辺境伯の5女ですが 加護が『液体』なので ばれる前に逃げます。

サラ

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80. 転生者

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「さて、此処はハズレだから戻ろうか」
「当たりハズレを探るのなら、最初から一緒に行動したほうが楽ではないですか?」
「普通はそうなんだが……」

「当たりの扉だと突き当たりの部屋に階層ボスがいて、その前の広間が無風地帯になるんですよね」
「ああ、そうだ。別行動なのは、単に茶ピンクが鬱陶しいのと、5人のパーティーで慣れているのに人数が増えると連携が取りにくい。それと、リーナのチートをあまり知られたくない」
「ああ、茶ピンクが『水魔法の加護』を寄こせと言ってきそうですものね」

「加護のやり取りなんてできるはずがない、いや、前に茶ピンクが氷を出した時はラクアートと二人で、と言っていたし、ラクアートと茶ピンクは同じ『水の魔法の加護』だ。茶ピンク、ラクアートの加護を奪った? いや、共有しているのか? ラクアートの生気の無さも気にかかるし、あいつ、本当に生気を吸い取る魔女じゃないか」
「ピンク頭と魔女同士で争って、ピンクの生命力も茶ピンクが奪い取ったから、ピンクが寝たきりになっているのかもしれませんね」

 そう、いまだにピンクさんは保護された離宮で寝たきりのままになっている。
 寝たきりと言いつつ、寝たままなのに食事は与えると食べるし、寝たまま夢遊病者のように手を引くと散歩もする。
 でも、目は瞑ったままで時折、ブツブツと呟いているから見ていると怖い。夢の世界に捕らわれている感じだろうか。
 時折、魔法を発しようとするので、今は魔封じのアンクレットを付けている。なので、魔法を発しようとしては不発になって首をひねっているそうだ。

「勇者の予言にも魔女って出てくるんですけど、魔女って何でしょうか」
「魔女は悪しき者、つまり茶ピンクだ」
「いや、本当にそうかもしれませんが。殿下は本当に茶ピンクが嫌いですね」
「俺も茶ピンクは生理的に受け付けないし嫌いです。それに魔王のダンジョンなのに茶ピンクがいると攻略の邪魔ではないですか? 茶ピンクはドラゴンの事をなんて言っているんですか」
「自分が行けばわかる、と。サッサと吐けばいいのに」

「ドラゴンの宝玉は殿下が持っているし、アークが星の王子様としてもアーク、どこかの星に行きたい?」
「いや、いや。どこか知らない星にドラゴンに乗って飛び立つなんて勘弁してほしい。俺はこの星で細々と暮らしてリーナの作るご飯が食べられればそれでいい」
「リーナ様が殿下と結婚したらご飯は作れないかもしれません」
「いや、料理はリーナの大切な趣味だから絶対に何とかする」
「その前に殿下は立太子しないといけないんですけど、ね」
「まぁな。でもその辺についてはこの魔王のダンジョンの件が終わってからで」
「リーナ様が」
「ランディ!」
「ああ、はい。すみません」

 ランディ様が何か言いかけたのを殿下が慌てて止めた。何となく言いたいことはわかる。私が聖女に成って魔王事、小太郎さんの封印、ではなく解放をする事で多分、殿下の立太子がスムーズに進むのではないかと思う。
 誰も何も言わないけど、殿下の立太子を妨げている何かの事情があるみたいで、それが何か分からないから余計に不安になってしまう。
 事情を聞けばいいのだけれど聞いてしまうともう、戻れなくなりそうで。
 殿下は優しい。
 殿下は好きだけど、殿下に聖女の重責を渡してしまいたいと思う弱虫な私がいる。もう、猶予はないというのに。


「おぉ、戻ってきましたか。どうでした? こちらは行き止まりになっていました」
「ああ、こちらも行き止まりだった。つまり、真ん中の扉が正解だな」
「そのようですね。聞いていましたが出てくる兵隊蟻はデカかったですね。あまり強くはありませんが」
「1階層のボスは女王蟻だから、強くはないが油断はできない」
「女王蟻は何かドロップがありましたか」
「蟻蜜が出るが、人数分出てくるから持って帰れる」
「それは何よりです」

 という会話がある間、茶ピンクさんが静かだなって思っていたら彼女、ハンモックみたいなのに横たわって寝ていた。ダンジョンなのに信じられない。簡易テーブルとイスも側に出ていてラクアート様は椅子に座っていたが。私達が帰ってきたので立ち上がってこちらを見ていた。

「ラクアート、何もなかったか?」
「はい。特には」
「そうか、昼は済ませたのか?」
「はい。先ほど頂きました」
「そうか、では我々が昼を取る間、見張りを頼む」
「かしこまりました」

 そう言うと、ラクアート様は茶ピンクさんのハンモックの後ろ側で全体を見渡せる場所に立った。うーん。以前のラクアート様はどこへ行ったの、というくらい何だか淡々としている。貴方は誰? のレベルだと思う。

 ブラックさんとグリーンさんは小さな携帯用椅子を取りだすと、少し離れたところでお昼を食べだした。アイテムボックスを持っているようで、パンと串焼き肉を食べているが串焼き肉からは湯気が出ていた。
 私も皆にお弁当を配る。今日は簡単なお握り弁当。お握りと卵焼き、唐揚げにゴボウとピーマンの天ぷらを入れてみた。
 お握りはウメンの実入りの白米のお握りに炊き込みご飯のお握り。お兄様が炊き込みご飯に嵌ったので、最近はよく炊き込みご飯を作っている。それに豚汁ならぬ魔獣汁をカップでお兄様に渡すと次々に配ってくれた。お味噌の香りがとても美味しそう。

「おい、それは何だ!?」

 ブラックさんがこちらを見ていた。美形なのに涎が出そうな顔をしている。お味噌の香りに惹かれたのかしら?

「お味噌汁ですけど、良かったら召し上がります?」
「ああ、是非貰いたい」

 そう言うと、ブラックさんとグリーンさんは急いで串焼き肉を持ったままこちらへ近づいてきた。スッと殿下が私の前を塞ぐと自分の持っていた味噌汁を差し出した。

「良ければ、これを」
「ああ、有難い。というかアンタら、お握りを食べているのか! どこで米を手に入れたんだ!」
「おお、お握りだ。お握り弁当だ。美味そうだ。まさかの唐揚げと卵焼き、天ぷらか」
「リーナ。余分はあるか?」
「はい、どうぞ」

 差し出したお握り弁当と豚汁を冒険者の二人は嬉しそうに受け取ると直ぐに食べだした。

「ああ、懐かしい。米の飯、いや、これ久しぶりのせいか、えらい美味い。豚汁も凄い」
「何だこれ。美味い、信じられないくらい美味い。前より美味いぞ、これ」

 ブラックさんとグリーンさん、二人ともどうやら転生者らしい。この大陸にお米は流通していないから喜ぶのはわかるけど。
 この世界に転生者がいるのはわかっていたけど、でもこのダンジョンの中にアルファント殿下とお兄様、私にブラックさんとグリーンさん、茶ピンクさん。

 転生者、多すぎ。
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