事がないのは有難い。
元々、村長の弟さんが住んでいた家で、今は外国に行っているので空き家にするよりは人が住んでいたほうが良いから、という事で、格安で貸してもらっている。
この村の人は仕事を探している、と話をした時から皆がとても親切で優しい。
アランが「若い嫁ゲット、と思われて、村の誰かとひっつく事を期待されているんだ」と言うけど、確かに村の若者がやたらと親切に寄ってくる。
でも、お互いに牽制し合っているせいか紳士的な距離感があるので助かっている。こんなに直接的にモテて、チヤホヤされたのは生まれて初めてで正直に言うとチョット嬉しい。
買い物をして夕方に帰ってきたら、アランがソファーでゴロゴロしていた。「お帰り」と言う声がちょっと拗ねている?
「玲ちゃん、何だか毎日楽しそう」
「あら、毎日働いて大変なのよ」
「聖女に成ったせいか疲れないし、今日だってニコヤカな顔でプレゼント、貰っていたじゃないか。モテモテだし」
「見ていたの? 大したものではないけど花やお菓子をよく貰えるから困るわ」
「収穫祭が終わると、アクセサリーも色々、貰えるんじゃない?」
「えっ、そうなの? そういえばプレゼントが花やお菓子ばかりだなぁって思っていたのよ」
「収穫祭の後に行商の人が来るから、そこで買い物をするらしいよ。収穫祭の後は懐も温かくなるらしいし」
「そうなんだ」
「収穫祭が終わって、冬になる前に若者を集めてお見合いパーティーがあるってさ。そこで村の若者は結婚相手をみつけるらしい」
「へぇー、詳しい」
「そりゃぁ、俺は暇だし、アチコチでうろついて噂話も集めているからね。玲ちゃん、そこでプロポーズされるよ、きっと」
「ええーっ、それは困るかな。皆、私よりかなり年下なんだよ」
「玲ちゃん、年齢詐称してるものね」
「そうなのよ。可愛い弟分にしか見えないけど、断ったら悪いかしら」
「別に……良いと思うよ」
「アラン、プリン食べる?」
「食べる!」
何となく不貞腐れていたアランの機嫌が直った。
すぐ食べ物につられるのは扱いやすくていいな、と思う。冷蔵庫のレベルは3だからプリンとかゼリーとかデザート系が手に入るようになった。冷凍室が開けるようになったらアイスが食べられるんだけど、まだ灰色のベールの向こうなのは残念。
アランは相変わらず、人には見えない。アランのレベルは浄化レベル3とキャンプレベル2に上がったけれど、存在レベルは1のまま。この世界の食べ物も食べてみたけれど幽霊状態は変わらなかった。隠密には最適だし、今は一軒家に住んでいるから普通に過ごす分には問題はないけど、やっぱり話相手が私だけと言うのは寂しいかもしれない。
2、3か月だけこの村に住む予定だったけど、思いのほか居心地が良くてもうしばらくここに居ようかな、なんて思っている。やっぱり、ちゃんと屋根があってベッドと水場があるところで休めるのは有難いと思う。家がなくて、彷徨うみたいに旅をするのは結構辛い。
私がパン屋で働いている間に、アランは村長の家の本、ギルドの本とか書類、薬屋の本とかアチコチの家に勝手にお邪魔して置いてある本を片っ端から読んでまわっている。幸いにして文字は書けないけど読めるしこちらの言葉もわかるのは良かった。
こちらの常識もわかってきたし、このままアランを日陰の身にしておくのも気の毒だな、とは思うけどね。
そろそろ動かないと、いけないかしら。
5
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
聖女のはじめてのおつかい~ちょっとくらいなら国が滅んだりしないよね?~
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女メリルは7つ。加護の権化である聖女は、ほんとうは国を離れてはいけない。
「メリル、あんたももう7つなんだから、お使いのひとつやふたつ、できるようにならなきゃね」
と、聖女の力をあまり信じていない母親により、ひとりでお使いに出されることになってしまった。
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから
渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。
朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。
「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」
「いや、理不尽!」
初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。
「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」
※※※
専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり)
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
乙女ゲームのヒロインなんてやりませんよ?
喜楽直人
ファンタジー
一年前の春、高校の入学式が終わり、期待に胸を膨らませ教室に移動していたはずだった。皆と一緒に廊下を曲がったところで景色が一変したのだ。
真新しい制服に上履き。そしてポケットに入っていたハンカチとチリ紙。
それだけを持って、私、友木りんは月が二つある世界、このラノーラ王国にやってきてしまったのだった。
【完結】義姉上が悪役令嬢だと!?ふざけるな!姉を貶めたお前達を絶対に許さない!!
つくも茄子
ファンタジー
義姉は王家とこの国に殺された。
冤罪に末に毒杯だ。公爵令嬢である義姉上に対してこの仕打ち。笑顔の王太子夫妻が憎い。嘘の供述をした連中を許さない。我が子可愛さに隠蔽した国王。実の娘を信じなかった義父。
全ての復讐を終えたミゲルは義姉の墓前で報告をした直後に世界が歪む。目を覚ますとそこには亡くなった義姉の姿があった。過去に巻き戻った事を知ったミゲルは今度こそ義姉を守るために行動する。
巻き戻った世界は同じようで違う。その違いは吉とでるか凶とでるか……。
【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ
・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。
アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。
『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』
そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。
傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。
アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。
捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。
--注意--
こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。
一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。
二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪
※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。
※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる