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第6章
第284話 わからない気持ち
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一緒にいるだけで、ドキドキする、この気持ちはなんだろう。
「キルナ」
そう呼びかけられると、それだけで胸がいっぱいになる。クライスがやってきてからというもの、僕は彼から目が離せないでいた。
4人分の紅茶を淹れ、丸テーブルに置き、クライス、僕、ルゥ、カーナの順に座る。
「わぁ、いい香り」
「ありがとうございます」
「ありがとう」
「ふふっ、どうぞ、召し上がれ」
隣でゆっくりとティーカップに口をつける彼の動きを見守る。
(どうかな? 美味しいかな? ちょっと蒸らしすぎちゃった? 温度は……きちんと沸かしたてのお湯を使ったし大丈夫なはずだけど。)
人形を抱きしめる僕の手に力が入った。
コクリと彼が一口飲む。そして次の瞬間、彼の頬が緩む。
「うん。うまいな」
「そ、そう?」
やったぁ、うまいって言ってもらえた! ルゥの方も、「美味しいです。さすがキルナ様」と褒めてくれる。よかった。
サクッ
クッキーも、二枚目を食べてる。ってことは、気に入ったってことだよね。あ、でも、もっと砂糖控えめがよかったかな? カーナは甘いのが好きだから甘めに作ってしまった。この二人はどうだろ。甘いのが苦手だったりしないだろうか。
考え始めるとちょっと自信がなくなってきて、おずおずと聞いてみる。
「クッキーの味、ど…ぅかな」
聞こえないくらい小さな声になってしまったけれど、クライスはきちんと聞き取ってくれた。
「え? ああ、うまいよ。もちろん。キルナが作ったんだろう? いつも通り優しい味がする」
「ほ、ほんと!?」
今日のクッキーは昨日焼いたやつだから、今度は焼き立てを食べてもらいたい。そしたらもっとおいしいはずだから。
あっという間に食べ終えてしまった二人を見て、そういえば朝ごはんもまだだったな、と思い出した。
ご飯も食べるかな? なんだか遠くから来たらしいから、すっごくお腹空いてるんじゃないかしら。彼の好物は何だろう。
「あの、オムライス、好き?」
「ああ、好きだ」
好き!? 一瞬身体が固まる。人形を落としそうになり、もう一度お膝に座らせ直してきゅうっと抱きしめた。
(違う違う。僕じゃなくって、オムライスが好きって言ったんだ……。)
「二人がお腹空いてるんだったら、今から作るけど」
もうお腹いっぱいだったらどうしよう、余計なお世話だったかな? と考えながら答えを待つ。すると二人は即答した。
「ああ、食べたい」
「良いのですか? キルナ様の手料理が食べられるなんて幸せです」
ふふ、なんか大袈裟でおもしろっ。でもうれしいな。
「キルナちゃん、私も食べたいわ」
「もちろん僕たちの分も用意するよ。待ってて!!」
僕は張り切ってキッチンへと向かった。
ここのキッチンはすごい。火をつけたいな~と口にしただけで火がつく。卵どこかな~と呟くと、もうトレイの上に新鮮な卵が用意してある。それは妖精のおかげ。自由自在に魔法を使いこなす彼らが手伝ってくれる。
ジュージューとバターライスが焼ける音に合わせて妖精たちの陽気なハミングが聞こえる。卵とバターの焼ける香ばしい匂いが部屋いっぱいに広がった。
「オムライス、できたよ」
運ぼうとしていると、ルゥが来てさっと運んでくれた。さっき使ったティーカップなんかも片付けてくれている。素晴らしい手際の良さだ。
「うっわ~すごい! こんなとろとろオムライスができるなんて! キルナちゃん、やっぱりあなた天才だわ!!」
「まさかキルナ様の手作りオムライスが食べられるなんて! 感激です!!」
これだけ大喜びしてくれたら作った甲斐がある。
クライスは、どうかな? あ、口に入れた。もぐもぐ噛んでる。あ、飲み込んだ。
ドキドキドキ……。
「ふふふ、キルナちゃんったらそんなに見つめたら王子様に穴が開いちゃうわよ」
「ふぇ?」
(そんなに見ちゃってたかな? あ、クライスがこっち見て笑った。ダメだ、恥ずかしい。)
僕は王子様人形でパッと顔を隠す。顔が作りたてのゆで卵みたいに熱い。きっと林檎みたいな色になってるに違いない。
「お前も食べろ」
「う、うん」
促されて頷いてはみたものの……。ダメだ。胸がいっぱいで食べられそうにない。オムライスに全然手をつけずにいると、彼が僕のオムライスを一口掬って目の前に差し出した。
食べられないと思っていたのに、気づけば勝手に口が開いていた。もぐもぐもぐ。
「おいしっ」
よかった、上手にできてる。何より彼に食べさせてもらえたことが無性に嬉しい。オムライスの味もいつも以上に美味しく感じる。もう一口、くれないかな。
自分で食べればいいのに、僕は彼がくれることを期待してじっと待っていた。僕の魂胆に気づいてくれたのか、自分が食べる合間に、もう一口、また一口と僕の口にオムライスを入れてくれる。
僕は夢中で彼を見ながら、オムライスを食べる。完食した彼は「ソースがついてるぞ」と笑いながら、僕の口元にそっとナプキンを当て、汚れを拭いてくれた。
「ん、ありがと……」
なんだろう、この気持ち。何かはわからないけれど、なんだか素敵な気持ちが胸の中に満ちていた。
「キルナ」
そう呼びかけられると、それだけで胸がいっぱいになる。クライスがやってきてからというもの、僕は彼から目が離せないでいた。
4人分の紅茶を淹れ、丸テーブルに置き、クライス、僕、ルゥ、カーナの順に座る。
「わぁ、いい香り」
「ありがとうございます」
「ありがとう」
「ふふっ、どうぞ、召し上がれ」
隣でゆっくりとティーカップに口をつける彼の動きを見守る。
(どうかな? 美味しいかな? ちょっと蒸らしすぎちゃった? 温度は……きちんと沸かしたてのお湯を使ったし大丈夫なはずだけど。)
人形を抱きしめる僕の手に力が入った。
コクリと彼が一口飲む。そして次の瞬間、彼の頬が緩む。
「うん。うまいな」
「そ、そう?」
やったぁ、うまいって言ってもらえた! ルゥの方も、「美味しいです。さすがキルナ様」と褒めてくれる。よかった。
サクッ
クッキーも、二枚目を食べてる。ってことは、気に入ったってことだよね。あ、でも、もっと砂糖控えめがよかったかな? カーナは甘いのが好きだから甘めに作ってしまった。この二人はどうだろ。甘いのが苦手だったりしないだろうか。
考え始めるとちょっと自信がなくなってきて、おずおずと聞いてみる。
「クッキーの味、ど…ぅかな」
聞こえないくらい小さな声になってしまったけれど、クライスはきちんと聞き取ってくれた。
「え? ああ、うまいよ。もちろん。キルナが作ったんだろう? いつも通り優しい味がする」
「ほ、ほんと!?」
今日のクッキーは昨日焼いたやつだから、今度は焼き立てを食べてもらいたい。そしたらもっとおいしいはずだから。
あっという間に食べ終えてしまった二人を見て、そういえば朝ごはんもまだだったな、と思い出した。
ご飯も食べるかな? なんだか遠くから来たらしいから、すっごくお腹空いてるんじゃないかしら。彼の好物は何だろう。
「あの、オムライス、好き?」
「ああ、好きだ」
好き!? 一瞬身体が固まる。人形を落としそうになり、もう一度お膝に座らせ直してきゅうっと抱きしめた。
(違う違う。僕じゃなくって、オムライスが好きって言ったんだ……。)
「二人がお腹空いてるんだったら、今から作るけど」
もうお腹いっぱいだったらどうしよう、余計なお世話だったかな? と考えながら答えを待つ。すると二人は即答した。
「ああ、食べたい」
「良いのですか? キルナ様の手料理が食べられるなんて幸せです」
ふふ、なんか大袈裟でおもしろっ。でもうれしいな。
「キルナちゃん、私も食べたいわ」
「もちろん僕たちの分も用意するよ。待ってて!!」
僕は張り切ってキッチンへと向かった。
ここのキッチンはすごい。火をつけたいな~と口にしただけで火がつく。卵どこかな~と呟くと、もうトレイの上に新鮮な卵が用意してある。それは妖精のおかげ。自由自在に魔法を使いこなす彼らが手伝ってくれる。
ジュージューとバターライスが焼ける音に合わせて妖精たちの陽気なハミングが聞こえる。卵とバターの焼ける香ばしい匂いが部屋いっぱいに広がった。
「オムライス、できたよ」
運ぼうとしていると、ルゥが来てさっと運んでくれた。さっき使ったティーカップなんかも片付けてくれている。素晴らしい手際の良さだ。
「うっわ~すごい! こんなとろとろオムライスができるなんて! キルナちゃん、やっぱりあなた天才だわ!!」
「まさかキルナ様の手作りオムライスが食べられるなんて! 感激です!!」
これだけ大喜びしてくれたら作った甲斐がある。
クライスは、どうかな? あ、口に入れた。もぐもぐ噛んでる。あ、飲み込んだ。
ドキドキドキ……。
「ふふふ、キルナちゃんったらそんなに見つめたら王子様に穴が開いちゃうわよ」
「ふぇ?」
(そんなに見ちゃってたかな? あ、クライスがこっち見て笑った。ダメだ、恥ずかしい。)
僕は王子様人形でパッと顔を隠す。顔が作りたてのゆで卵みたいに熱い。きっと林檎みたいな色になってるに違いない。
「お前も食べろ」
「う、うん」
促されて頷いてはみたものの……。ダメだ。胸がいっぱいで食べられそうにない。オムライスに全然手をつけずにいると、彼が僕のオムライスを一口掬って目の前に差し出した。
食べられないと思っていたのに、気づけば勝手に口が開いていた。もぐもぐもぐ。
「おいしっ」
よかった、上手にできてる。何より彼に食べさせてもらえたことが無性に嬉しい。オムライスの味もいつも以上に美味しく感じる。もう一口、くれないかな。
自分で食べればいいのに、僕は彼がくれることを期待してじっと待っていた。僕の魂胆に気づいてくれたのか、自分が食べる合間に、もう一口、また一口と僕の口にオムライスを入れてくれる。
僕は夢中で彼を見ながら、オムライスを食べる。完食した彼は「ソースがついてるぞ」と笑いながら、僕の口元にそっとナプキンを当て、汚れを拭いてくれた。
「ん、ありがと……」
なんだろう、この気持ち。何かはわからないけれど、なんだか素敵な気持ちが胸の中に満ちていた。
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