辺境伯の5女ですが 加護が『液体』なので ばれる前に逃げます。

サラ

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6. パンの木

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「……」
「……」

 私とお兄様は黙ったまましばらく見つめ合った。と言ってもお兄様の目は前髪でよく見えないけど。

「ううん。違うよ、ポーションの加護じゃない。私の加護は『液体』、って加護があるってわかるの?」
「わかるよ。こんなポーションが出せて、コップもどこからか現れるなんて加護以外考えられないよ。凄く良いね、この加護。実は僕も加護がすでにあるんだ。とっても微妙な加護なんだけどね」

 お兄様はため息をついた。お兄様もすでに加護を持っているのね。気になる。微妙な加護ってなんだろう?

「微妙なの?」
「すごい微妙なんだ」
「えーと、どんな加護?」
「パンの木」
「パン?」
「そう、パンの木の加護」
「パンの木?」
「そう、パンの木にパンの実がなる加護。君を包んでいるこの葉っぱもパンの木の葉っぱなんだ。パンの実は冒険物とかで出てくるし、南方では主食になっているらしい」
「この世界で?」
「そう、この世界で、って違う世界を知っている?」
「うーん。前世とか異世界とかそんなの?」
「前世? どこの世界というかどこの国で生まれたの? 僕は日本」
「えっ! 私も日本だよ」

 という事で私以外の転生者である異母兄との初めての出会いがあり、久々に色んな話ができた。
 義兄も私も金髪で私は青い目、兄は黒に見えるほどの深い緑の目をしていた。そして貴族の血を引くせいかとても整った顔をしている。

 つまり、二人とも天使のようにかわいいと思う。義兄の金髪はフンワリ巻き毛でとても柔らかそうに見えるし、目はパッチリ綺麗な二重でまつ毛が長く深緑の目が吸い込まれそうに美しい。
 髪をかき上げたせいかお顔が良く見えるようになった。というか、時々少女漫画のように星が走るようにみえるんだけど、現実にそんな目は初めて見た。

「お兄様、目の中に星があるのね」
「あー、そうなんだよ。ほんとに目の中に時々、星が走るんだ。だからいつもはホラ、こうやって髪の毛で隠しているし、なるべく下を向いている」
「目を動かさないとよくわからないものね。ところで、お母さまは?」
「居ない、というか居なくなった。ちょうど2か月ほど前かな。突然消えたんだ。元々僕の世話は母がしていたから食べる物もなくて困ったんだ。お腹が空いてパンが食べたい! って泣いていたらパンの木が生えてきて、それ見たら色々思いだした。転生だ。パンの木だって!」

 お兄様はその時のパンの実のおかげでお腹を満たして、庭をウロウロしてパンとバナナを食べて生きてきたそうだ。お兄様は森の中の平屋に住んでいるが、生活に必要なものはいつの間にか届いているし、水は魔石で出せるし浄化の設備もあるから転生前の知識が戻ったせいもあって特に生活には困らなくなった。

 ただ、食事はこれまでお母さまが取りに行っていたので、どこに取りに行ったらいいのかわからないから、今はひたすらパンとバナナと森で採取したものを食べている。この家の庭は広いし森につながっているけど、領主の館のせいか誰も来ないので安心して採取ができるそうだ。

 誰も様子を見に来ないのは不思議だけど、お母さまがいた時さえ誰も来ないし放置されていたらしい。
 たまに見かける大人は味方かどうか分からなくてこっそりと覗いて情報収集をしていたせいで、このお屋敷の妙な状態を見聞きする事ができた。

 その話によると、かなり離れた場所に本宅があってそこに領主と正妻、側妃二人と正妻の子供に側妃の子供の男児が住んでいて、そこに住んでいる人達は大切にされているそうだ。
その他の子供たち、側妃の産んだ女の子達はいくつかの別館にわかれて住んでいる。

 というか私の住んでいる別館は私しかいない。しかも私の別館とこの付近は過去の因縁があって誰も好んで近づかない。過去の因縁ってお家騒動で身内含め人が大勢亡くなって、その時に呪いが発動したとかなんとか。

 そんな所に小さな子供を置かないでほしい。でも、特に呪いとか感じたことはないから別にいいけどね。それにそのせいでこの辺は自由気ままに過ごせるから楽でいい。
 けど、だから乳母の虐待に誰も気づかないって事かもしれない。

 とにかく、ここに生えている木はパンの木で私が包まっていた葉はパンの木の葉だった。そして、パンの木だけど本来は実の中身はお芋みたいな物なんだけど、お兄様のパンの木は中身が本当にパンなんですって。
 ただし、この世界のパンだからあまり美味しくはない。

 そう、日本のパンってとっても美味しいと思う。ああ、又あのパンが食べたい。
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