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第5章
第178話 いつもと違う王子様
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昨日はいくら待ってもクライスは帰ってこなくて、僕は先に寝てしまった。
目が覚めて隣のベッドを見ると、彼がいた。
でも普段とは様子が違う。いつもきちんとしている彼が、制服のままぐしゃぐしゃの布団の上に横たわり、はぁ、はぁ、と荒い息を吐いている。
顔も赤くて汗をかき、なんだか辛そうだ。
近付いていき、おでこに手を当て、すごい熱さに驚いた。
(大変! クライス。熱がある)
大急ぎで汗だくになった彼の服を脱がせて、寝巻きに着替えさせる。大分苦労して時間をかけて着替えさせたのだけど、彼はぐったりとしていて全然起きない。盥に水を汲み、冷たいタオルを絞って額に載せ、下敷きになっている布団を引っ張り出して彼に掛けた。
(よし、これで寒くはないはず……)
「はぁ、はぁ、すまない」
ここまできてようやく彼が目覚めたみたいで、少しほっとする。「水飲める?」と聞くと「欲しい」と言うから買ってきていたおいしい水を水差しに入れ、サイドテーブルに置いた。だけど、寝ている彼にどうやって飲ませようか…と考え、ランニングの時、口移しで水をもらったことを思い出す。
急いで口に水を含んで彼に飲ませるとうまくいったようで、こくんと飲み込んだのを確認してまたほっとした。
(早く良くなってほしい。)
そう願いながら、僕はもう一度彼の口に水を運ぶ。
クライスが再び眠った頃、時計を見るとまだ午前3時だった。
(さすがに今医務室は閉まっているよね。朝になったら先生に診てもらおう。)
ああ、この世界って体温計はないのかな? 自分が熱を出したとき、ルゥはおでこに手を当てるだけだった。セントラなんて指先一つで測っていたし……。
薬は?(どこかに常備薬があるかしら。自分が極度な薬嫌いなせいでそういうのがどこにあるのかわからない)
ご飯は何を食べるだろう……。(この世界の病人食は、ミルクスープかな。でもあれ作り方がわからない……。ベンスに頼まないといけないのだけどクライスがいないと魔法陣は使えないし。)
色々やりたいことはあるけれど、今はあまりできることがない。とにかく朝が来るのを待つしかない。
汗をそっとハンカチで拭い、タオルが温かくなるたびに水で冷やして絞り直したものを額に載せた。
こんなふうにハラハラしながら人の看病をするのは初めてだ。優斗は僕と違って健康優良児だったから滅多に風邪なんてひかなかったし、ひいたとしても僕にうつらないようにと引き離されていた。もちろん両親が病気になったときも同じだ。
いつも看病される側だった前世のことを思うと、こうして少しでも病気の人のために何かできるというのは大進歩かもしれない。
(クライスが元気になるまで付きっきりで看病しよう。いつもたくさん助けてもらっているし、僕も彼の役に立ちたい!)
ーーと張り切りすぎたのが良くなかったのかな。
原因が風邪ではなく魔力酔いなのだとわかって、僕は……ちょっと間違えてしまったみたい。一生懸命彼の魔力酔いを治めようと、あれこれしているうちに、自分もクラクラしてきて、終いには何をしているかわからなくなってきて……。
気がつくとベッドに寝かされていた。
(あれ? ここは、どこだっけ。)
フラスコやビーカーの中に変な色の液体がぶくぶくいっている。そしていい香り。
(わかった、ここ理事長室だ!! っていうかクライスはどこ? 寮の部屋かな? 僕が看病しなくちゃいけないのに!!)
ガバリと跳ね起きると、それに気づいたこの部屋の主がツカツカと歩いてきた。
「お目覚めですか。体調は?」
「ふぇ? 体調……クライスの?」
「いえ、あなたのです」
「僕は元気だけど、クライスが大変なの!!」
セントラはこくりと頷いた。この様子だと彼の状態を知っているようだ。
「ええ。まぁ確かに王子は大変そうでしたね。昨日の朝、フラフラになりながら意識のないキルナ様を抱き抱えて私のところにやってきましたよ。全く、あなたという方は……」
ん~なんだろ。セントラのこの笑い方、ちょっと、いや、とっても怒っているような。
「なんか、僕悪いことしちゃった?」
おそるおそる尋ねてみると、セントラははぁ~と重いため息を吐いた。
「いえ……その話は後にしましょう。この件に関しては私にも責任がありますし、とやかくいうのはやめておきます。クライス王子のことは心配ありません。もう元気になって授業に出ています。それより食事にしましょう。丸一日眠っていましたから、お腹も空いているはずです。何が食べたいですか」
え? 言われてみればおなかはぺこぺこ。早く何か食べたい。けど僕が1日寝ていたって? なんで?
「じゃあ、ラダルのキッシュとポポの実のパンが食べたい。あ、もちろんベンスが作ったやつね」
わかりました、とセントラがどこかへ行くと、僕はまたベッドにごろんと横になって、ん~……と、昨日の朝、何があったのか、よぅく思い出してみることにした。
目が覚めて隣のベッドを見ると、彼がいた。
でも普段とは様子が違う。いつもきちんとしている彼が、制服のままぐしゃぐしゃの布団の上に横たわり、はぁ、はぁ、と荒い息を吐いている。
顔も赤くて汗をかき、なんだか辛そうだ。
近付いていき、おでこに手を当て、すごい熱さに驚いた。
(大変! クライス。熱がある)
大急ぎで汗だくになった彼の服を脱がせて、寝巻きに着替えさせる。大分苦労して時間をかけて着替えさせたのだけど、彼はぐったりとしていて全然起きない。盥に水を汲み、冷たいタオルを絞って額に載せ、下敷きになっている布団を引っ張り出して彼に掛けた。
(よし、これで寒くはないはず……)
「はぁ、はぁ、すまない」
ここまできてようやく彼が目覚めたみたいで、少しほっとする。「水飲める?」と聞くと「欲しい」と言うから買ってきていたおいしい水を水差しに入れ、サイドテーブルに置いた。だけど、寝ている彼にどうやって飲ませようか…と考え、ランニングの時、口移しで水をもらったことを思い出す。
急いで口に水を含んで彼に飲ませるとうまくいったようで、こくんと飲み込んだのを確認してまたほっとした。
(早く良くなってほしい。)
そう願いながら、僕はもう一度彼の口に水を運ぶ。
クライスが再び眠った頃、時計を見るとまだ午前3時だった。
(さすがに今医務室は閉まっているよね。朝になったら先生に診てもらおう。)
ああ、この世界って体温計はないのかな? 自分が熱を出したとき、ルゥはおでこに手を当てるだけだった。セントラなんて指先一つで測っていたし……。
薬は?(どこかに常備薬があるかしら。自分が極度な薬嫌いなせいでそういうのがどこにあるのかわからない)
ご飯は何を食べるだろう……。(この世界の病人食は、ミルクスープかな。でもあれ作り方がわからない……。ベンスに頼まないといけないのだけどクライスがいないと魔法陣は使えないし。)
色々やりたいことはあるけれど、今はあまりできることがない。とにかく朝が来るのを待つしかない。
汗をそっとハンカチで拭い、タオルが温かくなるたびに水で冷やして絞り直したものを額に載せた。
こんなふうにハラハラしながら人の看病をするのは初めてだ。優斗は僕と違って健康優良児だったから滅多に風邪なんてひかなかったし、ひいたとしても僕にうつらないようにと引き離されていた。もちろん両親が病気になったときも同じだ。
いつも看病される側だった前世のことを思うと、こうして少しでも病気の人のために何かできるというのは大進歩かもしれない。
(クライスが元気になるまで付きっきりで看病しよう。いつもたくさん助けてもらっているし、僕も彼の役に立ちたい!)
ーーと張り切りすぎたのが良くなかったのかな。
原因が風邪ではなく魔力酔いなのだとわかって、僕は……ちょっと間違えてしまったみたい。一生懸命彼の魔力酔いを治めようと、あれこれしているうちに、自分もクラクラしてきて、終いには何をしているかわからなくなってきて……。
気がつくとベッドに寝かされていた。
(あれ? ここは、どこだっけ。)
フラスコやビーカーの中に変な色の液体がぶくぶくいっている。そしていい香り。
(わかった、ここ理事長室だ!! っていうかクライスはどこ? 寮の部屋かな? 僕が看病しなくちゃいけないのに!!)
ガバリと跳ね起きると、それに気づいたこの部屋の主がツカツカと歩いてきた。
「お目覚めですか。体調は?」
「ふぇ? 体調……クライスの?」
「いえ、あなたのです」
「僕は元気だけど、クライスが大変なの!!」
セントラはこくりと頷いた。この様子だと彼の状態を知っているようだ。
「ええ。まぁ確かに王子は大変そうでしたね。昨日の朝、フラフラになりながら意識のないキルナ様を抱き抱えて私のところにやってきましたよ。全く、あなたという方は……」
ん~なんだろ。セントラのこの笑い方、ちょっと、いや、とっても怒っているような。
「なんか、僕悪いことしちゃった?」
おそるおそる尋ねてみると、セントラははぁ~と重いため息を吐いた。
「いえ……その話は後にしましょう。この件に関しては私にも責任がありますし、とやかくいうのはやめておきます。クライス王子のことは心配ありません。もう元気になって授業に出ています。それより食事にしましょう。丸一日眠っていましたから、お腹も空いているはずです。何が食べたいですか」
え? 言われてみればおなかはぺこぺこ。早く何か食べたい。けど僕が1日寝ていたって? なんで?
「じゃあ、ラダルのキッシュとポポの実のパンが食べたい。あ、もちろんベンスが作ったやつね」
わかりました、とセントラがどこかへ行くと、僕はまたベッドにごろんと横になって、ん~……と、昨日の朝、何があったのか、よぅく思い出してみることにした。
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