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14. 聖女様のパン。
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「美味しい、やっぱりここのパンは美味しいな」
「本当に、何だか美味しいだけじゃなくて何となく元気が出てくる」
「これも聖女さまのおかげだ」
「本当に聖女さま、さまだ」
今、私が働いているパン屋のパンはとても評判がいい。
元々、この国のパンはブドウから作った酵母を使っていたけど、小麦とライ麦を使ったハードタイプのパンだった。聖女が存在していた為、この国は豊かで、農民や農村は穏やかに暮らしている。
小麦やライ麦、大麦、果樹、野菜なども沢山取れるし、天候にも恵まれている。
そんな国でも流石に、日本で食べていたような美味しいパンはなくて、でも割と良い小麦はあったので、窯の片隅を借りて日本のパンを再現してみた。その時にせっかくなのでパンの天然酵母も作ってみたのだ。普通のロールパンだけど、お店の人に振る舞ったら絶賛された。
そうして、なし崩しに私の天然酵母と小麦の選別方法でパン屋のパンが作られるようになってしまった。村の人たちにはとても喜ばれ、もう一つのパン屋さんから問い合わせがあったせいで酵母を分けて、村のパンはかなり美味しくなってしまったと思う。
でも、おかしい。パンが美味しくなったのが聖女のおかげになっている。確かにここのパン屋のパンが美味しくなったのは私が作った酵母のせいだから、『聖女のおかげ』というのはあっているけど、あっちの聖女じゃなくてこっちの聖女が作った酵母のおかげですよ! と声を大にしてアランの前で抗議した。
「だから、余計な事はしないほうが良い、と言ったのに」
「だって、ここの果樹園のリンリコってまるっきりリンゴなんだもの。味は紅玉みたいだから料理とかアップルティーとかに使うと美味しいし、せっかくだからリンリコの酵母を使ったパンを焼いたらとっても美味しくなったじゃない」
「パン屋に教えたら自分とこのパンに使うに決まっているじゃないか」
「そうだけど」
「その上、他の人が作った酵母よりも玲ちゃんの作った酵母のほうが、パンを焼いた時に美味しくなるって事で玲ちゃん、酵母ばっかり作っているだろう?」
「そうなんだよね。でも、切って入れて見守るだけなんだけど」
「他の町とか王都まで玲ちゃんの酵母が出回っているらしいよ。それも、玲ちゃんの酵母で作ったパンが評判になって、『聖女様のパン』ってアチコチで喜ばれているみたいだ」
「うん」
「この国って何か良い事があると何でもかんでも『聖女様のおかげ』になるみたいだけどさ」
「そうなんだよね。美味しくなったパンがシオリのおかげって言われるのはちょっと悔しい」
「おまけに少しだけど、玲ちゃんの酵母で作ったパン、回復効果もあるみたいだよ」
「うん」
「どうすんだよ、回復効果なんて付けて」
「だって、まさかそんなことになるなんて思わないじゃない。私、回復魔法なんて使えないのよ」
「使えなくても、付与はできるんじゃないか? 玲ちゃんの作るご飯を食べると元気でるし、作るものに回復効果がつくのかもしれない。でもさ、聖女が来たせいで、パンを食べても元気になれる、聖女様、感謝しますって神殿に沢山寄付が集まっているらしいし、この国の王子は聖女と恋仲で国民はお祝いムード」
「うん」
「いいの?」
「よくない。何だか、モヤモヤする。別にこの国にいる必要はないし、他の国にいこうかな」
「うん。やっと、その気になったね」
「聖女は二人も必要ないし」
「というか、もう一人は本当に聖女なの?」
「聖女って水晶のステータスで出ていたわ。私は冷女で冷たい女って言われたけど、シオリに」
「でも、玲ちゃんのステータスは『冷蔵庫(広義)と共に玲の祝福を持つ聖女』だから王宮のステータスが可笑しいよ。色々の本を見てみたけど、この世界のステータスって、昔はきちんと詳細とかレベルとか見えたらしいんだ。でも、その大元の水晶が失われて今は名前と称号しかわからないみたい」
「よく、そんな事がわかったわね」
「何か、聖女研究をしている人の資料でみつけた。それにひょっとして、聖女って『聖女見習いの女』の略かもしれないし」
「それは、そうだったら笑える。けど、失われた水晶なんて……昔のほうが魔法とか進んでいたのかしら」
「この国では魔法研究とか聖女の研究とかは、禁忌まではいかないけど研究しようとしたら邪魔されるみたいだよ。研究者の手記に恨み言が書いてあった」
「変な国ね」
「本当だよ」
「もし、私がシオリに突き飛ばされて冷蔵庫にぶつからなければ、どうなっていたのかしら?」
「そうしたら『玲の祝福を持つ聖女』の略で玲女になったんじゃない? でも玲の祝福ってなんだろう? パンに回復効果がつくってことかな」
「エッー、それは微妙。でも、冷蔵庫は便利だからあって良かったわ。アイテムボックスが付いていたのもラッキーだったし」
「ふふん。そうだね。ぼくの今夜のデザートはクリスマスケーキにしよう」
「また?」
「美味しいよ」
「私はアイスが食べたいわ。冷凍庫の解放が早く来ないかな」
「それ、言えてる」
私のパンが『聖女様のパン』になってしまったから、アチコチから酵母の問い合わせがあるし、わざわざパン屋さんに買いに来る人も増えて、村は賑やかになっている。
パン屋さんは酵母の作り手が私だって事は内緒にして、レシピも公開しているし、酵母も欲しい人には上げているけど、引き合いが多くて疲れているみたい。
やっぱり、目立つ真似はよくなかった……反省。
「本当に、何だか美味しいだけじゃなくて何となく元気が出てくる」
「これも聖女さまのおかげだ」
「本当に聖女さま、さまだ」
今、私が働いているパン屋のパンはとても評判がいい。
元々、この国のパンはブドウから作った酵母を使っていたけど、小麦とライ麦を使ったハードタイプのパンだった。聖女が存在していた為、この国は豊かで、農民や農村は穏やかに暮らしている。
小麦やライ麦、大麦、果樹、野菜なども沢山取れるし、天候にも恵まれている。
そんな国でも流石に、日本で食べていたような美味しいパンはなくて、でも割と良い小麦はあったので、窯の片隅を借りて日本のパンを再現してみた。その時にせっかくなのでパンの天然酵母も作ってみたのだ。普通のロールパンだけど、お店の人に振る舞ったら絶賛された。
そうして、なし崩しに私の天然酵母と小麦の選別方法でパン屋のパンが作られるようになってしまった。村の人たちにはとても喜ばれ、もう一つのパン屋さんから問い合わせがあったせいで酵母を分けて、村のパンはかなり美味しくなってしまったと思う。
でも、おかしい。パンが美味しくなったのが聖女のおかげになっている。確かにここのパン屋のパンが美味しくなったのは私が作った酵母のせいだから、『聖女のおかげ』というのはあっているけど、あっちの聖女じゃなくてこっちの聖女が作った酵母のおかげですよ! と声を大にしてアランの前で抗議した。
「だから、余計な事はしないほうが良い、と言ったのに」
「だって、ここの果樹園のリンリコってまるっきりリンゴなんだもの。味は紅玉みたいだから料理とかアップルティーとかに使うと美味しいし、せっかくだからリンリコの酵母を使ったパンを焼いたらとっても美味しくなったじゃない」
「パン屋に教えたら自分とこのパンに使うに決まっているじゃないか」
「そうだけど」
「その上、他の人が作った酵母よりも玲ちゃんの作った酵母のほうが、パンを焼いた時に美味しくなるって事で玲ちゃん、酵母ばっかり作っているだろう?」
「そうなんだよね。でも、切って入れて見守るだけなんだけど」
「他の町とか王都まで玲ちゃんの酵母が出回っているらしいよ。それも、玲ちゃんの酵母で作ったパンが評判になって、『聖女様のパン』ってアチコチで喜ばれているみたいだ」
「うん」
「この国って何か良い事があると何でもかんでも『聖女様のおかげ』になるみたいだけどさ」
「そうなんだよね。美味しくなったパンがシオリのおかげって言われるのはちょっと悔しい」
「おまけに少しだけど、玲ちゃんの酵母で作ったパン、回復効果もあるみたいだよ」
「うん」
「どうすんだよ、回復効果なんて付けて」
「だって、まさかそんなことになるなんて思わないじゃない。私、回復魔法なんて使えないのよ」
「使えなくても、付与はできるんじゃないか? 玲ちゃんの作るご飯を食べると元気でるし、作るものに回復効果がつくのかもしれない。でもさ、聖女が来たせいで、パンを食べても元気になれる、聖女様、感謝しますって神殿に沢山寄付が集まっているらしいし、この国の王子は聖女と恋仲で国民はお祝いムード」
「うん」
「いいの?」
「よくない。何だか、モヤモヤする。別にこの国にいる必要はないし、他の国にいこうかな」
「うん。やっと、その気になったね」
「聖女は二人も必要ないし」
「というか、もう一人は本当に聖女なの?」
「聖女って水晶のステータスで出ていたわ。私は冷女で冷たい女って言われたけど、シオリに」
「でも、玲ちゃんのステータスは『冷蔵庫(広義)と共に玲の祝福を持つ聖女』だから王宮のステータスが可笑しいよ。色々の本を見てみたけど、この世界のステータスって、昔はきちんと詳細とかレベルとか見えたらしいんだ。でも、その大元の水晶が失われて今は名前と称号しかわからないみたい」
「よく、そんな事がわかったわね」
「何か、聖女研究をしている人の資料でみつけた。それにひょっとして、聖女って『聖女見習いの女』の略かもしれないし」
「それは、そうだったら笑える。けど、失われた水晶なんて……昔のほうが魔法とか進んでいたのかしら」
「この国では魔法研究とか聖女の研究とかは、禁忌まではいかないけど研究しようとしたら邪魔されるみたいだよ。研究者の手記に恨み言が書いてあった」
「変な国ね」
「本当だよ」
「もし、私がシオリに突き飛ばされて冷蔵庫にぶつからなければ、どうなっていたのかしら?」
「そうしたら『玲の祝福を持つ聖女』の略で玲女になったんじゃない? でも玲の祝福ってなんだろう? パンに回復効果がつくってことかな」
「エッー、それは微妙。でも、冷蔵庫は便利だからあって良かったわ。アイテムボックスが付いていたのもラッキーだったし」
「ふふん。そうだね。ぼくの今夜のデザートはクリスマスケーキにしよう」
「また?」
「美味しいよ」
「私はアイスが食べたいわ。冷凍庫の解放が早く来ないかな」
「それ、言えてる」
私のパンが『聖女様のパン』になってしまったから、アチコチから酵母の問い合わせがあるし、わざわざパン屋さんに買いに来る人も増えて、村は賑やかになっている。
パン屋さんは酵母の作り手が私だって事は内緒にして、レシピも公開しているし、酵母も欲しい人には上げているけど、引き合いが多くて疲れているみたい。
やっぱり、目立つ真似はよくなかった……反省。
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